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黙示録  作者: 山本正純
第二章 12月26日
32/69

願い

 それから10分後、大野たちは東京都警察病院の病室を訪れる。その病室にはラジエルと呼ばれる20代後半の女性が目を開けて天井を見つめていた。

 監視を続けている刑事は大野に状況を説明する。

「先ほど目を覚ましたのですが、記憶を失ったようです。正式な検査は翌日行います」

「記憶喪失ですか。退屈な天使たちにとって都合のいい展開になりましたね」


 ウリエルたちはこの会話を盗聴している。

「ほんで、どうすんねん。記憶喪失やったら記憶が戻る前の殺さんと厄介やで」

「私たちと関わった頃の記憶が戻らなければ害はありません。警察に捕まる前も彼女は記憶喪失ではないですか。つまり彼女は二重の記憶喪失。警察に捕まるまでの記憶より、7年前の事件の頃の記憶が先に戻れば真実を捻じ曲げることはできます。弁護士に変装したらそれも容易でしょう」


 ハニエルの意見を聞きウリエルは結論を出す。

「ハニエルの意見を参考にして、ラジエルの件は今の所は動かずに様子を見るということにしましょう。それでは忘年会の準備を再開しましょうか」

 平和なテロ組織の忘年会準備はまだ終わらない。


 ラジエルと呼ばれる女の病室から退室した大野は病院の廊下を沖矢と歩く。

「これからどうするのだよ」

「彼女が退院することになるまではお見舞いを続けます。それからのことは警視庁上層部に任せます」

 大野は安堵している。


 あの時大野はラジエルと呼ばれる女と対峙した。彼女はただのテロリストではない。彼女が本物のテロリストなら、大野はこの世には存在しない。運がよかったという言葉で片付けてもいいのかもしれないが、彼女は優しさを発していた。

 もう彼女は暗殺しなくてもいい。それはラジエルの願いだ。警察官として彼女を守らなければならない。退屈な天使たちが暗殺をしに来ても、奪還に来ても守らなければならないことに変わりない。


 ラジエルと同居すれば全てを解決することができるのではないかと大野が考えていた時、病院の廊下で宇津木白豚と遭遇した。

「あの時の刑事さん。また会いましたね」

 宇津木白豚に話しかけられた大野は足を止めた。

「宇津木白豚さん。あれから宇津木由紀夫さんはどうですか」

 大野は宇津木白豚に気を使って死刑囚という言葉を使わなかった。すると白豚は涙を流した。

「ありがとうございます。ここにいたんですね。死刑囚を一人の人間として見てくれる人が。うれしいです。父ちゃんは危篤状態です。持って後3日の命だそうです。できれば年明けまで生きてほしいのですが、この入院前に延命処置をしないようにとお父ちゃんは医師に話していたので、手が出せないんです。このまま延命処置をしたらマスコミに叩かれますから、最初から病死をする覚悟なんでしょう」

「そうですか」


 大野は宇津木由紀夫の覚悟を感じた。それは揺るがない覚悟。病死で終わらせようとする派閥の考えと宇津木由紀夫の考えは一致している。死刑を前倒しで執行する派閥の考えは間違っているのではないか。

 警察官の考えは中立でなければならないが、大野は宇津木死刑囚が起こした事件を病死で終わらせた方がいいのではないかと思った。

「ところで相模長重さんと常盤ハヅキさんと如月武蔵さんに心当たりはあるのかね」


 沖矢は質問しながら3人の写真を宇津木白豚に見せた。

「誰ですか。その人たちは」

「ある殺人事件の被害者たちです。相模さんと如月さんは7年前の特急ブルースカイ号爆破事件当時青空運航会社に勤務していました。常盤ハヅキさんに関しては彼女の友人があの事件に巻き込まれて死亡したそうです。つまり7年前の事件の関係者が殺されている」

「なるほど。それで一番怪しいのが俺ということですか。動機は冤罪を仕組んだ青空運航会社への復讐。でもそんなことしても何も変わらないのは分かっています。迷惑なんですよ。偶然7年前の事件の関係者が殺害されて、一部報道では共犯者の再犯ではないかと噂されています。あの猟奇殺人で世間は7年前の事件に目を向けるでしょう。そうなれば派閥の争いも過熱する。マスコミはお父ちゃんを病死にさせてくれないのでしょうか」


 大野と沖矢は宇津木白豚と別れ、玄関に向かい歩き出した。

「病死か死刑。どちらの選択肢を選んだとしても宇津木死刑囚は死亡します。彼が亡くなるまでに7年前の事件を終わらせる必要があると思いませんか」

「そうなのだよ。後は宇津木白豚が容疑者として浮上しないことを願うだけだ」


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