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喋る〇〇!

今回から他の人達の視点が増える予定です。


4/29訂正しました


 色々と雑用を片付けた俺は、大きめの馬車に子供たちを乗せて、自分はデカくて白い馬に乗っている。見た目も身体のでかさも、申し分無い名馬だろう……外見だけならね。二台の馬車を引き連れた俺は、屋敷にいた使用人達も連れて来ている。


 マーセルの所に返そうともしたが、本人達の希望で連れていく事にした。其れから護衛も兼ねて新しく雇った男達がいる。


 まだ若いが三人のスラム出身の若者達・・・彼等には共通点が有る。


『偵察が出来て義理堅い』


 足が速かったり、隠密に長けたりと条件に合う者は沢山居たが、信用できない奴は意味が無いから探すのに苦労したよ。


 親無しで、三人で生きて来たからか中々連携も出来ている。将来は、戦闘技能を鍛えて勇者パーティーメンバーに強制参加させる積もりだ! 必要だと思うんだよね、偵察を出来る人とか・・・三人しか居ないけど其の内増えるでしょう。



 其れから勘も良い様で助かるんだけど、俺に対しては勘違いをしているのか、尊敬の眼差しを向けてくる。確かに、雇う時も魅力の能力が働いたのか話も早かったけど、その後の移動が問題だった。


 引っ越しするだけで、城門まで王都の住人達から見送られるし、騎士団が整列して格好よく見送る、と更に勘違いが進む訳だよ。


「「「ここまで凄い人とは、思っていませんでした!マジ尊敬してます!」」」


 ……もう慣れたけど勘違いがこれ以上酷くなる前に俺は辺境で自分の居場所を作るんだ!


「其れよりも、先に解決しないといけないのが……お前だよな『ポチ』」


『勇者様!俺は一生着いていくぜ!』


 俺が話し掛けたポチとは、『犬』ではない。犬であったら、どんなに良かったか……今、俺が乗っている『馬』がポチと言う名前の馬! なのだ。


 話は少し前の事になるが、マーセルから馬を買う事を勧められて紹介された商人の所で、安売りされていた暴れ馬のポチ、俺を見つけると、勇者様!とか言って駆け寄ってきた。


 俺の気持ちが、わかるだろうか? 『喋る馬』に追い駆けられた俺は、そのまま王都を逃げ回った! 其れを、手を振りながら応援する住人達の正気を疑ったよ。


「何で喋れるんだよ……お前は馬だよな?」


『何言ってんだよ勇者様、馬だって喋るぜ。其れよりも、家に着いたら少し放し飼いにしてくれ、新しい縄張りでハーレム作りたいからさ!』


「お前を放し飼いにしたら、そこら中で喋る馬が溢れそうだから嫌だ!」


『何でだよ! 俺みたいな優秀な馬を繁殖させないなんて女が泣くぜ!』


「喋るお前に、他の馬も引くだろうけどな。其れから、本当に馬かもわからない。」


『勇者様も頭固いぜ。人間が喋るんだから、馬だって喋って良いと思うけどな。』


 ……こんなに軽い性格の馬に乗る俺は、疲れてしょうがない。本能優先で、馬車を引く牝馬に近付くのを無理矢理離したら、野宿した後に出発前の時に子供等も見ている前で……その後に、説明を求める子供達をはぐらかしながら、ポチを殴り飛ばしたのに元気なままで腹が立つ!


