かかってこいよ!
色々とありますが、今回が内乱編の最後ですかね。次回は最後の魔王軍との戦いの開始です。
ようやくここまで!!!
催涙弾みたいな物を作りました。……ギルドで手に入れる事が出来る魔物の素材と鉱石などを、勘と経験でエンテに調合させた。それを上空から飛行船を利用して投下した。殺傷能力は低いが、その効果は絶大だった。無抵抗になる反乱軍を包囲して拘束していく。
煙が風で流されていくと、抵抗もろくにできない反乱軍兵士達は簡単に捕えられる。これで本当に終わりだ。でもね……
そんな切り札を使用した俺は、現在凄く困っている! なんと俺と戦った爺さんが、神殿の最高権力者だったのだ。それだけじゃない!
「……そんな爺さんの首を差し出されても困るんだよ。それにセルジを突き出されても……」
戦場で敵から差し出されたのは、神殿の最高権力者の『首』!!! お、恐ろしい! 差し出してきたのも反乱軍の平民達で、力を無くした権力者の末路って恐ろしいと再確認した。
俺達に降伏した敵は、神殿騎士達も差し出してきたから怖い。しかも平民出の勇者達が率先して裏切っている。その行動は勇者としてどうなんだ?
セルジは拘束されて俺の方を睨んでいるし、爺さんの生首は怖いし……最悪な一日だった。セルジなんかブツブツと俺に恨み事を言っている。
お前がこんな事をするから悪いんだろうが! 勝手に暴発しやがって、俺の苦労も考えろよな! そんな俺の後ろに控えていたギルドメンバーの幹部の一人が
「レオン様、反乱軍の処罰は王妃の指示を仰いだ方が……」
ぎ、ギルドメンバーが王妃様の事を王妃とだけ言っている! 止めろ! 王妃様と言え! そんな呼び捨てにしていい人ではないぞ! 本当に怖い人なんだからな!
「ああ、全部任せよう。それよりも今後の予定は……」
考えるのは止めよう、もう終わった事だ。それに俺はこれから忙しくなる。魔王軍との前線基地でもあるのに、魔王軍が妙に大人しい。その調査や防衛をしないといけない。……いっそのこと、リュウとギルドメンバーを魔王領に侵攻させるか?
リュウには、特殊部隊とでも言って言い訳すれば乗り気で侵攻しそうだし! 今回も勇者相手に余裕で勝利したなら魔王くらい倒せるだろ!
そんな間の抜けた考えをまとめて、俺は次々に部下達に指示を出していく。……どうでもいいけど、さっきから催涙弾の影響で鼻水はでるし、涙も出てくる。兜の中が気持ち悪い! 本当なら後方で投下の指示を出す予定だったのに……
早く兜を脱いで顔を拭きたいな。
一人で陣地から離れたレオン様を私は追いかけた。何時もは、バスも行動を共にするのだが、今回は私一人のわがままだから断って一人でレオン様にお願いに行く。
私は『セルジを殺したい……いや、神官全てを殺したい』
私から全てを奪い去った神殿に復讐する。それは私の願いだ。……でも、今の私はそれをレオン様に言う事が出来ない。
一人、隠れるように味方から離れたレオン様は、兜を外すと顔を拭いていた。汗を拭くにしては動きがおかしい。日も傾いて夕暮れが近い草原で、レオン様の純白の鎧はオレンジ色に染まる。マントは風に揺れて、幻獣である獅子がはためいていた。
「……エイミか?」
!!! 私は気配が消し切れていなかった事に後悔し、それと同時に安堵した。何時もの優しい声だったからだ。
「格好悪い所を見られたな……内緒だぞ」
そう言って私の方に歩いてきたレオン様は、すれ違いざまに私の肩に手を乗せてそのまま陣地に帰って行った。私は何もいう事の出来ないまま、見送る事しか出来なかった。
……レオン様は泣いていた。
私が復讐の為に、セルジの処刑を願い出ようとしたのに……レオン様は涙を流していた。味方には大した被害も出ていないのに、完勝と言ってもいいのに
「誰の為に泣いていたんですか……」
私の質問は、風にかき消されて誰にも届かない。
その時だ、胸の辺りから痛みがする。自分ではどうにもできない『黒い何か』が、私の心を支配する。そして声が聞こえてくる。
