自分を超えるのは魔王でも難しい
久しぶりの更新です。引っ越し作業の合間にコツコツ書いていた物になります。
最悪の展開です! 魔王を討伐に出かけたら、逆に魔王にはめられてしまいまいした。誘い出す予定の俺達以外の待ち伏せをしているこの国の兵士達が、奇襲をかけられています。
そして救援に駆けつけた時には、すでに立場が逆転してしまいました。笑うしかないね!
『囲まれてるじゃねーか! それに他の連中が逃げ出してるとか……早く逃げようぜ』
駄馬の意見に凄く賛成したいが、それが出来ないから悩んでいるんだ! 空にはこの国の魔物が飛んでいるし、俺達の周りにも、鬼族以外の魔物が……完全にはめられたよ。
「囲まれているなら突き破りましょう。幸いな事に、ここには父が居ますから囲んでいる敵に向けて進軍あるのみです!」
そんな自信満々に発言をしたセイレーンに、周りが同調しだした。ちょっと待て! お前等はどんだけ俺の事を過大評価してるんだよ! しかも突撃って……魔物達よりも原始的な作戦じゃない?
「レオン様と始めての戦争で緊張してきました」
「お嬢! 恥らっている姿も最高です!」
テンションの高いバスに褒められているエイミ。こんな状況で遊んでいられるなんて、育て方が不味かったのだろうか? 恥らってクネクネしている全身鎧のエイミ。確かに可愛いとも言えなくもないが、一般的には不気味に見えると思うね。
それよりもこの作戦は、下手をしたら逆に待ち伏せをしていそうなんだが……
「小細工など無用! 我等の力を見せつけよ!!!」
「「「おおおおお!!!!!」」」
ラミアの鼓舞にギルドメンバー達が大声で答えると、イの国の兵士達も少し顔色が良くなってきた。……こいつらも勘違いをしている。未だに絶望的な状況を脱していないのに!
俺が率いているのは、五百人にも満たない部隊なのに……数千の魔物の群れに突っ込むとか最悪だよ!
「レオン様の道は、俺達が切り開きます! 赤鬼だが、青鬼だか知りませんけど、レオン様なら楽勝ですよ」
「アルゴ……それは俺に大将を狙えという事か?」
その時、セイレーンとラミアがソフィーとアンナの背に乗る。ドラゴンとワイヴァーンが夜空に舞い上がると、二匹から放たれる炎やら衝撃波が次々に空の魔物達を葬っていく。あの2匹は普通に強いのではないだろうか?
「あいつらに勝てるんなら、お前が魔王を倒したらどうだ」
駄馬に声をかけると
『俺は馬で! お前は勇者! 大体、馬にやられる魔王とか笑えないぜ』
そう言って空を見上げる俺と駄馬は
「でも、あの二人なら問題なく魔王を倒せると思うな」
『間違いないな』
しかし、それで終わらないのが家の家族だ。エイミが敵の斥候を見つけると、そのまま高速戦闘に移行する。そして……瞬殺していた!
最早常人には、エイミが何時の間にか敵の後ろにいるようにしか見えないだろう。そのエイミの後ろには、敵が血飛沫を上げてたおれているんだが……正直怖い!
リュウに至っては、ただ矢を放っている。だけどその弓が、俺でも遠くて気づかない隠れた敵達を一撃必殺で仕留めている。しかも距離が……かなり遠くまで狙えるようになったんだね。意外に成長しているリュウに驚きつつ現実と逃避をしていたら
「さぁ! 今度は俺達の出番ですねレオン様。俺も親父の下で鍛えていますから安心して下さい」
「……なら、お前が魔王を倒してくれるか?」
アルゴに冗談を言うと、笑い出した。周りの連中も余裕があるのかそれに釣られて笑い出す。お前ら本当に余裕だな! 何気にアルゴを乗せているヒースが、駄馬に近づいている。
『この野郎! それ以上近づくな!!!』
「レオン様の邪魔なんかしませんよ。何時もみたいに魔王を倒して下さい。あ! この事をちゃんと記録して王都に戻ったら親父に自慢して、お袋に土産話にしますね」
お前の俺に対する期待が、最近特に重く感じるよ。そう思って溜息を吐いて下を向くと、駄馬とヒースがイチャイチャしていた。
『今刺しただろ。チクッと刺しただろう! 俺が誰と子作りしようとお前には関係ない!』
アルゴと話していたら、戦闘を終えたエイミがこちらに近づいていた。……ヤバイよ。エイミの気配を感じないとか思ってなかった。この子達はどれだけ強くなっていくんだろう? まぁ、魔王を倒すために強くしたのは俺なんだけども……
「駄馬うるさい……。レオン様、私の戦闘を見てくれました?」
「ああ、ほとんど見えなかったけど、ずいぶん強くなったな」
「えへへ」
ほほを染めて喜んでいる姿は、年相応に可愛いと思う。……鎧を着ているから多分としか言えないけどね。
「さぁ、行きましょうレオン様!」
アルゴの掛け声と共に、移動を開始する俺の部隊。ここで拒否するとか、逃げるとか選択は幾らでもあったのにな。
「お姉ちゃん、地上の敵も動いたよ」
ラミアの声に反応して、私は地上の戦場に目を向ける。上空から見える戦場では、魔物の軍勢が父の部隊を待ち構えるように布陣している。まるで口を広げて獲物を待ち構えているように……
「……敵が逃げなければ助けに行けるのに……」
上空での戦闘は、最初は私達に有利に進んでいた。ソフィーとアンナの戦闘力に、対抗できる魔物がいなかったのも大きい。しかし……
「囲んでいるだけで攻めてこないなんて……」
「こっちから攻めたら地上の父達を攻撃するし、守っていれば私たちを囲んで手を出させない。こいつらやりずらいよ」
途中から戦闘を避けて、私達を囲んで空中に釘付けにしている。囲んでいる敵は、父達の上空から私達が離れれば父達を狙うし、私達のどちらかが離れたらそれぞれを囲んで逃げるだけ……やりにくい!!!
