同期
朝霧睦月と常盤ハヅキの接点が見つかった頃木原と神津は桐嶋師走が暮らしている黒澤壮にやってきた。
黒澤壮は築20年のマンション。そのためか風貌は古ぼけて見える。木原は桐嶋という表札がある部屋のインターホンを押す。
『どなたですか』
インターホンからはなぜか女の声が聞こえる。桐嶋師走の性別は男。女と同居しているという情報を知らなかった木原たちは驚いている。
「警視庁の木原です。そちらに桐嶋師走さんはいらっしゃいますか」
『分かりました。ドアを開けます』
それから20秒が経過した時、声の主がドアを開けた。その女の顔を見て神津は驚く。
「あれ。神津君だよね」
「神谷サツキか。ここで何をやっている」
木原は話についていけない。
「誰ですか」
「警察学校の同期で警視庁捜査二課の神谷サツキ警部補だ。3年前に警視総監賞を受賞しただろう」
木原は神津の説明を聞き納得した。
「早速質問をさせてくれ。なぜお前は桐嶋師走の自宅にいるのか」
「桐嶋君とは同居しているから。桐嶋君とは合コンで知り合いました。そこで彼は7年前の特急ブルースカイ号爆破事件の被害者だと聞き意気投合しました。私もあの事件で妹を失いましたから」
神谷は木原たちを自宅に招き入れた。リビングでは桐嶋師走がソファーでうたた寝をしている。
「桐嶋君。お客さん」
神谷の言葉を聞き桐嶋は目を覚ました。木原たちは警察手帳を見せる。
「警視庁捜査一課の木原です」
「同じく神津。今日はあなたに聞きたいことがある」
木原は机の上に三枚の写真を並べる。その写真はこれまでの猟奇殺人事件の被害者たちだ。
「この3人の男女に見覚えがありますよね。右から順番に、相模長重、常盤ハヅキ、如月武蔵さんです」
「はい。相模さんと如月さんは毎年あの事件が起きた頃に被害者遺族会に謝罪に来られるので覚えています。常盤ハヅキさんは高校の同級生です。この3人がどうしたのですか」
「殺されたよ。俺たちは事件の真相を追っている。聞くところによるとあなたは、7年前の事件のことで青空運航会社を恨んでいるそうだな」
「確かに恨んでいるのは事実です。でも湯里さんのカウンセリングで爆破事件の犯人へ向けた殺意は消えかけているんです。僕が恨んでいるのは7年前の爆破事件の犯人と青空運航会社の人間。でも常盤ハヅキさんを殺害する動機が僕にはありません」
「宇津木死刑囚の面会に行ったのはなぜですか。戸籍を調べましたが、宇津木死刑囚の戸籍にあなたが親戚であるという記録はありませんでしたよ」
「話が聞きたかったんです。なぜあの事件を起こしたのかという話を。金で雇われたとしか彼は言いませんでした。その時思いましたよ。あの事件は青空運航会社の自作自演ではないかと。自作自演説が真実だとしたら、多くの被害者遺族は恨むでしょう。この説の真偽が判明するまで、青空運航会社を恨むことにしたんです」
「昨日の午後4時20分から午後5時40分までの間どこで何をしていた」
「湯里さんの所でカウンセリングを受けていました。証人ならたくさんいます」
予想通りの答えだと木原は思った。
「因みに神谷サツキ。お前はその時間帯どこにいた」
「警視庁で仕事をしていましたよ。12月28日に怪盗リアス式海岸が東都ホテルに展示される時価一億円のペンダントを盗むという予告をしてきましたから」
木原は神津の質問の真意が分からなかった。木原たちは桐嶋の自宅を後にする。黒澤壮の駐車場で木原は神津に質問する。
「あの質問の真意は何ですか」
「何のことだ」
「警察学校の同期の神谷サツキさんのアリバイを聞いた真意です」
「あいつも7年前の特急ブルースカイ号爆破事件の被害者遺族だ。捜査に私情は禁物だから同期だとしても容疑者として疑わなければならない」
神津が運転する車は警視庁へと向かう。
怪盗リアス式海岸。ギャグとしか思えないネーミング。




