何時の間にか独立?
自分の領地をアルトリア王国所有の飛行船で飛び立つ。上空から見下ろす領地と言うのもめずら……しくないな。普段から駄馬やソフィーにアンナに乗って飛び回っているからこんなもんか? みたいな感覚だ。
しかし、それは俺とセイレーンやラミアにリュウと言った普段から飛んでる連中の感想である。リィーネをはじめ、護衛の騎士や使用人達は何処か落ち着いていない。
「飛行船とはいいですね。風の抵抗を、肌で感じないのが特にいいです」
そんな感想を言っているのは、飛行船の窓から外を眺めているエリアーヌだ。飛行船の客室……豪華すぎる客室には、俺をはじめとして家族が乗り込んでいた。あとはそれに従う使用人や護衛たちだろう。
エイミが、一人だけ少し離れて外を見ている以外はいつも通りだ。
「王都では飛行船を五隻ほど新たに建造しているとか……これは忙しくなりますね」
リィーネはリィーネで、飛行船に乗っている状況よりも飛行船の価値について考えていた。もう、少しは楽しむとかすればいいんだ。
それよりも、うちで建造している飛行船の事をどうにかして欲しい。下手に王妃様に知れたら、俺は本当に鎖でつながれて奴隷のように働かせられてしまうではないか!
「しかしお金がかかりますね。飛行船の維持費と運用を考えると、軍事目的で使用し続けるのは難しいです。いっその事、商人さんに貸し出すのも良いかも知れません」
ブツブツと新しい商売を考え出したリィーネは置いておくとして、問題は三姉妹をはじめとした俺達の格好だ。俺は普段から貴族の服は着なれている。これでも一応は貴族の出身だしな。
リュウは無駄に似合っているのが腹が立つし、セイレーンはさっきからドレスを緩めようとしてメイド長のエリーサさんに叱られている。
ラミアは動きにくいなら動かない! という感じで大人しい……何かたくらんでないといいな。そしてエイミだが、服や装飾品にはこの面子の中では普段だったら特に喜ぶと言うのに元気がない。
「元気がないぞエイミ? 何かあったのか」
俺がそう聞くと、エイミはわざと視線を逸らして何でもない、と言ってまた外を見る。こんな感じを何度も繰り返している。
「ああ! きっとあの日ですよ! って! イダァァァイ!!!」
そしてまたリュウが空気を読まない発言をしてメッサに足の甲を力強く踏まれるのだ。……今のは絶対にリュウが悪い。というか、リュウが悪くない方が少ない。
客室で転げまわるリュウを無視して、俺はこれから向かう戦場に緊張してきた。最早戦場と言っていい! きっと王都では、俺の行動と良い所取りを責めるに決まっているんだ! くそ……逃げる事も出来ないこの状況で、俺にとって最善の策はない物か……
「何を悩んでいるのですか旦那様?」
「いや、王都で俺の行動が責められないかと……」
そんな俺を心配したリィーネが声をかけてきた。しかし、俺の悩みを聞くと急に笑顔になる。それこそ、そんな事で悩んでいたの? みたいな感じで笑われた。
でも、この反応なら意外と大した事はないのかな?
「ご安心ください旦那様。もうバーンズ卿や有力貴族とは話を通してあります。問題は王妃様がどのような行動に出るか、といった所だけです。それも、いくつか切り札が用意してありますから安心ですよ」
「…………おい、それが一番の問題じゃないかぁぁぁ!!! それに何? 王妃様と戦うの? 冗談止めろよ! マジで怖い!」
そんな俺の叫びに反応したのはリュウだけだった。床に転がった時の服装の乱れを直しながら、俺に対して
「俺はリィーネ様の方が怖いですけどね。領地でも誰も逆らいませんよ……それこそツックンも逆らいませんから」
「……だから、何があったんだよお前らに!」
しかし、その瞬間に客室に居た全員が、俺から目を逸らした。……いったい何があったというんだ!!!
