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ピンクの魔王様

 現在は息抜きで違う物を書こうか、それとも書きかけの他の作品に手を出そうか悩んでいました。おかげで更新が遅れる遅れる……


 久しぶりの更新ですが、楽しんで貰えれば幸いです。

 空を駆ける駄馬にまたがり、オセーンを目指す俺達。俺とリュウに駄馬は、エリアーヌが逃げてくるなら俺の領地を目指すだろうと結論付けてその方向に飛んでいる。現在の我が家がどうなっているか気になるが、取りあえず国境……見つからなければオセーンに不法侵入だ!


 セイレーンやラミアにも頼んで違う場所を捜索して貰っているが、手が足りない。一応日没までに見つからない時は先に家に帰るように言ってあるが……大丈夫だろうか? それもあるがもう一つ問題がある。


「見付かりませんね……エリアーヌさんは大丈夫かな?」


 リュウが心配そうにしているが、実際な話、俺はリュウよりもエリアーヌの事を知らない。結婚してすぐに軍事機密にかかわり……東方へ出張し……あまり会話した事がない。


「オセーンが滅んでから時間が経ってますから、隠れながらこの国を目指しているなら……って聞いてますかレオンさん?」


 青い髪の少女だったけど……美人になっていると思う。だけど、どうしよう……なんて声をかけたらいいんだ!!! 俺の奥さんなのに……まぁ二番目のだがな!


「いい加減に話を聞けよこの浮気野郎!」


「んだと!!! この野郎もう一回言ってみろ! てめぇがメッサのメイド服を利用した事ばらすからな!!!」


「それは言わない約束でしょう! 大体、あれは魔が差しただけなんだ!!!」


『煩いぞ屑共! 俺の嫁の匂いや鳴き声を聞き逃したらどうする!!! もしも間に合わなかったら……本気で殺してやるからな!!!』


 考える事もまともにできない状態で、俺達は自分の領地を目指して駄馬に乗って空を駆けていた。リュウが地上を観察し、俺が空を見張る。駄馬は牝馬の鳴き声や匂いに集中していた。……信じたくないが、駄馬は牝馬に関しては凄い能力を発揮する。


 再び付近を見回し探索を再開すると、国境を越えたあたりで不思議な物を見つけた。最初は小さな点だったのに、近づくにつれて様子がおかしい。


「あれ? なんかヤバくない……俺の目がおかしいのか、目の前にデカイクラゲが浮いているように見えるんだが?」


 そんな時だ、目の前に空を飛ぶクラゲを発見したのは


「いやいや、レオンさんデカイって言うか、巨大ですよ!」


『何あれ! 俺はあんなのがいるとか聞いてないぞ!!!』


 目の前には白く濁った……そして赤茶色の……越前クラゲに似ている!!! 気持ち悪っ!!! 空中でぷかぷかと浮いているクラゲは、その気持ち悪い足から雷を発生させている。気持ち悪い上に厄介そうだ。


 何かを追ってここまで来たのか、クラゲの上にも空を飛ぶ魔物が飛び回っている。……しかし数は少ない。少ない数で国境を越えて攻めようとでも言うのか?


「あああ!!! 見つけました! エリアーヌさんです……親衛隊と一緒にペガサスに乗ってこっちに向かっています!」


 目のいいリュウが、その能力を役立てた。よくやったと言いたいが……あんな化け物にどう対処したらいいのだろう?


『……何故だ……何故……俺の嫁の数が減っているんだ!!!』


 リュウの言葉で、駄馬が自分でも確認した。だが結果は宜しくない。親衛隊の数が少ないのだ。それは騎乗するペガサスも少ないという事で……


「少数でここまで来たか、途中で……」


 そう考えて想像する。勇者であり皇女でもあるエリアーヌ……もう人妻だがな! 勇者の中でも飛び切りの逸材を取り逃がすなどあり得ない。捜索にはそれなりに力を入れるはずだ。


『許さん……そこのクラゲ! 貴様は必ず殺してやる!!!』


 そうして頭に血の上った駄馬が、空を全速力で駆けだした。周りの景色の流れる速度が変わり、強力な逆風が俺達を襲う。そしてクラゲはどんどんと近付いて……おいぃぃぃ!!!