「出発前に変な空気にしやがって、どうしてくれる?」


『面倒臭いよな人間は、勇者様も本能に従えよ。』


 本能に忠実な奴が、勇者をしたら大変じゃないか、誰も止められない気がするな。でも、この世界の勇者が108人も居るんだから、中には駄目な奴も出て来るか……よし! エイミに討伐して貰おう。






そんな、何とも言えない空気で旅をしていた俺達が、目的地に着くと其処には寂れた村が有った。


 国境沿いには、砦もあるんだが俺の役目は、砦で帝国に睨みを効かせる事では無く、寂れた村の警備だ。


 俺は、かなり砦の貴族達に嫌われている様で、旅の途中で会った伝令は見下して任務を告げて来た上に、砦には来なくていい! とまで言って来た。


 中々、良い感じじゃないか! これなら王都よりも過ごしやすいだろう。辺境では、俺の噂も聞いてない可能性も有る。……俺は此処から遣り直そうと思う。



 村に着いたら、村長に挨拶を済ませに行く事に決めていた。この名前も無い村は、隣国から逃げて来た者や他の村から頼って来た連中で溢れ返っていた。


 挨拶に行く途中には、馬車に群がる連中も居たがポチに乗る俺を見て、盗みを働く事は無かったが、此方を恨むような目付きで、睨むのは止めて欲しい。


 村長の屋敷に着いたが、其処は村人と同じ様な家でしか無く、年寄りだから村長になった感じの人だ。俺を見て、


「こんな若造が騎士とはな、この国も滅ぶのかの?」


 ……この人は常識人でだ! これだよ! これなんだよ! 俺が求めていた反応は!!!


「人が押し寄せて来たが、この村では何時までも養えん。だからと言って、追い出せばゴブリン共の苗床になるのは確実・・・領主は、雇った傭兵に殺されて誰も管理する者がおらんのが現状じゃ。」


「砦の責任者はなんと?」


「管轄外とか言われてな。向こうは、派遣された兵隊じゃからな。・・・荒れ果て、魔物が数多く徘徊するこの地に誰も来ない。」


 疲れた顔の村長さんは溜息を吐いて上を見上げた。


「もう駄目かもしれん。」


 ……おい! 其れでは困るんだよ! 此処が無くなれば、俺に行き場が無くなり最悪王都に強制送還じゃないか。どうしても維持しなくてはいけないが、この村は限界に近い。


 俺は、治安維持目的で来ているんだから、魔物を相手にしたり、賊を片付けないといけない。魔物の死骸から金目の物を剥ぎ取るのは、当たり前としてもその金を使ってもこの村は維持出来そうに無い。


 まさか、こんなに早く手詰まりになるなんて……だが、俺は諦めないぞ! 金が無いなら、稼げば良い。領主は、居ないんだから税を払わないまま誤魔化せば良い。俺の懐から金を出して……遣ってやるぞ!


「俺が、この村を何とかします。この村は、何処の商会と取り引きしているんですか?」


「……其処から、説明せんと如何のかね? 商会・・・商人なんか、来ないんだよ。近くの街に、買い物に行くのが普通でね。其れも、隣国から流れてきた魔物の所為で危険な状態だ。」


「……手紙も出せませんか?」


「移動できないから無理だ。」


「連絡手段は無いんですか!」


「最近の騎士は、何も知らん様だな。いいか、こんな辺境の村にまともな連絡手段なんか無いんだよ。近くに有るのは、国境警備の砦だけ、一番近い街まで馬でも二日は掛かる。・・・元々この村は、砦の食料を作っていた様な村なんだよ。」



 呆れた顔をして、俺を見る村長……普通はこんなもんだよな。俺が、何とかすると言っても信じる方が可笑しいんだ。


 でも此処しか、俺には残されていないんだ! 下手な国になんか逃亡させないだろうし、する気もない。あの王妃様なら、俺の両親を人質にしてでも引き止めるか呼び戻すだろう。


 この国の、デカイ都市も王都と同じ様な物だし、神殿の神官共も騒ぎ出すに違いない。こんな辺境の村には神官は嫌がって来ないから良いんだ。住み良い場所にしか居ない神官とか、尊敬されないのも仕方ないだろ。


 他の辺境の村には、行く理由が無い。……俺の本気を見せてやるからな!






話を済ませた俺は、直ぐに行動を開始した。先ずは、この村の住人をどうにかしないといけない。この村では支えていけないなら……どうしよう?


