黒幕の名前が……
更新できました! ……一度書き直したらこんなに時間が……一万字を消すとやる気も消えますね。
精神の洞窟で魔王『赤鬼』を倒したと思ったら、今度は赤鬼を惑わしていた白い霧が俺を目標にしてきた! いきなりこんな展開になり慌てて逃げようとするが、周りを見回しても白い霧に包まれてよく見えない。その上、白い霧は俺に似た姿になるし、余裕な感じだ。……本当に腹立たしい。
『さて、始めようか……お前の心の奥底を見せて貰う訳だが、お前は特別だから説明しとくかな。この精神の洞窟は、自分を超える為に作られた。言わば精神的な修行場所なわけだが……その事を知っている連中には大した効果なんかない。』
ハッキリ言うな。まぁ、確かに覚悟をしていれば耐えられる奴もいるよな。……待てよ! ならなんでアオイ君はその事を知っていたんだ? 世間に知られているならこの洞窟なんて役立たずじゃないか!
『今、役立たずって思っただろ! 確かに今では世間に広まって役立たずだけど今でも時々挑戦する猛者達がいるんだぜ……自分と向かい合ってみてわかる事もあるってな』
「それなら俺はパスだな。そんな事に命を懸けるほど修行には飢えていないんだよ」
そう言うと、白い霧はクスクスと笑い出した。鏡もないのに自分が笑っている姿を見るなんて不思議な感じだな。変に立体的だから余計に違和感を感じてしまう。
『そうだろうな……俺もお前とは戦うつもりもないし、それでいいんじゃないか。俺の目的は、お前の心の奥底を暴く事だしな』
心の奥底……さっきからその事を考えていた。自分の見たくない物なのか、それとも忘れている事なのか……どうも俺にとって良くない事なのは確かだな。しかし……前世と合わせたらすでに五十年くらいか? 結構色々ありそうだな。
『最初は……ピンクのお姫様の結婚からにしよう。お前はあの結婚を内心は受け入れていたよな? 『地位と財産に容姿は完璧だから文句無し』……性格なんか貴族の結婚だから問題にもならない。気に入らなければ妾でも用意すればいいんだから……ついでに言えば、あれだけの行動力と情報収集能力は欲しいとすら思ったよな?』
俺があのピンクを認めていたとはね……確かに貴族の結婚に個人の意見なんか二の次だ。それを考えるならピンクとの結婚は俺にとって得だった。各上の、それも王族と血の繋がりを持てるんだからな……でも、それが幸せかと言えば疑問だけどな。
貴族なんだから妾でも囲えば……あのピンクに消されるかな?
『堪えてないな……なら次はどうだ。お前には年の離れた妹と弟がいるな? そいつらに初めて会った時の事を覚えているか……お前はあの時その二人の環境に心底羨ましいと思っていたよな。だから嫌味を言ったし、親の前では2人との出来の差を見せつけた。……これも堪えないか』
確かにあの2人を羨ましいと思った。俺には手にする事の出来ない平穏な人生を手にしている2人が、俺には持っていない物を見せつけられているようにも感じた。だが、それが何だ? 妬むくらい人間だから仕方ないだろうが!
