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真の旅立ちは此処からだ!

時間潰しに読んで頂けたら幸いです。

王都に着いた俺はお世話になる父の知り合いの商人と会う事になったが、この商人のマーセルさんは家にもよく来ていたから俺も知り合いだ。


城塞都市の王都である城門で馬車から降りるとマーセルさんが迎えに来ていてくれた。だがこの人も勘違いをしている内の一人なんだ。


「やあ、よく来てくれましたなレオン坊っちゃん!このマーセルお待ちしておりましたぞ。」


有名な商人のオッサンが城門でこんな事を言えば黙っていても目立つ俺が更に目立つ訳で・・・


「すぐに屋敷に案内いたしますが、どうですかな?王都を見て回られませんか。私が案内致しますが・・・」


止めてくれ!そして周りを見てくれ!王都の城門は石造りでしっかり作られた大きな門で其処を通る為に門番に許可を求める人々が待っている。列を作って大勢が並んでいるんだよ!・・・みんなが俺達を見ているじゃないか!


「出来ればお屋敷に急ぎたいのですが?」


こんな所に何時までも居たら目立って仕方ないじゃないか!


「これは済みません。長旅でお疲れでしたかな。では急いで屋敷へご案内致します。」


家の使用人もマーセルさんの馬車に続いて城門を潜る。王都の石畳がここまで来る途中の旅と違う馬車の音を立てて世界が変わった様な感じを与えたが・・・


見えてきた王都は俺の産まれた領地とは違いとても華やかな場所だった。裏道に入れば汚いものを押し込んでいる事が丸分かりだな。まあ、何処の世界も変わらないよね。


華やかな表通りを進むと王城が見えてくる。高い場所に建てられた城は其の存在を見せ付けている様に感じられる。俺ならあそこには金を貰っても住みたくないな。


そうして向かった屋敷はマーセルさんが持っていた屋敷の一つらしく、丸々屋敷を貸してくれるんだとか・・・金持ちってどこにでも居るよね。


「何名かの使用人も雇っておりますので好きに使ってやってください。其れでは・・・」


挨拶や世間話を済ませてマーセルさんと別れた俺は屋敷内を見て回ったが、こんなに広い屋敷で何をすれば良いんだ?






数日は引っ越しの作業を行い片付けに時間を割き、その後は急速に暇になった。マーセルさんも忙しいから何かを頼むのにも気が引けるから王都も余り見て回っていない。


暇だと色々と考える時間が増えて悩むんだが此処で俺は閃いたんだ!このまま此処でひっそりと生活していけば良いのだと・・・そう考えたら本以外の娯楽が欲しくなり王都の店を見て回る事にした。


屋敷の近くには本屋や食品を扱う店に小物を扱う店が多かったが、これと言った娯楽は無かった。子供も遊んでいられる時間は少ないのか余り見掛けない。そう考えると俺は恵まれ過ぎていると言えなくも無い。


だが正直に言えば王都に友人が居ない俺は寂しかった。だから何かに熱中したかったのだろう。・・・帰ってから色々と頑張って一月掛けてこの世界に無い『トランプ』を作ってみた。複数人で様々なルールで遊べる必須アイテムの一つだろう!


時間を掛けた分かなりの出来栄えだと自信を持っている!毎日訓練や勉強の合間にコツコツと作ったのだから完成した時には嬉しさの余り泣いてしまった。


だが一人では詰まらないから連れてきた使用人とマーセルさんの使用人達とゲームをして遊んでいたんだ。・・・ずっと屋敷に居て忘れていたよ。気が抜けていたんだね。自分が目立ってしまうと言う事を再確認させられた。


「レオン坊っちゃん!この『トランプ』を我が商会で扱わせて頂きたいのです!此れは売れます!」


屋敷に飛び込んできたマーセルさんの迫力にビックリして了解してしまったが問題無いと考えていた。使用人がマーセルさんに売り込んだらしい。・・・俺の名前でね!


