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何でも、やり過ぎは良くないよね

 今回は商人マーセルの話が中心です。マーセルの話って難しい……

 それは、レオン達が東方へ出発してからしばらくしてからの話である。レオンの留守を守るリィーネは、領地の内政だけをしていればいい訳ではない。周辺の領主達との付き合い、人脈の強化も行っているのだが……ここで問題が起きていた。


「アーキス家の義弟(リート)義妹(メアリス)の結婚話がここまで複雑になるなんて……困りましたね」


 子供のいないレオンと縁戚関係になるのなら、娘を妾に出すか、レオンの弟か妹に嫁ぐか迎えるかしかない。しかし問題は、レオンに近付こうとする貴族の派閥や王族の思惑もあり、中々話がまとまらない事にある。


 リィーネが付き合い始めた周辺の領主の夫人からも、勧めがあったりするのだが……その裏では、バーンズ卿であるオルセス家が動いている事も知っていた。


 それだけならまだしも……外国からも話が出ている。周辺の小国、アステアの大貴族……上げればきりがない。


「はぁ、しばらくは、保留でいいでしょうけど……流石に何時までも、とは行かないわよね」


 そばに控えるメリーサの用意した紅茶を飲みながら、リィーネは次の問題にも取り掛かる。


 『飛行船』の技術提供……これをアステアと商人ギルドから求められているのだ。父の寄越した大臣からも、アルトリアの軍事力に危機感を覚える、と遠回しに伝えてきた。


 商人ギルドは、立ち上げて間もないギルドであるにもかかわらず、飛行船に関しては全員一致で使用許可、または造船許可を求めてきている。


 夫であるレオンは、商人達に大きな借りが幾つもあり、断るのにも苦労しているのだ。現在の商人ギルドのマスターであるマーセルは、レオンとは長い付き合い……だが、ギルドで決定した事に無理に逆らう事も出来ないし、根っからの商人でもある。


 なんだかんだと言いつつ、飛行船による貿易に興味を示していた。


「リィーネ様、ハースレイ神官長からお手紙が届いております。……これで十通目を超えましたね」


「……またなの! あの神官長、この都市を見てからお布施やら神殿建築の催促ばかり……いい加減にして欲しいのだけど」


 受け取った手紙には、挨拶もそこそこにお布施の金額についてや、この年の規模に合う神殿の建築……そして飛行船の技術提供が書かれていた。


 そもそもこの飛行船の技術は、国の管理する国家機密である。侯爵であるレオンがどうこうできる物ではない! しかし、技術を持っているのも事実。ギルド幹部のエンテが理論を構築し、設計や製作にはレオン自身が関わっている。


 実家であるアステア王国、商人ギルド、神殿……これら勢力からの圧力が、アルトリア王国でなく一都市にかかっているのは王妃が裏で動いたからに違いない。


 リィーネは確信していた。普段は仲良く振る舞うが、裏では激しく争っている。血を流す争いではない……利権やら権力と言った物をかけて争っているのだ。


 正直言って、レオンのこれまでの功績に見合った報酬をアルトリアは支払っていなかった。レオン自身が求めなかったのも大きいが、これでは王族の利権が大きくなるばかりでバランスが悪い。


 レオン程の功績を挙げても、報酬を欲しがれば『レオン殿は求めなかった』と言われるだろう。そうしたら引き下がるしかない。それでは貴族達や功績を挙げた者達の不満が溜まってしまう。


 そこを上手く突いて、侯爵の地位と領地の確保をしてきた。きっとこれからもこき使われるのだ……それを考えたら安いくらいである。


「いっそ神殿への不満が爆発しないかしら? ……あら、そうしたらうちのギルドやセイレーンちゃん達が大喜びしそうね。ついでに独立かしら?」


「……誰かに聞かれたら大変ですよリィーネ様。それにもうじき……」


 エリーサが周りの気配を確認し、安全と判断したのか極秘である計画の話を始める。レオンが昔から危惧していた、平民勇者を抱えた平民達の反乱……それがすぐそこまで迫っていた。


