二重隠蔽工作
捜査会議終了後捜査一課3係では話し合いが行われていた。
「霜月城助は犯人ではない。それらしい動機がある人物を犯人に仕立て上げるのは上層部がよくやることだからな」
合田の意見は的を射ていた。
「その警視庁上層部の隠蔽工作に屈せず真実を明らかにするべきですね」
「その前に気になることがあるのだよ。警視庁上層部が隠そうとしている真実というのは何なのか」
大野と沖矢の会話を聞いていた神津は手を挙げた。
「その隠そうとしている真実なら検討が付いている」
神津はホワイトボードに一枚の写真をマグネットで止める。
「神谷サツキ。警視庁捜査二課の警部で警視総監賞を受賞している。そして彼女の妹神谷歩美が特急ブルースカイ号爆破事件で命を落としている。そいつが猟奇殺人事件の容疑者に浮上したとしたら」
「それはまずい。警視総監賞受賞者が猟奇殺人事件の犯人だとしたら、警視庁の不祥事になる。彼女にも動機があると木原たちから報告を受けているから間違いない」
「神谷サツキが一連の猟奇殺人の犯人であるという結論が警視庁上層部の隠している真実だとしたら、この隠蔽工作も辻褄が合うのだよ」
大野はホワイトボードを見る。ホワイトボードには容疑者の写真が貼られている。
「とにかく犯人はあの7人の中にいることに変わりはないでしょう。ここはあの7人と接触して警視庁上層部の思惑を打ち砕きましょう」
その頃田中なずなは警察庁の刑事局長実で榊原刑事局長に会っていた。
「初めまして。衆議院議員の田中なずなと申します」
「警察庁の刑事局長。榊原栄治だ。田中さんのことは週刊誌で知ったな。福岡県議会議員の美人秘書として活躍していたらしいな。それで新人の衆議院議員さんは俺に何か用があるのか」
田中なずなは一枚の写真を榊原に見せる。
「ご存じかもしれませんが、名前は霜月城助。彼がこの度世間を騒がしている、猟奇連続殺人事件の容疑者として浮上したと聞きました」
「それでその霜月さんが容疑者として浮上したら困ることでもあるのか」
「霜月さんは私の愛人です。そんな彼が容疑者として浮上したらスキャンダルになるでしょう。その前に事件を隠蔽してほしいのです」
「おもしろいが、こっちには浅野公安調査庁長官か考えた隠蔽計画がある。残念ながら霜月城助は犯人として仕立て上げる予定だ。早めに彼から手を引いた方がいい」
「神谷サツキでしょう。警視総監賞を受賞した。彼女が容疑者として浮上したから隠蔽工作を始めたのでしょう」
田中のさらりとした一言を聞き榊原の顔は青ざめる。
「なんでそれを知っている」
「調べたらすぐに分かります。それより面白いとは思いませんか。警察組織と政界。二重の隠蔽工作」
「分かった。君は浅野房栄公安調査庁長官以上の悪女だな」
二重隠蔽工作はすぐに警視庁の千間刑事部長にも伝えられた。
『分かった。でもどうする。霜月は犯人として仕立て上げる予定だろう』
「大丈夫だ。後は俺に任せろ。お前らは予定通りに事を進めればいい」
榊原は電話を切ると、田中なずなは刑事局長室を退室した。




