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脱走はしません

 息抜きするとアイデア浮かぶんですね……ただ、設定を忘れそう。


 そんな感じですが、読んで頂けたら幸いです。

 そこはとても小さな建物だった。いや、わざわざ作られた事を考えると、小さいとも言えないかも知れない。二階建てのその建物で、今日も俺は……俺達は雑談している。


「その時のメッサのメイド服がまた似合っていて……俺は本当に幸せでした!」


 今はリュウが、自分専属のメイドについて熱く語っている。この前までは、一階の特注の馬小屋から二階の通路に穴を空けてそこから首を出す駄馬が、自分のハーレムを自慢していた。


 この建物は、俺達を閉じ込める目的で作られたらしい。どこにそんな金と時間があったのか、神殿の関係者である牢屋の番人に聞いても返事をしない。つまらないからこうして雑談しているという訳だ。


「あの子の私服姿を見た事ないけど……まさかお前のせいか?」


 リュウの意見に、俺は疑問を持っている。メッサに色々と新しいメイド服を与えているが、一度もそれ以外の服を見た事がないのだ。勿論、メイド服をプレゼントしているのはリュウ……


「はい! メッサにメイド服以外を着る事を禁止しました。だって私服姿はちょっと……」


『あ~あ、駄目だこいつ。お前……メッサに嫌われてるんじゃないか』


 俺も駄馬と同じ意見だ。年頃の女の子に、メイド服しか着せない主人……最低にもほどがある。


「なっ! そ、そんな事ないです……よね?」


 すでに疑問形なのが証拠だろう。


「だからお前は駄目なんだよ。よく考えてみろ……メッサが、お前の事を好きになる理由が存在しないだろうが! その上、私服禁止とか酷過ぎるな」


『全くだ。最低だな』


 俺と駄馬の意見に、黙り込んで考えるリュウ。そのまま顔を青くして、部屋の隅で落ち込んでしまった。それからしばらくしたら、すすり泣きだしてウザくてしょうがない。


「ハァ……今度面会に来た時でも謝って許して貰えよ。なんなら告白しろ! それでメッサの気持ちも分かるしな」


 まぁ、断られる事が決まっている気もするけどね。


「そうですね! 俺、今度告白します!」


『お前も最低な奴だな……』


 リュウを炊きつけた俺に、駄馬がこちらを向いてそんな事を言ってきた。


「……言っておくぞ。この中で一番最低なのは、お前だよ駄馬」


 王都に連行され、牢屋に入れられてからすでに二週間……のんびりと過ごしています。王都にいると、いろんな人が面会に来るから結構飽きないし、お土産の食べ物もおいしい。神殿側と王国側で俺の処遇について会議しているらしいから、まだしばらくはこのままだろう。


 神殿騎士なんか殴るもんじゃないね。






 王都で開かれた会議にて、勇者レオンに対する処分を決定しようとする神官達。それに異論を唱えるアルトリア王国とで、会議は難航していた。


「魔王達が軍を組織し、すぐそこまで迫っている。そんな状態で、レオン殿を処分するなど考えられんな」


 アルトリア王国の王妃は、王城の会議室で神官達と向かい合って座っている。横に並んで座る大臣や将軍に騎士団長……彼らも顔付が厳しい。向かい合って座る神官達を睨んでいる。


「レオンは私の命令を無視しました。それに、レオンなどいなくても魔王軍など蹴散らして見せますよ。魔王を数匹倒したくらいで調子に乗るレオンには、異端認定が妥当でしょう」


