次回から東方へ行きます。
いい訳みたいなタイトル通りです。意外と長くなったのにまだ出発しないなんて……
勇者ってなんなんだろうね。お使い感覚で頼み事をするのは、ちょっと違うと思うんだよ。仮にも魔王討伐の切り札だよ!
「聞いていますかレオン殿? なんとしても武具の修復をして頂きたい。これは総本山の決定です。」
確かに武器は大事だよ。でも、最後はやっぱり心でなんとかするのが勇者でしょ? ここは素直に諦めようよ。ハースレイもその辺の事を理解して! そして安静にしている俺の所に押しかけるのを止めろ!!
毎日毎日……昨日もアルゴと騎士団の連中が押しかけて酒を飲みだすし、ピンクを筆頭に家の女性陣も押しかけて……俺も疲れてるんだけど!
「俺はこれでも一応、アルトリアの騎士だから命令される理由にはならないと思うよ。」
「もう、王妃様にも総本山の意思は伝えて有ります。この決定だけは決して、拒否しないで貰いますよ。」
何なの? この強気の態度は、一体何なの?
「でも船とか無いんだよな? どうやって東方とやらに行くんだよ。」
「それは我々にはどうする事も出来ませんな。今回のエルガーネの件は魔王討伐で不問に致しますが……」
「……不問も何も、魔王を連れて来たのがそのエルガーネだろ。それにこっちは人命救助までしたんだぞ……流石に無理のあるいい訳だよな。」
「しかしこれは総本山の!」
総本山とか知らないし! お前等いい加減に世間様の評価に耳を傾けろよ。お前等が、王都に魔王を連れて来たって騎士や大臣とか抗議しているのも知っているんだろうが! それなら平民も不満を持つとか考えないのかよ……考えられたら、もっとまともな組織になるか。
「それでさ、俺のいない間に魔王が来たらどうするんだよ?」
「こちらには多くの勇者が居ます。もう3体も倒したのですから、気にする必要は有りません。」
まだ11歳とか12歳の子供だよ? 確かに下手な騎士よりは強いけど、そこそこ経験を積んだ戦士とかにボコボコにされてるぞ……リュウがな。
朝の面会が終わると、次は昼の面会です。今度はマーセルが俺の病室に来ています。なんでもワイヴァーンの買取や近況報告とかしてくれていますよ。
「しかし今回も大活躍でしたな。レオン様の武勇は、もう他国でも話の種になっておりますよ。」
ん? ……今回も!
「今回は、リュウが活躍したって報告したよね!」
目を覚ました時に、ルーゲルさんが見舞いに来たからその時に有る事無い事報告したんだ。先ず、魔王ワイヴァーンを倒したのはリュウ! 俺は駄馬で運んだだけ! 最後の活躍は流石勇者でした! そんな報告をした筈だ。
「流石にあそこまで謙遜されても、理解できる者にはわかる物です。あの傷は、弓矢などでは到底不可能……そしてオセーンの方々の報告から状況は理解しております。」
感動しているマーセルが、俺の行動を見ていたかの様に語っているが……殆ど内容が、現実とかけ離れている。俺が剣で倒したとか可笑しいだろ! なんでわかっていますって顔をして素直にこっちの話を信じてくれないんだ! まぁ、こっちの話も嘘だけどさ。
「それにしても、今回の神殿の対応には多くの反発が有りますな。私共のギルドでも神殿への寄付金引き下げで話が纏まっている所ですし、王妃様など謁見した時の機嫌の悪さと言ったら……」
最後を濁さないで教えてよ! 数日後には、その王妃様に会いに行かないといけない俺には必要な情報なんだから……お金でも払えば教えてくれるのかな?