「ツックン! 止まって!!!」


「駄馬!!! このままだとクラゲにぶつか、る!!!」


 そして案の定、正面から突撃をかました駄馬のせいで俺とリュウは空中に投げ出された。そして運良く俺達はクラゲの上に打ち上げられたのだ。


「……生きてるかリュウ?」


 何とも気持ち悪い浮遊感を経験し、クラゲの上に打ち上げられるとそこはベタベタとしているし、ブヨブヨとしていて気持ち悪い……そのおかげで助かったともいえるけどね。しかし、足から雷を発生させて地上を激しく攻撃しているくせに、頭上の俺達には何もしてこない。


「つ、ツックンの馬鹿……本当に死ぬかと思ったよぅ!!!」


 クラゲの上で無様に寝転んでいる俺は、芸人の一発芸みたいな奇跡の着地を行ったリュウに声をかけた。ここに人の目がないのは本当に助かった! 惨め過ぎる姿勢から、体の痛みを耐えながら立ち上がる。


「さて、これからどうするか? あ! リュウ、自慢の弓で空を飛んでいる魔物を倒してくれよ。その間にこのクラゲをどうやって倒すか考えるからさ」


 思考を切り替えて足の下のクラゲ対策を考える事にした俺は、クラゲの上を飛び回っていた魔物の事をリュウに任せた。


「お前も働けよ!!!」






 それはアルトリアを目指す私達の前に突然現れました。我が祖国であるオセーンが滅亡した理由の一つである巨大な空に浮かぶ魔王……その足からは雷撃に砦や城と言った防衛拠点はなすすべなく、魔法はその白く濁った本体に効果がない……


 憎い肉親や祖国の敵である魔王に背を向けて逃げる私達。私を前に乗せてペガサスを操る親衛隊のミレーも、緊張を通り越して絶望している。名ばかりの勇者である私は、心の中でもう会う事もない兄に助けを求める。


「ユーステアお兄様……私達をお守り下さい」


 小さい頃から皇女であり勇者であった私に、唯一『妹』として接してくれたお兄様。皆が扱いに困るように接する中で、私を利用する事を考えていたとは言え肉親として接してくれた数少ない理解者だった。


「エリアーヌ様、何としても逃げ切って見せます! 振り落とされないようにおつかまり下さい」


 黒い髪を乱らせたミレーが、私に気を使って笑顔を見せてきますが……疲れ切ったペガサスで、単独で国をも追い込んだ魔王相手に逃げ切れる保証などありません。


 後ろに着き従う他の者達も笑顔を見せて頷きます。逃げ出した時よりも数を減らした親衛隊の事を思い出して、涙が出てきそうなのを我慢します。


「ミレー、最後は私も勇者として戦わせなさい! ここに至っては逃げ切れる保証はありません……ならば敵を討つしか……」


 そう言って腰に装備したレイピアに手をかけます。あのような魔王に効果などないかもしれませんが、それでも!


「なりません! エリアーヌ様はオセーンの最後の希望なのです。何としても生き残って貰わねば、死んでいった部下達に顔向けができません!」


 ……ここまで私を逃がすために、親衛隊や私に似たような女官達が犠牲になりました。生き残れと言うミレーの言葉にも理解はできます……けれど、納得はできません!