王都の飛行場の発着場に着いた俺達は、厳重に警護されながら王都にある王城に向かう。……絶対に過剰戦力だと思うんだ。騎士団の凄腕とか、アルゴとか……アルゴは俺に物凄く手を振って、ルーゲルさんに拳骨を貰っていたけどさ。
もう少し落ち着いたら、アルゴも騎士として一流なのにな。それこそ騎士団長も目指せると思う。
そんな移動中に、ルーゲルさんが俺に声をかけてきた。
「今回も大活躍でしたな。流石はレオン殿です。……ただ、王妃様のご機嫌は大変悪くなっており……その……」
語尾を濁さないで!!! 俺もその事が気になっているんだから!!!
そして現在は、懐かしい王城の中庭にて王族の方々と面会しています。俺はこの場所にいい思い出がない! ポチが飛んで、リィーネとの結婚の書類にサインさせられた場所だからだ。
「まぁ、王妃様ったら……」
「いやいや、侯爵夫人程では……」
お互いに笑いあい、一見したら和やかな雰囲気を出しているようにも見える。暖かい日差しを受け、花が咲き誇る中庭……沢山の騎士達がついでに控えて入るけどね。
でも、話している内容がヤバすぎる! お互いに微笑みながら『ふざけた事してくれたな!』とか『助けてやったのにその態度はどうなの?』みたいな会話をオブラートに包んで繰り広げている。
「そう言えば、飛行船の建造は順調かな?」
王妃様が唐突に切り出した内容……ちなみに、王妃様の言葉を訳すと『知らないと思っていたのか? 軍事機密に手を出してただで済むと思うなよ!!!』であると思われる。
そんな王妃様に全然怯まないリィーネは
「はい。父、アステアの王にも協力して頂いて順調です」
ばらしやがった! しかも、さらっと養父の名前も出しやがった! その後も『軍事機密って言ってんだろうが!』と切り返され『誰のおかげで建造できたと思っているんだ? 今までの報酬と思って見逃せよ!』と、言いかえし……
ヤバイよ……何か胃がキリキリとしてきた。向かい側に座る王様の顔色も悪いし、このままお開きにして貰いたい。こんな会話に口を出すなどできないから、当然俺は王様と同じように黙るしか出来ない。だからお開きにしましょう、とも言えない。
最後には『やんのかこの小娘!』と王妃様が笑顔で告げ、リィーネが『何時でも来いよ。ただ、その時は回りにも注意しろよ……周辺諸国はアルトリアの敵になるからな(笑)』……お前は一体何をしてきたんだ!
そうして話が一段落すると、リィーネが戦勝祝いとレノールの為にと沢山の貢物が……酒に高級食材に……『棺桶』まで……か、棺桶!!!
「お、おい! 俺は何も聞いていないぞ! いくらなんでも棺桶って……」
流石に黙っていられない俺は、リィーネに詰め寄った。しかしリィーネは慌てないし、王妃様はそんなリィーネに挑発されたと思ったのか笑顔が更に怖くなる。ああ、俺の周りにいる連中はどうしてこう……斜め上に突き抜けているのだろうか?
「心配ありません。それに、私は喜んで貰えると確信しております」
自信満々のリィーネ。お前は一度でいいから一般常識を学んだらどうだ? どれだけ世間とズレてるか確認するのも大事だぞ。
しかし、棺桶を運ぼうとした使用人達が何か騒ぎ出す。それを確認するために、数名の騎士達が棺桶の中身を確認して……最後には、中身を見たルーゲルさんが王妃様に報告する。
急に立ち上がった王妃様は、今までにない笑顔を顔に浮かべていた。……ハッキリ言って怖すぎる!!! 俺には分かる。あの顔は笑顔だが、それはそれは恐ろしい事を考えているに違いない! それに王様も、王妃様の顔を見て何か分かったのか、目に鋭さが……でもさ、ルーゲルさんも王様に報告ぐらいしてもいいと思うんだ。
どうでもいいけどね!