数ヶ月後には俺の元に大金を持って来た笑顔のマーセルさんと数名の男達が俺に他には無いかと聞いてきた。・・・説明しにくいから実物を作る為に時間と資金を大量に貰った。


「こんなに頂く訳には!」


「構いませんよ。開発費として自由にお使い下さい。この程度は安いものです。」


・・・大金を貰った俺はまたコツコツと作品を作り始めた。日曜大工とか好きな方だったからか木材を切ったり削ったりを訓練と勉強の合間にコツコツと続けて作った『将棋』は出来栄えが良かった為にすぐに持っていかれてしまた。・・・そうしてまた大金が送られて来たのだ。


何でも商館に大量に注文が来たんだとかマーセルさん達が大喜びで伝えて来た。・・・俺は折角作った将棋盤も駒も持っていかれて不機嫌だけどな!


こんな事がしたいんじゃない!金ばかり稼いでも仕方ないんだ!俺はひっそりと生活をしたいんだから目立つ事はしないと心に決めて、また訓練や勉強の毎日に戻る事にした。


ただお金は有るんだから家庭教師を雇ってみるのも良いかもしれない。マーセルさんが結構真剣に勧めてきていて面倒なのも有るんだが、一人では流石に寂しい上に上達を感じられない。





だが雇ってしばらくしたら皆が辞めていった。ある青年剣士は教える事は何も無いと言って逃げ出し、魔法使いの女性は教えて欲しいと立場を放棄した。礼儀作法の先生はしばらくは指導してくれたが数週間で辞めていった。


「流石ですレオン坊っちゃん!しかしこれではこの私が紹介できる者が居りません。坊っちゃんは何か学びたい事はございますが?」


正直に静かに暮らせれば其れでいいと言っても信じてくれないか、勘違いをして終わるのだから俺は王都を見て回ってから考えたいと提案した。


「其れも良いでしょう。其れと坊っちゃんに会いたがっているお客様が居るのですが、またお断わりなさいますか?」


「・・・しばらくは王都の外にも出てみ様と思っているので時間が・・・また帰ってから考えてみます。」


「ではそう伝えておきます。」


嘘です。ただ逃げたいだけです。大体何で大人と食事したり話をしないといけないのかわからないよ。まだ子供の俺に商談なんか持ち込んでくる大人がやたらと真剣で断るのにも大変なんだ。


目立ってしまうこの『魅力』の能力がこんなに厄介だなんて・・・わかっていた事だけど王都では人の多い事も有り疲れが半端じゃない!


俺以外が目立てば少しは周りの目も其処に向くのだろうか?


そう考えていた翌日に使用人達が騒いでいたから何か有ったのかと聞いてみたら俺の待ち望んだ答えが返ってきた!


「レオン様は知りませんか?勇者が選ばれた様なんですが・・・この国だけでも12人の赤ん坊に『神託』が有って他国にも沢山の勇者が現れたんです。」


・・・・・・沢山の勇者が現れた!?ウェルカム愛しの勇者様!!!なんて良い日なんだ。このまま行けば俺の存在なんて忘れ去られるのも時間の問題でしかない!


だが其れだけじゃ無い様で・・・


「こんな事は神殿でも初めての様でして、世界中の高位の神官達が集まり情報を集めたらしいのですが・・・魔王復活の予兆が世界中に出ているとわかったんです!」


うわー、魔王が沢山復活するのか・・・大変そうだが12人も居れば一人で魔王を二・三匹倒せばお釣りが来るな。


「とても間に合わないと神官達が判断したそうで勇者が育つまでに魔物に滅ぼ去れない様に、と国中にお触れが・・・」


不安そうに下を向く使用人達を見ながら腹が立った。既に俺でもわかる間違いを起こしている事が信じられない。


「馬鹿だな神官は、そんな事をする方が不味い事になる。まだ復活の予兆なら時間が有るのに慌てていたら有効に時間を使えないじゃないか!」


情報が正確に伝わらない世界で不安を煽る事が如何に危険か考えて欲しい!其れともそんな事を言っていられないくらいに酷い状態なのかな?・・・あの白い部屋で声だけの存在も『滅びる』とか言ってはいたが、俺以外の転生者達は何をしているんだろう。早くなんとかして欲しいな。


