結果を運命と言ったら格好いい?
中盤ですかね? 主人公は後ろに下がっても目立つはず! と思って書いてみました。
「……なんで、なんで私達は残れないんですか!」
俺の前に立つエイミは、真剣な表情で俺を睨みつける。その瞳には、涙が今にもこぼれそうだ。
「言った通りだ。今回はリュウやギルドと騎士団からの護衛を参加させて、残りは全員帰還する」
冷たく言い放つ俺に、ギルドや騎士団からも不満の声が出てくる。しかし、エイミのように俺に直接言う事はない。
「私は! ……神官に復讐したいんです。父も母も、神官に殺されて……それでも参加させないって言うんですか!」
エイミの両親は、エイミの持つ闇属性の魔法に興味を持った神官達に乗せられた。はじめはエイミを遠ざけさせてそのまま神殿に預けさせよう、と……しかし、俺がエイミと出会った時には、すでに殺されていた。
なにかしらの事情があったのだろう。エイミもあの時は両親にまた愛されたくて、必死に小さいながらも魔法を勉強していたな……今にして思えば、エイミに闇属性の魔法を勉強できる手段を誰かが与えたのだろう。
神官がエイミを捕える前に、そんな危険な事をするとは考えにくい。やはり両親が本や教育をしていたのか? 今ではエイミの記憶も曖昧で、調べるにも時間も労力もかかる。
だが、エイミの様子から察すれば、両親は神官達に乗せられる前は普通にエイミを愛していたのかもな。そんな両親のためにも……
「駄目だ。もしも無理にでも参加するつもりなら、このままお前を拘束する」
「そ、そんな! レオン様、いくらなんでもお嬢が可愛そうだ。神官達をやっと裁けるのに、それに神官に恨みのあるお嬢を参加させないなんて……」
操り人形の糸が切れたように、その場に座り込むエイミ……バスがエイミを庇う発言をするが、俺から言わせれば
「裁くのは、ギルドや俺の仕事じゃない。今回の戦争は、王国の騎士団が中心となる。ギルドはそれに邪魔しないように参加すればいいんだよ」
全員の顔が、不満を持っているように感じる。当然だと思うが……ここまでの不満だと、爆発するのが怖いな。このまま領地に戻っても危ないかも知れない。集まって暴れられても困るから、仕事でも与えてバラバラにしておくのも良いかもね。
「戦争になれば治安も悪くなる……これよりギルドは主要都市での治安強化に努める! 周辺の村や町にも目を配れ、騎士団は領地にてその任に付け、以上だ」
言い終わるが、それでも未だに不満顔のギルドメンバーに騎士団。それにセイレーンやラミアまで俺の方に歩いて来ようとしている。その周りを騎士団が囲んで……何を言うつもりか分からないが、もう俺も限界なんだよ! 早く帰ってのんびりしたいんだ!
「いいか、これは命令だ…………黙って従え!!! それでも文句のある奴は前に出ろ!!!」
手に持っていた愛用のハルバードを地面に叩きつけると、その場の空気が一瞬にして変わる。肉体を魔力で強化しての地面への一撃が、その場から円状に砂を舞い上げて……この場にいる全員が押し黙った。
か、完璧だ! これが俺の考えていた計画そのものだ。勇者を支援し後方で魔王討伐に協力する俺の計画……それがついに完成した。
思えば行動も起こさない他の転生者達に、勘違いする連中に振り回され、あのバカな白い光に勇者認定された。しかしそれも今日までだ! 滅びる世界で生き残るために行動して、勘違いされて……今日でその負のスパイラルも終わりだ!!!
解放軍の本拠地となる都市に、豪華な馬車に乗った一団が辿り着いた。総本山から逃げ出してきた神殿の最高指導者……宗主とも、教主とも言われ、姿を見た物がほとんどいないその人物が、城の城主の部屋を目指して歩いている。
後ろに付き従うのは、屈強な騎士団……神殿騎士とは違い、その体格や仕草から腕の確かな者達と分かる。しかし、それ以上に凄いのは、その護衛対象である『神殿長』である『バーゲスト』であろう。神殿服に隠れた肉体が、屈強な戦士を想像させ、その目には老人とは思えないほどの覇気に満ちている。
髪は白髪だが、その容姿は未だに老人と言われる程ではない。そんな神殿長は、解放軍に合流した。部屋に案内するのは、解放軍の最高幹部であるセルジだ。
「お、恐れ多くも宗主様におかれまし」
挨拶をするセルジの後ろには、世話係である暗殺者の青年が控えていた。普段は礼儀など考えないセルジでも神殿長には怯えていた。そうしたセルジの挨拶を途中で止める神殿長。
「ふん! 貴様が勝手に動くからわしまでこの国の敵にされたぞ。まぁ、こんな国くらい何時でも潰せるがな……それからわしを呼ぶ時は『神殿長』と呼べ」
そのまま目的の部屋に到着すると、用意してある料理や酒や女に目を向ける。
「どれもこれも今までと比べると見劣りするな」
「も、申し訳ありません! すぐにもっと良い物を用意させます!」
部屋を逃げるように飛び出すセルジを、青年は笑いながら見送った。
「……あれは使えるか?」
バーゲストは、青年に何時ものように軽い感じで質問する。そう、青年とバーゲストは知り合いだった。青年は総本山から派遣されたバーゲストの信頼する部下なのだ。
「まぁ……そこらのごみ神官よりは役に立つかもしれませんね。それよりも総本山は大丈夫なのですか?」
「ごみとは酷いな。ごみとは言え、わしの命を繋ぐ貴重な存在だぞ。200年の時を生きるためには神官は不可欠……それをここまで追い込んだセルジが使えないのでは、わしが困る。……総本山は占拠されたが、もう一つの『総本山である神殿』は無事だ。完璧に隠してあるし、わしでも見つけるのに苦労したのだ」