『復讐を諦めるの? 両親を殺されて、利用しようとした神官達をレオンの涙で許していいの? それにもう君は、たくさん殺したよね? 今更引いても変わらない。なら、もっと自分に素直になりなよ』
胸の辺りを手で押さえる。それでも痛みは引かないし、声は私に届く。
『欲しいなら奪えばいい。暖かい家族も、可愛らしい服も、そして……レオンも奪えばいい!』
「言わないで!!!」
叫んだ私の声に反応したのか、声は聞こえなくなった。私は荒くなった息づかいを整えて、そのまま味方のいる陣地へと引き換えした。……ここに居ると、またあの声が聞こえてきそうな気がしたからだ。
エイミが離れていくのを確認した二人の人物。それはレオンの前に出る事が出来なかった暗殺者の男と、かつてエイミの両親を殺した女性神官だった。しかし、女性の方は年を取り、鋭い目つきにかつての面影を見る事は困難だった。
「上手く行ったみたいですね」
男が言うと、女性の方は顔をしかめる。
「まだまだ、神殿長を殺してこれで許されるなどあってはなりません! 私は神の声を聴いたのです……神殿を守れ! と……」
男はそんな女性神官を立ち上がって見下ろした。問題を起こして総本山に連れてこられたこの女を、神殿は都合のいい駒にした。魔法と催眠で神の声を聴かせて、裏の汚い仕事をさせてきたのだ。
少々性格が壊れているが、それでも優秀な魔法使いである。おもに神殿では催眠系と言われる魔法の使い方を習得した女を、男は連れ出してこれからの為に利用していた。
催眠と言う魔法は存在しないが、使い方さえ覚えれば相手を操る事もできる。相手に声を届け、少しだけ体調を崩したり、眠らせたり……神殿の歴史の中で磨かれた魔法の応用だ。
空を見上げる男は
「バーゲストの爺も殺したし、後はうまく立ち回ってレオンを殺すだけ。そうすれば用意していた俺を次期神殿長へと書かれた遺言書を使って権力を握ればいい」
エイミに対して並々ならない恨みを持つ壊れた女は、そんな男の事を無視して神殿の祈りを呟いていた。
神殿長の遺言書は、酔ったバーゲストが面白半分に書いて渡してきた物だ。まさか本当に役に立つとは思ってもいなかった男は、初めて野心を抱いた。
闇に生きる暗殺者と言う職業に不釣り合いな野心……男はバーゲストのように世界を手にしようと考えた。誰にも頭を下げる事無く、誰も追いつけない高みへ……男の野心は膨れ上がる。
エイミにかけた催眠は、仕込みの一つに過ぎない。これから出来うる手段、準備は全て行う。そう心に決めた男は楽しくて仕方ないといった顔になる。
「私があなたの相手に相応しいと証明して見せますよレオン」
レオンの本陣に方角を見る男は、確かに微笑んでいた。
アルトリアでの反乱が収まる頃、周辺の国々との捕虜の受け渡しも終わり、俺は自分の領地で政務に励んでいた。……ハッキリ言って忙しい! 戦争が終われば書類の処理が山のように……しかし、それ以上に不味いのが現在の俺の評価だ。
『軍神』
……俺はそんな評価を求めていない! それに戦争に関しては素人もいい所だ! 準備も作戦も他人任せの良い所取り。そんな俺に、この評価は重過ぎる。結果的には、損害が少ない上に敵の勢力は壊滅状態だから間違いとも言い切れない所が厳しい。
折角ヘンリー君を総大将にしたのに、最後の最後で俺が全てを横取りした感じで戦争は終わった。バーンズの爺さんも、その事に関しては何も言ってこないのが逆に不気味過ぎて怖い。
そして最大の問題は王妃様だ! 戦後処理もめどが立つと大々的な戦勝祝いを行うと書簡が届いた。……俺は戦後すぐに開かれた祝いの場には出ていない。いや、出たくないから領地に引っ込んでいた。仕事が忙しいと参加拒否してしまった。
後で考えるとそれも不味い気がして……もう、崖っぷちだよ!!!
そんな俺が、自分の仕事部屋で悩んでいるとノックの音と共にピンクの悪魔が現れる。それとオマケのようにエリアーヌまで……いったい何事か?
