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ジェットコースターより怖い。

 何だか漸く次にいける感じです。主人公と駄馬にリュウは、もうトリオでも良いよね。

 それは良く晴れた日の出来事だった。略式とは言え、レオン様の結婚式を行う為に正装したギルドメンバーが、神殿の庭で話していた時だ。かなり慌てた伝令の騎士が、神殿の中の王族に何かしらを伝えたらその所為で騎士団の連中が大慌てで神殿から去って行った。


「何か有るんすかね先輩?」


 僕の横でアホ面をして暢気にしているバスが、とても羨ましく思えてならない。長い金髪を後ろで縛り、纏めて右の頬に傷を付けている馬鹿剣士のバス……僕のチームのメンバーの1人だ。


「適当に誰か捕まえて聞いてみるか? こんな慌て方は聞いた事が無いな。正装した騎士団が走ってるぞ。」


 そこで聞いた話は、とても笑えない話だった。空を飛ぶ船に、ワイヴァーンが付いて来て今にも不時着しそうだと言う。……僕は騙されているんだ、と思っても不思議じゃあない。


 でも、騎士団は真剣そのものだったから、僕等も人を集めて城壁に向かったんだ。城塞都市のこの王都に、下手な魔物なんか来ても怖くない! そう思って行ってみたら後悔したね。


「え、エンテ先輩! 俺の目が可笑しいです。船が空を飛んでいます。」


「ああ、俺にも見えているから安心していいぞ。お前の可笑しいのは、その頭の中身だけだ。」


 正直少し感動していた。御伽噺の空飛ぶ船が見られた事に、そして後悔した。それを追って来るワイヴァーンの規格外の大きさに、


「あの大きさって、軽く20mは超えてますよね? しかもワイヴァーンの癖に刺々しさが無いと言うか……」


「あの大きさで、まだ子供だって言うのかよ。最後の脱皮前って所かもな。本で読んだ限りじゃあそれくらいしかわからないが……でか過ぎるってのは理解できるな。」


 そう話していると、神官達が何やら騒ぎ出した。こいつ等が騒いでいると本当に笑える。


「あ、あれに魔王だと言う神託が!」


 訂正しよう全く笑えなかった。


 更に笑えないのが、空飛ぶ船がこちら目がけて火を上げながら向かってきている事だ。笑えないな……本当に笑えない!


「先輩何とかしないと!」


 わかっているから黙っていろよ。本当に戦士とか剣士とかの前衛は、急ぎ過ぎていけない。今回のような時こそレオン様のように落ち着いて集中して行動するべきだ。


「僕の味方たる……」


「じゅ、呪文? 魔法なんて使ったらあの船が落ちちまいますよ。」


 落とすんじゃあない! 着地させるんだよ。あのまま城壁にぶつかれば被害が大変な事になる。そう考えた僕は、船の前に出せるだけの水の盾を配置する。


 それから着地しそうな場所に、あらかじめ土系の魔法使い達に解させておいて、そこに水を大量にぶちまけた。……片付けの事は今は考えないで置こう。


「うお! すげぇ……でも盾にぶつかったら粉々になるんじゃあ?」


「そんなへまをするかよ。ちゃんと調整して……」


 進行方向に配置した、水の盾にぶつかる空飛ぶ船は水のお陰で火も消えてその速度を徐々に落としている。ぶつかる毎に盾が弾けていく……


「……マストが吹っ飛びましたよ……なんか盾にぶつかるたびに形が酷い事になってますけど。」


 そうして空飛ぶ船は、城壁にぶつかる事無く無事に着地した。用意していた泥が良いクッションになってくれた。……成功と言って良いだろう。


「満足な顔してますけど、船の乗組員が抗議してるみたいですよ。先輩の責任ですよね?」


「助けたんだから、大目に見て欲しい物だね。それから……レオン様に知らせておいてくれ、僕はもう……疲れた。」


 そう言って、前のめりに倒れる。意識が朦朧としてきた……


「これだから魔法使いは、貧弱なんだ。」


 バスが僕を見下ろして何か言っているけど、これだけの事をやり遂げてその反応は無いと思う。敵のワイヴァーンは、レオン様が何とかしてくれるだろうから僕はここまでで良いよね?







