終わりが近いね
次々に降下してくる飛行船で、空洞内は埋め尽くされていた。
リュウたちが乗る飛行船は上昇出来ず、そして神殿側の飛行船からはレオンたちが開発した樽に詰め込んで落とすような兵器が満載されている。
リュウは矢束を抱えて外に出ると、その光景を見上げた。
「ちょっとこれは危ないんじゃ」
飛行船が神殿入口にとどまっておられずに、動き出すとタラップが破壊されて底に向かって落ちていく。下には水が溜まっており、リュウはソレを見て。
「飛行船は湖まで降下させよう。今はそれしか」
リュウたちが使用している飛行船は、レオンが船の形と言うよりも潜水艦をイメージして作らせていた。おかげで、着水も出来れば少しだけ潜ることも出来た。
被害を減らすため、リュウは自分で考えながら行動していた。レオンがいない事で、自分がしなければと思ったのだろう。
船長のところへと向かい、指示を出すと自分は急いで飛行船の上部――甲板に出て矢束を置いた。数百の矢を近くに置き、弓を握りしめて構えると矢を一本手に取った。
「……そう言えば、弓はレオンさんに勧められたんだよね。昔は嫌だったな」
リュウは転生者だ。小さい頃は国の上層部に睨まれる事をやってしまい、警戒されていた。そんなリュウが生き残れたのは、レオンと出会ったからであろう。
アルトリアが平民出の勇者が反乱を起こすと、容赦なく処断してきたのを見ればリュウが単独で生き残れた確率は少ない。
弓を構え、そして矢を放った。
降下する飛行船に直撃しようとした樽に当たると、空中で爆発して被害を免れた。
「流石は僕!」
そう言って次の矢を手に取るが、リュウは神殿側の船が入口付近に横付けされるのを見て出て来たタラップに向けて矢を放った。
リュウが魔力を込めて放った矢は、かけられようとしたタラップを貫いて破壊する。
「ハハハ、させないよ!」
リュウが次の矢を手に取ると、そこでポチも外に出てきた。周囲の様子を見ながら、ポチは自分の子供たちを率いて上を見上げた。
『なんだよ、お前一人で十分か』
やる気を見せない馬に変ってしまった友人を見ながら、リュウは矢を放った。
「ツックン、お願いだから協力してよ。でないとこの船が沈んじゃうよ」
リュウの放った矢が樽へと突き刺さって空中で爆発を起こす。着水する飛行船の震動で、リュウが屈んだ。そして、神殿への入口を見ると飛び降りるように次々と武装した連中が中へと入っていくのを見た。
「あいつら!」
急いで何とかするために矢を握ろうとすると、空から数名の剣士が降下してきた。鉄のお面をかぶり、充血した目をしていた。服はボロボロで、リュウと同じ年頃だ。リュウはその姿や雰囲気をどこかで見たと思いだし、そして呟く。
「まさか……」
矢を放つと数名――三人の剣士たちはリュウの矢を剣で弾いた。リュウの瞳は、彼らが勇者である事を見抜き、いや……独特の雰囲気、そして異常さを肌で感じた。
三人の剣士が甲板へと降り立つと、上空からは次々にお構いなしで樽を落としてきていた。
「味方ごと!」
弓を構えたリュウは、勇者たちと向かい合うのだった。
◇
総本山を飛び出し、黒いドラゴンと戦うセイレーンとラミア。
レッドドラゴンやワイヴァーンよりも一回り、二回り大きな黒いドラゴンの上には、魔人族の女性が乗っていた。周囲には剣が浮んでおり、ラミアの得意とする念力が使えるようだった。
黒いドラゴンを囲むように飛び回り、そうしてブレスで攻撃させるがまったく効いた様子がなかった。
「こいつ!」
セイレーンがレッドドラゴンの背中を蹴って空中へと飛び出すと、そのまま黒いドラゴンの背に飛び乗った。続いてラミアも降り立つ。ラミアの周囲には四本の槍が穂先を同じ魔人族の女性に向けていた。
そうした中で、セイレーンは女性を前に何故か懐かしい気持ちになった。
大剣を構え、女性に問う。
「貴様……誰かは知らないが、このまま死んで貰う。父の邪魔はさせない!」
そうして踏み込むと、宙に浮いていた剣がセイレーンへと回転しながら襲いかかってきた。
ラミアがそれを槍で防ぐが、力負けしているのか弾かれてしまう。
