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殺人クッキー!!!

 今回は頑張った気がする。……一日で仕上げてみました。出来は兎も角、文字数はあるよ。

「あの小僧!!! 私がここまで進めた来た計画を台無しにしただけでなく、神殿の大神官を名乗るなど……いったい私がどれだけ上に金を貢いできたと思っておるのだ!!!」


 移動する馬車の中で、ハースレイは複数の神官を共にセルジのもとに急いでいた。計画通りなら、彼らは第二王子レノールと結託し、アルトリアにてクーデターを起こしていた筈だった。


 神殿の権威の失意と、レオンの名声が日増しに強まる中で、王位に野心を燃やしていたレノールに近づいてアルトリアの神官をまとめる大神官になる計画を立てていたハースレイ。


 彼が大神官を目指す辺りが小物の証拠だろう。それほどの事をするくらいなら、いっそ新たに組織を立ち上げれば良かったのだ。


 それすら失敗して、ハースレイはセルジと合流する事を急いでいた。レノールの病死と言う情報を聞いて、このまま王都に留まれば殺される事は確実……それ以上に拷問にかけられる可能性もある。


「不味い……不味いぞ……このままでは私の地位が! 神殿で築いてきた私の地位と権力が!!!」


 ハースレイはそれを言うと、馬車の中で酒を飲み始める。数台の馬車を引きつれたその一団は、大量の金貨や財宝を満載して、移動にとても不向きだった。


「あの女だ! あのミーナとかいう小娘が、聖剣をセルジに渡すからいかんのだ! 何故私に持ってこない……そうすれば、レオンに恩を売る事もできた。それ以上にレノールの統治に役立って、その見返りは計り知れなかったのだ!」


 聖剣……エクスカリバーの事実を勘違いしている神殿は、あれをレオンの最強の武器と思っていた。レオンが最強なのは、あの聖剣があるおかげ……この勘違いが、神殿の平民の反乱を後押しするきっかけになったのだから、皮肉である。


 レオンは聖剣エクスカリバーを使った事などない。いや、正確には……回復アイテムとしてなら使用して、剣本来の価値を無視していた。


「それにあの小僧……この私に『この聖戦に参加せよ』だと……レオンといい、セルジといい、勇者とは傲慢な者ばかりのようだな。私の偉大さが少しも理解できておらん!」


 ハースレイは、レオンを導いてきたのは自分だと自負していた。何も知らない田舎出身の貴族のガキに、礼儀や神殿の常識を教えてきた。しかし、レオンはその恩も忘れて、私の邪魔ばかりする。……ハースレイがここまで傲慢になったのは、レオンの所為でもある。


 レオンは神殿と距離を取っており、ハースレイの行動に何も言わなかった。エイミの両親を殺した神官の処罰、魔王侵攻時の神官の参加拒否……数えきれないこれらの失態に、レオンは深く問い詰める事をしなかったのだ。


 そしてそれを周りは勘違いして受け止める。


『レオンは神殿に期待していない。それ以上に近付こうともしない……神の使いであるレオンが、今の神殿を否定している?』


 少しづつ崩れた権威と、今回の反乱……その瞬間に神殿はレオンを頼る全ての勢力や、人々の敵になった。


 失態を犯しても責められない新人の神官長が、傲慢になるまで大した時間はかからなかった。黙っていても貢がれてくるお布施に、傷や病で治療をもとめて頼ってくる人々が自分を崇める顔……それら全てが、ハースレイを傲慢にしていった。


「おのれぇ……こうなればセルジに協力して、私の価値を教えてやる! そうだな、先ずはレオンとの交渉でもするか? 奴に今回のしでかした事の重大さを説いてやるとしよう……」


「し、神官長、レオンは現在は王都にいます。王都で反乱鎮圧の指揮を執る事になった、と聞いていますが……」


「ならばあの頭のおかしい姫でもいい! あの可哀想なおつむに、事の重大さが理解できればいいがな……いや、レオンが居なくて逆に良かったかもしれん。あの姫を言い包めて、城塞都市を手に入れて反乱軍の拠点にするか」


