二年ぶりの更新だ
え~、色々と言いたい事もあると思いますが、脇役勇者は書籍化決定です!
9月1日発売します!
一隻の飛行船が、そこに降下し始める。
それはまるで山を山頂から縦にくり抜いた、天然の要塞であった。外から見ればただの険しい山なのだが、中は山を削ってちょっとした芸術品に仕上がっている。しかし、飛行船が何隻も降下するようには出来ていない。
レオンたちは、精鋭を乗せた飛行船を一隻だけ降下させる。他の飛行船は周辺の警戒をする事になる。
◇
「周辺に魔物がいる?」
溜息を吐きたい気分だった。
飛行船が降下し始めると、神殿長である男が直接報告に来た。
「えぇ、どうやら敵は周辺に潜んでいたようです。このままでは邪魔されかねません。飛行船を派遣して頂けないでしょうか?」
神殿長が言うには、敵が周辺で活発に動き出したと言う。しかし、俺はそんな報告を受けていない。増援、そして後方支援である部隊がいなくなるのは、嫌だった。感情的な面もあるが、こいつら注文が多過ぎる。
「場所は?」
「それならば、こちらから案内を出します」
「ふ~ん」
俺たちに寄生して、手柄を横取りしたいのは分かっている。この世界の神殿と呼ばれる組織は、腐りきっているからな。だが、そんな事を言っても始まらない。俺は早く仕事を終えて帰りたいのだ。
周囲も神殿長の言葉に不快感を示していた。
騎士に冒険者。度重なる神殿の暴挙を、身を持って経験してきた世代だ。そのため、神殿関係者に対する態度も冷たい。
俺は一隻を残す事にする。
「全部いなくなると困るんだよ。一隻は残して、後は周辺に派遣してやる。それから、これ以上の勝手な行動は止めてもらうぞ」
「……肝に銘じておきましょう」
神殿長になった青年は、表情を変える事はなかった。
「さて、そうなるとどうするかな」
俺は艦橋にいた主要メンバーの顔を見る。支援する部隊が減ったのだ。突撃する部隊を減らして、護衛を用意しないといけない。そんな時に、やる気に満ちたリュウに視線を向ける。
家族のためにと張り切るリュウは、自分の装備を念入りに確認していた。周りが神殿関係者を睨んでいる中で、相変わらずマイペースな奴である。
「……おい、リュウ子爵」
「なんですか!」
子爵と呼んでやると、嫌味なのに喜んで振り向く。こちらが悪い事をしている気分になるが、そんな事は関係ない。
「お前は留守番な」
俺がリュウに留守番――飛行船の護衛を言い渡すと、リュウは固まっていた。手柄を立てるつもりだったのだろう。しかし、魔物がいる場所に飛行船に護衛無しというのは不味い。
実力もある護衛が必要だ。本来なら、飛行船を上空に待機させて何かあれば投入するはずだったのだ。それが周辺に移動するとなると、心もとない。
「待って下さいよ! 俺だけ留守番って」
「いや、元々の留守番組にお前を合流させるから一人じゃない。良かったな、仲間がいて」
「いやいや、そう言う意味じゃなくて!」
リュウの言いたい事も理解できるのだが、どうでも良かった。俺は適当にリュウを言い包める事にする。降下した飛行船が、徐々に目的地に近付いているのだ。周囲も準備のために艦橋から出て行く。
セイレーンにラミアは、自分が突撃部隊から外されなかったので、関係ないように出て行った。エンテも冒険者の指揮のために出て行く。すると、船員と神殿関係者が残るだけとなる。
(エイミの奴、結局こなかったな)
俺はエイミが艦橋に来なかった事を思う。この仕事が終わったら、真剣に話し合っても良いかも知れない。最近は相手をしてやれなかった。いや、忙しくて、それを理由に逃げていた。
シシオが来て色々あったから――。
「リュウ、大事な飛行船の護衛に、頼りになるお前が必要なんだ。お前しかいない! やってくれるか?」
そうやって真顔で俺が言えば、リュウもその気になったようだ。
「フッ、任せて下さいよ、レオンさん!」
「やってくれるのか! (こいつ本当にチョロイな)」
俺は内心で笑うと、自分の準備もあるので環境から出る。すると、神殿の総本山から魔物が姿を現した。
「レオン様、敵が姿を現しました」
「セイレーンとラミアに対処させろ」