俺の望んだ平穏を手に入れておいて、自分達は比べられるのを俺の所為にしている妹と弟だぞ。それくらい……まぁ無意識だったけどさ。自分の妹と弟だ……他人よりは可愛く思えるね。それに言わせて貰えれば、肉親なんて余計に色々と言いやすいから……つい、な。
『では次だな……』
そうして白い霧との対話が続いていくわけだが……どれも俺の心に響かなかった。どこの世界に産まれながらの聖人がいる? いたらその人は最早人を超えているよ。
欠点があるのは当然で、それを恥じても認めるくらいの度量は俺にだってある。
『お前があんまり堪えないから俺も切り札を切るとするかね。……お前の前世? だからかノイズが酷いが何とか読み取れた言葉だよ。親友、幼馴染、裏切り……裏切られた訳でもなさそうだな。この場合は、お前が親友を裏切ったって所か』
こいつ! 転生前の事まで……だがそれは今では関係ない事だ。最後にはお互いに納得したし、和解も済ませてある。あいつの事は……
『関係ないか……でもさ、実際にお前の親友は腸が煮えくり返る思いだったろうな。それと、その親友の所為なのか? お前が目立ちたくない理由は、最後に期待に応えられないのが悔しいから……だろ。本当のお前は、何事も器用にこなすし、その分期待されてきた。だけど最後はいつも親友が頼りにされる』
……今まで考えないようにしていた事を言われて、俺は自然と体に力が入る。左手の拳は力の入れ過ぎで小刻みに震え、歯を食いしばっていた。
俺よりも劣っていると思い込んでいた親友が、最後の最後で努力をして這い上がってきていた。気づけば俺を超えて、あいつの周りには人が集まってきていた。最初は俺がその位置にいたというのに……
『うん、今のお前の顔はいい顔してるよ。実に俺好みだ……まぁ、兜をしているから表情でなくて感情を読み取っているだけなんだけどな。それからオマケだ……でもここまでかな……お前の精神修業はここまで! これ以上は無いし、効果もない』
「だったら、すぐにでも解放して欲しいものだね」
俺の言葉に白い霧野郎は、まるで楽しむかのようにこの遊びを続ける事を提案してきた。
『まぁ待てよ。最後にお前の勘違いを指摘しておこうと思ってな……答えを言うのも面白くないから、ヒントだ。今のまま『勘違いしたまま』だとお前達は確実に滅ぶよ。断言してもいい……お前達の勘違いはそれだけ致命的だ。お前だけの勘違いでない所がポイントかな?』
俺が勘違いしている? される事には慣れていたけど……思いつかないな。思いつくくらいなら勘違いもしないだろうけど……
『俺から言わせて貰えれば、その考えに至った方が不思議でならないけどな。お前に世界を救えと言った奴が、なんでお前らをこの世界に送り込んだのか考えるといいよ……確実に善意ではない事は、わかってるだろう? そしてお前の心の奥底にある願いは叶わない。覚えておけよ……お前は元の世界に帰れない!』
そう言って白い霧が晴れていくと、俺の近くで駄馬が眠りこけていた。周りを見渡せば、目の前に赤鬼の死体が転がっている。……あの白い霧は俺に何を言いたかったのだろう? 俺達の勘違いで世界が滅ぶ? ……今は急いでここから出るのが先決かな。
俺は短剣を取り出すと、赤鬼を討ち取った証拠になるような物を剥ぎ取り、駄馬を起こして洞窟から出た。帰り際に洞窟内では一度も振り向く事をしなかったのは、白い霧の言葉が効いていたからかもしれない。俺の願いは叶わない、か……そんな事はわかってんだよ。
白い霧は、レオンのいなくなった洞窟で赤鬼を見下ろす形で再び現れた。その形はレオンの形を真似たままだ。そして死んだ赤鬼に語りかけるように喋り始める。
『お前も災難だよな。最強の勇者に目をつけられて、後ろから突き殺されるなんてさ……お前はただ自分の一族を守ろうとして、そして人間に憧れていただけだったのにな。理解しようと人間に近づいたお前が、人間をここまで苦しめるとは……どうして人間は自分達だけは違うと勘違いしているんだろうな?』
赤鬼の事を弔うように洞窟内で地面が動き出す。ゆっくりと地面が赤鬼を飲み込んでいく中、白い霧は語りかける。
『人間も、この世界の生き物全てが『魔物』なのにな……そしてあの白い光は、一言も人間を救えとは言っていない。世界を救えと言ったんだよ。そして、もっとも世界を滅ぼす可能性がある魔物は『人間』だ。どうして人間はからしか勇者は誕生しないのか? お前も気になるだろう赤鬼』
そうして白い霧は、昔から続く自分の記憶を繋ぎ合わせて仮説を話し出した。訪れた人間やその他の魔物からの記憶を繋ぎ合わせる作業は、洞窟から出られない白い霧にとって娯楽だ。レオンの記憶をもとに更に仮説を確かなものにしていく。