「王妃様はそんなに機嫌が悪いのか?」
「ええ、神殿に対して露骨に愚痴を言っております。神殿に対してそう見せているとも考えられますな。国からの寄付金も、今回の事を理由に大分引き下げる予定だとか。」
ハースレイの奴め、その所為であんなに機嫌が悪かったのか? 金儲けに厳しいとか神官としてどうなんだよ。世界に一つだけの宗教とか考えて居たけど、あいつ等を見てると、宗教でもなんでもないから俺の考えも微妙かもしれないな。
「いい気味って言いたいけど、俺も東方に行かないといけないから笑ってばかりもいられないね。」
「……その事ですが、エンテ様が破壊したエルガーネとか言う船の事がわかってきました。空を飛ぶ事が出来た理由が、レオン様のギルドにより解明されたようです。」
その話は大変有益だった。船体に魔物の羽に刻まれた風の魔法の魔方陣を焼き付けて飛ばすんだとか……今まで独占していた技術を流出させたようだな。それに俺達には馬鹿でかいワイヴァーンの羽が手元にある。条件は揃って要るけど、仕組まれた様にも感じるな。
「空を飛ぶ船を建造されますかな? 商人ギルドは何時でも支援させて頂きます。」
流石は商人! 空を飛ぶ船に興味深々かな。
「そうだね……何時旅に出ろとか言われて無いもんね。じゃあ、何年後かに旅に出てもいい訳だよね?」
王妃様もマーセルも、最初から俺に何かさせるつもりだったな。
「王妃様も、レオン様が動いて頂けるなら場所を確保すると仰せでした。」
この状況を利用しよう。家族を家に帰して俺だけ単身赴任! 王都で国の命令だから断れない、と言って船の建造でもしますか……まぁ、造るのは船大工の皆さんだけどね!
「人を集めて貰えますか。出来るだけ幅広い年代の職人と学者に、そして出来れば素人も」
「素人をですか?」
大した理由は無いんだけどね。今までに経験の無い船を造るんだから、全く知識を持たない連中の意見とかも必要でしょう? くらいの考えしかないんだけどさ。これがまた、とんでもなく大変な事になったんだよね。
軍事機密って言葉が有るよね。俺はその言葉を軽く捉えていたようなんだよ。空飛ぶ船を造る事が、国にとってどれだけ重要かを理解していなかった。理解していたつもり! だったという所かな。
「俺が責任者ですか!」
「それが何か?」
数日後の王妃様との謁見は、何事も無く進んでいたんだ。ただ、空飛ぶ船の建造計画とかに話が進むにつれて、おかしな事になっていた。毎回の事だから、何かやらされるとは思っていた。だけどこれは可笑しいだろう!
「俺は、船の建造なんてした事が有りません。総責任者には、それなりの経験の有る人物が良いと思うのですが?」
「レオン殿以外に、この任を任せる事など考え付かんな……それに経験が無いと言えば、この国には誰も空飛ぶ船など造った事の有る者など居りはすまい。」
謁見での王妃様は、俺に微塵も不安を感じていない様だ。だが! 物作りをした事が無い者に責任者を任せるのは違うと思う。ここは無難に経験者に任せようよ。
「素人の意見も重要……確か、レオン殿の言葉だったと聞いているが?」
いや、確かに言いましたけど
「今回の件も、大臣達を説得する為にレオン殿の名前が有効でな。何とか建造の話を承諾させたのだから、期待させて貰いたいのだが?」
笑顔でこちらを見てくる王妃様に、無理です! とか言える訳ねーよ。
「……わかりました。謹んで御受け致します。」
そんな感じで引き受けたんだけど、責任者って大変だよな。何か有れば責任取らないといけないし、何もなくても色々と大変だよ。しかも軍事機密! 関係者は身内に会うにも監視され、指定されている場所からは出る事も許されない。それも大変だけど、それ以上の問題も有る。例えば
「船を造った事もない学者は黙ってろ!」
「バランスを考えたらこの辺りが一番良いんだ! わからないなら、そちらが黙って居て欲しい物だな。」
「何でそんな所に羽なんか付けんだよ。邪魔だろうが!」
「黙って言われた通りに造れば良いんだ。それが貴様等の仕事だろう?」
もう嫌だ。顔合わせをしてからと言うもの毎回こんな感じだ。学者達が作った模型に、職人達が猛反対! その上……
「何で船の形にこだわるの? 別に空に飛ばすなら船で無くても良いよね。鳥とか船みたいな形してないしさ。」
素人さんのご意見が、その場に油を注いでしまい。
「神殿のは船の形をしてたから、これが良い形ですよ! 何よりも海でも使える。」
「海でも使うならそれなりの設計をしやがれ! このままだと海の上でまともに使えないのがわからないのか? わからないんだろ! なら黙って俺らの意見に従って計算してろ!」
自分で言った事だけど、素人さんを入れたのは間違いだったかも知れない。どうしても皆が船の形にこだわってしまう。俺が、まとめようとそれぞれの意見を聞いて回り、何とか頼み込んで会議をしたら
「舐めてんのかこの貧弱が!」
「これだから頭の悪い連中と話なんかしたくなかったんだ……」
「どっちもどっち、だと思うけどね。」
まとまらないよ……だけど俺が責任者だから色々と行動する訳だよ。先ずはお酒の席を用意したり、それぞれの立場の愚痴を聞いたり、それをまとめた計画書を作ってみたり……
結果? どれも失敗ですよ! どいつもこいつもまとまらないし、酒を飲めば喧嘩をする! 愚痴を聞けば延々と話す! 俺の計画書には全員で反対してくる!!!
