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愚かなる転生者達へ

 シシオを見送ると、今度は俺たちが見送られる番である。大量の物資と建造した飛行船を率いての魔王領に喧嘩を売るという愚行を行うのだ。俺でなくてもいいと思うが、嫁が決めた事なので仕方がない。最近は色々と諦めてきているが、隠し子が発覚してから俺の立場が悪い。


 娘たちに高評価のシシオのおかげか、娘たちから冷たい目を向けられる事は無かったが、時々ピンクの魔王がいうんだよ。


「今度男の子が産まれたら……き、とっちゃ、ましょう」


 最後が聞き取れなかったけど、大体の内容は理解できた。今度も女の子が誕生する事を毎日祈っている。


 そういえば、シシオが来た時にジョンがいっていたように駄馬共がどこかに逃げ出していたけど、無事に戻ってきた。足をガクブルさせて怯えながら戻ってきたよあの馬鹿共。


『お前の方が馬鹿だからな! 大体、ピンクの事をもっと理解しろ! お、俺は、あいつだけには絶対に勝てる気がしない』


 白いのか青いのか分からない顔色の駄馬を見ながら、俺は溜息を吐く。逃げ出した駄馬共の様子は明らかにおかしい。それにマザコンのペガサスが問題だ。


『あ、あの糞馬! 僕のママに、ママに!!!』


 何があったのかは大体理解できるが、そんなドロドロとした駄馬共の関係など、どうでもいい。もうすぐ準備も終わるので、そうすると俺は敵国に攻め込む総大将だ。本当に誰か代わって欲しいい。


「レオンさん! 聞いて下さいよ。今日、僕の娘が、僕の為に! メッサのメイド服を着てくれたんです! メッサは怒りましたけど、僕はこれで理解しました。これが本当のご奉仕、心が大事だって気付いたんです」


 リュウの馬鹿も、今では親ばか状態だ。こうやって時々自慢しにくるこいつを、俺は貶している。


「ようやく気付いたか、それならお前はその心から腐っている事にも気付けよ。大体、娘のメイド服姿に欲情するとか考えられんわ」


「メイドをそんな汚れた感情で見るもんか! お前の方が汚れてるだろうが! ブギャァ!」


 文句をいうリュウを殴ると、俺はそのまま周りを見て肩を落とした。


「何で俺の周りは馬鹿ばかりなんだ……」


『お前がいうのかよ!』

「ふ、ふん。鏡見て喋って下さいよ」



 魔王アゼル、彼は多くの魔王を従えた魔王軍のトップである。そんなアゼルも転生者であるが、彼は何故か魔王側に誕生したのだ。人間であるのに魔王側に参加したアゼルが望んだのは、情報というこの世界の知識。彼は何を知って、どうしてこのような行動に出たかは彼だけしか知らない。


「……動き出したか」


 側近であるフードをかぶった男の報告を受けると、アゼルは溜息を吐いた。ようやく見つかった神殿の総本山では、調査に時間がかかっていたのだ。魔族に繊細な作業は適していない、そう理解したアゼル。彼は魔王軍でも恐れられるレオンが、準備を済ませて攻勢に出るという報告を受けたのだ。


「どうされるおつもりで?」


「後退する。そのまま総本山を拠点として、レオンを迎え撃てば簡単に勝てるからな」


「神殿の総本山はそこまで凄いのですか?」


 側近の男の質問に、アゼルは笑いながら答えた。


「あぁ、それこそ勇者や、俺たち魔王を超えた存在だ。勇者や魔王が溢れたこの世界は、元はそいつの暴走が原因だからな……」


 アゼルが思い出すのは、自分と他二人が同時に転生した時の事だ。あの時の『声』に頼んだ能力で知り得た事は、全ての原因が総本山にあるという事だ。神殿という宗教には興味の無いアゼル。それよりも、神殿をそれだけの組織にした総本山と呼ばれる施設にこそ興味があるのだ。


「ユアにも準備をさせろ。娘だか知らないが、一族を根こそぎ奪われやがって……それにしても、向こうに魔王が加わっているのは誤算だったな。しかも貴重な魔人族を、だ」


 アゼルが指示を出すと、側近はそのままアゼルの部屋から出ていく。残されたアゼルは、ただ一人レオンに怯えていた。どんな魔王も倒してしまい、転生の原因を作った勇者すら倒したレオン。そう思い込んでいたのだ。