「やっぱり俺は、天に見放されていると思う。」


 そんな事を空を見ながら呟いた。ピンク頭から解放されたかと思えば、空に浮かぶワイヴァーンはとても大きく対処の仕方がわからない。通常あんな大きさは考えられないから、魔王と言われれば確かにそうなのかもしれないね。


 この状況でそんな事を考えているけど、やる事なんか1つしかない。王都上空で旋回しているワイヴァーンを、ここから引き離す事が先決だ。


 王都中から放たれる、魔法やら弓矢などを回避しているワイヴァーンから目を逸らせば、今回の結婚式に参加している他国の王族を護る騎士団が、責任者らしき者と激しく口論していたりと状況も悪い。


 直ぐに神殿の馬小屋に行くと、駄馬とリュウが空を見上げて何やら能天気な会話をしていた。


「うわぁ、俺初めてあんなに大きいワイヴァーン見たよ。なんだか本物のファンタジーだよねツックン。」


『家のもあんなにでかくなるのかな? そうなると今まで蹴飛ばしていた俺に仕返しが……』


 なんかここだけ空気が違うな……まぁ、良いか。暗くなくて良かったと考えて、二人に指示を出す。


「お前らが目立って、ワイヴァーンの餌になって来てくれ。そのまま王都から遠くに誘導すれば問題無い。」


「何ですか急に!」


『餌ってなんだ! お前がやれば良いだろうが!』


 馬鹿め、仕返しに決まっているだろうが! それは置いておくとして、空を飛べて遠距離攻撃を考え……目立って欲しい人物とくれば


「大丈夫だ! お前達なら死なない気がするから。」


『いや、普通に殺されるだろうが!』


「食べられますよ! それに……俺は、馬に乗ったまま弓を使った事なんか有りませんよ。乗馬も苦手だし。」


 俺の提案は、早くも問題に直面してしまった。何とかあのワイヴァーンを王都から離して倒したい。このままでは王都が火の海になってしまう……仕方ないか。


 そうして準備を始める俺は、リュウには弓と矢を、それから地図を用意させ、俺はロープを用意しつつ作戦を近くにいたギルドメンバーに伝えておく事にした。俺自身の武器は、今回は役に立ちそうに無いから持って行かない。


「……レオンさん、武器を用意してなかったんですか?」


「結婚式にそんな物騒な物を持ち込めるか! 暗殺を疑われるから、ナイフすら持って来ていない。」


『自慢しても格好悪いと思うぞ。忘れただけだろうが。』


 そうだよ! 宿に置いて来たんだよ。大体あんな化け物に槍で勝てると思うか? 勝てる訳無いから必要無いだろうが……そう自分を弁護しながらロープで、俺とリュウを縛る。駄馬にも邪魔になるが、安全の為にロープで縛る。


「……ま、まさか3人で戦うんですか!」


「違う! ……あの化け物をつれて、王都から逃げるだけだ。」


『倒せんのかよ!』


 倒す? 馬鹿を言うな。直接、あんな化け物と戦おうとするその思考が理解できないよな。俺は簡単に説明する為に、リュウの装備から地図を取り出す。


「北の方角に湖が有ってな。そこに鋭く尖った岩が一つ有るんだ。」


「それを使うんですか?」


 そんな見えている様な罠に引っかかると思うか?


「そこの湖の水の中は、そんな岩が沢山有るんだよ。そこに誘い出して水に飛び込む振りをして……串刺しにしてやる。湖には一度だけ行った事が有るから、何処が危険かも知っているから問題無い!」


『上手く行くか不安なんだがな。』


 今考え付いたのが、これだけなんだからしょうがないだろうが! それ以上を俺に求めるなよ……頭悪いんだよ。


 そうして、駄馬にリュウと二人乗りをして空を目指す。リュウには、弓を使いワイヴァーンの注意を引いて貰わないといけないから……そんな考えは、ワイヴァーンの咆哮で吹き飛んだ。


「レオンさーん!!! なんか向こうからこっちを目指して来ているんですけど!!! なんか俺は、必要無さそうだから降ろして欲しいです!!!」


『ちょっ!!! 物凄く速いんですけどあのワイヴァーン!!!』


「つべこべ言わずに逃げるんだよ! ……あ!」


 そう、上空で騒いでいたらワイヴァーンからの攻撃で、口から炎を吹いて来た。その炎が、火球を形作り俺達を目掛けて飛んでくる。……その火球のでかさは、俺達を飲み込んでもお釣りの来る程のでかさだった。