「心から感謝する。レノールも冥府でさぞ喜ぶであろう……それでは、急用があるのでこの場は失礼する」
急に王族と騎士達の動きが変わり、その場から一斉に退出する。……何だ? 俺の方が一般常識に欠けているというのか! こんな時は棺桶を送る物なのか? まぁ、冗談は置いておくとして
「中身は何なんだ?」
「棺桶に入るのは死人ですよ旦那様。ただし、生物的な死を意味していないだけですけど……」
何言ってんのこいつ? まぁいいか。この場何とか乗り切ったし、このまま戦勝祝いのパーティーでも何もない事を祈るか……
そこは王城の地下であり、出入りできる者は限られた空間。王家の血塗られた歴史を語る空間でもある。薄暗い部屋には、様々な拷問器具が手入れをされて状態で並んでいる。その状態から、未だに使用されている事が想像できた。
そんな暗い部屋に、何時もは出入りもしない人物達とこの部屋に招かれた客人が対面していた。
「久しいなハースレイ……お前のおかげで、レノールは一生を牢屋の中で過ごす事になった。そのお礼が出来るので私達は嬉しくてしょうがない」
蝋燭の光が、王妃の顔を照らす。その薄暗い笑顔に、ハースレイは凍りついた。拘束された身体だが、口だけは未だに解放されている。
「お、王妃様! これには理由があるのです! レオンです……このままでは、レオンにアルトリアが乗っ取られると危惧したレノール様と私が行動しただけなのです!」
その説明を聞いてやるのは、今の状況ではどう言い訳しても好転しないから……ようは、王妃の遊びだ。
レオンが危険だと判断し、クーデターを計画して一気にアルトリアのレオン派を粛清する。その後はレオンを処刑か、魔王軍とぶつけて磨り潰す……その計画を聞いた王妃は
「そうか……アルトリアの未来を案じての行動か」
「そ、そうです!」
王妃の言葉に希望を見出したハースレイ。しかし、それはすぐに裏切られる。
「神官の分際で、出過ぎた事をするものだ。お前達は神官であって、それ以上でも、それ以下でもない! 貴様は何様のつもりだ? ……いいか、神の声を利用しての貴様らの行動にはもう限界だ。だから……」
「お、王妃様!!!」
王妃はハースレイの顔に自分の顔を近づけてその瞳を覗き込む。怯え、力のない瞳に王妃の暗い笑顔が移り込んだ。
「だから……もう、お前達は用済みだ」
王城の地下で、その日から一人の神官の悲鳴が鳴り響く……しかし、決して地上にその声は届かない。
俺達が王城に来てから数日後、王城に集まったアルトリア中の貴族達と大広間で数多くのテーブルに並んだ豪華な料理をつまんでいた。手に持っているのは、これまた高級な酒の入った高そうなグラス。そんな会場で、俺は何時ものように目立つわけで……
「今回は侯爵に全て横取りされてしまいましたな」
「倍の軍勢を前に正面から戦ったとか……流石は勇者様ですな」
「我々協力した貴族も鼻が高いですぞ」
嫌味を言う奴、勘違いする奴、露骨に恩を着せる奴……そんな小物をかき分けて現れたのは、アルトリアでも有力な貴族であるバーンズの爺さんとヘンリー君だった。
小物たちは、そんな大物の登場に退散していく。
「今回の勝利おめでとうございます」
そしていきなりヘンリー君のお祝いの言葉を聞く事になり、バーンズの爺さんに至っては
「今回は良い出来事が続きますな……反乱の鎮圧に、お二人の夫人の懐妊と、なんとめでたい事か」
……どこでその情報を仕入れて来るんだ? それにその事を聞いて、周りの貴族達の目の色が変わったぞ! しかもそんな会話にアステアの一団まで加わって……
貴族らしく挨拶をして、他国の……アステアの大臣も話に加わった。
「これはレオン殿。リィーネ様の懐妊には、アステア中で喜んでおります。……あの性格は、アステアでは知られておりませんからな……」
最後の方が声が小さかった。しかし、あの性格が知られたらそれこそ魔女扱いだよね。実際、アルトリアでは魔女とか次代の女狐! とか言われているらしい。そんな事を言うと、ギルドメンバーにボコボコにされると言う噂まで広がって……もういいや。
「しかし、お二人同時とはお困りでしょう? 無理はできませんからな……それでどうですかな? 我が一族にはそれなりの娘たちが居りますが……」
バーンズの爺さんが、俺に孫とか親戚の子を押し付けようとしている!!! ただでさえ、普段から苦労して遊んでいるというのに、妾まで抱えたら……あれ? いいんじゃない! 妾さんだから堂々と浮気できるじゃない!!!