「もうすぐだ、もうすぐ全部終わるんだ。俺が世界を手に入れる」


 魔王軍が後退をするのに合わせて、レオンたちも進軍を開始していた。



 おかしくね? 魔王領に侵攻したら、敵が少なかった。もう、雑魚ばかりが現れるだけで、魔王なんか出てこなかったよ。自分の領地から軍隊率いて進軍したら、元隣国の城まで問題なく到着。そのまま飛行船の発着場を仮設して今は城の点検をしている。


「見事にボロボロだな。これは時間がかかりそうだ」


 ゴミだらけの城を歩くと、魔王軍の慌てぶりが分かった。食べ物は残っているし、魔物が使う武器まで残っていたのだ。そんなものを残されても使いようが無いのだが……それよりも、先に潜入したギルドメンバーの話を聞いて驚いた。


 なんでも敵は俺たちの侵攻に合わせて撤退したんだと! 本当に何してるんだ敵さんは?


「確かに汚いが、掃除をすれば使えるようになりますな。ここを拠点にして魔物の討伐にかかりましょう総司令」


 バーンズの爺さんの言葉に頷くと、そのまま工作兵がこれからの段取りを話し出した。説明してくるが、素人の俺には理解できないからここは爺さんに任せる事にする。


「敵本陣とはいきませんが、ここも重要拠点には違いない。これで女狐も文句はいえませんな」


 相変わらず仲が悪いよねバーンズに爺さんと王妃様は。


「このまま大丈夫なら、飛行船を定期的に航行させるかな。向こうには故郷であるここから逃げてきた連中も多いし、移住も進めてもいい。兎に角、このまま終わって欲しいよ」


「何をいいますか! このまま旧オセーン領まで進軍しなければ、奥方も悲しみますぞ。時間はかかろうとも、オセーン進軍は実行すべきです」


「いや、まぁそうだけどさ」


 確かにオセーンまで侵攻しないと、魔王軍を討ち取れない。このまま逃げてるだけとも思えないが、ここは一度様子を見たい所だな。逃げてるふりして、罠を仕掛けられても面白くない。この辺りもしっかりと調べないといけないからな。


「取りあえずはここを使えるようにしてからだね」


 領土を得るという事は、貴族にとって重要だ。ただ広いだけでは意味は無い。それにここいらの土地は結構前から荒れている。魔物は溢れている状態だったし、人が住んでも厳しい環境だろう。だが、今では飛行船という輸送手段がある。


 前よりは色々とやり易くなると信じて頑張るか。



 レオンたちが順調に進軍していた頃、アゼルは総本山という『遺跡』にたどり着いていた。全ての始まりにして、自分たちを呼び出した原因がそこにあるのだ。側近やユアを引き連れて、遺跡を歩くアゼルは、神殿が装飾下であろう絨毯の敷かれた廊下を歩いていた。


「凄い贅沢な作りだな。まぁ、二百年もいたなら当然だな。それだけあいつらが好き勝手にしてきた証拠でもあるし」


「……」


「あ、アゼル様! これを人間たちが作り出したのですか!」


 ユアは黙って廊下を歩くが、側近は廊下から見える景色や扉の開いている部屋を見て驚いている。全てが自動で動いている。それは、アゼルの知る現代世界の文明すら超えていたのだ。


「あぁ、ちょっと違うな。これを手入れしていたのは人間だが、作り出したのは魔人族だ。ユア、お前たちのご先祖様だよ」


「……」


 黙っているユアだが、その瞳は見開かれていた。そしてアゼルは説明を続ける。


「魔王も勇者もシステムなのさ。ここを作り出した魔人族は、その高度な文明を維持する方法を考えていた。その結論が、世代交代だったんだ。長い歴史で腐敗する政治を無くそうと足掻いた結果、自分たちが滅びたのさ。それも見下していた人間の手でな」


 アゼルはこの世界に来てから、誰にも話していない事実を語り始める。


「高度になり過ぎて、この世界を存在させるためだけに、魔力を他の世界から吸い上げる装置まで作り出したんだぜ。本当に自分勝手な連中だよ。その他の世界というのが【地球】さ。魔力を吸い上げられた地球には、魔力が存在しない。正確には吸い上げられ続けている」