「こいつら最初から父を狙っているみたいね。敵の頭を狙うのは確かに当然だけど……腹立たしい!」
地上に目を向ければ、囲んでいた魔物達の軍勢が動き出している。そして、とうとう父達が敵の本隊と接触した。その時、空中の私達にも敵の攻撃が迫ってきた。
「地上ばかり見ているわけにもいかないか……地味に攻撃してくるから地上の援護もできない」
そうしている間にも、地上では完全に父達が囲まれ戦闘は敵の有利に進んでいく。だけど……
「貴様らはよくやったよ。けどな……いったい誰に挑んでいるのかわかっていないようだ。この程度の戦術で父を倒せると思っている事がそもそもの間違いだ」
魔力を体に巡らせると、体から魔力の光が溢れ出す。ラミアを見れば、不用意に近づいてきた敵を念力で操作した槍で仕留めていた。確かに私達は父の援護はできない……が、それは敵も同じだ。敵も空からの援護は受けられない。
落ちていく敵を前にして、ラミアが呟いた。
「圧倒的な力を前に、お前らの『魔王』がどんな反応をするか楽しみだよ」
地上では敵の大将が、父と戦闘を開始している。そして父はとんでもない行動に出る。
「ヤバイよ。……こいつには勝てる気がしない」
魔王を目の前にして、最初の感想がこれだ。敵の本隊には無事に? たどり着いたけど、相手の才能を見たとたんにやる気をなくした。周りではリュウやアルゴが戦っている。
『は? お前何言ってんの……今までの魔王よりも小さいし、弱そうじゃん。オークと同じようなものだろう?』
「そうですよ。レオンさんならあんな奴は楽勝ですよ!」
ここまでたどり着くまでに、多くの鬼族や魔物達を仕留めてきた。だけど魔王だけはやはり別格だった。駄馬とリュウの言葉を聞きながら俺は説明する事にした。俺に向かってきた魔物を斬り捨てながら
「魔力の才能は無いし、攻撃手段も持っているあの大剣だけだと思う。……それが最悪なんだ。魔法を使わないからか、剣術が魔物にしては高過ぎるし、元から肉体の強度も高いだろう。……相性が悪過ぎる。」
駄馬とリュウに説明しながら考える。戦闘スタイルは俺と同じで、魔法が苦手で近接戦闘を得意としている。しかし、俺は人間であちらは魔物……単純にやりあえば負けてしまう! その上、魔王だからか他の鬼族と比べても明らかに強そうだ。
「……リュウ、精神の洞窟ってこの近くか?」
俺は正攻法で倒す事をあきらめて、奇策に頼ろうと考えた。これだけの軍勢の統率をとれる魔王ならそれなりの知識がある筈。ならば精神の洞窟は効果があるのでは? そう考えた俺は駄馬に洞窟までの距離を聞く。
『全然遠いな。いまさら修行でもする気か? 遅すぎるだろ!』
リュウの代わりに答えた駄馬は、それに対してあまりいい回答をしてこない。それに魔王である『赤鬼』も獲物を構えて俺に狙いを定めてきた。鬼が大剣を正眼に構えてこちらに向かってくる……何だろうこの違和感は? 笑いそうになる。
『笑ってないで何とかしろよ! このままだと俺まで真っ二つにされるだろうが!』
「レオンさん……この状況で笑っていると不気味ですよ」
弓で魔物を仕留めていくリュウと駄馬の悲鳴に仕方なく行動を開始した。手にしたのはロープ……それを自分と駄馬に結びつけながら魔王から逃げ出す。
『逃げるのか! ならなんでもっと早くに決断しないんだよ……囲まれてるから逃げにくいだろうが!』
魔王の攻撃を新調した槍を片手に持って防ぎつつ、何とかロープで大きめの輪っかを作り終える事ができた。この状況でこんな事ができる俺って何気に凄いと思うんだ。……能力の集中力のおかげだとは思うけどさ。
「駄馬、合図をしたら一気に空に向かって走れ! そしたら精神の洞窟めがけてひたすら全速力だ」
『……何考えてるか大体想像できた。でも、成功するのか?』
「させる!」
そう言って赤鬼に向かって駄馬を走らせる。それに合わせて向こうも大剣を振り下ろしてくる……大剣と言っても人よりも大きな鬼族が使うそれは、もはや鉄の塊に近い。当たれば即、肉の塊に変えられてしいそうだ。