「それでも私は『勇者』です! 魔王討伐は私の宿命です!」


 空を駆けるペガサスの上で叫んだ私の言葉に反応するかのように、魔王はその足とも触手ともいえる物から雷撃を放ってきました。回避を続けるミレーも追い詰められ、最後の時が迫る中……物凄い突風が吹き荒れました。


「こ、こら落ち着け! え、エリアーヌ様、ペガサスが言う事を聞かなく……」


 突風の過ぎ去った後に暴れだしたペガサスを何とかなだめるミレー。そんな隙だらけの状態なのに魔王からの攻撃はありません。他の親衛隊のペガサスも同様に暴れだしています。


「あれは……まさか!」


 それはとても勇敢な姿でした。遠くからでは分かりにくいですが、その白い閃光が何度も何度も魔王に攻撃を繰り返すのです。……巨大な魔王に一歩も引く事もなく立ち向かえるのは、この世界でもただ一人。


「レオン様なのですね……たった一人で立ち向かわれるなんて……ミレー、私達も参戦します」


「いけません! それに……言い難いですが、私達ではレオン様の足手まといになります」


 周りを見れば、付き従う親衛隊の者まで俯いてしまいます。情けない……名ばかりの勇者であるこの身が、これ程情けないなんて……


 ご武運を祈りつつ、私達はその場から離れる事しか出来ませんでした。






「うぅ、ネチャネチャして気持ち悪い」


 リュウがそう言いながら、クラゲから切り取った体の一部を運び出す。俺は自分の武器であるハルバードを扱いながらクラゲに穴を掘っている……こんな状況になったのは、このクラゲには中心核という物があるとリュウの能力で分かったからだ。


 久しぶりに両手で双眼鏡を覗き込む真似事をして、体をくの字に曲げて爪先立ちをするリュウは、クラゲの上が安定しない事もあって何度も転んだ。


 その原因の一つに駄馬の無意味な突撃により、クラゲが揺れた事も大きい。未だに時々揺れる事から、突撃を繰り返しているのだろう。


「駄馬もいい加減にすればいいのに……揺れると作業がし難いだろうが!」


 ハルバードで器用にクラゲの頭上から中心核目指して掘り進む俺は、体中が訳の分からない液体でベタベタだ! それにもめげずに掘り進む。


「……今度からスコップも用意しようかな? 絶対このハルバードより役に立ったよ」


 愚痴をこぼしつつ掘り進むが未だに中心核には辿り着けない。


「スコップは本当に欲しいですね。……最初にレオンさんが、無駄に張り切って武器を振り回したから衝撃で飛び散った体液でネチャネチャして気持ち悪いですし!」


 リュウが嫌味を言ってくるが、本当の事なので仕方ない。最初に派手に中心核とやらを掘り当ててやろうと全力で武器を振り回した……結果は今の状態から察して欲しい。無駄以外の何物でもなかったのだ。


「それより体液って言うな!!! 更に気持ち悪くなるだろうが!!!」


「手を休めないで下さいよ……それにしてもこのクラゲっていったい何なんですかね? 魔物にしては聞いた事もありませんし」


「お前が知らないだけだろ? 俺は本で読んだ事があるな……さっき思い出したけど、雲の中にいて雷をおこす魔物って絵本で紹介してた。本当に居たとは思わなかったけどな」


 雷は魔物が起こすという非科学的な迷信だと思っていたけどね。


「絵本? レオンさんは絵本を読んでいるんですか? 転生者なのに?」


「小さい頃にな! お前も少しは本を読めよ……あ! リュウ、今度はそこの切り出したのを運んでくれ」


 クラゲの中を掘り進んだ俺達は、すでに光も遮られ薄暗い洞窟にいるような感じだ。……魔法でも使えればこいつを手早く討伐できるのだが、俺もリュウも魔法は苦手だ。


「お前が魔法を使えたら楽なのに……」


「何言ってるんですか? こいつに魔法は効きませんよ」


「そういう事は先に言えよ!」


「いや、両方が魔法を使えないなら言っても意味無いかなって……あれ? レオンさんなんだか壁が赤くなってますよ」


 リュウが指差した壁? クラゲの一部は、確かに赤かった。この先に中心核があると思い込んだ俺達は勢いを取り戻して掘り進もうとハルバードを突き刺したら……


『ギ! ギャァァァァァァァ!!!』


 クラゲの鳴き声だろうか? 外から聞こえてきたのだが……それ以上に何と言うか


「あ、あれ? レオンさんこのクラゲ下に落ちてません?」


「た、確かに少しおかしいな……昔のエレベーターを思い出したよ」


 そう、こいつは『空に浮かんでいた』のだ。倒せばもちろん力尽きる……当然のごとく落下し始めたクラゲは段々と速度が上がっているのか、その度に動き難くなる俺達に嫌な予感がよぎる。体で感じるのは前世で利用していたエレベーターの感覚……ヤバくない!