「だ、駄馬! 早く北に向かえ!!!」







 外に出た私は、護衛に付き添われながら様子を確認した。魔王の囮となり王都から引き離したレオン殿……夫の事が心配だからだ。


「エリアーヌ様! まだ危険ですから神殿の中でお待ち下さい、と言ったでは有りませんか。」


 外に出て来た私に、親衛隊の隊長が近付いて来る。確かに周からも、ピリピリとした緊張感のような物を感じる。これが戦場の雰囲気なのだろうか?


「ミレー……レオン殿は大丈夫なのですか?」


「それはまだわかりません。現在はアルトリア騎士団の主導で、増援の準備が行われておりますが……詳しい情報はこちらには届いておりません。」


 『ミレー・ネアシー』は、私が幼い頃から傍で仕えてくれている信用できる人物です。その言葉に、私が落胆したと思ったのか


「ですが、向かった場所を聞いていた者が居ります。何でも北の湖を目指しているとか……追いますか?」


「邪魔は出来ません。しかし用意だけはしておいて。」


 ミレーが、その言葉を聞いて他の近衛騎士達に指示を出していきます。私はそれを見た後に、北の空を見ていました。驚くほどに大きなワイヴァーンから、王都を護る為に自ら立ち向かうなんて……なんだか憧れます。







「駄馬! 右に避けろ。あっ! やっぱり真下に避けろ。」


『急に言われても無理! 大体、真下に走るとかやった事が無い。』


「ぎゃぁぁぁ!!! また炎がこっちに来てます!!! ツックン何とかしてよ!」


 かなり高い所で三人仲良く叫びながら逃げている俺達は、必死にワイヴァーンからの攻撃を凌いでいた。空を走る駄馬でも、流石に空で生きる化け物にはスピードでは勝てないようで……小回りを利かせて何とか逃げている状態だ。


『もう落ちた方が早くね?』


 そんな駄馬のいい加減な行動で俺達は


「うわぁぁぁ!!」


 先ずはリュウが空中に投げ出され、それをロープで繋がっている俺も


「のっわ!」


 手綱だけは放さないようにしたが、空中に放りだされ


「ぐえぇぇぇ!!!」


 駄馬はその手綱でバランスを崩して落下してしまった。そうして近付く地面に恐怖しながら、3人で協力しながら空中で何とか体勢を立て直したら、走り出した駄馬の着地の衝撃が想像以上でまたリュウが落ちた。そのまま俺もケツを打ってしまって痛くて仕方が無い!


「ぐっは!! ロープを結んだ所が痛い……」


「こっちはお前の所為で、ケツを打って酷く痛いんだけどな!」


『そのケツの所為で、俺の背中も痛いと言う事を理解しておけこの屑共が!!!』


 相当な苦労をしながら湖を目指していた俺達。リュウは途中で弓を落とすし、駄馬は慣れない空での走りに上手く動いてくれない。その上……咆哮でも、なんだか突風的なものまで飛んでくる状態で俺達はボロボロだった。


 唯一の救いは俺が鎧を着ていると言う事だろう。外見は! ボロボロにならず他の二人よりは多少ましな程度だけどな。


「もう直ぐ見えるはず……見えた! あれ?」


 間抜けな声を出した俺に、二人の冷たい視線が突き刺さる。駄馬に関しては視線はこちらを向いていないが、声がなんか冷たかった。


「確かに尖っている岩が多いですね……湖が浅いから丸見えですけどね!」


『本当に勘弁して欲しいわ……この役立たず!』


 こ、こんな筈では……昔、地図を作る為に旅をした時には確かに深い湖が有ったのに、目の前には水の少ない池の様な物が有るだけだった。良く見ると、水の入る場所が大きな岩で塞がれていた。


 こうなったらあの岩にワイヴァーンをぶつけてやる!