斬りかかったセイレーンの方は、相手の持つ剣に易々と渾身の一撃が防がれた。そして、女性が口を開く。
「……随分と大きくなったな、お前たち」
女性はそう言ってセイレーンが左手に持つ大盾を蹴り飛ばして距離を取る。女性は銀色の髪を風に流し、そして左手で髪をかき上げると言うのだ。
「ユア……それが私の名だ。そして、お前たちの母だ」
二人は少し驚くが、それだけだ。セイレーンもラミアも額に青筋を浮かべ、そして武器を手にして怒鳴りつける。
ラミアは言う。
「随分と上から目線で……人のことを捨てておいて、母だと? 私たちに母はいない。いるのは父だけだ。その邪魔をするなら……死ね!」
ラミアの魔法がユアを襲うが、回転する剣がそれらを防いだ。空中でレッドドラゴンとワイヴァーンを相手に戦う黒いドラゴンが身をよじると、セイレーンとラミアは身をかがめて耐える。
セイレーンは、ユアに向かって。
「随分と偉そうじゃないか。幼い私たちを捨てておいて」
二人はレオンが拾った孤児だった。力なく、死にそうだった自分たちを助けたのがレオンであり、そして育ててくれたのもレオンだ。
今更、母だと名乗る女性が出て来ても、感動するなど有り得ない。
ユアは少し目を細めつつ。
「魔王である貴方たちは、勇者の傍にいるのは不自然だ。だから、私たち――アゼルに協力して貰う。それが正しい判断。今も神殿で戦っているアゼルに――」
そう言うユアに、セイレーンとラミアは笑うのだった。
「それが黒幕か? 残念だったな……そのアゼルとか言う奴は神殿内部か! 神殿内部には父がいる。最強だ。最強の父に殺されておしまいだよ!」
挑発するセイレーンに、ユアが更に目を細めた。説得しようとしているらしいが、二人に効果などない。
ラミアは周囲に浮ぶ槍を操作して、ユアに穂先を向けた。
「今更名乗り出てきて、感動するとでも思ったのかな? それより、黒幕がいるなら父に知らせないといけないね」
セイレーンとラミア、魔王でありながらレオンに育てられ成長した二人は、母であるユアの説得に耳を貸さなかった。
ユアは言う。
「残念。でも、世界のために……私は貴方たちを討つ」
魔人族の女性三人。互いに向かい合って黒いドラゴンの上で戦闘を繰り広げるのだった。
◇
「くそっ!」
俺はアゼルとかいう魔王と向かい合っていた。周囲に見えない刃を作り出しているが、よく見れば揺らぎのようなものが見える。
集中して避ける、弾く、という行動をすれば問題なかった。
というか、扉の前で激しく抵抗されたがそれだけだ。突破して大広間に入り込めば、待ち構えていたアゼルとかいう魔王がペラペラと喋ってきた。
それを神殿長が遮り、攻撃を開始したので戦闘が始まった訳だが……。
俺に追い詰められる魔王を見て、俺は言う。
「お前、普通に弱くない?」
「ふざけるな! 俺は指揮官タイプなんだよ! お前みたいな武闘派とは違うんだ! こっちは最大戦力が戻ってこな――危なっ!」
ハルバードで斬りつけると、紙一重で魔王アゼルが避けていた。周囲では側近と思われる魔物たちが床に倒れている。ギルドの冒険者たちにより、倒されたのだ。
俺は呆れつつも、一応は訂正を入れる。
「俺も指揮官タイプだ」
「嘘吐け! それに、お前ら神殿の――」
アゼルは息を切らし、そして後ろを気にしている様子だった。俺に何かを言おうとすると――。
「魔王の言葉に耳を傾けてはなりません!」
神殿長の言葉で遮られる。所々でこうして割り込んでは、俺たちに会話をさせないつもりのようだ。何かを言いたいアゼルにしてみれば、神殿長が邪魔で仕方ないのだろう。
「早く止めを」
神殿長の言葉に、俺がハルバードを握り直した。睨み付けてくるアゼルは、俺の方を見ながら言うのだ。
「この勘違い野郎共が! お前らが邪魔しなければ――」
踏み込んできたアゼルに止めを刺したのは、エイミだった。大鎌でアゼルの見えない刃ごと斬り裂き、アゼルは地面に倒れ伏す。少し動いたかと思うと、神殿の関係者たちが念入りに止めを刺していた。
見ていて気分のいいものではないし、俺に何かを言いたそうにしていた。それに、勘違い野郎、とも。
いったいなにを言いたかったのか?