『最初に、この世界にはある決まり事があった。それは魔王が各種族から生まれる可能性……そして周期的な世代交代の為に勇者が現れるようになる。それは最も強力な種族から誕生する破壊の化身……それまでの統治を破壊して、新しい統治の前に消えていく運命だった筈なんだ。俺が知る限りこの世界でも数回の世代交代がされてる。そして結構前の勇者から狂い始めた』
洞窟が、白い霧の意志に合わせてその壁に今までため込んでいた記憶を形にしていく。誰も見ていない空間で、それは白い霧の一人遊びなのかもしれない。
その形は、砂と岩で動く人形劇に近いものだった。一体の人形が勇者として魔王を倒す……そして人形の演じる魔王は人間だったのだ。勇者も人間なら魔王も人間だった。
『前回の世代交代で問題が起きた。それは同じ人間同士の争いになったことだ……勇者は人間の魔王を倒すと真実を知ってしまう。そこで世界を憎み自分が生き残る事を考えた……生き物としては正しい判断だよな。そして魔王と勇者を生み出す元凶にたどり着くと、それを利用して自分の為だけに利用した』
勇者を演じる人形は、建物を見つけてそこで姿を変える。今までの鎧兜の姿から、ローブをまとっていた。その恰好はまるで神官に似ている。
『その後は、世代交代が行われないままズルズルと歪な世界が続いた……魔王は常に駆逐され、統治を行えない。魔王……『魔の王』は、言葉通り王様だ。王は世界を滅ぼそうとするか? いや、しない。するような奴はそもそも魔王に選ばれない』
勇者は多くの人々をまとめて、建物で踏ん反り返る。そこに七人の人物が現れて……一人は馬の姿に変わる。それぞれが強力な力を持つ『転生者達』。
『バランスの崩れた世界は、それを戻す事を諦めた。だからこそ、異世界からこの世界にとって負の存在となりうる人物たちが選ばれた……のにな』
そこで人形達は互いに殺し合い消えていった。白い霧はそれを見ながら考えた事を口にする。
『この世界で最強の魔物……人間は、生き残って世界を滅ぼすか、死に絶えて世界が救われるか、どちらにしてもよくない事が起こりそうだな。寧ろレオンがどう行動するか気になるよ。……それまでに、この洞窟にあと何人訪れてくれるかな?』
人形達が土塊に変わり、白い霧が姿を消すと、そこはまたただの洞窟に戻っている。
あれから三か月も経つと、飛行船の出向の準備もできてしまう。長い休暇を終えたような感覚で飛行船に乗り込むと、数を減らした人員の代わりにイの国の数名の若者が乗り込んでいた。人手不足が深刻な中、この国の王様に頼んで融通して貰ったのだ。外国に行きたい若者の中から選んだ優秀な人材達!
精神の洞窟での一件から立ち直ると、この国の王様との謁見をする事になった。その場では勇者である姫様も顔を出していたし、大和撫子! と言いたくなるような美人でもあった。しかし……
『異国の勇者よ、我が国の姫は病気を患っている。治療をするため渡す事は出来んのだ。……代わりの者なら用意もしよう。だが、姫だけは無理だ!』
もうどうでもいいよ。作戦を聞いた時からそのつもりだとわかっていた。適当に交渉して物資を多めに頂けてこちらは満足です。……だったんだけどさ。
『……姫様に伝えたい事があります』
『はい?』
リュウが、その場で発言するからまた面倒臭い事になるのか? と思ってしまった。だが、発言を許されて姫様と話すと
『アオイ君……イヌヅカ・アオイは、あなたに恋心を抱いていました。失礼だとは思いますが、その事だけは伝えておこうと思いまして……』
頭を下げて伝えるリュウは、次の姫の言葉にショックを受ける。
『アオイ? すみませんが、どなたでしょうか? 今回活躍された兵士の中におられるのでしたら、明日にでも謁見できるかもしれません。ですがお気持ちに応える事は……』
優秀とは言え、まだ若く功績もさほどないアオイ君を姫様が知らなくてもおかしくはない。それに男だから遠ざけていたのだろう。この国の王様の対応を見れば、相当可愛がっているようだしな。
そんな事があり、心も体もボロボロにしたリュウは、二週間ほどは何もできずにいた。そして唐突に一人で精神の洞窟に向かったのだ。あの時も周りが散々叱りつけ、無事に戻ってこられた事にホッとしたと思えば……今度は駄馬が
『俺も家来に負けてられるか! 今の俺を超えてやるよ!!!』
超えなくていいから!!! いまのままで……も良くないけど、それ以上可笑しな事になるな! そのまま空気を読んだ事のない駄馬が洞窟に出かけてしまった。そして三日経って帰ってきた時
『なんか……嫌がられた。もう来るなって白い霧が言うから、せめて俺の理想の雌馬の事を聞いたらあの野郎『ヒース』の格好になりやがった! だから嫌がらせでしばらく居座ってきてやったぜ』
自慢げに説明する駄馬。白い霧はこいつの心を覗いたのだろう……哀れとしか言いようがない。正直に言えば、俺は白い霧野郎が苦労したから満足だけどな!