 何もしていない連中を養う金は、俺にも無いし、払う気も無い。


 ならば、使える人材を探す所から始めるか? 深く考えても俺の頭では考えつかん。


 方針は、使えそうな人に任して自分の仕事をして行こう。これに決めた!


 大量の難民や流民を、選別する所から始めた俺は、戦えそうな者を集めて村の守りを固めた。装備が棍棒とかで可哀想だが、物が無いなら仕方ない。


 次に、手に職を持つ者を見付けて、必要な道具を聞き出しておく。


 後は、元気なだけの連中には、適当に開拓とかさせておこう。殆どが開拓組に振り分けられたが、問題は老人や子供達だ。……正直に言って、使えない。だが、今後を考えたら必要無いから、と捨てる事も出来ない。


 ある程度必要な物を確認したら、俺はポチに乗って近くの街に買い出しに出た。もう、無駄に元気なバカ馬をひたすら酷使して、急いで街に着いたら全財産を叩いて食料や必要な物を買い揃え、幾つか手紙を書いた。


 マーセルには、商人が定期的に来れないかと、魔物の買い取り願いを手紙に書いて、ハースレイには神官の派遣……これは嫌がらせだ。絶対に嫌がるからなんて言い訳するか見たかった。


 後は、最後に王妃様宛てに状況の説明と、遣りたい様にやって良いかの確認の手紙を出した。


 荷物を運ぶ人を雇って村に帰る頃には、一週間経っていた。安い食料で、旨くも無い物ばかりだが、集めるのにも苦労した。後は、俺の仕事をすれば良い。手紙を出した三人から返事が有るなら、誰か街から持って来るだろう。


 そうして、不味い飯を食いながら仕事をしたんだが、人数が少な過ぎる上に『ゴブリン』が最悪だ!


 あいつ等の繁殖能力は、高過ぎて手に負えない。これなら、多少強いモンスターが居る方がまだましだ。其れに、弱いからか集団戦闘を仕掛けてくる。ゴブリンに、もう少しだけ知恵が有れば、この世界なら支配出来たんでは無いだろうか?


 戦えるのが、俺を含めて22人しかいないのも問題だったが、連れて来た三人以外は大して役に立たなかった。時々現われる、ゴブリン以外の魔物も強くは無いから倒せるには倒せる。


 でも人手不足だ・・・。


 やたらと出現するから、一度だけゴブリン共の巣を発見して焼き払った! 大量に倒したのに……国境を越えて来ていたんだよねあいつ等、だからかな……巣を、使えなくしてもまた何時の間にか違う場所に巣を作ってしまう。こんな事を繰り返しても仕方ないから、襲撃しやすい巣を作れる場所をわざと残して其処を襲撃するのを繰り返した。


 本当に腹が立って仕方がない! 繁殖能力の所為なのか、女子供を攫いに村を襲いに来る。……ポチなら持っていって、食べても良いかな? あいつは、自分のハーレムに手を出さない限りは、基本的に静観する。この間なんか、


「お前も、ゴブリンくらいなら倒せるんだろ? 戦えよ無駄飯ぐらい。」


『馬鹿ですね勇者様は、俺は馬で貴方は人間! 戦うのは馬の仕事じゃ有りませんから。』


 ……本当にムカついたよ。



 そんな感じで、毎日毎日ゴブリンばかりを相手に戦っていたら、商人の一団が村に来てくれた! 其処で渡せるだけの物を全て売り付けて、食料を買ったり、武器や日常品を受け取ったり……本当に、ありがとうマーセル!


 その商人の一団から、王妃様とハースレイの手紙を受け取った。王妃様からは『了承した』的な手紙を、ハースレイからは『難しい』……やたら言い訳の多い手紙を、破り捨てたいのを我慢してまた同じ内容の手紙を渡した。


 忙しい毎日を過ごしながら、頑張ろうと決意していたら商人の一人から嫌な情報を聞いた。


「レオン様は『ユーステア』様とお知り合いですか?」


「誰それ?」


「オセーン帝国の皇子です。有名な方では有りませんが、かなり有能の様ですよ。オセーンから帰国した商人が言うには、ユーステア様がレオン様とは友人だと言っていた様なのです。」


 誰かは知らないが、時々居るんだよな。有名になったら、親戚が増えるとか言う話も前の世界で聞いた事が有る。人の名前使って何がしたいんだよそいつは!