「さぁ、これで敵は倒しましたね。それでは、選ばれた者たちだけ奥へと進みます。勇者二人は念のためについてきて貰いますよ」
神殿長の言葉に、冒険者の代表であるエンテが困惑する。
「外で襲撃を受けています。できればレオン様には指揮を執って頂かないと」
神殿長はその意見を却下した。急に態度が大きくなってきた。やはり、神殿の関係者は駄目な奴ばかりだ。
「奥に魔王が残っているかも知れません。急いでください。それと、冒険者の方々は好きにして頂いて結構です」
扱いの差が酷いが、元から後方も気になるので俺はエンテたちを下がらせる事にした。
「エンテ、先に戻れ。大丈夫だとは思うが、皆をまとめて飛行船の護衛に向かえ。あ、リュウやポチが仕事をしているか見とけよ」
あいつら、すぐにサボろうとする。だから、エンテに戻るように言った。エンテは肩をすくめると「分かりました」と言って皆を集めて飛行船へ向かうことにしたようだ。
「お嬢、大丈夫ですか?」
エイミの方では、バスが心配していた。
「……大丈夫」
兜を脱いだエイミは、顔色が悪い。
「エイミも戻れ。顔色が悪いぞ」
すると、露骨に神殿長が介入してきた。こいつらやっぱり嫌いだ。
「なにを言うのですか! 大事な戦力をここで削るなど有り得ませんよ! 奥の間はすぐそこです。急ぎましょう」
今後は確実に距離を置いたお付き合いをすると心に決め、俺はエイミは俺が面倒を見るとバスに言って下がらせた。
すると、準備が整ったエンテは、俺の方に歩いてくる。
「レオン様、準備が出来ました」
「そうか……なら、終わらせてくるから先に戻れ。はぁ、もうこういうのは最後にしたいな」
「そうですね」
エンテが苦笑いをしていた。異世界に転生して戦い続けた日々にさよならしたい。というか、この世界――実は地獄というオチではないだろうか? 本当に色々と酷い世界だ。
エンテたちが戻る中、俺とエイミは奥の扉を目指すのだった。
◇
セイレーンとラミアは、ユアと黒いドラゴンの前に苦戦していた。
「この……消えろ!」
大盾を投げ捨て、大剣を両手で握りしめたセイレーンが、ユアに斬りかかった。ラミアは、ボロボロになった槍を握り、腹部を押さえてフラフラとなんとか立っている状況だった。
ユアも片腕を失い、セイレーンと斬り合ってはいるが限界に近いようだ。
黒いドラゴンは地面に倒れ伏し、その大きな口でワイヴァーンのアンナに噛みついていた。動かなくなったアンナ。レッドドラゴンのソフィーは、黒いドラゴンの首元に噛みついて肉を引きちぎり、そこに炎を叩き込んでいた。
ユアの大剣を弾き飛ばし、セイレーンが丸腰となったユアを斬ろうとすると後ろから剣が飛んできた。
ラミアがセイレーンを庇うために飛び出すが、飛んできた二本の内、一本しか防げない。
一本はセイレーンの背中に突き刺さるが、それでもセイレーンは大剣をユアに振り下ろした。息の根を止めるために剣を心臓に突き立てると、そのままセイレーンは振り返る。
倒れるラミアの表情は青く、そして自身に突き刺さった剣も臓器を傷つけていた。
「ラミア……」
「お姉ちゃん……ごめん。駄目みたい。父の事はお願い……ね」
そう言って目を閉じるラミア。セイレーンは、自身も急所に剣が突き刺さっているのに体が動くことに違和感を覚えた。
そして、持っている道具の中に、壊れてしまった聖剣の腕輪を見つける。お守り代わりに持っていたが、どうやら折れて使えなくなった聖剣は、少しばかり効果があったようだ。
セイレーンは、血を吐く。
(持っていれば傷も癒える。だが……)
目の前では妹が死にそうだった。そのため、セイレーンはラミアの元へ行くと腕輪を握らせるのだった。
「私はお姉ちゃんだから……ラミア、これはお前が使え」
腕輪の効果がラミアに発揮されると、セイレーンは倒れて意識が朦朧としていた。
そんな二人を守るようにソフィーが近付き、そして空に向かって咆吼するのだった。
はい、色々と終わりに向かいますね。
そんな感じで 脇役勇者は光り輝く は終盤な訳ですが書籍化決定です。もうイラストも見られるんじゃないのかな? 通販サイトとかで。
twitterで宣伝もしています。ウザいくらいしています。
タイトルも違うんですけど、中身も違う【脇役勇者は光り輝け】は、【9月1日】に発売です!
応援出来ない勇者一行の物語、というのを目指して頑張ってみました!