舐めてた……本当に物作りを舐めていた。前世でも、こんな経験した事が無いから解決案も出てこない。そうやって時間だけが過ぎていった。
「お元気でしたか?」
面会室である場所は、倉庫に手を加えただけの所だ。そんな所に、元が付くとは言え王女様が来れば警備をする人間がどんなに大変かわかるだろう。
「リィーネさ、ん……なんでまた来た?」
手にバスケットを持って面会に来る姿は、一般人にも見えなくは無い。その後ろにメイドやら護衛の騎士やらがぞろぞろとしていなければだがな!
「差し入れと領地の報告に来ました。王妃様からあの辺りを正式に受領する事になりましたし、最近の内政の事も心配だろうと思いまして……お邪魔でした?」
首を可愛く傾げているが、俺は騙されないからな! ……受領?
「待て、待って! 何時受領したの?」
「私が領地に向かう前には、正式な書類を頂きましたけど……お聞きでは無いのですか? まぁ、元々はレオン様が治めていた様な土地ですから問題もあまり有りませんでしたよ。」
何を笑顔で大丈夫! みたいな事言ってんの?
「内政って何をしてるんだ? 前に来た時は何も言っていなかっただろ。」
「色々と領内の資料を集めておりました。そこから今後の計画を立て直しております。……レオン様も大変でしょうがお勤め頑張って下さいね。」
そう言って、手に持ったバスケットを俺の前に差し出してきた。最初に来た時から差し入れを欠かさないリィーネ。しかし、そのクッキーもどきに点数を嫌味もこめて『32点』と言ってから毎回持ってくるようになって
「……レオン様、リィーネ様は出発前はまだ暗い内から起きて一生懸命御作りになっておりました。……そこを考慮して点数の方をお願いいたします。」
リィーネの専属メイド『エリーサ』さんの脅しとも取れる小声に頷いてバスケットから一枚のクッキーを取り出して口に運ぶ……この人も戦闘技能を持っているメイドさんで子持ちだ。そして俺の後ろに位置取りをして、俺の評価を待っているリィーネの事を見ている。
「35て、」
「少ない時間を練習に当てた事を言い忘れておりました。」
「さんじゅ、」
「……もう一声!」
「41点」
「最初の頃から比べたら9点も良くなりました! 今度も頑張りますね。」
無邪気に喜んでいるピンクことリィーネのクッキーをまた一枚口に運び、領内の資料に目を通すと……
「何これ!!! もう村じゃないじゃん! 城塞都市を目指すとか、水路を作るとか……誰が考えた?」
その言葉を聞いて、自分が考えました! と言ってくるリィーネ……こいつ内政なら100点なんじゃね? 俺にはここまでの計画なんか立てられないし、実行できるとも思えない。
「それから、来年にはセイレーンちゃんとラミアちゃんが成人になりますから、お勤め次第では王都に連れて来てここでお祝いしましょうね。」
「ああ、もうそんな歳か……みんな元気?」
「リュウ殿以外ならみんな元気ですよ。農法の改良に失敗したので、少し落ち込んでおりました。今は訓練に集中していますけど……」
あいつ本当に実践したのか! そこは評価できるけど、幾らなんでもいきなりなんてことしてんだよ。豚みたいな動物がいないから、それに近い動物から探すのかと思っていたけど……リィーネの微妙な顔をみたらいきなり畑にぶちまけでもしたのかな?