「そ、それじゃしょうか……いっ!」
喜んで承諾しようとした俺の服を引っ張る嫁……ピンクではなくブルーの方だ。そう、エリアーヌが俯いて左の袖を軽くつかんで……か、可愛い!!! そ、そうだよね。こんな事をそんなに簡単に決めたらいけないよね!
そう思っていたら
「あ、本当に効果があったみたいですよ」
リュウや三姉妹と……笑顔のリィーネが俺の後ろでこの状況を覗いていた。しかも今のリュウの発言から、誰かが裏で指示を出したのが丸分かりだ! そしてこんな事をするのは……
「もう、旦那様ったら単純なんだから……それからバーンズ卿に大臣」
「何か?」
「お久しぶりですリィーネ様」
二人に挨拶をするリィーネ。そしてそのまま……
「その件に関しては、間に合っておりますから心配なさらないで下さい」
そ、そんな! 俺の充実した生活を、お前は勝手な独占欲で邪魔しようと言うのか……俺が落ち込んだら、そのまま経済とかの話に移行して、俺は面白くもないからその場から立ち去った。理解できないもん! 中世の世界とか侮っても、元から俺に国を動かすような経済感覚など持ち合わせていないしね。
そんな俺に、次から次へと挨拶に来る貴族達。俺は飽き飽きしつつも、これも仕事と割り切って対応する。貴族的に、この手の事を疎かにすると後が怖いと理解しているしね。リュウなんか馬鹿にしたりもするが、これはこれで重要でもある! と思う……多分。
それだけ理解していても、この戦勝会に出たくなかったのは、本当に今後の俺の立場が不安だったからだが……周りの雰囲気からすると、案外大丈夫かな。
レオン様は、社交界とかこの手のパーティーは苦手なのだと思う。本来は辺境貴族の出身でもあるから、仕方ないとも思うが……僕、ヘンリー・オルセスから見ると、レオン様はこの手の事を苦手としているように見えた。
それでも上手く貴族の心を掴んでいるのは、奥方の影響力のおかげだろう。祖父や他国の大臣を相手に、不用意な発言をする事は出来ない。それを理解しているのか、奥方が会話に加わると去って行った。そのまま祖父も大臣も無難に経済の話をしてその場は終わった。
本来なら身内をレオン様に近づける事が目的だったのに……
「やれやれ、魔女には隙がなくていかん」
祖父の疲れたような言葉に、僕は頷く事しか出来ない。
「レオン殿も魔女を信頼しているな。不得手な事は魔女に全て任せておる。意外と上手く行っておるのかも知れん」
それはそれで良い事なのだろうが……オルセス家をはじめとする貴族には、正直言って面白くない。
「魔女の子供は争奪戦が激し過ぎるし、エリアーヌの子供にはオセーン再興の期待がかかる。力のないエリアーヌの子供には、大義はあるが……何とも難しい事よ」
祖父は、産まれてくる子供が女児なら僕との縁談も視野に入れると言っていた。しかし、問題は年の差以上に他の貴族や王族が黙っていないという事だ。有力貴族の縁談となると、王族や他の貴族達の反対が強いからだ。
「しかし欲しいな……ヘンリー、わしはアーキスの、いや……勇者レオンの血を我がオルセス家に入れたい」
祖父が何時も以上に真剣な表情で語っている。確かに価値がある。今のアルトリアで、レオン様以上の価値は、王族と言え届くかどうか……僕自身もレオン様に近付く事に何の不満もない。
この会場は、今や王族派と貴族派に別れて行動しているのが丸分かりだ。そんな事を知っていて、レオン様は両派閥の中間で近付く貴族達の相手をしている。
レオン様自身が、どこに所属するか明確にしていないために、貴族派も堂々と王族の失敗に……他国の神殿勢力や平民の侵攻を許した事を言及できない。
「やれやれ、レオン殿が一言でも王族の批判をすれば、すぐにでも貴族派の代表に仕立てる物を……」
そんな祖父の言葉は、どこか面白そうな、それでいて楽しんでいるような感じを含んでいた。まだまだ現役でやっていける祖父に、僕は今まで以上に憧れた。……いつか僕は、祖父をも超える立派な貴族になる!