「神官長……反乱軍ではなく、解放軍です。アルトリア解放軍、それが神殿の公式の発表です」


「……貴様はもうここで降りろ!」


 先程から冷静にハースレイを指摘していた若い神官が、ハースレイにそう言われると唖然とした。その場にいる複数の神官達も驚いている中で、ハースレイは馬車からその神官を突き落した。


 ……走行中の馬車から放り出された神官は、地面に激しく転がり後方へと姿を消していった。数台の馬車が若い神官を飲み込むと、ハースレイは馬車の扉を閉めてまた酒を飲みだして……


「急げ! それから城塞都市レオンでは呼びにくいから、今後は城塞都市ハースレイと呼べ。直にそうなる」


 静かになる大き目の馬車の中で、神官達は醜く太り酒を浴びるように飲む神官長を恐れていた。






 王都から離れた都市で、神官達の後押しを受けたアルトリア解放軍は都市の城を占拠していた。と言っても、この都市の領主が元々神殿側の協力者で、提供された形に近いのだが……


 それを最初の勝利だ、と騒ぐアルトリア解放軍は浮かれていた。その城の一室……とても豪華な部屋で、セルジと同じ部屋にいるのはミーナだった。


 彼女はレオンの腕輪を神殿関係者であるセルジに渡してしまったのだ。正確には、セルジを通して上に渡る予定であったのに……セルジはそれを拒否して、自分の物にしていた。


「これで最強の勇者の名は、このセルジ様の物ですよ! 他の勇者などおまけに過ぎない……これからはこの勇者セルジが、全ての魔王を殺して伝説となる」


 一人はしゃいでいるセルジを見るミーナ。彼女は後悔していた。レオンから腕輪を奪った事、今までの関係を壊してしまった事……そして今の自分は、レオンの『敵』となってこの場にいるという事に……


「その腕輪はレオンさんの物です……やはりそれは返した方が良いのではないですか?」


「……ふん、今更善人面ですか? もう遅いんですよ。これから戦争になるんです……この聖戦で、世界はセルジの名を知る事になる……最強の勇者と言われた、反逆者であるレオンを討伐した勇者セルジの名をね! これで誰もが馬鹿にしなくなる! 誰もがレオンと比べなくなる!」


 その光景は一人の成人した男が、子供のわがままのように叫びながら笑っては、怒ってを繰り返していた。


「どいつもこいつも、何かあればレオン、レオン……魔王軍の侵攻からどうにか退却してきたのに、それを逃亡だと言って責め立てて、挙句にレオンを東方にやった事まで神殿の所為にする! レオンは自分で東方に行ったと言うのに! そのせいで魔王軍が動いたかもしれないのに!」


 この場でミーナは不思議に思っていた。レオンは東方行を決めたのは、神殿の命令があったからだ。王国にも正式な書類が出されたと記憶している。


 それに、レオンは東方行に消極的だったし、王妃も一時期とは言えレオンがアルトリアから離れる事を危惧していた。しかし、セルジはレオンの独断だと言い切る。


「レオンさんは神殿の指示で東方に向かったのでは?」


「何を言っているんですか? あれは歴代勇者の武具の為に東方へ向かったのですよ。レオンが同行する意味なんかありませんよ」


 ミーナは気付かなかったが、これはハースレイの独断だった。レオンが居てはレノールとの交渉に支障をきたすと判断したのだろう。勘の鋭いレオンを遠ざけて、王妃に注意していれば成功すると考えたハースレイの独断……それが神殿を苦しめてしまったのだ。


 結果的には、ハースレイはレオンの神殿との対立に置いてかなり協力している形となる。


 神殿の権威の失墜、独断による神殿の判断ミスの言及、神殿勢力の派閥争いの激化……ハースレイは知らない間にレオンに貢献していた。それをレオンが聞いても少しも喜ばない所が、ハースレイクォリティー!