そうして他人任せに落ち着いている俺を見た使用人達が涙を流して手を握り合っていた。


「レオン様がこの国に居られるかぎりはこの国は大丈夫です!」


・・・ああ、また勘違いが始まったのか。此処は訂正しても使用人達は納得しないな。最近は勘違いされたら下手に訂正するよりも適度に誤魔化す方が正しい選択だと気付いたから今回も其れで行こう。


「慌てる必要は無いから知り合いにもそう言って置くと良い。」


「「「はい!」」」






・・・もう少し考えて発言をしておけば良かったと後日思い知らされた。屋敷を出てみれば王都は平穏だったから気にし過ぎたと思って普段道理にコツコツと日課をこなしていたら・・・


「レオン・アーキス様ですね。私は王都の神殿で仕えている神官の『ハースレイ』でございます。話を聞いても宜しいか?」


集中していて気付かなかったが何時の間にか訓練していた屋敷の裏庭の入り口に神官と其れを案内した使用人が立っていた。


はっきり言って神官を待たせるなんてしてはいけない事だ。槍を近くに立て掛けてお辞儀をして非礼を詫びて屋敷の中に案内した。


何処の世界にも宗教は有るものだがこの世界の神は創造神だけで、崇める神殿には其れなりの権力が発生している。世界中が同じ宗教なんだからその凄さがわかると言うものだ。厄介以外の何者でもない存在が『神殿と神官』である。他に宗教が無いからか弾圧は無いが・・・


俺なんかがこの神官を怒らせたら王都から追い出される。・・・殺されないだけましかな?でもその瞬間に異端者扱いで生きるのも大変になるがな!店に行っても物を売らないとか当たり前になるとか、誰も目を合わせないなんて普通だよ。


応接室に入ると使用人はお茶の用意の為に逃げ出した。・・・俺も今すぐに逃げ出したい。


「最近お触れを出したんですがこのアルトリア王国の王都だけが異様に落ち着いています。・・・其の所為でしょうか、周りにも其の影響からアルトリア王国全体にも危機感が薄れている。何故だかおわかりですかな?」


姿勢を正した俺の背中は冷汗が止まらない!まさか俺の所為にするつもりか?幾らなんでも無理があるだろう!


こういう時もそうだが落ち着いた方が何事も上手く行く筈だ!


「わかりませんが良い事かと、落ち着いて居るなら冷静に対処が出来ると思うのですが?」


「神殿は世界中に非常事態を宣言しました。だがアルトリア王国だけが変わらずにこれまでの生活を続けて居るのは非常に不味い事です。」


「魔王復活の予兆ですか?・・・ですがまだ復活はしていません。急ぎ過ぎていませんか?」


「勇者が総勢で108人誕生したのですから慌てもします。100年以上前の記録では勇者と魔王は対で産まれると記されています。・・・もう魔王が現われてもおかしくない状態なんですよ!」


多過ぎだよ愛しの勇者様!そんなに居たら逆に目立たないじゃないか!其れになんか言葉に力籠もって来てるよ!だけど魔王が産まれるとすぐに暴れだす物なのかな?


「其れで私に何の御用でしょうか?」


まあ、此処で話していても解決しないんだから先に進もう。普段使わない(私)なんて言って違和感があるが流石に神官の前で俺とか言える勇気はないしな。


「神殿はこのアルトリア王国の異常の原因が貴方だと考えています。神殿に弓引く行為と考えているのですが・・・反論は有りますか?」


・・・・・・?


え!そんなに大事になっているの!だけど俺は何もしていないよ?