「あとポチ殿が、」
「あいつはいいや。どうせ元気でしょう。」
あの駄馬が、ヒースから離れられるとわかった時の喜びかたと言ったら……俺の馬なのに、自分だけ帰るとか何考えてんだか
そんな会話をして別れた俺は、自分の宿舎に戻って今後の計画について考えをまとめる事にした。クッキーをかじりながら今度は何時話し合いをするか考え
「意外と美味しいな。」
クッキーが形の割りに意外と美味しかった事に今気が付いた。
そうして過ごしていく内に、最早仲裁役と言って良い俺の巻き添えで殴られた回数が100を超えた頃に計画に変化が出て来た。若い学者と若い職人が双方の代表に無断で設計図を描いていた。
もう大問題! それぞれの代表に怒られる若い連中には、殴られていた奴も沢山居て仲裁役の俺も数発殴られた。俺は職人に嫌われているのかも知れない。
だけど若い連中が
「俺達は空を飛ぶ船を造りたいんです! 何時までも言い争っていたら前に進めないじゃあ無いですか!」
この言葉が効いたのか、少しだがそれからお互いの歩み寄りが始まると後は早かった。
なんだかんだ言いつつ、確りと設計図を完成させて模型を幾つも作り、そこからまた新しい設計図を……もう素人の俺には、何が何だかわからないまま作業は進む。しかし、俺以外の素人さん達の意見がかなり新鮮らしくそれを取り入れながら、また設計図が……
「そうして漸く完成したのが、この『アルトリア』と言う訳か……流石ですねレオン殿。」
完成したのは模型なんだけど、もう材料の加工も始まっているから形だけでも見せようと王妃様に報告をしている俺。正直何もしていないけど、報告するのは責任者の仕事だと学者や職人も来たがらない。
報告する為に来たが、城の謁見の間ではなく警備の厳重な一室での報告となった。傍には王様と大臣が数名いるだけで残りは護衛だ。
「25mの船になります。これ以上の小型も大型も現時点では難しいと判断しました。」
学者の人達や職人がそう言ってたし、そうなんだろうね。俺は理解していないけどさ。資料も少ないからこの船を使って色々実験するとか言ってたな。
「……ここまでよくやってくれましたね。礼を言います。それから、レオン殿の奥方も近日中には王都に到着すると聞いています。結婚早々に長い事引き離してしまい悪い事をしてしまいましたね。」
俺に謝る王妃様……確かに長かった。ここまで来るのに2年がかり! でもこの計画なら早いのか遅いのかも俺にはわからない。俺の想像だと異常に早くここまで来てると思うんだが……
模型の形は、前世で言う『飛行船』の形に近い。最初に見た感想は『空飛ぶ潜水艦』だったけどね。
そうして造り出された『アルトリア』は、よくぶつかるし、よく落ちる。……失敗だとも言えないけど成功とも言いがたい船に仕上がった。セイレーンとラミアの成人の祝いを王都でした後に出来上がったこの船で船員の教育や試行錯誤を繰り返し、船を改良して……そんな事をしていたら
「おめでとう二人とも、これで二人も立派な大人ね!」
リィーネのお祝いの言葉は、エイミとリュウにかけられている。……色々やっていたら更に2年もかかってしまっていたんだよ。
今は王都から離れた湖で、専用の施設を作りながら実験を繰り返してた。だから今回の2人のお祝いはその湖の見える宿舎で行っている。驚かせる為に仕掛けを準備しているから、外の見える場所をわざわざ借りたら駄馬まで参加してくるとは……
ここに来た家の家族は、皆が成長して大きくなっていた。セイレーンとラミアは、もう大人の女だな……綺麗になったから何処かの男と付き合ったりしているのかも知れない。
エイミも背が高くなって、身体つきも数年前の女の子って感じでは無くなっている。……もう子供では無くなった。だけどリュウは……
「レオンさん見て下さいよ。メッサの新しいメイド服! 成人のお祝いにリィーネさんがくれたんですけど、またこのデザインが俺の心に響くって言うか」
メッサを連れて、自慢のメイド服を着せて喜んでいるリュウ。
「……わかったから、お前が中身は成長してないのは十分わかったから!」
背も高く、黙っていれば金髪で金色の瞳の美形なのに中身が残念過ぎる。お祝いがメッサのメイド服とか、それってどうなんだ? と言ってやりたいが本人が喜んでいるならそれで良いかな。
『マジかよ……なんで俺のお祝いが用意してないんだよ。』
俺の隣で落ち込んでいる駄馬は、再会の挨拶も無くいきなり自分のお祝いのプレゼントが無い事に落ち込んでいる。……お前は馬だから無いに決まっているだろうが! あれ、こいつ馬ならもうすぐ寿命だよな? 何でまだ現役で馬車引いてるの! てか、こいつって一体幾つなんだ?