飛行船のハッチが開くと、そこからオスなのにソフィーにアンナと名付けられたレッドドラゴンとワイヴァーンが飛び出す。背にはセイレーンとラミアが、鎧姿で騎乗していた。
狭い場所で戦う二人は、神殿内から飛び出してきた空を飛ぶ魔物たちを次々に駆逐していく。飛行船を護衛しながら戦う姿は、実に頼もしい。
そうして飛行船は神殿の入り口付近に到着すると、アンカーを打ち込んで船体を固定した。
「そろそろ行くか」
ゲームの勇者みたいに、少数精鋭で乗り込む。まぁ、数は違うが。
こちらは五百を超える精鋭が攻め込むのだ。そして、神殿の中を知り尽くす神官たちが道案内をするのである。
本当なら、後続部隊も降下させるので、三千は優に超える数を投入できたのだ。それを神殿側の要望を聞いてこの様である。総本山である神殿に、どれだけの魔物の数がいるのか分からないが、話を聞く限りでは収容できる数にも限界があるらしい。
しかし、想像していたよりも広いのは確かである。まさか、山をくり抜いたような場所に、そうした神殿があるとは思わなかった。
「総本山にある大広間の奥。最奥の間を最優先で取り戻して下さい」
青年が環境を出る俺の後ろについてくると、最奥の間とやらを取り戻せと言ってくる。俺は分かったと言いながら、現場次第だと内心で思っていた。いくら大事でも、そこに立てこもられたら、手も足も出ない。
それなら周辺から押さえてもいいだろう。というか、お前らだけでやれと言いたかった。
◇
飛行船から神殿へとかけられたのは、乗船用のタラップを無理やり設置した物だ。タラップを降りてみれば、思わずにはいられない。
「なんか、ラストバトル的な雰囲気だな」
「何ですか、ソレ?」
バスがエイミと共の俺の護衛についている。そして、先に突入したエンテたちは、次々に神殿内を占拠していた。
「いや、雰囲気だけは凄いなって事だよ。それにしても、頑張り過ぎじゃないのか?」
神殿内を破竹の勢いで突き進む自軍に、少しだけ怖くなった。
「こんな奴ら、俺たちの手にかかれば簡単ですよ!」
バスが陽気に答えるが、エイミはどこか元気がない。俺がエイミを見ると、兜をかぶって表情が見えないようにしてしまう。本当に何かしてしまったのかも知れない。最近だとシシオの事だが、それ以外にも身に覚えがあり過ぎて特定できなかった。
気がかりだったが、今は最後の大仕事を終わらせようと俺は仕事に取りかかる。
「さて、それじゃあ行くとしますか」
俺たちも神殿内へと突入する。俺の場合、神殿関係者の護衛もあって、青年たちと一緒に行動することになっていた。
その中には、ミーナさんの姿も見えた。俺に何か言いたそうにしているが、俺は先に仕事を済ませることにする。ミーナさんが俺に伸ばした腕を、俺が視線を外すと引いて俯いた。
バスや冒険者を先頭に、俺たちは制圧の進む総本山内を歩いて行く。魔物の死体が転がり、怪我をした冒険者たちが治療を受けている光景が見えた。
急かす神殿関係者。
俺たちはそうやって総本山、大広間の奥へと進んでいくのだった。
◇
レッドドラゴンに乗るセイレーンは、周囲の警戒をしていた。武具に身を包み、同じようにワイヴァーンに乗って周囲を警戒しているラミアと飛行船を守るように狭い山をくりぬいたような場所を飛んでいた。
「……嫌な感じだ」
セイレーンがそう呟き、周囲を警戒していると肌にピリピリとした感覚が襲ってきた。
空を見上げると、黒い点のようなものがこちらへと近付いてくる。
「ラミア!」
叫ぶと同時に、妹のラミアも行動に出ていた。飛行船ではなく、自分たちを狙って放たれたブレスを避けた。
真上から放たれたブレスは、レッドドラゴンやワイヴァーンのものとも違う。魔力が濃密度で、更には自分たちを飲み込んでしまいそうな大きさだったのだ。
「こいつ……いや、まだいる!」
大きな黒いドラゴンが真上からこちらに向かってくる。その頭部には、自分たちと同じようにドラゴンに騎乗している人の姿をしたなにかがいた。
「外にでる! ここで戦えば飛行船まで巻き込むか――」