「旦那様!お喜びください! 子供が……私達は妊娠しました!」
勢いよく部屋に入ってきた二人の後ろには、メイドが何時もより多く控え、オカマのスタイリストが何時もよりもくねくねと嬉しそうにしていた。
「お、おう……おめでとうございます……え?」
反応が出来なかった俺は悪いのだろうか? それに私達って……
そんな俺がエリアーヌに視線を向ければ、本人は俯いて顔を赤くして喜んでいる。後ろに控える元親衛隊隊長であるミレーさんは、涙を流して仲間と共に喜んでいた。
「毎晩の頑張りのおかげですね!」
「女が露骨にそういう事言うな! こっちが恥ずかしいだろうが! そ、それよりも俺はどうしたらいい?」
嬉しそうな全員が俺に視線を向けると
「いえ、何もしなくていいです」
……何なの。何なのこの扱い。俺は一応はこの領地の領主で侯爵だよね? それともあれか、子供が出来れば厄介者として扱われるのか? エンテも子供が出来るまでは幸せで、今は子供がいるだけで幸せって疲れた顔して言っていたしな。
泣いてもいいかな? いや! それもそうだけど王都に行く事を考えないと!
「そ、そうか……それと王都に戦勝祝いで出向く事になったんだが?」
「あら? それならすでに準備ができております。戦時中で行われなかった王子であるレノール様の葬儀も行われる事から『最適な贈り物』も用意してありますし、何も心配はありませんよ」
こんな時は本当に頼れるよね、特にうちの嫁さんは! そうですか、そうですね……リィーネが居れば俺なんていらないもんね!!!
そうしてまた悩むのを止めて俺は書類の処理を再開した。なんだろう……文字がグニャグニャと歪んで文字が読めないよ……
リィーネ様とエリアーヌ様を筆頭にレオン様の書斎に進む私達。ある重大な発表をするために私をはじめ多くのメイドや騎士達が付き従っている。
私は今、最高に喜んでいた! 主君であるレオン様とオセーンの最後の希望であるエリアーヌ様との間に子供が!!! これでオセーン再興も夢ではなくなった。実際にリィーネ様の実家でもあるアステアから、内々に支援すると密約も交わしている。
まぁ、これで再興してもアステアの影響から抜け出すのが難しくなるだろうが……それでも産まれてくる子供は、確かな血筋と優秀な血を受け継いだ紛れもない本物だ! 何時かはきっとオセーンを、昔の栄光を取り戻して下さるだろう。
そう、たとえ何百年かかろうとも……
問題はアルトリアの女狐の反応だ。もしも女児であれば王子と婚約させられるかもしれない。男児でも現王子に女児が産まれればあの手この手で手に入れようとするだろう。
私や部下に、この手の政治的なやり取りは難しい。その為にもリィーネ様には頑張って貰わねば!
ようやくだ……ようやく死んでいった部下や国の者達に報いてやれる。
「どうしたのですミレー?」
そんな思い詰めた私に、エリアーヌ様が心配そうに声をかけて下さる。
「いえ、これからの警備の事を考えておりまして……申し訳ありません」
「ミレーには苦労をかけます。警備に関してはギルドからも使える者達を用意するとリィーネ様も言っておられましたから……」
不甲斐ない。他者の力を借りねば、エリアーヌ様を守る事も出来ない我らの現状が酷く悔しい。本来なら、オセーンが健在ならリィーネ様と同等の扱いを受ける筈であったのに……今では完全に格下扱いだ。
幼い頃から傍に仕えてきたが、今のエリアーヌ様は昔のように自信に満ち溢れているとは言えない。どこか一歩引いた感じが……今の状況では仕方もないか。
だがいつかは!
