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上の人も苦労してるよ……たぶんね

 今回は外伝的な物にしてみました。話的には進みがないですね。


 それでも楽しんで頂けたら幸いです。

 レオンがアルトリアに帰還して、そこから数日後の出来事だ。魔王軍の拠点となったオセーンの城で、アゼルを始めた魔王軍の幹部達が集まっていった。


「ふざけやがって! レオンの野郎……どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ!」


 座っていた椅子から立ち上がり、机の上の書類やら置物やらに八つ当たりをするアゼル。豪華なその部屋には、幹部以外にも魔物達が並んでいた。報告をする魔物達は、自分達が告げる内容が最悪の物だと理解もしている。


『勇者レオンにより、魔王が討伐』


 そればかりか、農民に倒された魔王の報告までしなければならないこの状況……魔物達は、酷く怯えている。


 獣人の剣士崩れの魔王が、農民に負けた事は魔王軍にとってとても重要な問題だった。勇者でなくとも魔王を倒せると言う事実が、人間に知られる事は避けられない事も知らせる必要もあった。


 逃げ延びた村の住人達が、アルトリアのレオンの領地に逃げ延びだしたのだ。


「あんな空飛ぶクラゲを、どうやって倒しやがった? あれを動かすのに、俺がどれだけ苦労したと思っていやがる!!!」


 意思疎通の難しい魔王を相手に、交渉を繰り返して戦争に駆り出せば……結果はレオンにより討伐。普通に拠点の攻略さえしていれば、魔王軍にとって最高の戦力だった筈だ。


 それを思って、アゼルは頭を抱える。魔物の被害も相当に酷い。元々が、軍を組織するには向かない者が多すぎた。それに、期待していた魔人族達が参加を渋っているのだ。今では連絡すら取れていない。


 ユアに交渉を任せたが……それが問題だったかも知れない。基本的に話さないユアだが、あれでも魔人族の魔王! きっとこちらに従うと思っていた。しかし、結果はまさかの参加拒否。


「何でこうも上手く行かない!!!」


 魔王アゼルのレオンへの憎しみは、募るばかりだ。最早、レオンの名前を聞くと恐れる魔物達まで現れている。最強の勇者……この称号に、魔王達も余裕をなくしていた。


 アルトリアに攻める必要は無いが……向こうから攻めてこないか? が彼らにとって心配の種なのだ。


「神殿の連中に乗せられて、そのまま来ないとも限らない。防衛にはもっと魔物を回せないのか?」


 近くに居たフードを深くかぶった魔物は、その言葉に首を横に振って応えた。そして理由を説明する。


「総本山の捜索に時間がかかっています。これ以上の防衛への魔物の投入は、更に時間がかかる事になりますから……」


 総本山の位置の特定すら出来ていない。……レオンが戻ってきたのだから、人間達の反撃が開始されるかもしれない。最早、追い詰められている感じすらしていた。


「……レオンの野郎……どこまで俺の邪魔をするつもりなんだ!!!」


 何時の間にか戻ったと思えば、こちらの拠点攻略の要を倒し、こちらの戦意まで削ってしまう。アゼルは、最強と言う言葉に深く考えた。そう……深く考えすぎた。


「こちらからは絶対に攻め込むな! 時間さえ稼げばいいんだ……これ以上、レオンに手を出さなければいいだけだ!」


 状況だけ考えれば、内乱の起こっているアルトリアを攻めて混乱させる事もできる。しかしアゼルは、考えすぎて侵略をしなかった。


 その言葉に従う魔王軍の幹部達……ここに、魔王軍のアルトリア侵攻は無くなった。






 これは、レオンが軍事機密にかかわって一年もしない時の出来事だ。魔人族であるレテーネは、自分たち一族の魔王二人との連絡役と同時に、レオンの監視も任務としていた。しかし、軍事機密にかかわるレオンに近付けば、エンテと離れる事になる。


 エンテはすでに、ギルドでも魔法使いとして指折りの実力者であると同時に、幹部になる話まで出ている。そんな大事な人材を、遊ばせておく余裕のないギルド……レテーネは悩んでいた。


「はぁ……ただでさえ連絡役を代われって言われているのに、これを拒否したら確実に交代させられる!!! 折角いい感じになっていると言うのに!!!」


 連絡役と言う事で、監視もされてないのもいい事に自由にしてきたレテーネ。報告する書類にも適当に済ませていた事も交代の原因になっていた。


 彼女の報告書……と言うか自分の自慢話を書き連ねた書類は、他の一族の女性騎士達に酷く不人気だった。


『人間の男ってかなり優しいんですよ! この前もデートとか誘われたんですけど……』


『魔王様たちは今日も元気です』


『告白されたんですけど!!! どうしましょう先輩方?』


 これを同じ魔人族の女性騎士であるレテーネの上司が読んでいるのだが、彼女は厳しい魔人族の女性騎士を束ねる立場として日々努力していた。……そのせいか、彼氏が今までいなかった。