 ハースレイさえいなければ、神殿は更に厄介な存在であっただろう。


「それでも……いえ、もう私達はレオンさんの敵でしたね」


「そうですよ! 最早レオンに頼る時代は終わったんです!」


 ミーナはそう言って部屋の窓から外を見る。薄暗い空は、今の気持ちを、そして自分達の未来を暗示しているようにも感じていた。


 そんな空の下で、騒いでいる解放軍の参加者達……商人達が届けてくれた酒や食べ物で宴会を開いていた。


『この聖戦で平民を王族や貴族から解放する!』


 聞こえはいいこの言葉を掲げ、中身のない理想を胸にこれから戦争が始まろうとしていた。ミーナはその場で空に祈る。そして自分も、レオンの手で裁かれる事を受け入れようと考えていた。






 始まりはセイレーンの言葉が原因だった。そのせいで城塞都市レオンの中は、騎士団とギルドの間で激しい対立が始まったのだ。飲み屋で顔を合わせれば、殴り合いのけんかは当たり前! 負ければ上司が出てきて相手を殴り倒すのも当然! 最後にはセイレーンとエイミの一騎打ち!


 その原因の言葉は……


「え、だって父は胸の大きな女性が好きだから、エイミの貧相な胸には興味ないわよ」


 ここから、城塞都市レオンで、姉妹派、エイミ派に分かれての激しい派閥争いが始まったのだ。それを静観して見ていたリィーネは、どちらかと言えばエイミ派だった。


 派閥のトップが幼い少女達である事も問題だが、それ以上にレオンの不在が大きく影響していた。軍事機密にかかわり、すでに3年も拘束されていたレオン。それは起こるべくして起こった争いだった。


「私達はもう成人です。ですからリィーネさん、私達を父の妾にして下さい」


「お断りします。……言いましたよね? 最後は自分で何とかしなさい、と……それに、正妻の私ですら未だにレオン様と……兎に角! 今は認められません! それにレオン様は、仕事で忙しいのですから今は駄目です。」


 セイレーンとラミアが成人した日に、リィーネに告げたこの事実はすぐに城中の話題となる。妾と言う物にあまり詳しくないセイレーンは、何でもいいからレオンと特別な関係になりたかったから言っただけなのだ。


 そう、深い意味はなくただ言っただけでも、周りはそれに大きく反応する。特に未だに成人してないエイミには、それはとても認める事の出来ない問題だった。


 セイレーンとラミアが、城の訓練場で一族を引き連れて移住してきた魔人族相手に訓練している時の事。


 昼になり、そろそろ休憩を仕様とした時に現れたのは、ギルドの凄腕を引き連れたエイミだった。


「ちょっといい? アンタ達……レオン様の妾になりたいとか本気なの? いい加減認めたら、アンタ達はレオン様の娘扱いだって、だからレオン様の女になるのは無理よ」


 上から目線で物を言ってくるエイミは、立派な勇者である。その年には13歳になっており、今では成長して幼さは残るものの歴戦の戦士とも張り合う猛者になっていた。


 しかし、それを聞いた魔人族は


『何を上か目線で言ってんのこの勇者? うちの魔王様達舐めてんの? レオンの物になるのは俺達も嫌だけど、たかが勇者が見下すな!』


 それは態度にも当然現れる。そしてそれを見たギルドメンバー……エイミに従う狂信者達は


『いきなりこの領地に転がり込んだよそ者が、なんで俺達のお(エイミ)を睨んでんの? 何、死にたいのこいつら?』


「お前には関係ないな……それにこれは私とラミアの決定事項だ。今は時期が悪いだけで、その内そうなる」


 汗を拭きながらセイレーンが答える。しかし、エイミには背中を向けたまま……上着を脱いで、身軽な格好になると、騎士団やギルドの男達が凝視するほどの美しさを見せ付けていた。