振り下ろされる大剣を避けると、風圧で体が揺れた。そして大剣を振り下ろした赤鬼の首にロープで作った輪っかを引っかける。それを力一杯引くと、赤鬼の首にロープが食い込み赤鬼が悲鳴を上げる。
「アルゴ! 俺はこのまま赤鬼をこの戦場から引き離す。統率が乱れたら深追いしないで体制を立て直しておけ!」
「わかりました!」
近くにいたアルゴにそう言って、駄馬と共に空を目指した。首を吊った状態の魔王がこのまま死なないものかと思ったが、苦しむだけで死にそうにはない。……流石は魔王だ。
『重い! 凄く重いだけど!』
ついでに駄馬も魔王の重さに苦しんでいる。そして上空では、魔王も地に足が着かない事に慌てているのか有効な手段をとってこない。このままいけば……
精神も洞窟にたどり着くと、俺は駄馬ごとそのまま洞窟に突っ込んだ。途中でロープで引っ張っていた魔王を洞窟の壁にぶつけたが、そこは当然だと思う。そしてある程度進んだ所で精神の洞窟の修行場所にたどり着いた。
洞窟の奥に人一人が座れる場所があり、如何にも何かが出そうな感じだった。そこでロープを切ると、壁によってボロボロにされた魔王を置いてその場から逃げ出す。
『本当に効果あるのかよ?』
「精神があるなら問題ないだろ。あれだけ魔物の軍勢を指揮してたんだ……お前よりもマトモなんじゃないか」
駄馬とそんなやり取りをしていると、後ろから悲鳴が聞こえてきた。魔王の悲鳴だ。
少し気になった俺達は、魔王の最後を見届けようとまた奥の方へ足を進める。足音を立てないように近づき、何かあれば逃げ出せるように準備しつつ、奥を覗くと
『好きだったんだよな人間が……でも、裏切られたから』
「や、やめろ……それ以上俺の事を喋るな!」
赤鬼が、目の前にある白い霧状の何かに必死に素手で攻撃していた。気づかなかったが、武器は何処かで落としてしまっていたようだ。泣きながら白い霧に攻撃している赤鬼の背中は……隙だらけだった。
『……まさか今攻撃するのか? 流石は勇者だよ』
槍を構えた俺に、駄馬が皮肉を言ってくる。
「なんとでも言え。勝てばいいんだよ。」
そうして赤鬼の背中に近づくと、槍を心臓めがけて突き出した。そうすると大量の血と共に、魔王の悲鳴が洞窟内に響き渡る。最後は呆気なかったな。
「帰るぞ駄馬……駄馬?」
しかし、赤鬼から目を離し駄馬に振り向いた俺には、目の前に駄馬の姿は無かった。一瞬逃げ出したのかとも考えたが、この状況で逃げ出す奴でもない……この近くに雌馬でもいれば話が変わるが、ここは精神の洞窟だから馬なんかいない。
『……全くひどい奴だな。赤鬼もようやく何かを気づきそうだったのにさ。それと、今度はお前の番だからな』
「マジかよ……」
後ろを振り向くと、白い霧が俺と同じ格好に姿を変えてその場に立っていた。……どうやら俺にも無縁と思っていた修行フラグが立ってしまった。
レオンさんが魔王を連れていなくなると、戦場は予想通り混乱してきた。司令塔がいなくなった魔物達に混乱が生まれ、逃げ出す者まで出始めている。
「敵の陣形も崩れたな……ここらで態勢を立て直す! リュウ殿も一時後退しましょう」
アルゴさんの言葉に、俺は従いたくなかった。だって、ここで敵を逃がしたら活躍できないじゃないか! 活躍してアオイ君とこの国の姫様の恋を成功させるって約束したんだから。
「まだまだいけますよ! 」
「この野郎! レオン様の指示を聞いていなかったのかよ!」
返事をしたのと同時に俺の頭にバスさんの拳骨が落ちてきた。……痛いけどこれだけは譲れない。
「ここで魔物を逃がしたら、この国の王様に理由をつけられて、姫様を貰えなくなるじゃないですか……僕はアオイ君と約束したんです。それに逃げ出した敵なんて怖くありませんから俺一人でも手柄を立てて見せますよ!」
「リュウ殿お待ちください!」
隊列から飛び出した俺に、アオイ君の呼び止める声が聞こえてきた。みんな俺の事を甘く見過ぎだよ……この5年間の修行の成果を見せつけてやる。