帰ってきたリュウ……これが何とも問題だった。喋らないし、返事をしない。精神の洞窟から帰ってきてからは、弓の手入れか訓練ばかり……周りで遊んでばかりいた奴が、急に真面目になると落ち着かない!
飛行船の中でもその状況は変わらず、冗談を言っても答えない。メッサに新しいメイド服を着て貰った時には、少しだけ反応があったけどね。
「どうしてこんなに空気が悪いと思う駄馬?」
そしてそんな飛行船内での話し相手は、残念な事に空気を読まない駄馬だけとなる。
『お前が旅先で浮気をしたからだろ。俺は知っているからな……あの歓楽街の未亡人に金を置いてきただろう。どうしてあんなに大金を渡したのかな? 俺は気づいているぜ』
……この野郎! 確かに出かける時は駄馬を使っている。まさか気づいていたとは! こいつに話しかけるんじゃなかった。
「さ、さぁ……何故かな?」
『……帰ったら俺の事を向こうでも『神馬』と広めて貰うからな! それを条件に黙っていてやる』
交換条件を出してきた! この野郎……。そんな時に駄馬の隣にいたヒースが、駄馬に向かって角を突き立てた。いいぞもっとやれ!
『き、貴様! この狭い船内で、それは卑怯だぞ! ま、待って……話せばわかる』
こうして帰路に着いた俺達は、故郷を目指していた。そしてこの時は、まだ故郷の状況を知らなかった。まさか戦争をしているなんて思ってもいなかったんだ。
魔物の軍勢を率いた一人の男が、オセーンの城門をくぐる。それに付き従う魔物達は、それを出迎える……その傍には多くのオセーン兵士や騎士達が横たわっていた。今にも雨が降り出しそうな曇り空の下で、城の中からは未だに戦闘中を思わせる音がしている。
「長かったな……だが、手こずらせてくれたこの国も今日で終わりだな」
その男のもとに一匹の伝令役を引き受けたゴブリンが現れた。所々から血を流し、戦闘が苦戦している事を伝えると
「ああ、先輩達かな? 本当に迷惑ばかりかけてくれるよな。……なら、この俺が出るかな」
全身を黒い鎧と武器で固めたその男は、そのまま歩きだし城内に入る。壁には味方や敵の返り血で彩られた赤い血が広がり、通路の奥からは金属のぶつかり合う音と悲鳴が聞こえてくる。そして一匹の魔物が近寄ってくる。
「アゼル様! まだ城内には敵が……」
心配なのか焦って近寄る魔物に、アゼルは……
「いいから、いいから……それより『ユア』連れてきて。空の上でドラゴンにでも乗っている筈だからさ」
アゼルが人差し指で上を指すと、普段から無口な女性を呼ぶように指示を出す。アゼル自身はそれをキャラ作りだと思っているが、本当の事は誰も知らない。
そのまま通路を進むアゼルの前に、戦っている味方である魔物と敵であるオセーンの兵士達が見えてくる。そのまま歩き続けるアゼルが、腰の剣を引き抜く……
「さーて、転生者である先輩に会いに行くとするか。人間である俺が魔王だと知ったらどう反応するかな? せめて協力的ならいいんだけど……無理かな」
そう言って歩き続けるアゼル……その邪魔をする者は、敵は、すでに斬り捨てられていた。
「さぁ、これからが本番だ!」
主人公の過去を書いていると『こいつヒデェ!』みたいな事に……流石に駄目だと思い書き直しました。そしてついに黒幕さんの名前を出して、ここからは戦争編ですかね? 主人公は間に合っていませんけど……