「どうすんですか! このままだと一緒にぺちゃんこですよ!!!」


「お、落ち着け! そうだ着地だ! 着地の瞬間にジャンプすれば助かる!」


「こんな場所で外なんか見えねーよ!!!」


「仕方がない! 取りあえずジャンプを繰り返して助かる確率を上げよう……運が良ければ助かる!」


「間抜けすぎますよ! ……でも、そんなんでどちらかが生き残ったらこの事は一生の秘密ですからね」


「任せろ……お前もばらしたら祟るからな」


 危機的状況でそんな約束をした俺達は、間抜けな行動を繰り返す事に……クラゲの中で飛び跳ねるのを繰り返していた。






 それは信じられない光景でした。散々苦しめられた魔王が、レオン様の突撃により何度も揺らぎ、苦しんでいるのです。単体で国を相手にした魔王によくもここまで……そしてその時は来ました。


 雷撃は止み、魔王が悲鳴をあげて降下を始めたのです。遠く離れた私達からは、その光景がとてもゆっくりと流れるように感じました。信じられない光景に親衛隊も誰も声を発しません。


「レオン様、そうレオン様をお迎えしなければ……」


 私がそう言うと、ミレーが立ち直りペガサスを降下を始めた魔王に向けて空を駆けだしました。そして到着する前に魔王は地に倒れその巨体の衝撃で体の原形をとどめず飛び散ってしまいました。


 そしてその魔王の飛び散った中心付近に、レオン様はお一人で立っておられたのです。


「れ、レオン様……」


 私がペガサスから降りてレオン様に近付くと、純白の鎧は赤く染まり魔王の返り血で汚れていました。私に気づいたのか手を伸ばしたレオン様。でも、その手は途中で止まり引いてしまわれました。


「今の俺は汚れているな……君に相応しくない」


 返り血での汚れを気にしている? いえ、違いますね……その手が今まで殺してきた多くの魔物の血で汚れていると仰りたいのでしょう。その言葉に胸を痛めた私はレオン様に飛びつきます。背に両腕を回して離さないように、離れないように……


「レオン様は汚れてなんかいません……例え汚れていたとしても、私がレオン様とその汚れを半分でも引き受けますから……だから……」


 そして鎧の小手を外したレオン様が私の頭を撫でます。この逃亡生活で、満足に手入れをしていない事を思い出し、少し恥ずかしくなりました。ですがレオン様は


「……大きく……いや、綺麗になったなエリアーヌ」


 未だに私の事を『エリアーヌ』と呼び捨てにしてくれる存在が居る事に、私は涙を流して喜びました。お兄様、私は一人ではありませんでした。






 俺は呆然と立ち尽くしていた。激しい衝撃に見舞われて気づいたら地上で立ち尽くし……そして目の前には、駆け寄ってくる長い青い髪を揺らしてくる少女。綺麗な顔立ちとその青い髪からエリアーヌだと気付いて、大きくなったな……と、奥さんに対して普通は思わない感想を頭の中で考えていた。


 それにだ! ……走って駆け寄るエリアーヌの胸が! 胸が揺れている! 薄汚れたローブに身を包んでいたが、その隙間から見える服装は平民に変装したような一般的な服装……鎧ではなかったのだ。


 ついつい手を伸ばしてさわ……抱きしめようとしたが、今の俺はクラゲの体液まみれ……とてもじゃないが無垢な少女を汚す事などできない。


「今の俺は汚れているな。こんなに汚れていたら君に相応しくない」


 せめて川か湖で汚れを落としてから抱きしめたい! そう思っていたらエリアーヌから衝撃発言が!