「知らないし、会った事も無い。……俺は、国外に出た事が無いからな。」


「……でしょうね。皆が、不思議がっていたんです。レオン様は、ユーステア様に会った事が無いのに、友好の証として親善大使に指名して来る等と……」


「何考えてんだよそいつ! ちょっ、怖いから断わっておいてくれよ。」


「はぁ、構いませんが……最近特に、そういう輩が増えていて王都では悩みの種でございます。この前は、追放処分を受けた異端者まで、城門でレオン様の名前を叫んで大暴れしておりました。」


 此処まで来ると、有名税とか言っていられない気がする。異端者に知り合いなど居ないから、そいつも俺の知り合いでは無いが、もう少し王都に居たらとんでもない状況になっていたかもしれない、と考えて俺の辺境への引越しは正解だったと確信した。


「其れから、商人の定期的な派遣ですがマーセル様は了承しました。ただし、今のままだと月一くらいでしょうかね。其れに、移動と護衛の関係で大分費用が掛かりますから、魔物の素材の買取りも他よりも安くなります。」


「来てくれるだけ有り難いよ。マーセルには、お礼を言っておいてくれ。魔物の引き取り価格も任せるから好きにするといい。……其れから、次に来る時はこのメモに有る物を揃えて欲しいんだが、魔物の素材と交換でどれくらい……」


 その後は、商人と有意義な交渉をして必要な道具などを手に入れることが出来た。其れを、直ぐに村で配り職人達に、元の住んでいた所で遣っていた事をこの村でして貰う事にした。一番有り難かったのは、大工が結構、揃っており建物を建てるのに大変役に立った事かな。


 残りは、其々がこの村に必要だと思う物を作って貰う事にして、俺はそれ以上の口出しを止めた。……これ以上は、何も出来ないのが理由なんだけどね。


 働く人数が増えると、村も活気が出て来るが良い事ばかりでは無かった。必要以上に目立ったこの村を目指して、集まる人やゴブリンの相手に手を焼く事になったんだ。開拓をして畑が増えると、魔物から護る土地も増える為に今度は兵士の数が足りなくなる。


 其れを見かねた家の子供達が、自ら立候補をするくらい大変な状況と言えば、わかって貰えるだろうか? 8歳と5歳に戦うと言われて、嬉しいやら悲しいやらで結局戦わせたくないから、適当な理由を付けて今回はお断りさせて貰った。


 ……子供達が、ゴブリンを殺して回る姿は幾ら勇者でも、どん引きだ! 村の住人が怯えてしまう。



 毎日何処かで、問題が出てくる村だが此処は間違いなく俺にとって『楽園』だった。


 例え、住人達が移住して来た者達と、本気で殴り合っていたとしても!


 例え、働かない連中に限って、俺に金を借りに来たとしても?


 例え、女同士の醜い派閥争いを目撃したとしても……



 ……俺は、此処から離れない、いや、離れられない。





テオ・ルセルド


15歳で成人となるこの世界で、俺も周りと同じ様に成人となった。アステア王国で、俺以上に強い奴はいない。他国に目を向けても、俺に並ぶ奴は『レオン』くらいだろう。あいつは、随分前から目立っていたから仕方ないが……此れからは、俺の名前がこの世界に広がる。


 そんな強い俺には、成人した事もあり騎士団入りの話が出ていた。アステアは、アルトリアと違い伝統ある国家だ。アルトリアも元はアステアの領地だった。色々有って独立したアルトリアには、思う所が有るのだろう。