「そろそろレオン様の部屋に着きます。どんな顔をなさいますかね」
少しだけ悪戯っぽい微笑みを浮かべるエリアーヌ様。ああ、本当にレオン様に惚れられているのですね。それは確かに良い事です。そう、あの方にはそれだけの魅力がある。そしてそれだけの力も……
多くの者がレオン様に惹かれて集まってくる。これからは特に貴族を中心としてその庇護を受けようと集まるだろう。平民や貴族、そして神殿の残党もすでに接触を始めている。すでにその影響力は一国を超え、周辺の国々もアルトリアとこの領地を別物と考え出した。
そんな中でエリアーヌ様の地位は最も脆く、危うい。
「きっとお喜びになられます」
私は内心を悟られないように笑顔で答える。これからはきっと内部でも血みどろの戦いが始まる。レオンと言うパイを奪い合う。力のない物は蹴落とされしまう。我々も細心の注意を払わなくてはならない。
『……で、俺に何を相談しに来ているんだよ』
俺は仕事を終えると城から少し離れた強大な馬小屋に着ていた。広大な牧場と多くの馬を養う設備……領地の経営を苦しめる要因である施設の一つだ。本当なら潰したいのだが、駄馬の子供が高値で売れるのも事実。戦力にもなるから今は目をつむっている。
「子供が出来て周りが冷たくなった。お前の経験から対処法を聞きたい」
こんな駄馬に人生相談する俺は駄目かもしれない。しかし、肝心のエンテもバレルレル? さんも仕事で忙しく、家庭もあり会う事も難しい。
『ふん! それはお前がただの種馬だからそんな反応なんだよ! 俺を見ろ! 数多くのメスを抱え、子供もいるがそんな態度は一度として経験がない!』
こいつは本当にムカつく! そのメスと子供を誰が面倒見ていると思っているんだ! 俺だよ! 俺の領地がお前達を支えているんだぞ!
「あれ? レオンさんがこんな所にいるなんて珍しいですね?」
そんな馬小屋にまたしても何時ものメンバーであるリュウが加わる。俺はもう一度現状を説明し、今後の対応を相談した。ここにきてリュウと言うのが不安でしょうがないけどね。
「簡単ですよ! 今まで散々遊んできた付けが、ブベラアァァァ!!!」
そんなリュウに俺は右ストレートをお見舞いしてそのまま放置する。そうすると一斉に駄馬の子供達が喋りだした。
『勇者様がリュウに八つ当たりしてるぜ』
『ほっとけよ、きっと色々あるんだろう』
『疲れてるか壊れたな。あんな屑親父に相談とか……ヤバイ壺に入りそう!!!』
「……改めて考えるとこの状況は不気味だな」
多くの馬が、駄馬のように喋りだしている。夜にこんな所に出くわしたらちょっとしたホラーだよね。しかも現在その夜だし、ロウソクの心もとない光がさらに恐怖をあおる。
『糞ガキどもは黙ってろ!』
駄馬がそんな子供達を叱るが
『お前が黙ってろ屑!!!』
『やんのか! 本気でやってやらぁぁ!!!』
『かかってこいよ! 今日こそ止めを刺してやる!!!』
『……』
「おい、お前も俺とそう変わらないじゃないか。それにお前の子供達の殺意が半端ないぞ」
だが、騒ぎ出す駄馬の子供達が急に喋るのを止めて静かになる。おかしいと思い周りを見渡すと、馬小屋の入り口に暗くなった外の月の光に照らされたピンク……
『ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!!!』
「うをぉ!!! どうした駄馬? 何で急に体育座りして壁に向かって……」
壊れた駄馬はそのまま壊れたまま放置して、俺はリィーネの傍へと向かう。お腹に赤ん坊が居るのに出歩いて平気なのだろうか? 周りには確かにメイドや騎士に……ギルドメンバーまで見えない位置に控えていた。……多過ぎないか?
「まぁ、こんな所に居たのですか? 外にお酒を用意しましたからご一緒にいかがですか」
「おう……」
俺は言われるままにリィーネに従う。ついでに騎士達が意識を失ったリュウを抱えて連れてきている。そうして城の庭に即席のテーブルとイス……そしてそこに並ぶのは豪華な酒のつまみである。そばにはいつか見たコックが控えながら黙々と料理をしていた。
懐かしい……セイレーンとラミアを寝返らせた凄腕の料理人だ。
「あれは控えている者達へ振る舞います」
俺がコックを見ているの見たリィーネが、俺の心を読んだかのように答える。……夫婦としては以心伝心は喜べるが、このピンクにはそれ以上の能力がありそうで怖い。俺の秘密とか握っていないよな?