「レオン様は汚れてなんかいません……例え汚れていたとしても、私がレオン様とその汚れを半分でも引き受けますから……だから……」


 あ、アブノーマルな趣味を持っているだと! 抱きしめられた興奮とそんな衝撃発言に驚いて周りを見渡せば、親衛隊のミレー隊長と2名の部下達が涙を流し喜んで見守っている。……いいのか? いいんだな!


 綺麗な少女が少しエロい……凄いぞ家の嫁さんは! 完璧じゃないか!!! 年上好きの俺でもこの属性にはグラッときた。流石に外で出来るのはキスくらいまでだろう? そう考えて行動に移す。


 早速小手を外して、抱き着いているエリアーヌの頭を撫でた。色々と成長して綺麗になったエリアーヌに一言声をかけようと思い。


「胸が特に大きく……いや、綺麗になったなエリアーヌ」


 いかん! ついつい本音を暴露する所だった。それにしても鎧を着こんでいる事が仇となった。これではエリアーヌの感触を楽しめない……


 そんな時だ。こちらを目指して神殿騎士の一団が現れたのだ。数百人でお出迎えに来た騎士団に興を削がれて、渋々エリアーヌから離れた。俺はさっさと用事を済ませてこの後エリアーヌと良い事をするんだ!


 だが、神殿騎士達の言葉は意外……でもないが衝撃だった。


「神殿の命令に背いたレオン・アーキス……貴様を拘束する!」


 そう言って囲んできた神殿騎士達! なんなのお前ら! いい加減に空気を読む事を学べよ! もう少しで……


 そしてグチャグチャになったクラゲの体から発見された気を失ったリュウも捕まり、何時の間にかペガサスを連れだして消えていた駄馬も神殿騎士に鎖でつながれ暴れていた。


『離せこの屑共!!! いい加減にしろよ!!!』


 その言葉をそっくりお前に返したいよ駄馬! 暴れ回る駄馬に更に鎖を増やして対応する神殿騎士達……しかしそれでも振り回されている。そしてそれを見ていた俺に神殿騎士の団長がイライラした口調で声をかけてくる。


「良いご身分だな……神殿の命令に背いてこんな女と遊んでいるとはな。貴様のような異端者にはもったいない」


 異端者呼ばわりにも腹が立つが、それ以上にエリアーヌに手を伸ばした神殿騎士に腹が立った! しかし触れる手前で親衛隊が割って入る。


「この方はオセーンのエリアーヌ様だぞ! 貴様こそ無礼であろう!」


 しかしニヤニヤと笑う神殿騎士達……


「滅んだ国の皇女など価値などない。そうだな……上司への手土産の前に我々……ファガ!!!」


 言い終わる前に右腕が、神殿の騎士団長の顎に一撃をお見舞いしていた。確りと魔力で強化した肉体で打ち出した俺のストレートに、団長は顎を砕いたみたいだ。ファガフガとか訳の分からない事を言っている。


「き、貴様! 神に逆らうの!」


「知るかボケェ! 大体、神が俺を捕まえろと言ったのか? 言ってないのに勝手に神の名前を持ち出しているだけのお前らに遠慮などするか!」


 そこからは最早ただの喧嘩だった。向こうも俺を捕える事を言われているのか、武器を使用できない。それに付け込んで日頃のストレスを神殿騎士に拳でぶつけていく。


 神の声があの白い光なら、いちいちそんな細かな指示など出さない。大方ハースレイか、セルジの独断だろう。


「こ、こいつがどうなってもいいのか!」


 リュウを捕まえた神殿騎士の一人が、人質のようにリュウを扱うが……無視して殴った。


「勇者を人質にとるとか馬鹿か貴様等! てか、いい加減に起きろリュウ!」


「ふぁ、ふぁい! え、何々! これどんな状況?」


 気を失っていたリュウを叩き起こして喧嘩に参加させる。それと同じように駄馬の方も暴れ回って、その周りには神殿騎士達が倒れていた。


『離せこのゴミ屑が!!!』


 ……結局撃退できたが、この状況は流石に不味いと考えていたら……今度はアルトリアの騎士団が現れた。


「レオン様ご無事ですか!」


 率いていたのは何とルーゲルさんとヘンリー君! 前に見た時よりも立派な貴族になっていた。全身鎧にマントと完全装備のアルトリア騎士団は、馬に乗ったまま倒れている神殿騎士達を見下している。