「レオン様が、ここまで準備を進めていたのです。失敗はできませんね……」


 リィーネが、ハースレイの手紙を引き裂きながら返答する。そう、すでに主要人物達とは決定事項である『神殿の改革』が動き出しているのだ。レオンが今の現状を予想したのか、神殿と距離を取り、組織を築き上げ、手塩にかけて育て上げた3姉妹とオマケのリュウ……


 この状況を理解したリィーネですら勘違いしていた。


『レオンはこの日が来る事を予想し、対策を練っていた』


 そればかりか、平民側の勇者達には不利な要素が多すぎる。レオンの行動と、今までの優遇処置に他の村や町から不満の声が出ていたのだ。


 平民出身の勇者達の住んでいる村や町には、税の免除や養育費として資金が渡されている。これは神殿の神官達の入れ知恵でもあった。……向こうも王族や貴族に刃向うつもりだったのだろう。そのために平民出身の勇者達を抱え込もうと色々と便宜を図っていたようだが……貴族達は、その事に感謝していた。


 本来は手を取り合う仲間に、亀裂を自ら作っていた事に……


「こうまで負ける事が難しい戦もあるのですね。……税を無くせば、その分を他から取り立てるのは当然であり必然……養育費として資金の提供までするのですから、他の村や町はさぞ不満だったでしょうね」


 王国側は準備が完了しているのだ。危険な村や町……そして裏切るであろう貴族達や商人に目星をつけていた。


「はい。……ギルドから情報を知った領民達は、不満を募らせている様子だとか……それに、勇者達の教育が偏った物になっております」


 リィーネは、差し出された書類を読んでいく。そうしてその書類を置く頃には、真剣な表情をしていた。


「……民主主義ですか……リュウ殿の発案でしたね? 監視させていますが、本当にこれを考えた本人なのかしら? それほど利口な感じではないのに……」


 教育、思想……その他諸々を伝えてしまったリュウの所為で、平民を中心とした組織が神殿の後押しで誕生していたのだ。しかし……


「問題が多いようです。基本的な形はあるものの、中身がないと言うか……」


 エリーサがリィーネに説明を続ける。そう、リュウは民主主義と言う王政に代わる政治体系を伝えたが、どのように政治を行うか? までは説明していない。正直、リュウ自身が賢くないのだから説明できていないし、神殿も中身に興味などなかった。


 要は王政に代わる物があればいいのだ。自分達が、より良い環境であれば文句などない。


 しかし、その思想……それが王妃の逆鱗に触れている。それを伝えたリュウを、一時は暗殺までしようとした人物だ。今回の反乱は徹底的に潰すつもりであろう。


 リィーネですら敵に少し同情してしまうほどに……


「次から次へと問題ばかり……本当に困るわね」


 リィーネが問題の山積みに悩んでいると、専属メイドのエリーサが更に問題を告げてくる。


「所で、レオン様の新しい妾の候補者達の件は如何致しましょう?」


「却下よ!」


 その問題だけには即答するリィーネであった。






 商人ギルドの会議場では、レオンが神殿騎士を殴った時から動きが活発になっていた。東方より戻ってすぐに、神官の勇者であるセルジの命令を無視し、捕えに来た神殿騎士を返り討ち……レオンが神殿との決別を決めたと思い込んでいたのだ。


「さて、今回の件で我々はどう動くべきですかな?」


 会議場の広い部屋には、多くのアルトリアを代表する商人達が席に着いている。その中でも、青年と言える若い商人がその場の進行役をしていた。


「神殿か、それともアルトリアか……普通に考えれば、神殿だな。平民に反乱を起こさせて、それを利用して王族を打倒する。今までため込んだ資金をばらまいて貰えれば、我々は大いに潤う」


 数名の商人達が、空気を読めない発言を繰り返す。そこで、ギルドマスターであるマーセルは、特別豪華な椅子に深く座り今後の事を考えていた。


 かなり深い所まで関わっている商人達だけは知っている事だが、この反乱……もうすでに負けが決まっているのだ。そんな所に投資する訳にはいかないし、それを理由に反乱鎮圧後に国から圧力をかけられるのも御免だ。