 神官達の座るテーブルの中央には、セルジがいる。セルジは、自信満々にレオン不要を唱えると、処分として異端認定を進めてくる。処刑を行えない神殿の最高の罰である。


「そう言われても、実績もない勇者や、逃げ出した者に頼る事などできませんしな。……セルジ殿も神殿騎士の方々も、この王都に逃げ延びた事をお忘れか?」


 王妃の横に座る大臣が、堂々と神殿側を挑発する。その態度と言葉に、複数の神官から不敬だと声が挙がるが……王国側は動じない。


 これまでに、王都では神殿の関係者により相当の被害が出ているのだ。無銭飲食に、お布施と称した強盗……王都の住人達や、貴族達も限界に来ていた。


「落ち着きなさいみなさん。どう考えても、レオン殿の行為は軽率でした。これは事実ですから、緊急事態だからと罪を許すのは間違いでもあります」


 その場で自分の存在を主張するハースレイ。彼はこの機会を利用して、自分は大神官になろうと画策していた。そして行動も開始している。協力者も確保して、彼は邪魔な存在であるレオンを抑える事を考えていた。


「レオン殿に世話になりながら、随分と冷たい物言いですね神官長。ですが、我々はレオン殿が正しいと考えています。オセーンの騎士の報告と現場の状況から、レオン殿が討伐した魔王の脅威はこれまでと比べ物にならない。セルジ殿の意見に従っていれば、我が国は相当の被害が出ていましたね」


 王妃の言葉にセルジは動じない。そればかりか余裕すら感じられる。


「レオンの勢いもこれまでです。その証拠に見なさい!」


 セルジは、会議室で右手を天井にかざして一本の剣を出現させた。……それはエクスカリバーだった。


「これが証拠ですよ! レオンの奥の手であるこの『聖剣』が、今は僕の手の中にある。これは僕こそが真の勇者であると言う紛れもない証拠!」


 神官達がその言葉に、頷いたり賞賛する中で王国側は……


「貴様! この場には王族であられる王妃様と……陛下がおられるのだぞ! それなのに武器を隠し持つなどと……この者を捕えよ!」


 会議室になだれ込む騎士達は、王族に重臣を守るように神官達との間に入り、神官達を取り囲んだ。手には武器を所持している。


「ぶ、無礼だぞ! 僕は真の勇者である証拠を……」


 しかし騎士達はその言葉に鼻で笑う。セルジの前に立つ者……彼も勇者である。ヘンリー・オルセスは、現在騎士団に所属していた。


「真の勇者は、最強であられるレオン殿ただ一人! 貴様など飾りにも劣るわ!」


 その場で神官達と王国側が激しく口論し始める。


「異端だ! 貴様ら全員を異端者に認定する!」

「貴様らこそ神託を悪用する異端者だろうに!」

「神殿に逆らう愚か者共が……」


 ハースレイは、このままでは自分の計画が狂うと慌てだす。しかし、セルジにはまだ余裕があった。


「長きに渡る貴族の傲慢も、ここまでくれば度し難い。……良いでしょう。我々は王都を出て独自に行動させて頂きます」


 その場から堂々と出ていくセルジに、神官達もついて行く。騎士達が行く手を阻もうとするも、王妃がそれを止める。騎士達が不満そうにする中で、王妃だけはこれから起こる事を予期していた。


 城塞都市レオンの、実質的な最高権力者であるリィーネとの間で確認していた事だ。


『平民勇者による反乱』


 すでに神官達が裏で暗躍し、平民出身の勇者達を味方にしている事も知っていた。だが、王妃もリィーネもこれを放置してきた。最強であるレオンが貴族側である事と、そのレオンは大の神殿嫌いで有名である。すでにレオンを慕う者達にとって、神殿は悪なのだ。


「アーキス夫人が王都に来ている時で良かった。すぐに呼び出して、レオン殿も開放しなさい」


 王妃とリィーネの意見は、これから起こる魔王軍との決戦で、神殿の動きと戦後の勇者の扱いをどうするか? で悩んでいた。隣国への侵攻も時期を逃し、国内で反乱の準備を進める神殿と平民達。


 王妃が指示を出す中で、大臣達や将軍がすでに行動を開始している。会議室から、王族に簡単に礼をして退出したのだ。騎士団長であるルーゲルは、王族の護衛として控えている。