笑いながら青年と話すバーゲストに、青年はこれまでのいきさつを話した。それを聞いているであろう部屋にいた女性陣は、騎士達に斬り捨てられている。
その場で用意された料理をむさぼるバーゲストは、青年の説明を聞いてセルジの評価を改めた。
「使えんな。平時であれば利用できるが……今のような状況では足手まといだ。これからはわしが指揮を取ろう。先ずは、お前が警戒するレオン? そやつを始末する」
「どうやってです? 私に殺して来い、と言うのは無しにしてくださいよ」
肩をすくめる青年に、笑いながらよく言う、とバーゲストが青年の冗談を許す。
「簡単な事だ……勝利を確信している貴族や王族共に、わしの命令で周辺の国々から神殿騎士を集めてそいつらの領地に攻め込ませる。この戦争を安全と考えている無能どもは、すぐに自分の領地に戻るだろうな……その後は本隊を率いてレオンの領地に進軍すればいい」
バーゲストは、この城にたどり着くまでに色々と情報を集めていた。その過程で分かった事は、レオンが想像以上に厄介である事と、神殿や平民の解放軍がこのままでは負けるという事だ。
だからバーゲストは、最初にレオンの領地と王都には攻撃を仕掛けない事にした。最初に狙うのは他の貴族の支配する主要都市。その方が、敵の誤解を招く可能性もあったからだ。
『何故、レオンと王都だけは無事なのか?』
この疑心暗鬼にかかれば解放軍に有利になる。バーゲストは、疑心暗鬼にかかれば儲けもの、くらいにしか考えていなかった。
そうして丸裸になったレオンの領地に攻め込んで、王都に居る王族を恐怖の底に叩き落とす。他の貴族達が参加しないのであれば、王都の王族の軍隊も防衛が主体となる。
その説明が終わる頃、セルジが新しい料理を使用人達に運ばせて部屋の前に来ていた。
「意外に早いな?」
バーゲストが感心する。彼の中のセルジと言う人物は、使えない勇者から、使用人の出来る勇者に代わっていた。
「まがい物でも勇者様ですからね……後輩の指導でもしたらどうですかバーゲスト様?」
「ふん! 今更勇者になど戻れるか! だが、指導くらいはしてやろう……」
そう、バーゲストは200年以上生きる勇者だ。『神殿』を見つけ出し、その力を利用する事で今までこの世界を好きにしてきた勇者である。
魔王討伐のために王族に利用され使い潰されそうになり、貴族には反乱の主要人物として担がれたりと色々と経験してきた勇者である。その過程で人間と言う生き物に絶望したが、今ではその絶望した人間そのものになっているのだ。
彼の目的は、この世の全てを手に入れる事……神殿と言う組織はそれを可能にした。宗教を利用して世界を支配し、昔に自分を虐げた王族に貴族……そして平民達を苦しめてくれている。
何より、神官達はバーゲストにとって必要不可欠な存在だ。聖属性の魔法の一つに『自分の命と引き換えに、対象の命を救う』と言う魔法がある。これの力でバーゲストは長い時を生きる事が出来ているのだ。
彼にとっての神官とは、自分に命を捧げる食べ物と一緒である。
憎い人間でも、自分を生かしてくれるなら、それだけで他よりも愛着が湧いてくるのだ。
そう……他よりも少しだけ神官は、彼に優遇される。
部屋に入ったセルジは驚いてしまう。部屋は血の海で、そんな場所で料理を食べる神殿長の姿……そして彼の要求にセルジは顔を引きつらせた。
「腹も膨れたから料理はもういい……そこの小僧、わしの相手をしろ」
欲望に忠実な勇者は、自分の勝利を確信していた。レオンが戦争に参加せず、戦力を主要都市に配置しているとも知らないまま、戦争が始まったのだ。
どうしてこうなった? 俺は今、主要都市に送り込んだギルドメンバー達からの報告書を読みながら震えている。豪華な自分専用の仕事部屋には、対面にリィーネとエリアーヌが座って俺の事を不安そうに見ている。
「旦那様、何か問題でも?」
リィーネの質問に、俺は簡単に話をまとめて報告した。
「……他国の神殿騎士や平民が、主要都市に攻め込んできたのをエイミやギルドの連中が撃退した。飛行船……と言っても、神殿の保有している空を飛ぶ船の奴を大量に使って兵士を輸送してきたらしい。それを全て撃退したんだとさ」
その答えにエリアーヌが驚く。
「エイミが活躍したのですか? ならば何故浮かない顔を?」
そう、ここまでの報告書なら俺も困らない。問題は幾つもの報告書が、同じような事を報告してきた事にある。どこの都市にも少なくない攻撃があり、それを撃退している。追い返したのは良い事だよ……ただ、どの報告書にも
『レオン様の予想通りでしたね! まさかここまで読んで行動していたなんて気づきませんでした。あの時気付けなかった自分が恥ずかしいです!』
おいおい、まさか俺が予想してギルドメンバーを配置した事になっているのか? 冗談じゃない! そしてこの後がさらに問題だった。
しばらくして俺は今回のギルドメンバーの活躍を、誰に押し付けるか考えていた時にその報告が届いたのだ。一度リィーネ達を下がらせて、今後の事を考えていたのだが……
息を切らせて俺の部屋に駆け込むリィーネ、それに付き従う息を乱さないエリーサさん。リィーネに至っては少し顔が微笑んでもいた。
「お喜びください旦那様! 今回の他国の神殿騎士や平民の侵攻に、アルトリア以外の国も神殿を討つと正式に発表しました! 撃退した我々に謝罪まで……旦那様?」
どうしてこうなった!!!
次回がこの話の終盤になります。