「あの小娘!!! 何“告白されたんですけど” だ!!! 私なんか……私なんか声もかけられた事ないのに!!!」


 報告書を握り潰す上司が、涙を流し机に顔を埋める。それを周りの女性騎士達も知る事になれば……


『連絡役は交代するべき!』


 そうして志願する女性騎士達の増える事、増える事……


「最悪だわ……もう、指輪まで貰ったのに!!!」


 その叫びに、応えて現れる1人の少女! レテーネの部屋の扉を破壊して現れた彼女は


「その悩み、私が解決してあげましょう!!!」


 銀色の髪と青い瞳が特徴のラミア。彼女が凄い笑顔でその場に立っていた。……レテーネは嫌な予感がしていた。ここ数年でラミアの性格を理解したレテーネ。


 そう、ラミアは酷く悪戯好きなのだ。レオンに対しては猫をかぶる姉妹だが、それ以外は隠そうともしない。一度嵌められて、エンテの前で裸エプロン姿になってしまった。


 レオンの前で、裸エプロンになると言うセイレーンを止めようとしたレテーネ。そこにラミアが割り込んだのだ。


『一度レテーネに試して貰って、見せて貰おうよ。そうしたら姉さんも冷静に考えられるでしょう……だから、さっさと脱いで姉さんと私に見せろ』


 姉に対しては諭すように、レテーネには酷く命令口調で……そしてそれを実行したら


「ラミアちゃん、頼まれていたお菓子持ってきたよ。いい加減に僕をパシリ扱いするの止めてね……これでもギルドでは幹部候補なんだし……さ?」


 扉を開けて入ってきたエンテに、裸エプロンを見られたレテーネ。……後で確認したら、セイレーンに裸エプロンを教えたのもラミアだと知った。完全に嵌められたのだ。


 あの時は本当に苦労した。それでも関係が近付いたからよかったのだが、ラミアに任せると本当に困るのだ。


「あ、いや……結構です」


「……おい。私が助けてやるって言ってんだよ。素直に従うのがお前の役目だろう? それとも何か……」


 いきなり笑顔から、無表情となるラミアにレテーネが恐怖する。魔王の資質と、最強のレオンに鍛え上げられたラミアは、すでに自分を超えた存在なのだ。


 戦えば瞬殺される! これがレテーネとラミアの実力差である。


「や、やっぱりお願いしたいです。いえ、お願いします!」


 そうして事情を説明するレテーネ。それを詳しく聞いたラミアは、何か企んだ笑みを作っていた。ああ、きっと何か思いついたんだろう……そう考えたレテーネは、最後の希望に望みを託す。


「ラミア様、セイレーン様は一緒ではないのですか?」


「ああ、姉さんなら父と離れて暮らすのがショック過ぎて、気が抜けているわ。だから詰まんなくてアンタをからかいに……助けに来てあげたのよ」


 本音を聞いたレテーネは、酷く落ち込んだし、最後の希望であるセイレーンが使い物にならないと知って諦めた。そう、セイレーンはレオンから離れて暮らすのは耐えられるが、年に何度かある面会の後には気が抜けた状態が何日も続くのだ。


「先ずは手紙を書いてあげるわ……魔人族の頭は、バルバドスだったけ? 」


「バレルレン様です。それよりもいきなり王に報告ですか!」


 そのままレテーネの部屋で手紙を書き始めるラミア。彼女には思惑があった。


『このままだと、ギルドのほとんどがエイミの傘下に入ってしまう。それなら人材をギルドに引き入れば……私達の影響力も増すはず!』


 三姉妹と言われているが、レオンの前以外ではギルドすら巻き込んで相当に激しくぶつかり合う彼女達。その中でも、エイミのギルドへの影響力は大きい。


 ギルド立ち上げ時から、受付の仕事をしながら影響力を強めていた。バスと言う凄腕の剣士を始め、強者の集うエイミの派閥に対抗する手段を探していたのだ。


 そして手紙には


『取りあえず挨拶に来いよ。何時までもこっちから出向くと思っているんだったら……殺すぞ』


「これでいいかな?」


「良くありませんよ!!! なんで脅してるんですか? 馬鹿なんですか? 相手は魔人族最強のバレルレン様……ヒッ!!!」


 レテーネに振り向いたラミアの顔は、酷く怒っていた。そう、最強と言う言葉に敏感なのだ。


「……いいか、最強は父だけだ。魔人族なんて弱小の集団の頭ってだけで名乗っていい物じゃないんだよ! それからレテーネ……今、私の事『馬鹿』って言ったな?」


 顔を青くして固まるレテーネ。そのままレテーネに近づくラミアは、くらい微笑みをレテーネに向ける。


「お前にも手紙を女性騎士に書いて貰うか? まさか……嫌とか言わないよね?」


「か、書かせて頂きます!!!」






 魔人族の王であるバレルレン……彼は悩んでいた。一枚の書きなぐられた手紙には、魔王であるラミアから呼び出しを受けた。非常に困っている。


 更に悪い事に、女性騎士のほとんどが会いに行こうと主張しているのだ。魂胆が見え見えなのだ! レテーネの甘言に騙されて、男をあさりに行こうとする女性騎士達!


「最悪だ……魔人族の魔王は、どうしてこうまで……魔王軍の魔王であるユア様は無口、勇者の所にいる魔王様達は横暴……誰か助けてくれよ!!!」


 悩む魔人族の王……この後、一族全員でレオンの領地に移り住む事になる。魔王軍への参加は保留とだけ報告して、そのまま勇者の元へ……姉妹の元へ下った。


 それの受け入れを引き受けたのは、当然すべてを仕切る領地の管理者であるリィーネ。


「まぁ、優秀な方々ですね。そうですね……いっそギルドで働いて貰うよりも、兵士や騎士になって貰いましょうか!」


 優秀である騎士達を手に入れたリィーネは、彼らを中心に騎士団や兵士を編成した。これが後にレオンの名声を更に大きくする事になるのだが、それはまた違う話。


 こうしてセイレーンとラミアは、騎士団に強い影響力を持つ事になる。


「良くやったわねラミア!」


「凄いでしょう! だからご褒美に今日のデザート全部頂戴!」


「……半分にしてよ」


 セイレーンに報告したラミアは、こうしてその日のデザートを『全て』食べる事に成功した。この事をバレルレンが知ればきっと涙するだろう。

 次は誰の話が良いかな? そんな感じで次も外伝になります。

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