「此度の反乱鎮圧、誠に大儀であった」
会場に響くラッパの音と共に現れた王妃様と王様、それからオマケの王子様が登場する。それと同時に貴族達は跪いて王族を出迎えた。ラッパは、跪く準備をしろ! といった合図なのだろうか? 皆がタイミングよく跪くから俺もそれに合わせる。
そして王妃様のねぎらいの言葉と、簡単な今後の方針が発表されたのだが……
「これで後顧の憂いは取り払われた。……今後は、魔王軍相手に侵攻を目標とする! この脅威を取り払わねば、我々に未来はない!」
ざわめく会場で、王妃様から告げられる内容は、俺の領地から敵の防衛拠点に侵攻して攻略すると言う単純な物だった。……ああ、何時かは侵攻すると思っていたから、ついに来たかといった気持だった。
そんな俺は、その後の王妃様の発言に飲んでいた酒をぶちまけそうになった!
「なお、今回の活躍から、指揮はレオン・アーキス侯爵に執って貰う……異論のある者は?」
あ、あるに決まってんだろうが!!! 俺は、戦争に関しては素人なんだよ! いいか、今までは周りが頑張っていたから何とかなってんのに、指揮官を俺に任せたら勝てる戦いも負けてしまうわ!!!
そこで一人、バーンズの爺さんが発言する。この場は戦勝祝いのパーティーだから、多少の無礼も許して欲しいと断りを入れてから……
「それは我々貴族を、魔王軍にぶつけて磨り潰すおつもりですかな?」
会場の雰囲気が一気に悪くなる。爺さん……空気読んでよ。
「いや、私を含め、王国はあなた方に期待している。きっと、魔王軍の脅威からアルトリアを救ってくれると……」
その後も不毛な会話は続くが、ここで俺の嫁であるピンクの悪魔が動き出した! き、貴様は動くな! いや、動かないで下さい! 発言しないで下さい! そんな気持ちを込めた視線を受けたリィーネは、微笑んで頷く。
やはり夫婦だな……気持ちが通じたよ!
「王妃様、その大役、我が夫のレオンが謹んでお受けします。……五年です。五年で結果を出して御覧に入れましょう」
「ほう……随分と大きく出たな。良いだろう、五年は待ってやる。しかし、結果を出せなければ……」
やっぱり心は通じていない。夫婦は所詮他人か……リィーネの自信満々の発言と、王妃様の脅し……もう、何でこんな事に!!!
はっ! 俺は今気が付いた。……逃げるから逆に目立つんだ。人のいない所にばかり逃げた結果が、今の俺の現状だとするなら、それを逆手に取ればいい。要は、前に出て……そう、人の多い所に紛れ込んだら……ああ、駄目な未来しか見えてこない。
天井を見上げて、見慣れない王城の豪華に装飾された模様を数える。現実逃避だ……もう嫌だ。でもここで逆らっても良い事ない……好転する気がしない。
そして、その場で魔王軍討伐が今後の課題となった。反乱のおかげで、アルトリアだって結構疲弊したのに……なんでこんなに苦労しないといけないのだろうか?
