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最後の分岐は……

 隣国の領地を無事に解放したレオンたち。だが、魔物によって荒らされた土地を、使えるようにするには時間がかかる。それから税を取れるようになるまでは自腹で内政を行わないといけない。それはまさに、開拓といっていいほどだった。


 そんなレオンたちの所へ、一隻の神殿が保有する飛行船が到着した。


「総本山を取り戻せ? 何いってんのお前ら? 今の状況で、そんな余裕はこっちには無いんだよ」


 今では若き神殿長となった青年が、レオンの所に来るなり頭を下げて願い出る。その内容は、神殿の総本山を魔王軍から奪還して欲しいという物だ。ここまで青年たちが慌てているのには理由がある。神託の魔法にて、総本山に魔王軍が来たと知らせが入ったのだ。


 そして悪い事に、魔王の一人が装置の扱い方を心得ている。そんな情報を聞いたら、急がずにはいられなかったのだ。


「これは緊急事態です。流石に我々も無礼であると理解はしていますが、魔王が総本山にいるという事は、世界の破滅を意味するんです」


「破滅?」


 レオンはその時に、自分たちが送られてきた目的を思い出す。世界を救う、これは単純に魔物を倒せばいいと理解していたレオンにとって、それは聞き捨てならない情報だった。


「神殿の総本山は二つあります。表向きの神殿と、聖地である遺跡の両方が総本山といわれています。しかし、今回はその遺跡が占領されているのですよ! このままでは、遺跡にある『封印』が……」


 青年は封印などという言葉を使ったが、これは嘘である。本当は、世界を操る事が出来る装置がそこに収められているのだ。神殿が二百年という時を使っても、あまり使いこなせていなかったその装置。それを使える魔王がいるなら大変だ。自分たちの地位が脅かされるばかりか、人間が滅ぼされる。


 そう思った青年は、封印と称して説明を続けた。


「すでにアルトリアの王妃様からも了承を得ています。事は一刻を争うのです! 神殿が今まで封印していた遺跡に何かあれば、世界が終わってしまいます」


「……少し時間がかかるぞ。戦力は出払っている上に、集められる戦力も少ないからな」


 レオンは頭の中で計算すると、あまりにも時間をかけていられない事を告げる。そして、時間を優先すれば集まる数は少ない事も伝えた。


「構いません。急いで魔王を止めなければ、世界が滅びます」


 青年の言葉にレオンは、バーンズを呼び出してこれからの対応を考える事にした。そして青年と別れる。青年や神殿の関係者たちは、レオンがいなくなると行動を開始した。前もって準備はしてきたが、急な事で作戦に大幅な変更があるのだ。


『レオン暗殺計画』


 遺跡を取り返すと同時に、青年たちはレオンたちを葬る計画を進めていた。



『憎いだろう? 悔しいだろう? あの場所はお前の物であるべきなのに、レオンの隣にお前は……』


「……ッ」


 エイミは自分に宛がわれた部屋で飛び起きる。最近は見る事のなかったあの夢が、ここにきて頻繁に見るようになったのだ。窓の外を見れば夜明け前で、一番暗く感じる時間帯だった。荒くなった息を整え、汗を拭いてベッドから出ると服を着替える。


「……私はいったいどうしたら」


 レオンとの距離は、家族という領域を出ないままである。年齢も出会った頃は幼くも、今では結婚していてもおかしくない年齢だ。少し焦っているのだろうか? そんな事を考えるエイミ。


「どの道、今回の遺跡で魔王軍と戦えばしばらく動けない。リィーネもエリアーヌもいない今がチャンスかな」


 急な遺跡奪還の任を受けたレオンは、数日の内に準備を済ませ用意を整えていた。そして少なくとも精鋭たるギルドメンバーを先遣隊として送り込む用意を整えたのだ。


 戦力を分散する事に関しては、レオンは納得しなかった。だが、神殿側が急かすのだ。結局先遣隊を送り込んだ後に、本隊を投入する事になった。神殿側が遺跡の抜け道を教えたため、それを利用した作戦が行われようとしていたのだ。