 ラミアは、そんな姉にタオルと飲み物を渡しながら


「お姉ちゃん、また大きくなったね……絶対に特別な事してるよね?」


 姉の特に成長した一部分……胸を見てそう言った。それを無表情でセイレーンが掴んで、妹相手に努力したとか、牛乳が良いとか説明している。


「な、何よ……そんな物! 私だって大きくなったらそれなりに……」


 しかし、セイレーンはその望みを絶ち切った。


「無理だな。私やラミアは、お前くらいの時にはすでに大きく膨らんでいた。それに、今のままだと成長してもたかが知れている。だからお前は、父には似合わない」


「は、はぁ? 何でそうなるのよ!」


 セイレーンはラミアの髪を整えてやりながら、顔だけエイミに向けて言い放った。


「え、だって父は胸の大きな女性が好きだから、エイミの貧相な胸には興味ないわよ」


 その場の空気が一瞬にして凍りついた。いきなり全員が戦闘態勢に入る中、セイレーンはラミアの髪を梳いているままで、ラミアはそれを受けているだけ……エイミも冷たい笑顔を姉妹に向けているだけだった。


「そう、思えば私達の関係はずっとこうだったわね……レオン様が居た時は我慢してあげていたけど、今はレオン様はいない。これって好都合よね?」


「そうだな。貴様が消えても、不慮の事故として処理する事が出来るな……安心しろ、同じ環境で育ったよしみで墓くらい立ててやる」


「そうだね……リュウが失敗して腐らせた、駄目になった畑にでも埋めてあげようよお姉ちゃん」


 姉妹が髪を整え終わり、その長い銀色の髪を結んでエイミを睨みつける。幼い頃からそうだった……初めて会った時から本気で殺しあった仲なのだ。レオンがいない3年間で、問題が起きなかったのが奇跡と言えよう。


 その場の全員が見守る中、3人が自分の得物を構える。セイレーンが参加しようとした騎士団を手で制すると、エイミも連れてきたバスに目配せをする。するとギルドメンバーは得物をしまい、エイミの後方へと下がる。それに合わせるかのように、騎士団も姉妹の後方に下がる。


 ギルドメンバーでは、姉妹に攻撃できない。これはレオンが手塩にかけて育てた娘であると同時に、姉妹がギルドにとって、狂信者にとっても影響力があるからだ。


 しかし、その姉妹を慕う騎士団は別! エイミに手を出そうものなら、殺すつもりでいるくらいに本気で騎士団を嫌っていた。


 何時の間にか騎士団として我が物顔で都市に住みつき、今までこの都市を守ってきたギルドに挨拶も無し……ここにこの都市の抱える不満が爆発したのだ。


 互いに激しくぶつかり合う勇者と魔王、それを周りから見守るギルドメンバーや騎士団。その別次元ともいえる戦いは、高速でぶつかり合う3人が、持てる技術をすべて出し切っても決着がつかなかった。……昼ご飯を抜いて、夕飯の時間になったからだ。






 それから数か月間は、都市は未だに緊張状態が続いていた。そこで、現状を何とかしようと中間管理職であるエンテとバレルレンが、居酒屋で緊急会議を開いていた。お互いに、堂々と合えば部下や上司から何を言われるか分かったものではない。


 夜にこうして隠れるように会うしかないのだ。……少し高めの居酒屋で、個室を予約して二人は料理と酒を前に挨拶をすると、早速本題に入る。


「本当にすみません。うちのギルドメンバーは血の気が多くて……レオン様が居たら、止めてくれるんですけど」


「い、いや、エンテ殿も相当苦労されているようで、わしも何とかしたいのですが……どうも上司が本気で怒ってしまいまして」


「あ、バレルレンさんの方が年上ですから、呼び捨てで結構ですよ。それにうちの上司も同じですから……」


「ハハハァ……お互いに苦労しますな」


「そうですね」


 そうして理解を深める中間管理職のエンテとバレルレン。そこで今回の解決策として、提案されたのが


『レオンに叱って貰おう』


 である。……正直情けないが、魔王と勇者の喧嘩を止められる者が、都市に居ないから仕方がない。リュウでは三人に瞬殺されるし、駄馬はこちらの指示に従わない。せめてリュウとポチが協力してくれれば、可能性が無きにしも非ずなのだが……