 そしてレオンが、騎士となり辺境の危険な土地に自ら志願した話が伝わると、アステア王国は面白くないのか俺に騎士となり国内の魔物を討伐する任務に就け、と言っている様だ。


 両親は、喜んでいたが冗談ではない! 俺が、討伐するのは魔王であって、小物なんかそこら辺の兵士達にでも討伐させろよ。


 アルトリア騎士団が、最近有名になった事は俺も聞いている。何でも、ルーゲルとか言うオッサン達が現れたオーガを少ない人数で倒したから有名になった。


 オーガくらい、倒せて当たり前だろう? 俺なら、一人でも倒せる。


 このテオ様に、雑用を押しつけた国王に何を強請ろうか考えつつ俺は王城へと向う事にした。






 アステア国王


 此処最近のアルトリアの行動には、驚かされてばかりだ。わしの時代で、これ程に勇者が数多く現われただけでも大問題だと言うのに、今度はアルトリアの神童が『過去最高の神託を受けた勇者』になるなど……最初は、祝福を受け忘れて神童のメッキも剥がれたか、と大臣や将軍達と笑っておったのに!


 今では、アルトリアのレオンを笑う事は誰にも出来ん!


 幾ら王族とは言え、神に弓引けば神殿の神官共が、ハイエナの様に集まって国中から、あらゆる手段で金を搾り取る筈だ。


 友好を結んでいて本当に助かった。先々代の王には、感謝してもしきれんな。


 だが、問題はその最高の勇者が、自分の使命を果たそうとしている事だろう。其の所為か、アルトリアは騎士に商人と国民がまとまりつつある。改革も進めば今はまだしも10年、20年後には……アステアは、呑み込まれる!


 辺境で、低級の魔物を相手にしているだけ、と思い込んでいる愚か者が多いが、あれがどれだけ重要かわかっておらんのだ! 低級の魔物による被害が、どれだけの数になるか……国中で、ゴブリンが繁殖でもしたら、物流に影響し、その後は経済にまで波及する。其れを、国境で食い止める事で国の被害を抑える……此れだけの大仕事を理解出来ん者が、我が国になんと多い事か。低級の魔物が、大量に我が国に流れ込まないのもアルトリアのお陰とはな……


 騎士団の愚か者共が、目立つ魔物を討伐する事だけにしか興味がない。それに比べ、最高の勇者は何が大事かわかっている。


 自らの地位や財産を捨ててでも遣り遂げようとしている、と言う情報を聞いた時の大臣や将軍の顔は己を恥じていた。だが、このまま我が国が護られて何も出来ないとは想われたくない!


「大臣、我が国の勇者を集めよ。最高の環境を与えて鍛え上げよ!」


「……宜しいのですか? 集められるのは、農民や平民の子供だけです。貴族の子供は拒否する筈です。」


 真面目な顔をした大臣を見ながら笑みを浮かべる。


「構わん。アルトリアのレオンを越える勇者を育てよ。其れから、レオンに支援物資を送ってやれ、アルトリアの雌狐も喜んで受け取る筈だ。」


「……其れでしたら婚姻の話を出しませんか?」


 真剣な表情で、婚姻の話を続ける大臣に、わしの顔が少しだけ歪む。


「国の為になら『リィーネ』を差し出す事は構わんが、お前の口振りからすると、アルトリアの王子では無くレオンに嫁がせる気か?」


「姫様はまだ10歳ですが、其の美しさはアルトリアにも伝わっております。アルトリアの王子の一人が夢中ですからな……事が済めば、不仲になるやも知れません。」


「其処を我が国が引き取るか……任せよう。」


 このままでは、何時かは雌狐にアステアは呑み込まれる。其れが、最強の盾となる勇者が此方に居れば……呑み込む事すら容易いわ!