「レオン様も、今回の先遣隊以降は前線に出なくなる。やっぱり最後かな……」


 バーンズの猛反対もあったのだが、レオンが先遣隊を指揮する事が決定した。そして、今後は前線に出ないという事を約束したのだ。その裏には、今回の戦いを終えたら、レオンは世界を救うという目的を果たせると感じていたからだ。早く終わらせてのんびりした。それがレオンの本音である。


 エイミはこの作戦後に、レオンに自分の気持ちをしっかりと伝えようと決意した。



 双子の姉妹、セイレーンとラミアは魔人族の魔王である。そんな二人には、人間の倍の寿命があるのだ。そんな二人の悩みは、レオンの寿命であった。人間は長く生きられない。


「姉さん、もう色々と忙しくなるから、これが最後かもね」


 ラミアは城の最上階から見える景色を見ていた。もうすぐ日が昇ろうとしている景色を姉であるセイレーンと見ているのだ。そんな二人の近くには、ドラゴンとワイヴァーンが屋根に登って控えていた。


「そうね。このままだと時間が無いわ。父は最強でも人間だから」


 今回の遺跡への先遣隊には、魔人族の騎士団は投入しない。本隊として後から来る事になっている。しかし、二人はレオンと共に先遣隊に参加する事を決めていた。それはエイミと同じように、戦場を駆ける事はもう無いと感じているからだ。


 レオンのように、若い頃から負け知らずで突き進んできた将軍というのは貴重である。味方にいれば士気が上がり、戦いが有利になる。逆に、負けると士気はがた落ちする。英雄といえるレオンの死は、国内の不安につながると国も貴族も考えていたのだ。


 そんなレオンが戦場に出れる機会も最後だろう……二人もそれは理解していた。



 神殿側も協力するために、船型の飛行船を用意していた。二隻の飛行船には、神殿騎士や神官たちが乗り込んで、新しい神殿長の命令を待っている。その中に、ミーナの姿もあった。


 聖剣に関わってから、ミーナは神殿という組織の裏の顔を知ってしまった。そして、今回の遺跡の奪取の目的も知ってしまっている。レオンに知らせようとすれば、自分の命が無い事を理解していた。だから、素直に従うふりをして参加しているのだ。


 青年やその周りも、一応は警戒しているのかレオンに会わせようとしない。それでもミーナの参加を認めたのは、神殿という組織の弱体化が原因だ。優秀な神官や神殿騎士は元から少ないのだが、ここ最近は民衆の神殿離れが酷かった。


 収入は減り、関係者も神殿を裏切り始めている。そんな状況で、人を確保する必要があったためにミーナは生かされている状況だ。


「せめて、せめて伝えないと……そうすれば、レオンさんが何とかしてくれる」


 それを信じて事実を伝えようとするミーナ。神殿という組織が、レオンの命を狙っている。レオンなら神殿側を返り討ちにする事も想像したミーナだが、遺跡では神殿関係者が有利だと思った。そこに追い込む神殿側の対応を見て、不安に思うミーナ。


「……もしも間に合わなくても」


 ミーナは間に合わずに、レオンが危機的状況になった時の事も考えていた。最後の手段だが、これを使うのは少しばかり避けたいミーナ。その理由は大した物ではないが、ミーナどうしても謝りたかった。


 多くの神殿関係者が乗る船の中で、ミーナは不安を押し殺す。



 急いで準備はしたけどさ……この数の少なさは危険だと思うんだ。ギルドメンバーといつものメンバーだけで魔王のいる遺跡に攻め込むとか、非常識だろ? ゲームではそれこそ少数精鋭で乗り込むのが王道だけどさ、考えても見てくれ……絶対に数で押し切られるって!