「あのポチはどうしても無理でしょうね……レオン様のいう事しか聞かないし、今は空を飛んで貴重な馬を探し回っていますから……」


 エンテが最近のポチの行動を思い出す。数日姿を消したかと思えば、ユニコーンのメスを大量に連れて帰ってきたり、何時の間にかメスの数が増えていたりとやりたい放題なのだ。これ以上は増やすなとリィーネからも言われていたのにだ!


 しかも、ユニコーンのメスを連れてきた理由が


『ユニコーンの雄って、初物以外に興味の薄いダメダメな奴ばっかりでさ。俺が救わないとユニコーンが滅ぶと思ったんだよ』


 ユニコーンの雄にとっても、本当にいい迷惑だ。その事を思い出し、何故にレオンがポチにこだわるのか不思議でしょうがない二人だった。


「ポチはやりたい放題ですよね……そう言えば、バレルレンさんは結婚してるんですか?」


「はぁ、一応は……これでも元は一族の長でしたから、嫁も数人いました。今は後悔していますけどね……若さに任せて手を出しては抱え込んで……今は生活を維持するだけで精一杯ですよ」


「少し羨ましいですけど、僕の所も同じですかね? 嫁は一人なんですけど、子供が……直に二人目が産まれます」


「おお、それはめでたい!」


「でも、嫁はまだまだ産みたいって……養う事を考えて欲しいですよね。仕事とかこれ以上増やすと、体が持たないって言うか……辛いんです! 一人目だってまだ幼いのに、教育がとか、洋服がとか! どれだけ稼いでも湯水のごとく無くなるんです」


 そう言って涙を流すエンテの肩を、バレルレンはそっと手を置いて慰めてやる。


「今に報われるときが来ますよ」


 ここに二人の友情が誕生した。






 飛行船の制作に取り掛かって3年……急にエンテと騎士団長が泣きついてきた。予定にない突然の訪問に、少々警備している騎士達の視線が痛い。エンテの手紙では、新設した騎士団の団長と3人が顔を出すと書かれてある。


 面会室に顔を出すと、如何にも強そうなおじさんと、成長した娘たちの姿がそこにあった。年に何度かある面会でも成長に驚いてきたが、今回も驚いた。3人ともどんどんと綺麗になっている。


 ついでにエリーサさんも同行していた。流石に男一人だけを3人に同行させるのに、気が引けたのだと思いたい。ピンクの策略だとは、思いたくないだけだけどな。


 変な虫が寄ってきたら、問答無用で斬り捨てよう。もし、リュウが変な目で見ていたら拷問にかけてやる。


「父!」

「お久しぶりです」

「レオン様!」

「ああ、どうも……新設された騎士団の団長を任命されたバレルレンです」


 挨拶を済ませると、近寄ってくる3人の微妙な距離感に気付いた。小さい時から喧嘩した事を隠す時は、必要以上に近寄る3人……エンテの手紙にも書いてあったけど、喧嘩して周りに迷惑をかけていたのは事実だな。