「ついに動きますか……分かっていたとは言え、何とも言えませんな」


 そんなルーゲルの言葉に王妃は


「時期が来たのです。レオン殿の行動と神殿の対応で、不満は爆発したのだから……幼き頃より、ここまで予想して準備をしていたレオン殿には感謝してもしきれないわね」


 ……レオンが神殿嫌いと言われる理由は、ギルドの幹部が流した噂の所為である。ある幹部が、ゼタの村でのレオンの神官に対する言動を酒の席で喋った。それを聞いたギルドメンバーは、違う場所での仕事時に違うメンバーに喋る。


 それを繰り返し、ついでにゼタの村での神官達の行動も知れ渡れば……ギルドメンバーは基本的に神殿嫌いとなる。


 おまけに、ギルドの裏の幹部である3人の娘達が、神殿を憎むほどに嫌っていればその下の連中も神殿嫌いになる。色々な条件が重なり、レオンの知らない所で神殿嫌いと噂されるようになったのだ。


 それからレオンは、ギルドを起こした理由を勘違いされている。


『平民から武器を取り上げるために、ギルドを立ち上げた』


 これが国内や他国の考えだ。ノリと勢いで、勇者には酒場と宿屋に仲間だろう! そんな浅はかな考えだと誰も気づかないし、信じていない。実際に魔物や賊の討伐は、今ではギルドの仕事と言ってもいい。平民の武器を購入する金は、ギルドに流れているし、平民達の武力を下げている。


「勇者リュウは、レオン殿に大分懐いていますね。あれをこちらに引き込んだ事も評価できます」


 王妃のリュウに対する意見に、ルーゲルも答える。


「セルジがリュウ殿を偽物扱いしたのは、神殿に従わずにこちらに味方するからですね。一時期は、平民出の勇者達の代表格でしたからな」


 同じ転生者だから仲良くしている、と誰も思わない。リュウがどんなにアホでも、その存在に価値があるのだ。例え、不死者により担がれていたとしても、平民達の希望だったのだから……


「ギルドからの情報で、どこで行動を起こすか、いつ決起すかも分かっています。本当に恐ろしい方ですねレオン殿は……あの時の坊やが、ここまでの怪物だと予想しませんでしたよ」


「商人達も協力しています。神官達に流れる物資も確認済みですから……紛れ込むのも簡単ですな」


 王妃は、先程の余裕であったセルジを憐れむ。それと同時に、別で動いているハースレイを忌々しく思っていた。


「セルジは判断を間違えました。レオン殿を相手にする事で、自分の間違いにも気づくでしょう。……それと、ハースレイの協力者は分かりましたか?」


 ルーゲルは少し間をおいて答える。


「……予想通りレノール様と接触しておりました。レノール様の味方の振りをした、こちらの協力者達からも確認しました。王妃様……如何致します?」


「良い事ばかりではありませんね。セルジが単純にこちらの思惑通りに動けば、息子が思惑と外れてクーデターを計画する……せめて、命だけは助けなさい」


「では……幽閉で宜しいですね」


 王妃は、その場で天井を見上げて呟く。瞳は潤んでいる……王様が、そばによって王妃の手を握りしめる。


「……構いません」


 この日、第二王子であるレノール・アルトリアは、反乱の首謀者としてではなく病気により死亡と発表された。しかし、ハースレイ神官長は、セルジ達に同行しており捕まっていない。捕まえても神官だから、と色々と理由を付けられて裁けないのであれば、戦争のどさくさに紛れ処分する事になっている。






「メッサ! 俺は君がいないと生きていけないんだ! だから……俺だけのメイドになって下さい!!!」


 牢屋の中で、土下座をするリュウの前にはメッサが鉄格子越しに立っている。着ているのは新しいメイド服だ。そして俺は、自分が言った事とは言え後悔した。しかもリュウは、泣き出している。


 突っ込み所が多すぎる! 大体だ……メイドになって下さい! これだと愛の告白に聞こえないし、土下座とかどうなんだ? ……それに、今この場には親であるエリーナを始め、リィーネにエリアーヌと二人の抱える騎士達……おまけにヘンリー君とタークス君、ディジーちゃんが来ているんだよ。