セイレーンがそう言おうとすると、ブレスの二撃目が飛んでくるのだった。避けながらレッドドラゴンも舞い上がり上へと飛んだ。
その後ろにワイヴァーンが続くと、黒いドラゴンとすれ違うのだった。直後、二人は自分たちと同じ魔人族の女性が黒いドラゴンに騎乗しているのを見た。
黒いドラゴンは、飛行船には目もくれないで二人を追いかけてくるのだった。
セイレーンは、その女性を見てなぜか酷く懐かしい気持ちになるのだった。
◇
外の様子が落ち着くと、大きな爆発音の正体が部下から報告された。
「黒いドラゴン? セイレーンとラミアが外に連れ出したか……先にそっちに向かいたいんだが? 俺、必要ないよね」
青年にそう言って引き返そうとするのだが、神殿関係者を含めて誰もが反対する。激しく魔物たちが抵抗する向こう――総本山の大広間の扉が見えていたのだ。
「ここで引き返すなど有り得ません! すぐに大広間の奪還をお願いしたい!」
目の血走った青年――。
「飛行船が落とされたら戻れないだろうが」
だが、よく考えるとドラゴン退治――俺では無理な気がしてきた。駄馬に乗って空を飛んだとしても、攻撃する手段がない。戦力的にも分散しており、飛行船一隻では心許なかった。
(先に終わらせるべきだな)
俺は溜息を吐き、大広間の奪還を済ませてからセイレーンやラミアの下へと向かうことにしたのだった。
「……はぁ。早く済ませて救援に向かうぞ。あの二人なら簡単にやられはしないだろうからな」
思い出せば、室内だからと駄馬も飛行船に残していた。リュウもいるし、なんとかするだろうと思って俺は目の前の扉を見るのだった。
◇
飛行船内。
ポチは地団駄を踏んでいた。思っていたよりも活躍出来る場所がなく、しかも周囲では息子たちがゲラゲラ笑っているのだ。腹も立っていた。
『ちくしょう! 俺の活躍の場がないじゃないか! 俺は活躍したいんだ! そして栄光を取り戻すんだ!』
ポチの声に、周囲の息子たちは大笑いをする。
『過去の栄光にいつまですがるつもりだ、爺!』
『もう、世代交代の時間です~』
『悔しいの? ねぇ、悔しいの?』
『どんな気持ちか教えてよ~!』
『お前ら、ぶっ殺してやる! 表に出ろ!』
そんな五月蝿い飛行船内で、リュウは自慢の弓を磨きながらその光景を見て一言。
「醜い。凄く醜いよ、ツックン。もう落ち着く時期だよ。もう止めようよ。見ていて悲しくなるよ!」
ポチはかつて転生者が、欲張りすぎて馬にされてしまった姿だ。だが、馬として生まれ、馬として欲望を弾けさせた存在になってしまった。
かつては、転生前にリュウと友達だった。そんな友達が、醜い願いと息子たちを前に暴れ回る姿は、同じ親として見ていられなかったのだ。
『黙ってろ! ここで俺はこいつらと格の違いを――』
その瞬間。船内は揺れ、傾き始めた。リュウは近くにあった柱に掴まり、周囲を確認するが、黒いドラゴンが戻ってきた様子はなかった。
だが、空には飛行船――海に浮ぶ船の形をした、旧式の飛行船が次々に降下してきていたのだ。
しかも、何か樽のようなものを落としている。そして、樽が爆発するのをリュウは見た。
「な、なんだよ! いったいなにが――」
リュウが困惑していると、ポチがやる気を見せた。
『俺様の出番が来たな! おら、下僕! 一緒に外に行くぞ! ドラゴンは駄目でも、人間の作った船の一つや二つ、俺様が落としてやらぁぁぁ!!』
ドラゴンの時には大人しくしており、それなのに勝てる相手となると元気を出すポチを見て、リュウは左手で顔を覆うのだった。
「ツックン……最低だよ」
◇
周辺の警戒に出ていた飛行船の一隻が、総本山に戻ってきていた。
飛行船の外に出たのは、アステアから派遣された赤竜騎士団だった。副団長である【テオ・ルセルド】は、その光景を見て身を乗り出していた。
「あれは……神殿の飛行船? どうしてこんなところに!」
レオンとの出会いから、騎士として一から鍛え直されていたテオ。彼は、今では副団長にまで上り詰めていたのだ。かつては味方殺しとまで言われた青年は、今では立派に成長していた。
今回の派遣でも、アステア側の指揮を任せられているほどだ。次の騎士団長も確実視されており、周囲からも尊敬される騎士になっていた。