「私は何かした覚えは有りません。」


「幾ら世間から離れた神殿でも有名人である貴方の言動は聞こえてきます。王都の『神童』と言われている貴方が『慌てる事もない』と言えばどうなるか考えていない筈が無い!」


そんなに勘違いしている連中が居たのかよ!そっちの方がビックリだよ!・・・其れにしても不味い状況だな。神殿になんか睨まれたくないのに・・・神官とか暇人の集まりなのか?俺を調べるより魔王の事を正確に調べろよ。


「私をどうするのですか?」


恐る恐る確認したが神官は真剣な瞳で語りだした。


「異端者扱いとなり王都から出て頂くが・・・神殿に仕えてるか神の為に働くなら今回の事には目を瞑ります。」


追放処分ですか・・・神官にもなりたくないし、働くならって言っても神殿の雑用係りでしょ?・・・あれ?其れなら逆に追放処分されれば俺が思うひっそりとした静かな生活が実現できるじゃない!


一人は寂しいが路地裏の孤児でも拾って育てながら生活すれば毎日好きなだけコツコツと何事にも打ち込める!


「わかりました王都から出て行きます。出来るだけ急ぎますが準備がありますので数日後には出て行きます。」


「そうですか、では早速神殿に・・・って!出て行くの!!!」


「お借りしていた使用人達もマーセルさんにお返ししたりしないといけません。ではこれで失礼します。」


「お、お待ち下さい!レオン・アーキス様はアーキス家をお捨てになる気か!」


いや、神官には関係ないだろう?確かにお世話になった人達には悪いけど神殿の指示じゃ仕方ない。出て行く先も調べておかないといけないから早く帰って欲しいな。・・・お茶漬け出したら察して・・・くれないよな。


「異端者扱いなんですよ!本当に宜しいのですか!」


「・・・構いません。」


もう、早く帰ってよ!折角の真の旅立ちが遅れるだろうが!魔王と戦うなんて他の転生者が喜んで参加する筈だから心配なんか無いんだ。だから俺は目立たず生きていく!そう思っていたら何だか神官の様子がおかしい。


「・・・此方の意図がわかっていたのですね。流石は神童と言った所ですか。」


疲れた様に頭を下げて居るが表情が優れないのか不気味に笑っている。あんた怖いよ神官さん!


「・・・・・・言われた通り神殿は判断を誤ったのです。確かに非常事態を宣言したのが早過ぎた。其の所為か各国は神殿の判断を非難しています。・・・そんな中でアルトリア王国だけが神殿の判断を無視して被害が少なかったのです。神童が言った言葉が神殿のお触れより効果がある。そう聞かされた我々の気持ちすら気付いていたのですね。」


何を語りだしているんだ?そんな事を言われてもただの勘違いだからな。神殿の事なんか考えてもいないよ。


「やはり脅しでは貴方は屈しない・・・では何をすれば貴方は神殿に協力してくれるのですか?」


協力も何も・・・関わりたくないんだけどね。


「非を認めれば良いのでは?魔王は現われるのですから各国も納得しますよ・・・其れに勇者は国家にとっては最大の危機ですからね。」


「は?勇者が何故・・・」


あれ?気付いてないのかな?


「魔王を倒せる勇者がこの国だけで12人、もし全員が生き残れば国は彼等にどれだけ報いていけます?」


「・・・誠心誠意報いていく筈ですが?」


確かにそうだけど世界中で108人居るんだよ。揉めるよね。争うよね。最悪第二陣の魔王達の誕生だよね。


そんな話をしていたらハースレイさんは顔が青くなって震えだした。何でも100年以上前の勇者は化け物の様に強く正義感が有って悪は存在すら許さなかったらしい。


聞こえは良いけど正義感だけが強いのも考えものだよね。もしも祖国を悪と判断したら滅ぼすんだからさ。


「記録には多くの報酬を受け取った勇者が治めた領地については記しては有りませんが其の勇者の血は途絶えていると伝えられています。確かに不自然だと神官達でも話題には・・・」


汗が凄いなハースレイさん!まあそういう事だから国のお偉いさんに其の事を伝えたら非常事態も納得すると言って帰って貰った。実際にそんな化け物が産まれれば何かと大変だろうし、今から気を付けないとね!




 結局俺は追放処分にならずにそのまま王都で生活する事になり、今度からはハースレイさんまでちょくちょく顔を出しに来る。・・・本当に逃げ出したい。

早速評価をしてもらっていたようで嬉しく思います。完結できる様に頑張ります。

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