『魔王だ! 魔王を倒せば俺の時代が戻ってくる! きっと魔王を踏み殺して、また俺の、俺だけのハーレムを築いて見せる!!!』


 テンションの高い駄馬は、自分の息子がハーレムに手を出したので怒り爆発だった。世代交代……そんな言葉をいおうものなら、もれなく駄馬に蹴られるくらいに追い詰められている。


「ついに、ついに来ましたねレオンさん! これで俺も勇者の仲間として国では英雄! メッサやメイの自慢のお父さんですよ」


 メイド狂いの馬鹿リュウは、自分も勇者だという事を忘れているのではないだろうか? あぁ、そうだった……


「それよりもお前、帰るまでに苗字を決めとけよ。リィーネの奴も何だかんだといってエリーサさんを頼りにしてるから、お前にも領地を与えてメッサのためにも爵位を正式に与えるってさ」


「……? あ、あれ、俺ってもう貴族じゃ無かったんですか!」


「お前が苗字を決めないから、そのまま保留になってたんだよ! メッサもエリーサさんも、お前に遠慮して苗字の事には口を出してないだけだ」


 その事を聞くと、急に肩を落とすリュウ……流石に面白がって教えなかったのに気付いたか? そう思っていたら、こいつの馬鹿さ加減を甘く見ていた。


「よし! 帰ったらみんなで考えます!」


「帰る前に決めろっていっただろうが!!! お前の頭の横についてる耳は飾りか? それとも中身が無いのか? どっちかはっきりしろ屑野郎!」


「俺ばかりに当たらないで下さいよレオンさん。隠し子がばれて、娘にお見送りされなかった事を悲しむ気持ちは分かりますけど! 俺なんか夜なべして作った、子供用のメイド服を着たメイにお見送りされましたけどねぇぇぇ!!!」


 こいつ、本気で殺してやろうか! 確かに、シシオはいい子だった。だがそのせいで、俺の悪行が目立ってしょうがなかったのだ。事ある事に「シシオは父上みたいにならないでね!」「シシオは夜遊びしないよね?」そんなに子供のシシオと比べなくてもいいだろう!


 俺だって子供時は真面目だったさ! 父や母が勘違いするから、凄く真面目でいい子だって周りが勘違いしてたんだ! 少しくらい褒めてもいいだろうに……


「娘に発情した馬鹿は置いておくとして、さっさと遺跡を取り返すぞ。一度領地に戻るように手紙が来てたしな」


「さっらと馬鹿にしましたねレオンさん。でも、リィーネさんの尻に敷かれている姿が板についてきましたね」


 ……恐ろしい事をいうな! 俺は亭主関白だ!



 飛行船の船内で、俺はギルドメンバーや神殿長になった暗殺者と話し合いをしている。遺跡は見つけにくい所にあるばかりか、飛行船では侵入の難しい谷にあるらしいのだ。


「このタイプの飛行船ですと、侵入できても一隻ですね。我々の船も同行しますから、他の飛行船は上空で待機か、遺跡の外にいる魔物の相手をして貰う形になります」


 神殿長が説明してくるが、実際にその谷を見ていないから想像するしかない。神殿側が内部に侵入する事は想定外だったが、まぁ自分たちの聖地みたいな物だから張り切っているのだろう、そう思う事にした。


「レオン様、神殿側の戦力はギルドは把握していません。これでは突入しても連携が取れませんが……」


 エンテが神殿長を横目で見ながら俺に発言してくる。色々と急ぎ過ぎたから、段取りや連絡手段が曖昧なままなのだ。ギルドのやり方に神殿側が難色を示して従わない、といった感じだ。


「問題ありません。遺跡の内部は我々が知り尽くしています。ギルドの方々は戦闘面で協力して貰えるだけで十分だと判断します」


 う~ん、何か怪しいというか考えが甘いというか……これはもしもの事を考えて行動するかな。俺はそう考えて、神殿長の説明を聞く事にした。

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