「……お前達、喧嘩したな?」


「……」

「あっ」

「ふん」


 それぞれが俯いたり、何か言おうとしたり、目を逸らしたり……小さい時から少しも変わらない。


 そのまま小言を呟く俺に、セイレーンが食い付いてきた。この子が言い返してくるのは珍しい。


「ち、父がいけないんです! 何時までも私達の事を見てくれないから……折角大きくなったのに」


 確かにこの子達の気持ちも知っている。しかしそれは、両親に対する好きと、恋人に対する好きを理解できていないからだと思うんだ。


「痛っ!」

「あう!」

「っ!」


 そのまま3人に拳骨を与えて、俺はけんかの原因を聞き出す。エンテが泣きつくほどの喧嘩の理由がなんなのか? それが気になったせいでもあるんだけどね。


「……胸? それがどうして喧嘩の原因になるんだよ」


 不思議に思って聞き返すと、黙り込む3人に代わりバレルレル? さんが答える。


「はぁ、大きいとか小さいとかで喧嘩に……レオン、殿? の気を引くためとかで……」


 成程! 確かに大きい方が好みだが、娘となると話は別だ! それに俺は、年上好み!!!


「安心しろ、3人ともリィーネよりも大いきから大丈夫だ! それすなわち、胸だけなら俺の守備範囲だ!」


 安心する3人と、何言ってんのこいつ? みたいな顔をしたバレルレル? さんが、こちらを向いていた。意外にこの人は常識人だから、気が合うかもしれない。


(駄目だ……この勇者の事が理解できん。わしでは、多分一生分かりあえないだろうな)


 しかしここで笑いあう3姉妹と俺にゆっくりと忍び寄る影が、そう……エリーサさんだった。俺と3姉妹がリィーネより大きいとか、好みとか話していたのに割り込んで、バスケットを俺の前に突き出してきた。


「レオン様、そのリィーネ様のクッキーです。今回も採点をお願いします」


 その表情は冷たくて、恐ろしく鋭い瞳をしていた。断る理由もなく、そのままバスケットを受け取ってクッキーを取り出した……が!


「な、何このクッキー!!! 緑色なんだけど!!!」


 手に持ったクッキーが不気味な緑色……あのピンク頭は何考えてんだよ! 未だに満足な腕前でもないのに、創作料理とかにでも手を出したのか? 馬鹿が!!! 素人は基本通りに料理すればいいんだよ! 下手な事するから不味くなるんだ!


「レオン様の体調を気になさり、体にいいとされる薬草を練り込んだクッキーです。どうぞお食べ下さい……まさか残したりされないですよね?」


「え! あっ! そ、それは……後で食べようかな?」


「今! この場でお願いします!!!」


 詰め寄られて、仕方なく一口だけクッキーをかじる。……ああ、物凄く不味い!!! 苦いんだよ! 物凄く苦いんだよ!!!


「……0点」


「そうですか……さぁ、まだまだありますから、遠慮なくお召し上がり下さい」


 …………お、おい。この人怒ってるよね? と言うか……リィーネの奴は、これを予想してクッキーを焼いたな! お、恐ろしい奴!!!


「わ、私とラミアが代わりに!」


「えっ! お、お姉ちゃん? 私もなの?」


「私だって!!!」


 3姉妹が、バスケットのクッキーを取り出して、そのまま口に運び込む……しかし、バスケットの中のクッキーは、未だに大量に残っていた。


「か、辛い!!!」

「ま、不味っ!!! それに凄くネバネバする!!!」

「クヒガ! クヒノナハガ!!!」


 その場でうずくまる3姉妹達……その姿を見て、俺はこれ以上こんな殺人クッキーを食べさせる事をためらった。しかし未だにクッキーは大量に残っているし、エリーサさんの顔は許してくれそうな感じがしない! ……不意に俺はバレルレル? さんと目が合った。







「あれ、バレルレンさん? どうしたんですかそんなに青い顔をして? ほ、本当に大丈夫なんですか! いったい何があったんですか!!!」


 帰還したバレルレンは、エンテとの作戦が上手く行った事を報告しに顔を会わせていた。しかしその顔は、やつれて青くなっていた。

 今回も楽しんで頂けたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうかミーナが救われませんように…
[一言] ハースレイって、レオン少年に度々相談しに行って、そこで得たアドバイスで神官長になった者と解釈していたのに、レオンを裏切るって、アホですなー。久々に登場したら、最低なクズになっていたって。(笑…
感想一覧
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