「リュウ、もう止めろ。俺が悪かったから止めてくれ! それから周りを見てみろ! みんながお前の行動についていけてないぞ」


『マジで引くわ……ここまで来ると同情してしまうな』


 床から首を生やした感じの駄馬が、珍しく同情している。振られる事が分かりきったこの状況に、俺も自分の言った事の無責任さに腹が立ってきた。


 家族の恥を他人に見られる……そんな気分だ。


「……良いですよ。それから結婚してもメイド服は着ますからね」


「あ、ありがじょうごじゃいまず!!!」


 泣きじゃくって声までおかしくなっているリュウ。その光景に反応が遅れながら……


「え!」

『何!!』

「あ、あり得ない!」


 最初に驚いたのは俺だった。その後に遅れて駄馬が、そしてタークス君も驚いた。しかし……周りの反応は少し、いや……無茶苦茶おかしい!!!


 あれだけの告白で、結婚と想像できるメッサもおかしいが、それ以上に了承すると思っていなかった。


「良かったですねメッサ。これであなたも今日から妻になります……しっかりと旦那様を支えるのですよ」


「はいメイド長」


 エリーサさんが優しくお祝いの言葉を贈る……ウソだろ! 目を覚ませよ! 相手は今、牢屋で泣きじゃくって鉄格子越しにメッサの足に抱き着いているリュウなんだぞ!


「良い物ですね愛の告白と言うのは……」


「私も告白された、な、何でもありません」


 おいおい、家の嫁さん達もあれを愛の告白と分かったのかよ! 普通は分からないだろう?


「平民の愛の告白は、人前で堂々とするのか……」


 勘違いしたヘンリー君に、誰も訂正しようと思わないのか!


「ちょ、ちょっとだけ感動しましたわ」


 涙ぐんだ瞳をハンカチで拭うディジーちゃん……どこで感動したか教えて欲しい。


「あ、あり得ない。男が女に頭を下げるなんて有り得ない!」


 え? タークス君はそこで驚いていたのかい。それだと君の評価も改めておくよ。しかしそうなると、まともな奴が駄馬と俺だけに……頭痛くなってきた。


『……あれかな? ダメな男に尽くす女みたいな……そんな感じだな』


 成程! 駄馬にしては珍しく参考になる意見だ。


「メッサ、本当にリュウでいいのか? 今からでも間に合うから、嫌なら断れよ」


 俺は流石にあり得ないと思って、メッサに確認を取る。


「大丈夫ですレオン様。リュウ様は……旦那様は私に優しくしてくれますし、このような綺麗なドレスも沢山買って頂きました。私は不満に思った事はありません」


「聞いたかこの野郎! イダッ!!!」


 復活したリュウに、牢屋にある食器を投げつけて黙らせた。考えてみれば、メッサの着ているメイド服は特注だ。それこそドレスのような、メイド服としては機能的な部分を削ぎ落としたその服を見たら、この世界の住人はドレスと思ってしまう。


「旦那様……流石に、主であるレオン様に今の言葉は不味いかと」


「ご、ごめんなさい」


「おい、俺を見て謝れよ! なんでメッサに謝ってんだよ!」


 そのままグダグダと、話をしていた。しかし、リィーネが思い出したように言った言葉に唖然とする。


「そうでした! 旦那様、もうここから出ても大丈夫ですよ。神殿の方々は追い出しましたから……これから忙しくなりますね」


「…………え?」

 次回くらいにでも、外伝的な物をやってみたいですね。


 それから今回は、今までの勘違いが花開いた感じにしてみました。こうなる事を予想していた主人公凄ぇ! みたいな?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえばレオンって、人間は殺した事がなかったっけ、異形な魔王ばかりを相手にしてたし。 でも、リュウの村では、不死人の処理してたから、非情な行動も出来るよねー? 神殿騎士は殺してれば良…
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