堕天使 4
午後6時24分。長話をしてしまった朝霧は相模の自宅を後にした。道路上には多くのパトカーが止まっている。
朝霧は常盤ハヅキの自宅を眺める。
「そろそろ爆破の時間です」
朝霧は野次馬たちに交じり、腕時計を見ながらカウントダウンを開始する。これは大胆すぎる行動だ。警察も現場近くに犯人がいるとは思わないだろう。
「さようなら。如月さん」
朝霧の呟きと同時に、常盤ハヅキの自宅のトイレが爆発した。如月の遺体を遺棄した場所からは黒煙が昇っている。
爆破を確認した朝霧は中心街へ歩き出す。後は東都ホテルにとんぼ返りするだけだ。
一難去ってまた一難。次は、なぜ東都ホテルに車を放置したのかという理由付けを考える。3分間悩むと、悪魔のひらめきが朝霧の脳裏を横切った。
答えは単純だった。誰かを東都ホテルに呼べばいいのだから。あそこのホテルの最上階にはレストランがある。そこで誰かを食事に誘えばいい。そうすれば、誰かを食事に誘ったが、もう一度駐車場に車を停めることが煩わしいから車を放置したという理由ができる。
強引だが理由はできる。よって朝霧は疑われない。朝霧は携帯電話を取り出し、誰かを食事に誘う。誘う相手は湯里文しかいないと朝霧は思った。北白川カンナという考えもあるが、彼女は霜月殺しの時にアリバイトリックとして利用した。また彼女を誘えばアリバイトリックに矛盾ができる可能性が高い。
ここは湯里文が一番的確だろう。朝霧は湯里文に電話を掛ける。
「湯里さん。午後7時から東都ホテル最上階にある展望レストランネクストで食事でもしませんか。話したいこともありますし」
『分かった。午後7時に会おう』
朝霧はガッツポーズをとった。これでアリバイトリックは完璧。現在の時刻は午後6時35分。朝霧は顔をマスクで隠しタクシーを拾った。
「東都ホテルに向かってくれ」
タクシーは東都ホテルへと向かう。
12月28日午前11時5分。木原たちはまだこの場には臨場していないため、この場には大野と沖矢と真犯人の朝霧睦月しかいない。
「12月26日東都ホテルへ怪盗リアス式海岸が侵入しなければアリバイは崩されていました。しかしあなたは三つのミスを犯してしまった。このミスがなければ、完全犯罪だったでしょう。第一のミスは如月武蔵が殺害された第三の事件の現場に隠されていました」
「おもしろそうですね。いったいどんなミスがあったのでしょうか」
朝霧には自信があった。大野たち警察が指摘するミスは全て嘘に違いないと。
「絞殺に使ったと思われる凶器の繊維が現場から発見されなかったことです。被害者は首を絞められそうになると必死に抵抗します。策状痕が残るくらい首を引っ掻いて。そうしたら、紐の繊維が数本殺害現場の床に落ちるはずです。しかし現場にはそれがなかった。爆破で焼け焦げた繊維さえも。この事実は、我々警察が第二三の事件も第一の事件同様遺棄された物であると判断するきっかけとなりました」
「この事実に気が付くのが遅くて、殺害現場と思われる東都ホテルの客室からはその繊維も発見されなかったのだよ。何も知らない従業員が掃除したのだよ。その客室を予約した人物はあからさまに偽名だったから、そこからの捜査は途絶えたよ」
第一のミスを犯したが、それは当初の完全犯罪計画でカバーされた。残り二つのミスも計画でカバーできるに違いないと朝霧は思った。
「確かにそれでアリバイトリックが崩されたとしても、殺害は誰にでもできますよね。だってホテルの防犯カメラの映像は怪盗リアス式海岸の陰謀で全て使い物にならない物に変貌したのですから。そうしたら誰か別の人物が如月さんをホテルに呼び出して殺害。常盤ハヅキにその現場を目撃されて、口封じのために殺害。という推理になってもおかしくありませんよね」
大野と沖矢は朝霧の猛攻に頷くことしかできなかった。
「確かにそうです。しかし第二第三のミスがあなたが犯人であるという動かぬ証拠になります。あなたはそのミスを第三の事件以降に犯した」
大野の言葉を聞き、朝霧は第二第三の事件発生後のことを思いだした。