弓を構えて、逃げ出す敵を追いながら仕留めていく俺は、大物を中心に仕留めていく。この世界で初めてできた友人であるアオイ君には幸せになって貰いたい。最初は嫌な奴だと思っていたけど、話してみると真面目で俺の話も聞いてくれるいい奴だった。
この前彼は、俺の事を友人だと言ってくれたんだ。本当に嬉しかった。この世界に来てから真剣に俺のいう事を聞いてくれる人が少なかったのもあるけど、その言葉に本当に救われたんだ。
「このままいけばかなりの手柄になる筈だよな……もう、矢も少ないしこのくらいでいいか」
しばらく戦闘を続けていた俺は、残り少ない矢を数えながら足を止めてしまった。その時に戦場で周りに注意を払わず、動きを止めるという愚行を犯してしまった。
その代償は、戦場では命で支払うと聞いていたのに……
「何をしているんですか! ここは戦場ですよ」
駆けつけてきたアオイ君の声に振り向くと、視界に敵が見えた。急いで矢を用意してアオイ君に敵の事を伝える。
「アオイ君、後ろに……」
矢を放って敵を仕留めた。けど……
「囲まれています……すぐに味方も駆けつけますから、それまでは何とか耐えましょう」
「あ、アオイ君……その傷は」
アオイ君の方を見れば、俺の近くにいた敵を斬り捨てていた。そして、その敵の攻撃を受けたのか脇腹に敵の武器が深々と刺さっている。流れている血の量から、すぐに治療しないと間に合わないと理解した。
けど、この状況で治療なんてしたら……
周りを見渡せば、俺とアオイ君に狙いを定めた敵が近づいてきている。逃げられないと感じているのか、それとも本能で襲ってきているのかわからないけど、今だけは邪魔で仕方ない。
「くそ、お前ら邪魔なんだよ!!!」
弓をしまって、腰の短剣を装備する。そして向かってくる魔物に対して、アオイ君の盾になるように前に立つ。俺にだって接近戦くらいできるだ。……だけど、早くしないとアオイ君の怪我が!
「落ち着いて下さい……私なら大丈夫です。このまま敵から身を護れれば、じきに味方が来ますから……」
そう言っているアオイ君の顔色はどんどんと悪くなる一方だ。俺に回復魔法が使えれば……
「すぐに助けるから待っててね。」
そして迫る敵に、短剣を構えて迎え撃つ俺の後ろでアオイ君の声がする。
「えぇ………………ありがとうございます」
絶対に助けるんだ! 俺がアオイ君を絶対に!
「……あなた達に出会えて本当に良かった。異国の文化にも触れる事が出来たし、なによりあなたと言う友人ができた。本当に……ありがとう」
そして、この国での魔王討伐は多くの犠牲を払いながらも成功した。駆けつけた味方が来た時には、アオイ君はすでに息をしていなかった。だけどその顔は、少しだけ微笑んでいるような顔をしてる。
「……どうして、俺のためなんかに」
「リュウ……」
俺とアオイ君の周りを取り囲むギルドメンバーやアルトリアの騎士団の人達……そしてこの国の兵士達が俺に慰めの声をかけてくる。
本当はみんな思っているんだ。俺がアオイ君を殺したって、この結果を招いたのは俺の責任だって……でも、誰もその事を言ってこない。
「俺がアオイ君を殺したんですよ。……なのに、なんで誰も俺の事を責めないんですか? それとも俺には期待なんかしてないって事ですか? それじゃこの結果も当然だったとでも思っているんでしょう」
俺を責めない周りに、筋違いな事を言ってしまった。でも、俺は……そんな事を思っていると、セイレーンさんが俺を優しく包んでくれた。何時もは厳しい人だけに、この行動には驚いた。普通に殴ってくれた方が楽になれるのに……
「なんで誰も俺を責めないんですか! 俺のせいでアオイ君は死んだのに……俺が殺したのに……」
セイレーンさんの胸の中で泣きじゃくる俺に、周りは何も言ってこない。
「誰か……何か言ってくれよ……」
次回こそ主人公の修行? の話になります。
個人的な事なんですが、引っ越しも無事に終わって新しい環境で心境の変化が……この脇役勇者も話が変な方向に進んでいますが、これまで以上に変な方向に進みそう(笑)