「レオン様の造っていた物って、あれですか?」
そう考えていたら、エイミが俺の後ろに見えている船を見てそう聞いて来た。そうなんだ! 今日の二人のお祝いに合わせるかのように完成し、お披露目となった正式な『アルトリア』が俺の後ろの湖に浮かんでいるんだ。
「旅に出たくないからって、潜水艦でも作っていたんですか? 俺が聞いてた話だと空を飛ぶ船を造っている事になってたんですけど?」
『なんかこそこそとしていると思えば……逆転の発想にしても行き過ぎだよな。4年もそれで引きこもるとか馬鹿だろ。』
噂が流れていたのか? まぁ、言いたい放題の二人は放っておこう。因みのこの湖は、俺達がワイヴァーンに追い詰められた湖だ。何故だか『聖剣の湖』と呼ばれているんだとか。
「父の事を疑う訳では有りませんが、湖にこんなに大きい船を浮かべて意味が有るんですか? マストも無いのに動くとも思えませんし……」
セイレーンが、俺を不安そうに見てくる。何かを造っていると言う事は知っていた様だがそれ以上の事は憶測だったのか。でも、王都での空を飛ぶ船の件は多くの住民も見ていた様だから、噂が出ていても不思議では無いのかも知れないな。
「明日の式典の前に見せてやろうと思ってな。見てくれ!」
俺が両腕を広げて合図を送ると、船の周りの水が動き出す。最初は波紋が出て、次は波になり、そして水柱が上がると船もそれに合わせてゆっくりと浮かびだす。
「潜水艦が空を飛んでる!!! まさに男のロマンですねレオンさん!」
リュウがはしゃいでいる以外他の家族は声も出せないくらい驚いている。50m級のその潜水艦のような形をした船は正式な『アルトリア』で、アルトリア王国の飛行船だ。……因みに、水に浮かぶ事は出来るけど潜る事は出来ない。だって飛行船だし!
前世の飛行船を更に細くした感じで後ろの方に四枚の羽と前方に二枚の羽を装備したシンプルな形をしている。何故か、白く目立つ色をしている。
「俺頑張った……4年も頑張ったよ! 殆ど巻き添えで殴られたり愚痴を聞いていただけだけど……」
1人これまでの事を思い出して喜んでいた俺の肩にそっと手を置くラミア……美人になったね。
「これで漸く旅に出られますね。私達も、もう大人ですから付いて行って良いんですよね?」
「……どうかな?」
笑顔のラミアやエイミが、わくわくしている雰囲気を出している。その横で落ち着いているセイレーンも興味は有るような顔をしていた。
「それからアンナとソフィーも来ているんで呼んでいいですか? 父に会いたがっています。」
アンナとソフィーか……ラミアとセイレーンのペットのトカゲ達も大きくなったんだろうな。最後に見たときは2mを超えていたから3mくらいになっているかもしれない。よく連れて来たな!
「良いけど馬車の中にいるのか?」
「? 上にいますよ。」
そう言われて上を見ると、セイレーンが口笛を吹いた。その口笛に合わせて降りてくる二つの内一つの影は、4年前のワイヴァーンのシルエットにとても似ていたし、もう一つは明らかにドラゴンだった! しかもなんか赤っぽい!
「大きくなったでしょう……2年前から漸く飛べるようになったんです! もう、8mくらいだから人一人なら楽に乗れるんですよ。」
楽しそうに語るラミアの横で、降りてきた2匹に舐められる俺は言葉が出なかった。まさか本当にワイヴァーンとドラゴンだと誰が思う? お前等4年前は羽なんて無かっただろうが!
「ソフィーも連れて行って良いですか?」
俺が2匹の涎を拭き取っているとセイレーンが聞いてきた。俺が決める事なんか出来ないからね。しかも、もう自分達は付いていく事が決定してるみたいに言ってるよ。まだ何も決まって無いから!