そんなテオが総本山に降下する飛行船を見て、すぐに何かを落としているのに気が付いた。魔法で遠見を使用すると、樽を落として爆発しているところが見えたのだ。
「あいつら、レオンたちを殺すつもり……裏切ったのか!」
近くで控えている若い騎士に、テオは言う。テオの副官を任せている少女は、テオが面倒を見てきた部下の一人だった。
「おい、すぐに知らせろ! 神殿が裏切りやがった!」
副官である騎士にそう言って、テオは背中を見せた。神殿側の戦力を確認するためだったのだが、次の瞬間には腰のあたりに激しい痛みを感じた。
鎧の隙間を狙い、チェーンメイルを貫いて深々と剣が突き刺さっていたのだ。振り返ると、そこには信用していた部下である少女の姿があった。
「お、お前……まさか、神殿の」
神殿側の回し者、そう思ったテオから剣が引き抜かれた。丁寧に体の中をかき回され、死亡するのは確実だった。
震える少女は、テオを見ながら不気味に笑っていた。
「違いますよ。忘れたんですか? 貴方が殺した騎士には、幼い娘がいたんです。名前を変えて騎士になったんですよ。なのに……酷いじゃないですか。父を殺した癖に改心して、周りに認められて……私、本当にテオさんの事が好きになりそうだった。でも、許せませんよね? 父を殺したのに、貴方は尊敬されて父のことはなかった事にされるなんて……だから、一緒に死んでください」
可愛がった部下だった。物覚えもよく、笑顔で一生懸命だった。そんな部下が、自分がかつて殺した味方である騎士の娘だったのだ。
少女は剣を自分の首筋に当てて剣を引く。血が噴き出し、誰もいない飛行船の甲板の上でテオに倒れ込んだ。
「ほら、テオさん……これでずっと一緒ですよ」
テオは少女を抱きしめると、口から血を吐きだした。自分が改心する前に起こした出来事……その代償を、今になって支払う事になった。
テオは手すりに掴まると、ゆっくりと少女を寝かせて立ち上がる。血が噴き出し、床は血だらけだった。
「お前、もう少しだけ待てよ。レオンが危ないじゃないか……ちゃんと、お礼を言って……」
転生者の一人だったテオは、最強の剣と魔法の才能を貰って転生していた。一時期、自惚れており、それが災いして味方を殺してしまったのだ。事故だった。
だが、レオンと出会って改心した。だから、今の姿をレオンに見て欲しかったのだ。はるか先に行ってしまった友人に、立ち直った自分を――。
「む、虫が良すぎた訳だ。まったく……俺は、どうしてこんなに」
飛行船が警報を鳴らしており、どうやら総本山に突入する神殿側の飛行船を見つけたようだ。
テオは、血を吐き出しながら右手を掲げた。
「……悪い、今はこれが精一杯だ」
そう呟いて、テオは遠くに見える飛行船に魔法を放つのだった。遠くで大きな火球が飛行船を飲み込み、持っていた火薬に引火したのか大爆発を起こす。
一隻が総本山に突入する前に燃え上がり、山へと激突するところを見てテオは倒れ込むのだった。
「あぁ、俺……ここで終わりだわ。本当に……情けないな」
かつてレオンと共に転生した三人組みの大学生たちは、全員が命を落としたのだった。
この度、【脇役勇者は光り輝け】が書籍化することになりました。Web版は光り輝くでしたが、書籍版は光り輝けという感じです。
全部書き直しております。書き直しというか、別物です。
主人公がいて駄馬がいて、リュウがいて……そこに神官の女性が加わり、旅をする物語です。
ここまで聞くと王道かな? って思いますね。
でも、コンセプトというか、いくつかあった帯の目を引くような文言は。
『勇者が屑ならみんな屑!』
みたいな奴でした。没になりましたけどね。そう、みんな酷いです。こいつらに世界が救えるのか? そんな連中の旅を主人公レオンの視点で楽しんで貰えれば幸いです。
過去には噂もあったんですけどね。時間がかかって大変申し訳ないです。
twitterでも宣伝していますが、イラストがとてもいいです。もう、頑張って貰いました。それなのに、待たせてしまった本当に申し訳ない気持ちで一杯です。
手にとって貰えれば幸いです。