「その話と、滅んだこの文明に何の繋がりが?」


 側近は、早く真実が知りたいとアゼルを急かす。アゼルはまぁまぁ、といって側近を焦らしていたが、ユアまでも無言で睨んだために話を続けた。


「地球だけじゃない、他の世界にも繋がっているんだが……そこに来て、ここ二百年で相当な魔力を消費し始めたんだよ。そう、バーゲストとかいう勇者がここを見つけたんだ。そこからバーゲストはシステムを無視してやりたい放題! だから俺たちがこの世界へと送り込まれた」


「ま、まさかアゼル様がその地球とかいう……」


「そうそう! その地球から連れてこられたんだよ。でな、なんで送り込まれたか、というと……この世界が限界にきているからだ。吸い過ぎた魔力が上手く循環していない。許容量はとっくにオーバーしていたのさ。だから俺たちはこの世界を破壊するために送り込まれた。もっというと、人間の世界を壊すためだな」


 アゼルの真実に、側近はアゼルが自分たちを複数であるかのようにいう事に気が付いた。


「アゼル様以外にも、魔王様にはそのような方々が?」


「魔王軍には俺だけだ。すでに敵として倒した連中もいるな。問題はそこなんだよ……俺と一緒に来た二人は知らないが、先に来た四人は魔物を倒す事で世界を救えると『勘違い』しているんだよ。本当ならこっち側で戦わないといけないというのにさ」


 アゼルは情報という能力を持っている。それは、この世界の事実を知っているという事だ。この世界の歴史を知っているアゼルは、最初から人間が魔物に属している事を知っていたのだ。


「だが、ここまで来ればもうすぐだ。レオンがここに気付いても、もう全てが終わった後になる。俺たちがここの装置を使って力を得れば、レオンなんか恐れなくていい!」


 アゼルの言葉に、ユアはレオンに殺されたワイヴァーンを思い出していた。仇を取る事を誓ったユアは、レオンが憎かった。しかし、それ以上に自分の娘である双子を育てたレオンに複雑な感情を抱くようになる。


「世界を救え! これをいった全ての元凶に、ご対面と行こうじゃないか」


 アゼルたちは、そうして目的地へと到着する。複雑な遺跡の中を歩いて、一番豪華な扉の前に到着していた。扉を開けて中に入ると、アゼルすら懐かしいと思う声がその部屋に響いた。ただ、アゼルの抱いた感情は憎しみや復讐に近い物だ。


『やぁ、久しぶりだね。僕は君を見てたけど、君はあの部屋依頼だものね』


 軽い口調で喋りかけてくる『声』。それはレオンたちを、この世界に送り出した存在だった。そう、神の正体は、古代の遺跡である。


『一番乗りだねアゼル君。でも、そのままのんびりもしていられないよ。……君たちの敵がここを目指しているんだからさ。数週間以内にはここに来るだろうね』


 巨大な装置が置かれたその部屋で、軽い口調の声が響く。そしてその声がいう事を聞いて、アゼルはすぐにレオンが頭に浮かんだ。


「ちっ、やっぱり戦わないと駄目なのかよ。まぁそれまでには、お前を制御しているからこっちの物だけどな」


『ラスボスは必要だよねアゼル君。それと、時間切れも近いから気を付ける事だね。それから君も勘違いをしているよ。君が持っている情報という能力は、確かに君に色々と教えてくれるだろう。でもね、君が知りもしない事までは教えてくれないんだ』


「……何がいいたい」


『君は僕を制御する事を考えていたね。でも、話はそう単純じゃない。もう僕は限界を超えているのさ。だから、君が僕を制御するにはある方法を取る必要があるよね』


 声の言葉を聞くと、アゼルは難しい顔をする。それに気付いたのか、声は部屋に響き渡る笑い声を出した。


『ハハハ!!! 僕がどんな状態であるか、正確に確認しようとしない君が悪いよ。確かに数年前まではギリギリだったけど、ここに来てまさかの限界だ! 君は僕が限界に来るのを数百年単位で考えていたから、情報はその単位で君に知らせていたのさ。他の転生者を馬鹿にしているようだけど、君も十分に愚かだよ』


 アゼルは苦々しく思った。限界を超えた時の操作方法は、確かに知っている。だが、その方法はとても時間がかかるのだ。そして、その方法はとても大きな危険を伴っていた。


『僕の限界も、敵が来るのも同じくらいだ。これはいい見せ場になるよアゼル君! 世界の崩壊を賭けて、最高の戦いを見せておくれ』



 アゼルと敵との戦いが近付くが、ここでもアゼルは勘違いをする。声は、敵がレオンだとはいっていないのだ。

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