「急いで駆けつけましたが……間に合いませんでしたな。しかしこの惨状は一体?」


 ルーゲルさんが俺の方にやってきて馬から降りて周りを見渡すと、そこには白や赤の液体とクラゲの残骸……確かに不気味過ぎる。こんな場所でエリアーヌにキスしなかったのは良かったのかも知れない。


「魔王です。オセーンを壊滅に追い込んだ程の魔王をレオン様が討伐されたのです!」


 しかし割り込んだそのエリアーヌの発言に事態が悪化した! このクラゲが魔王? しかも俺が倒した事にしようとしている!


「流石ですな! これまでも多くの伝説を作られただけはある!」


 ルーゲルさんの発言に違和感を感じた。……何だろうこの違和感は?


「伝説ってなんです?」


「いや、これまでの戦いの事ですよ。リッチの討伐に始まり不死者、ワイヴァーン、東方の鬼、そして今回の魔王……これ程の人物になるなど昔は想像しておりませんでした」


 大声で笑うルーゲルさんを見ながら考える。何故俺が倒した事になっているの? 不死者はリュウとセルジに討伐させたし、東方の鬼の事はまだ報告すらしてないぞ!


 慌てて訂正しようとした俺に、ルーゲルさんは


「ハハハ、流石に謙遜が過ぎますな。しかし分かる者には分かる物です。おっと、エリアーヌ様はお疲れでしたな。急いでお送りいたしましょう」


 そう言って騎士を呼び出して、神殿騎士達を馬車の荷台に乗せる作業を始めたルーゲルさん……分かる者って誰の事だ!!!






 そして送られたのは勿論一番近い我が家なのだが……ここ何処だよ?


「ああ、久しぶりの我が家ですねレオンさん」


『俺は帰ってきたぞぉぉぉ!!!』


 喜ぶリュウと、門をくぐって何処かへと駆け出した駄馬。しかし俺には理解できない。以前は村があった場所にここまで立派な城塞都市があるだなんて……


 近くの川から水を引き、屋敷の裏にあった小さい山には城が建っていた。都市全体を分厚い城壁で囲み、その城壁も何層もあるのだ。そして活気のある都市なのか、人も多く大通りには数多くの店が並んでいた。


「あ! レオン様だ!」


「おお、間違いない!」


「レオン様のお帰りだ!」


 そして大通りの人の波がそのまま道を作るために綺麗に両端に分かれていく……いったい何が起こった!!!


「私も久しぶりに帰ってきましたけど、去年よりも活気がありますね……リィーネ様の手腕にはかないません」


 俯いたエリアーヌも可愛いが、それ以上にこの状況を作り出したリィーネに恐怖した。ほとんど何もない村をここまで短期間で大きくできる物なのだろうか? あいつはどんな魔法を使った? それよりもあいつは人間か? 絶対に魔王だろ!


 そう考えていたらついに我が家である城に到着した。出迎えるのはギルドメンバーに制服を着こなした兵士達。……そしてピンクの魔王が笑顔でそこに立っている。姿形は人間で、美しい容姿で皆が羨む嫁さんではあるだろうが……




 ……超怖い。もう、クラゲの魔王が霞む位の恐怖を感じた。

 久しぶりに初回のような勘違い物を目指しました。


 勘違い物って難しいですね。最近では考えすぎて『勘違いしていない奴なんかいない』って結論にまで発展しました。


 後から思い返して恥ずかしくなりましたけどね。

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