新人衆議院議員の素顔
木原たちの車が発進した頃一人社長室に残った霜月城助は携帯電話を取り出し電話を掛ける。
「助けてくれ。警察に疑われている」
霜月は受話器越しになぜ疑われているのかを一人の女性に説明する。
「助けてくださいよ。あなたならこんな事件くらい簡単に握りつぶすことができるのでしょう」
『簡単に言わないでください。まだ私は新人だから。噂では法務省と警察庁が事件を隠蔽するべく暗躍しているそうですからそれまでの辛抱です。いざとなったら掃除屋を雇って真相をうやむやにすればいいだけの話です』
霜月の電話の相手は電話を切った。その電話の相手は今マンションの駐車場にいる。
するとその女は殺気を感じた。殺気の主はどこかに隠れている。
「まさか先ほどの会話を聞いていた訳ではありませんよね。サラフィエル」
殺気の主であるサラフィエルが駐車場の一角から出てきた。
「気配消しとったのに一瞬で声かけられるとは思わんかったわ。さすがやな。ガブリエルはん」
この女の名前は田中なずな。コードネームはガブリエル。退屈な天使たちのメンバーだ。
「もう一人いるでしょう。空気に溶け込んでいるあなたの相棒が」
「バレた。出てきてもええで。ハニエルはん」
サラフィエルとは逆方向からハニエルが現れた。
「初めまして。ハニエルです。少々お時間よろしいですか」
「ええ。構いませんよ。何ならドライブでもしながらやりませんか」
車内での探り合いが始まろうとしている。
午前10時30分。ガブリエルとサラフィエルはハニエルが運転する車でドライブをしながら会話をしていた。
「単刀直入に聞きますが、私に何の用でしょうか」
ガブリエルは早速本題に入ろうとしている。世間話をする暇はないだろうと思ったハニエルは運転しながら本題に入る。
「なぜあなたは領土である西日本を離れて衆議院議員として活躍しているのでしょう。それを聞いて来いとアズラエルに頼まれました」
「ああ。そんなこと。東京でやりたいことがあるから。今の所はこれしか答えることができないの」
「それは電話の相手絡みやろ」
サラフィエルが口を挟むとガブリエルは首を横に振った。
「違います。まあそのやりたいことが出来たら福岡に帰るつもりだけど。このことを昨夜あの方に連絡したらすんなり頷かれたの。組織に政界キャラは必須だと言ってね」
「あの方の許可は受けていますか。どうやら私たちの捜査は無駄足だったようです」
「ところがそうでもありません。この際仕事を依頼したいと思っているから。先ほどあなたたちは聞き耳を立てて電話の会話を聞いていたでしょう」
サラフィエルとハニエルは頷いた。
「そうやけど。まさか仕事の依頼ちゅうんは暗殺のことやないやろな」
「その通り。この年末に猟奇殺人事件が発生しているでしょう。その真相をうやむやにしてほしいの。暗殺してほしい人物は後日連絡します。その犯人役の人物を暗殺して、被疑者死亡で処理しようという作戦」
「それより容疑者を全員一か所に集めて全員爆弾で殺害の方が手っ取り早いと思いますが」
「あんまり派手に動くなとあの方に指示されているからそれはできない。適当な犯人役を見つけて暗殺の方がスムーズですよ。まあその前に警察庁が事件を隠蔽したら仕事がキャンセルされますが」
「分かりました。それでは後日連絡をお待ちしています」
一通りの会話が終了した頃後部座席に座っているガブリエルは顔を赤くしながらハニエルたちに質問した。
「ところでラグエルはどんな人ですか」
ハニエルたちはこの質問を聞き目が点になった。
「会ったことないんかい」
「はい。実はそうなんですよ。いつもラグエルとはメールか電話で連絡をしているだけだから会ったことはありません。ラグエルの声を聞くと、白い霧の中に一人の男が花束を持って立っているというビジョンが脳裏に浮かぶのです。実は私7年前より後の記憶がないから、ラグエルが記憶を取り戻す鍵を握っていると思いました」
「それなら会わせたいと言いたい所ですが、ラグエルは海外にいるので会わせるわけにはいきません」
そしてハニエルが運転する車は衆議院議員会館前に停車した。
「帰りはタクシーで帰ります」
ガブリエルはそう言い残し車から降りた。
このタイミングでガブリエルが登場。ラグエルと共演する日はくるのだろうか。