「侯爵夫人、あれで良かったのか?」
王族の私室で、リィーネと向き合って座る王妃は、そう切り出した。部屋にいるのは王妃とリィーネに複数の護衛のみ。その護衛もエリーサなのだが……
「ええ、ご協力に感謝します王妃様」
そう、この魔王軍討伐のシナリオは、リィーネの発案だったのだ。貴族派を利用しての魔王軍討伐……全ては、レオンを独立させるための行動だ。王妃にしても、手に余る今のレオンを押さえ付ける事は諦め、自分に反対する貴族を引き取って貰えるなら問題ないと受けたのだ。
実際に、オルセス家はすぐに魔王軍討伐に参加表明をした。王妃がレオンを切り捨てた、と思い込んだ他の貴族達も行動を開始している。
貴族派から抜け出す者、王族派にすり寄る者……
「これで貴族派の中でも旦那様に従う者がついてきて、口だけの者は離れるでしょう」
「その口だけの者を、我がアルトリアに押し付けるのか? 笑えん冗談だ」
「王妃様……私は今の制度を改めたいのです。しかし、今のままでは誰も改革を受け入れない」
レオンが指示しようと、自分の利益を守るためなら抵抗するのが人間だ。その先にどんなに良い未来があったとしても、今の利益を捨てられない。
それなら、捨てられる者を選別して新たな制度を作ればいい。邪魔も少ないこの方法なら、アルトリアに属すよりも早く結果が得られるだろう。
会場での茶番を思い出し、二人は笑い出す。レオンも呆れていたのか、会場での言い争いの最中は上ばかり見ていた。……そう思い込んでいた。
「しかしだ……レオン殿が、そこまでの改革案を持っていたとは驚きだ。いや、持っていて当然か……坊やの頃から驚かされ過ぎた」
懐かしむように、王妃が出会った頃のレオンを思い出す。地図の作成を進言し、魔物の進行を食い止めるために辺境へ旅立つ姿……そのどれもが懐かしい、と語りだした。
「私も驚きました。この前、酔わせた時に話して下さったのですが、旦那様の中には高度に進んだ文明が見えているのかも知れません」
リィーネが王妃に話す改革案は、レオンが酔った時に話した地球での社会の話を元にした物だった。学校や経済……今の社会で、馴染めない物は馴染むように変更しての改革案。それをリィーネは現実のものにしようとしていた。
「何時かは我らも見習うとしよう……アルトリアは、ゆっくりとそなた達の後を追う事になるだろうな」
「そう言って、本音では良い所取りを狙っておいでですね。効果のある改革を私達が証明したら、それを理由にアルトリアでも実行する……無駄がないやり方です」
「当然だ。今回はしてやられたが、何時までも負け続けでは面白くないのでな」
また笑い出した二人は、目の前にいる人物こそが生涯の好敵手であると確信した瞬間だった。
王都に潜む暗殺者の男は、数名の部下達と今後の神殿について話していた。今までの豪華な部屋ではなく、隠れるように、地下の隠れ家でひっそりと……
「宜しいのですか? このままでは神殿の権力は復活できませんぞ」
集まったの神殿の関係者達は、地に落ちた自分達の現状を嘆いていた。まさか、ここまで憎まれているとは理解できていなかったのだ。
そんな無能な神官達に、男は
「心配はいりません。今は神殿の代わりに、レオンが民衆や貴族の心の支えとなっている」
「それが問題です! このままではレオンに全て持って行かれる……」
今や、レオンを崇拝していない者が少なくなっているのがアルトリアの現状だ。その事を男に告げる神官達。しかし男は余裕な表情を崩さない。
「そう、それでいいのです。レオンを心の支えにすればするほど、それを失った時の心の隙間は大きくなる……そこで神殿は、再び心の支えとして人々に求められる」
「し、しかし……今の様子では難しいかと」
「ええ、だから我々も変わるのです。今までのやり方を変え、新しいやり方で神殿を復興する。そうすれば後は……」
そのまま神官達の話し合いは続く……レオンを暗殺してその代わりになるために……
ご意見をいただいたので、今回から前書きを省こうと思います。あと、人物の視点切り替えでsideを使って欲しいとも意見を貰ったのですが……sideは一回止めてしまったので復活させるかどうか……難しい。
数年進めるつもりが、今回では進められませんでした。申し訳ありません!
次回こそは進みます……