 そんな時に、将軍が執務室に駆け込んで来た。顔を青くして、少し息を切らせながら報告してきた内容にわしは頭を抱えた。


「テオ・ルセルドが、騎士就任の際に顔を会わせたリィーネ姫様との婚約を条件に魔物討伐の件を呑むと……騎士団長達も其の意見に同調しております。」


 握った拳が、わなわなと震えるのを机を叩いて押える。


「強いだけの馬鹿貴族に、リィーネを渡せと言うのか! あれが、そんなにも傲慢だったとは……騎士団の愚か者共にあやつを扱い切れると思うか?」


 大臣と将軍は、頭を振ると言いにくい事を告げてくる。


「戦争もした事の無い飾り達には、あやつを扱い切れるとは思いません。其の上、ルセルドは強くとも戦闘の素人ですから、問題を起こすかと思われます。」


「無理でしょう。あれの親も野心家で有りますから……これを理由に王家に成り代わろうとする積もりでしょう。テオ・ルセルドを担いだ騎士団の連中も其れが狙いかと、」


 両方とも遠慮無く告げてくるが、此れで良い。だからこやつ等を信じられる。


「任務を果たせたら婚約させてやろう。……その間に、なんとしてもレオンとの婚約を急がせろ!」


「「はっ!」」


 此れは、ただの恋愛事で片付けて良い問題では無い、と言う事を理解できんテオ・ルセルド、貴様はこの国に必要なくなった時は、覚悟をして貰うぞ。それにしても、アルトリアと比べるのは間違いだが我が国の使える人材のなんと少ない事か……





 レオン・アーキス


 毎月来る商人の一団が、今回は大量に物資を運んで来た! こんなに交換出来る程の魔物の素材が無い事を伝えたら、


「アステア国王からの支援物資になります。勇者様の活躍に期待していると、」


 また勘違いかよ! 隣の国は暇なのかな? 俺なんか、毎日毎日ゴブリンを倒し過ぎてゴブリンが金に見えて来たんだぞ!


 ゴブリン=お金


 もう、足りない金を求めてゴブリンを狩り続ける毎日なんだ。……疲れたよ。


 時々、違う魔物も現われるけど、基本的に集団で袋叩きにして終了だから大して変わらないな。数は力だよね! 108人も勇者が居れば、魔王も驚いて大人しくしてくれたら楽なのにな。


「父、これは何処に持っていくの?」


 ラミアが、俺の横で受け取った荷物を運ぶのを手伝ってくれている。此れくらいは、手伝わせても問題ないよな?


「ああ、食べ物だから落とさない様に運んだら、皆で分けて食べな。その袋なら、揚げパンか何かのお菓子だろ?」


 商人を見れば、軽く頷いていたので間違いない。


 走り去るラミアを見ていたら、その先には子供達が待ち構えていた。……ラミアの奴は、わかっていて手伝った様だ。賢くて何より!


「急がしそうですが、何か足りない物は有りますか?」


 商人の質問に、正直に自由が欲しいと叫びたいのを我慢して、


「足りないのは、人材かな? 此ればっかりは何処も人手不足だよ。」


 其れらしい事を言って、世間話をした。適当に国外の話になると、面白い話から暗い話まで様々だったが一つだけ気になった事がある。


「テオ・ルセルド?」


「アステア王国最強の騎士、だと言われています。国王の姫様との婚約を条件に騎士になった男ですが……評判は悪い様です。」


 アステアの姫様って、リィーネとか言う子供だよな? 美人で有名になった姫様だけど……確か、王妃様の子供が、結婚するとか噂になってなかったかな?


 でも10歳で美人は……可愛いなら、わかるけどしょせんは噂だろ。


「何処も大変だよな。」


「他人事では有りませんぞ! そやつは、レオン様と戦うと騒いでいるのです。誰も相手にしていませんが、注意はするべきです。最近も何やら事件を起こして、謹慎処分となった不良騎士なんですから!」


 え! そんな奴が何で俺なんかと戦いたがるんだよ! やっぱり辺境に来て正解だったな。このまま引き籠もって忘れ去られてやろう。


この本能に忠実な馬には苦労しそうですよね。頭も良さそうだし・・・

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