 この会議も、情報不足の商人達と意見のすり合わせを目的としている。下手に裏切って、王妃やリィーネの耳に入るのだけは商人ギルドにとって最悪と言える。


 しかし、進行役をしている青年は、未だに状況が理解できていなかった。


「今です! 今この時が時代の転換期……新しい時代に、我々商人ギルドが立ち上がらなくてどうします!」


 頭を抱える幹部達……普段は商売と言う戦争を繰り返す敵であるが、今回ばかりは協力する事で意見が一致している。知識と経験……そして才能で今まで生き抜いてきた男達は、未だ若造である進行役に冷たい視線を送る。


「宜しいかな? 平民達の反乱が成功する確率は高いのか? それに貴族や王族を相手にするという事は、レオン殿が出てくるという事。正直勝てるとは思えんがな」


 一人の幹部の発言に、青年は答える。


「戦争は一人ではできません。最強と言われているレオンですが、所詮は騎士の一人……それに比べ、平民側には神殿も協力している。兵の数と、王政の弾圧からの解放という今までにない士気! これに我々の資金提供があれば、この反乱は成功します!」


 普段温厚なマーセルの目つきが鋭くなる。長い付き合いのレオンを馬鹿にされた気分なのだろう……それと同時に、情報を手に入れている商人達は青年を馬鹿にしていた。……全員が、顔に出さないのが凄い事だ。


「ギルドマスターはレオンと個人的な付き合いがあるでしょうが、今回はギルドの意見を尊重して頂きますよ」


 青年がマーセルに余裕の表情を見せてくる。裏の事情を知る者にとって、この青年の行動は笑うのを通り越して、ギルド全体の不利益にならないか冷や冷やしていた。


 変な行動を起こす事だけは、避けなければならない。


「……茶番だな。もういいでしょう……ギルドマスター、全てを話しては如何か? この反乱が、何年も前から王国側によって計画されてきた物だと。王妃様もこれを機に反抗的な貴族、組織の力を削ぐつもりです」


「ば、馬鹿な! 我々にはそんな情報……」


「手に入れられないのが貴様の限界だよ小僧……それから、この場にも神殿の協力者が紛れ込んでいるな。我々はそれすら利用してレオン殿に協力するとしよう」


 マーセルが立ち上がると、それを引き金に流れ込むギルドメンバー……冒険者ギルドの凄腕達だった。あらかじめ目星をつけていた人物達を素早く捕えていく。そんな状況の中で、商人達はレオンや王国に提供する資金や物資の話を歩きながら決めていく。


「それにしても、最近の若い商人にも困りましたな。金を稼ぐだけが上手ければいい、と勘違いしている」


「確かに稼ぐ事が重要ではありますけどね。……でも、今回のような終わり方を避ける事も重要ですね」


 先程マーセルに口出しした青年が、眼鏡をかけながら廊下を歩く。どんな組織でも重要なのは、情報と行動……無暗に動くのでなく、情報をもとに行動する。


 それを実践していれば、今回は王国側に付くのは当然と言える。


「あの若いのは、今回の犠牲者……生贄と言った所でしょうかね? それにしても商人は恐ろしい。最初から分かっていたのに、今回の件を利用して目障りな者を処分するんですから……しかし」


 歩いていた商人の一団に近付くのは、仮面を着けた冒険者ギルドのメンバーが数名。


 彼らは少なからず返り血を浴びていた。……ギルドで『掃除屋』と言われる精鋭のメンバーが、商人に殺気を放つ。彼らはギルド内で、『狂信者』とも言われるほどにレオンを崇拝していた。


 黒いマントの下に握られた得物が、不気味な光を放つ。


 無法者の多い冒険者ギルドにおいて、ルールを破った者、裏切った者、レオンを貶した者を葬ってきた。エイミが管理して、リィーネが動かしているギルドの裏の顔。


「もしも、損得勘定でレオン様を裏切るなら……今度は、あなた方が我々の目標だ」


 それだけ告げて、その場から消えるように姿を消したギルドメンバー。


「……レオン殿は、恐ろしい連中を飼っておられますな」


 マーセル達は、そう言ってまた廊下を歩きだす。






「狂信者って怖いよな」


「急にどうしたんですかレオンさん?」


 俺は今、捕えられた牢屋の中で一階の馬小屋から通路に穴をぶち空け、そこから首を出す駄馬と向かい側の牢屋にいるリュウを相手に会話している。


 この牢屋に入れられた理由が、神殿騎士達を殴り飛ばした、と言う馬鹿な事をしてしまったからなのだ。それを考えると、俺達は神への反逆者!