月の光と城の窓からの光に照らされながら、俺とリィーネは椅子に座る。
「で、用があるんだろう? 何の話だ」
「……ただお酒を飲みたいだけですよ」
用もないのに酒の席を用意したのか? 逆に怖いが……俺はメイドが注いだ酒を飲み干す。
「それと今日は、旦那様のお話をお聞きしたいと思いまして」
「俺の話? ……特に面白い話はないぞ?」
俺はつまみと酒が美味くて、何時もよりも飲んでしまった。最初は幼い時の話や、セイレーンやラミアの話を、次に地図作成の時の話を……そうしてどんどんと酔いは回る。
「転生ですか?」
「そう! 俺は転生してこの世界に来た!!! ウソかホントかは今の俺にも分からないけどなぁぁ」
酔いがいい感じで回り、今までため込んでいた何かが壊れたかのように溢れてきた。どうせ誰も信じない話だから、酔っぱらいのたわごとで済ませるだろう。
「どんな世界から来られたのですか?」
「魔法も魔物も無くて、科学で発展した世界? そこで俺は親友と幼馴染と楽しく学校行って、就職して……そして親友を裏切ったんだ」
急に悲しくなった。たった一人の親友を裏切った事を思い出した。精神の洞窟でも言われた言葉が妙に心を抉ってくる。
「……親友を裏切って幼馴染を寝取った。そのまま結婚して親友とは疎遠なまま……最後には許してくれたけど、結婚式には出てくれなかったな」
そう、結婚前に親友と幼馴染と三人で会った。互いに結婚前に話をしとこうと思ったんだ。それに俺は、幼馴染を本気で愛していたか自信がなかった。美人で年上で優しかった。けど、俺には良いお姉さんでしかなく、親友の恋人としか思えなかった。
それでも結婚したのは、親友の事で幼馴染が相談してきたからだ。そこからどう間違ったのか……親友はその時期に、両親を亡くして高校を出てすぐに就職して忙しかった。大学が同じであった俺と幼馴染が近付いたのも仕方ないかも知れない。
それを浮気と勘違いしたのか、俺に相談してきた。俺は唯一勝てる事が出来なかった親友に勝てた気になって……大事な親友を失った。気付いたら幼馴染は、親友と別れて俺を選んでいた。
俺は気づいたら全てを無くしていた。楽しかった思い出は、俺の裏切りですべて崩れ去った。
親友は最後には俺と幼馴染を祝福してくれたが、式には来てくれなかった。当然だ。結婚式でもその噂が広がっていたし、他の友人達は口には出さないがそんな俺達を複雑そうに見ていた。
「大事な親友だった。……今でもあいつには謝りたい。でも、もう叶わない。きっと全部天罰さ」
リィーネは何も答えないが、俺の右手を両手で握ってくれた。
「何時か旦那様の気持ちがその方に届くといいですね」
良くない。俺は裏切ったんだ。それなのに幼馴染を幸せにするどころか先に死んで……もしかしたら、親友が幸せにしてくれているかもしれないのがせめてもの希望だ。
「二人が幸せなら俺はそれでいいし、その方が最初から良かったんだ」
俺はもう関わる事の出来ない世界を思い、酒を飲み干す。見上げる月に、二人が幸せである事を祈るしか出来ない自分が、酷く醜いと思えた。
そうだ。俺は最低の屑さ……そんな俺は何のためにこの世界に転生したんだろうな。
「頭が痛い」
朝起きると酷い頭痛と昨日の転生話に苦しんだ。なんで今まで喋ってこなかった事を今になって……でもこれで精神的に病んでると思われて城に押し込まれたらそれはそれで良いかも知れないな。
「おはようございます旦那様。今日は王都に向かう事になっております」
「えぇぇぇ! もう欠席でいいだろう」
エリーサさんが部屋に入ってくるなり告げてくる今日の予定は、俺にとって思い出したくもない王都行だ。
「駄目です。それに王都からは飛行船を出して迎えに来られます。……これは王妃様からの強制の意味が込められています」
即答で俺に答えるエリーサさん。それに王妃様の強制と言われると仕方ない。腹を決めて命乞いでもしよう!
「それから各国の王族も参加する事になっております。……あと、現在我が領内に置いて建造中の飛行船……」
まだあるのかよ……ん? 飛行船!!!
「おい! なんだそれ! 俺は聞いていないぞ! あれはアルトリアの軍事機密であって……」
「問題ありません。我が領内で建造している物は正式名称を変える予定です。それにすでに飛行船は建造を終えて船員の習熟を……」
ああ、これでもしばれたら俺は王妃様に本当に殺されるかもしれない。あの人は敵対した物には絶対に容赦しない! きっと拷問されて……あれ? 王妃様に拷問されるのもいいかもしれんな。
次回も例によって数年進みます。
なんだか消化不良ですが神殿との対決も一応の決着です。