堕天使 2
12月26日午後4時42分。東都ホテルの客室に如月武蔵はいた。彼は朝霧睦月をまっている。
ドアをノックする音が聞こえ、ドアが開き、朝霧が現れた。
「遅かったな。高額なギャラをもらったから取材を受ける気になった。それで聞きたいことというのは何だ」
「常盤光彦さんについてです。あなたは常盤さんを殺した。あの人は爆破事件に巻き込まれて死んだんじゃない。あなたたちが殺したんだ」
「言いがかりだな。あれは爆破事件による脱線事故だった。常盤さんを殺したのは宇津木死刑囚とその共犯者だよ。まさか俺が共犯者とでもいうのか」
「常盤さんはあの事故の前に殺されたんだ」
朝霧はロープを取り出し、如月の首にかけて思い切り引っ張る。
「やめろ。こんなことしても光彦さんは帰ってこない。一番の悪は水無信彦だよ」
「うるさい」
如月は首に掛かっているロープを外そうともがき苦しむ。
「相模を殺したのもお前か」
「そうですよ。地獄で相模さんと暮らしてくださいよ」
朝霧が告白した直後、如月睦月は息絶えた。ホテルの床には如月の絞殺体が転がっている。
「後は遺体を運ぶだけか」
朝霧は遺体をキャリーケースに詰めて、現場を離れる。
午後4時47分。朝霧が駐車場に駐車している車のドアを開けた時、一人の女が声を掛けた。その女の名前は常盤ハヅキ。
「朝霧先輩。あなたでしょ。相模長重さんを殺したのは」
「何を言っているのですか。僕は誰も殺していませんよ」
朝霧は嘘でごまかそうとする。だがそれは常盤ハヅキには通用しなかった。
「嘘。私は見たよ。昨日の午前4時50分。あなたが相模さんの遺体を河川敷に遺棄した所。あの時落としたよね。私があなたに送ったペンダント。そのことは警察には話していないから・・」
朝霧は常盤ハヅキの首をとっさに閉めた。1分も経たない内に彼女の息は消えていく。
「殺してしまった。関係ない彼女までも」
朝霧は衝動的に常盤ハヅキを殺害してしまった。仕方なく朝霧は常盤の遺体も車に乗せる。彼は後悔していた。全く関係ない彼女を殺害してしまったことに対して。
午後5時北白川カンナと別れた朝霧は常盤ハヅキの車を走らせる。もちろん指紋が付着しないように皮手袋を装着した状態で。常盤ハヅキの車を運転しているのは、ホテルの駐車場から常盤ハヅキの車が発見されたらトリックがバレてしまうからだ。
計画は常盤ハヅキの登場で狂っている。本来の計画では朝霧の車を使い、どこかに如月の遺体を遺棄する予定だった。だがその車は今ホテル内にある。如月武蔵はタクシーでホテルに行くよう仕向けたため、駐車場内に如月の車はない。
何とか自分の車をホテルから脱出させなければならない。さらに遺体を遺棄する場所も未定。計画は狂っている。
「どこだ。どこに遺棄すればいい」
朝霧は葛藤に襲われている。常盤ハヅキも相模長重を殺害した時と同じように両手両足を切断するべきなのだろうか。彼女は常盤光彦の娘。そんな彼女に傷をつけるわけにはいかない。
すると奪っておいた常盤ハヅキの携帯電話に不在着信が届いた。朝霧は皮手袋を付けて、誰が電話してきたのかを確認する。そこには『警視庁。木原』という文字が映し出されていた。
「警視庁。まさか常盤ハヅキは重要参考人になったのか」
朝霧は路上駐車をして、常盤ハヅキの携帯メールを読む。最後の送信メールには『人に会いに行ってきます』と書き込まれていた。
「これだ。確か近くに彼女の自宅があるはず」
行先は常盤ハヅキの自宅に決まった。常盤ハヅキ失踪を警察が捜査しているとしたら、警察が彼女の自宅を張り込んでいるかもしれないが、それでも彼は自宅に向かう。




