ある囚人が死刑になるまで 前編
登場人物
相模長重 青空運航会社車掌
水無信彦 青空運航会社社長
如月武蔵 元青空運航会社社長
霜月城助 輸入会社カシオペア社長
常盤ハヅキ 輸入会社カシオペア事務員
相模弥生 専業主婦
湯里文 東都病院心療内科医
北白川カンナ 飲み屋ブラッグ大河店員
神谷サツキ 警視庁捜査二課刑事
桐嶋師走 フリーター
朝霧睦月 ルポライター
宇津木白豚 プログラマー
沖矢亨 警視庁捜査一課刑事
宇津木由紀夫 死刑囚
2005年6月25日午前9時。朝のニュース番組のレポーターは東京駅にいた。
「私は今特急ブルースカイ号が停車している東京駅に来ています。こちらのブルースカイ号ですが、東京都と福岡県を結ぶ豪華な寝台特急となっています。なお今回の初運行記念パーティーでは多くの招待客が乗り込むとのことです」
そのレポーターを横眼で見ながら一人の招待客の男は特急に乗り込んだ。その男の顔は帽子を深くかぶっているため見えないが長いコートが印象的だった。その男は電話をしながら乗車する。
「おい。大丈夫なんだろうな」
『心配はいりません。あなたは死にませんから。自分の命くらい自分で守りなさい』
電話の声は変声器で声を変えたような不気味な声だ。
「分かった。それなら楽しませてもらうぜ。初運行に合わせて用意した花火を」
特急ブルースカイ号が走り出してから15分後、総合指令室に一本の電話がかかってきた。その電話を受けた青空運航会社社長の如月武蔵は驚愕する。
『特急ブルースカイ号に爆弾を仕掛けた。爆破されたくなかったら10億円を用意しろ。お前らが運転手に停車を指示して人質200人を逃がすかもしれないから、車内に減速したら爆発する仕掛けの爆弾も仕掛けておいた。時速50キロを下回ると爆発する。警察を呼んでも構わないが、妙なマネをしてみろ。すぐリモコンで爆発させるからな』
「お前の目的は何だ」
『復讐です』
脅迫者からの電話は切れた。如月はすぐに警察に通報する。すぐさま警視庁は総合指令室にやってきた。
前代未聞なトレインジャック事件の指揮を執るのは千間刑事部長だ。
「人質救出が最優先だ。その後で爆弾犯を逮捕しよう」
千間たちと一緒に来た刑事たちは彼の捜査方針を賞賛した。刑事たちは人質救出の策を考える。
一方その頃特急ブルースカイ号車内で車掌の相模長重は走っていた。彼は先ほど総合指令室からこの特急でトレインジャック事件が発生したことを聞いた。パニックになるといけないのでこのことは招待客には伝えていない。
相模長重は運転席のドアを開ける。
「霜月さん。大変です。この特急が何者かに乗っ取られました。電車内に爆弾が仕掛けられていて、要求に従わないと爆発するそうです。今総合指令室が警察を呼んで対策を練っているそうですよ」
運転手の霜月城助は真剣な表情をしていて、相模の話を聞いていないようだった。
「聞いてますか。相模さん」
「それどころじゃない。ブレーキが壊されている。この特急は速度を制御できない。最悪壁にぶつかって脱線する」
相模は急いでこのことを総合指令室に知らせた。
「こちら特急ブルースカイ号の相模。ブレーキが壊された。これから特急は暴走を始める模様」
時既に遅し。特急ブルースカイ号の前には大きな壁がある。軌道を変えれば衝突を回避することはできるかもしれないが、特急は猛スピードで壁に向かっている。
「霜月さん。早く軌道を修正してください」
「言われなくてもやっている」
遅かった。特急ブルースカイ号は壁に激突して脱線した。そのショックで爆弾は爆発した。
こうして死者100名、重軽傷者200名を出した脱線事故は起きた。