折角の軍事機密を何故に王妃様は、式典まで開いて他国や神殿の連中に見せるのか……色々考えたけど、答えが出ないまま俺は式典に参加していた。それ以上に
「4年も何処に居るのかと思えば……レオン殿は本当に東方へ行く気は有るんでしょうな?」
ハースレイよ、落ち着きなさい。俺にそんな事を言っても始まらないだろう? まぁ、行く気は有ったんだけどなにせ王妃様の命令じゃあ仕方ないよ。俺の上司だもん!
「ちゃんと行くって、その為に準備したんだからな。」
「まさか神殿の『アルガーネ』を模造するとは考えていませんでした。ですが、これで旅立たねば私達にも我慢の限界という物が有りますぞ!」
「そんなのがお前達に有ったのか! そっちの方が驚きだな。」
適度に茶化しながら相手をしていたら、こちらに王妃様が王様を従えて登場してきた。王様のこの存在感の無さは、年々磨きがかかっていると思うんだ。もう既に空気だよ!
「神官長もあまりレオン殿を責めてくれるな。私の命令で苦労をかけたのだから、私に直接言ってくれて良いのだぞ。」
「……」
ハースレイが黙ったけど、俺もこれを言われたら黙ってしまう。
「レオン殿の東方への出発は許可したが、本当に大丈夫であろうな? ここ4年は魔王も大人しかったが、これからもそうだと言える確信が有るのだな?」
王妃様が脅すようにハースレイに質問している。まるで尋問だな。
「勇者様方も、もう15歳で大人です。レオン殿もその年齢の頃から活躍しておられた……問題など有る訳がありませんな。」
お互いが譲らない中で、結局は俺の東方への出発は変更無く行われる事になった。
この時にもっと考えていれば良かったんだ。何故4年も俺が飛行船の建造に打ち込めたのかって事を……何故、4年もの間に魔王の動きが聞こえてこなかったという事を
その城は深い森の中に有りながら綺麗にされ、昔のように恐ろしさは無くなっていた。薄暗い森の中で、その城の窓から沢山の光が目立っている。
「おやおや、レオンの奴は東方へ行ったらしいぞ。これは俺達の為に行動しているように感じるが……罠かもしれないな。」
「レオンの奴は勇者の武具を抱えて東方へ……我々の行動を開始する時では有りませんか?」
「……今俺は、『罠かも』って言ったよな? どうして俺の周りには……あれ? あいつは何処に行った。」
城の外にある飼育小屋とも言える場所で、1人の女性が大きな首輪を持って一つだけ空いた場所を見ている。かつて育てていたワイヴァーンの世話をしていた時の道具は、今もそのままにしてある。他の魔王の鳴き声を聞きながら女性は
「…………仇を取りに行って来るからね。」
そう言ってその場から離れて行く。外にいた多くの魔物が、女性を見るとそれぞれのやり方でお辞儀なり服従のポーズをしてくる。
その中を歩く女性に、この城の主が腕を組んで待ち構えていた。その周りには女性と同じ様な雰囲気を持った異形の者達……
「そろそろ動く時が来た。レオンが離れるなら、これは絶好の機会だと言ってこいつ等が聞かなくてな。準備は出来ているんだろう?」
頷く女性は、そのままその集団に加わり歩き始める。
「レオンが想像以上に手強かったからな……今までの準備がこんな形で役に立つのも、俺の日頃の行いの所為かもな!」
笑いながら先頭を歩く人物に、後ろを歩く連中は無表情で首を横に振る。
出発式的なものを開いて貰い、いざ出発と言う所でエリアーヌが実家に帰ると言ってきた。……別に俺に愛想を尽きたと言っても仕方の無い状況だが、どうも違うらしい。
「レオン殿、祖国にて勇者を集めての成人式? を兄上が行うらしいので参加してまいります。」
「へぇ、オセーンには成人式が有るのか。」
成人になるとお祝いをこの世界でするんだけど、『成人式』って形はとらないから前世を思い出してしまう。
「いえ、兄上が始めた事でして私達が初めて参加するそうです。」
変な違和感は有るが、もうすぐ俺も出発しないといけないから話をここで終えてしまった。この違和感に気づいた時には、もう手遅れになっていたんだ。
「そうか、気を付けてな。」
「はい。」
15歳の嫁さんに別れを告げて俺は船に乗り込む。リィーネとは既に別れを済ませていたから問題ない。と言うかリィーネは忙しいから前日に挨拶を済ませた。領地での内政で旦那よりも忙しいなんて……
次回こそ! 次回こそ東方へ行く!