 不味いよな……どれくらい不味いかと言うと、今の俺は神殿と言う組織の敵であるくらいにヤバイ。ハッキリ言ってこの世界の神殿と言う組織は、真っ黒だ! きっと暗殺するべきリストに俺の名前が書かれたに違いない。


「いや、やり過ぎたなぁ……って思っていた所なんだけどさ。神殿から狂信的な信者が、俺の命を狙って来るかもしれないな」


『…………おい、狂信者ってアレだろ? お前を神の使いとか勘違いしている、ギルドの仮装集団の事だろ』


 床から首を出している駄馬が、俺を見てそんな事を言ってくる。仮装集団? この世界に来てから仮装をしているのは祭りの大道芸人くらいか、演劇の役者しか見た事がない。


 それよりも『神の使い』って俺の事?


「そうですね……あの人達は、滅茶苦茶怖いですね。俺なんか、レオンさんになれなれしいってだけで説教されましたよ!」


 なんだその程度か、それなら心配する事もないな。もしも俺のためとか言って、殺戮を繰り返すイカれた集団だったらゾッとする。


『こいつが、そんなに大層な者かよ! 少し考えれば分かるのにな……真に崇められるべきは、この俺様だ!!! フギャ! 何しやがるこの屑野郎!!!』


「その首切り落とすぞ糞駄馬!!! でも、狂信者っていうのはもっとこう……怖い連中の事だからな。命知らずのそんな連中に、命を狙われるかと思うと恐ろしいって話だよ」


 こいつ呼ばわりした駄馬に対して、俺は手元にあった木製のフォークを投擲した。それは見事に駄馬の米神に命中して、少なくない血が流れている。


「レオンさん? だからツックンの言っている仮装集団が、レオンさんの狂信者ですよ。知ってますか……それを率いているのがエイミちゃんです。エイミちゃんは裏の最高幹部ですよ」


 何言ってんのこいつ? 説教するくらいでは狂信者とか言わねーよ。それになに? 最高幹部は、俺がギルドを丸投げした今のギルドマスターだろうが!


 それにエイミは、多少ズレていても可愛い娘……そんな危険な連中を率いる訳がない! 少し黒い所もあるけど、あのオカマのスタイリストに用意させた服にはしゃいでいる女の子だぞ?


『マジで怖いよな! 特にあの3人とピンク……ああ、思い出すのも恐ろしい!!!』


 急に駄馬が青くなって、一階に引っ込んでしまった。血を流し過ぎたのかな?


「あの時の事は今でも覚えています……本当に酷い事件でした。ツックンも悪いけど、それ以上に城塞都市レオンで逆らってはいけない人物が誰か、理解できた瞬間でもありましたけどね」


 いきなり意味深げに俯いて、頭を左右に振るリュウ。何か酷い事件でもあったのだろうか? でも、それなら俺が報告を受けていないのはおかしいし……


「何があったんだよ」


 そう言うと、リュウは耳を塞いで部屋の隅でうずくまった。微妙に震えているようにも見える。それに、一階から駄馬の念仏にも聞こえる声が聞こえてくるのだ。


『ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……もういい子にするから許して!!!』


 …………絶対に何かあったのだろうが、俺には何が何だかさっぱり分からない。それにしても、通路の床に開いた穴から不気味な駄馬の声がするのも、ちょっとしたホラーだな。


「お、おい! 何があったんだ! すぐに話せ!」


『断る!』

「嫌です!」


 どうしよう……凄く気になる!

 感想で頂いたマーセルの話や、リートやメアリスの事も少し入れてみました。難しいですね策謀の話とか……


 感想では他にもエイミやエンテ、リートやメアリスにハースレイ、ミーナの話を期待されているようなので、次回に書いてみようと思います。


 全員は無理かな…… 

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