「駄馬、あの目の前の大きな岩に突っ込んで、ぎりぎりの所で上に避けろ……あの岩にぶつけてやるんだ!」


『失敗したら本当に蹴り飛ばしてやるからな!』


 そう言って大きな岩を目指した俺達は、ぎりぎりの所でその大岩を避けた! そうすると激しくぶつかった衝撃音が聞こえて成功したと思い後ろを振り返ると


「物凄く失敗してるじゃあないですか! 向こうは、足から突っ込んで余裕でこっちを狙っていますよ!」


『最低な勇者だな! 少しはまともな作戦を考えたらどうなんだ!』


 最早泣き叫ぶような二人の叫びに、笑いしか出てこない。まるでこちらを笑っている様なワイヴァーンの笑顔……そうして口に集まる魔力が炎に変わり、こちらを目掛けて飛んでくる。


 ……魔力?


「駄馬、この場所から動くなよ。」


『あん?』


 物凄い魔力の塊の火球でも火の魔法には変わり無い筈! 俺はタイミングを合わせてその火球を消滅させた……が、大き過ぎたのか調整をミスって威力は大分押さえられたが爆発してしまった。


「何してんですかレオンさん!」


 吹き飛ばされた俺達が空中で見た光景は、爆発とワイヴァーンが突っ込んだ衝撃で崩壊した大岩が、ワイヴァーンに圧し掛かりそのまま真下に有った鋭い岩に落ちていく光景だった。


 空を突くように鋭く尖った岩が、まるで針山みたいに存在していたんだからこの作戦は成功ではないだろうか? そんな事を考えていれば、岩がぶつかる音と共に塞き止められていた水の流れてくる音がした。


 そして流れ出した水の激しい流れに飲み込まれた俺達……3人ロープで繋がっている状態で、しかも俺の装備は全身鎧! 助かるのだろうか?


『お前だけ溺れろ! 俺を巻き込むな!』


「本当にお前は自分の事しか考えてないだろ! 今までの恩を返そうとか考えないのかよ!」


『寝言は寝て言え! お前に恩を感じた事など一度もブッハ!』


 そう言いながら沈んで行く俺達は、もがきながら必死に岸を目指した。






 激しい水の流れから脱した俺達は、陸に上がると倒れる様に大地の上に寝転んだ。今もまだ水かさの増している湖を見て、ワイヴァーンが助からないと確信したから気を抜いていた。


「レオンさんは、もう少し頭の良い人だと思っていました。」


『最悪だよ! お前は本当に最低だ。』


 鎧を着ていた俺が、二人のお荷物になり引き上げられる形で助かったから文句が言えない。だけど、倒せたんだからそこは評価して欲しいな。


「すまない。」


 3人で呼吸を整えながら湖を見ると、泥水の様に汚れた水がどんどんと流れ込んでいた。自然界でこんな表現は可笑しいが、風呂に水を張っているように感じる。


 そして激しく立ち上がる水柱を見た時は、3人とも余り表情に出なかった。疲れていたのも原因だが、多分理解できなかったんだと思う。……ワイヴァーンがその水柱から現れてこちらに火球を放った時は


「は?」

「え?」

『あ!』


 間抜け顔でそれを見ているしかなかった。そのまま運良く吹き飛ばされて転がる俺達を目指して飛んでくるワイヴァーンは、俺達の目の前に着地してこちらを睨んできている。ハッキリ言おう! もう戦える体力など残っていないし、身体もうまく動かせない。


「うぅぅ、短い人生だったな。折角、念願の専属メイドを手に入れたのに……」


『諦めるな家来その2! 立ち上がって俺の盾になれ!』


 そんな二人とは違い立ち上がる俺は、左腕の腕輪の能力で立ち上がるくらいの事は出来るようになった。……テオから押し付けられた『エクスカリバー』が役に立ったな。……!?


「な、なんですかレオンさんのその光ってる剣は!! 凄い力を感じますよ。」


『出し惜しみなんかしてんじゃあねーよ!』


「二人とも……良い話と悪い話が有るけど、どっちから聞きたい?」


 エクスカリバーを剣の状態にして、3人を結んでいたロープを切ってから、大剣を両手で構えてワイヴァーンと睨み合う俺は、二人に質問した。


『……良い話から聞かせろよ。』


「この剣は強力だ。回復能力まで付いた優れた武器なのも確かだ。貰ったまま使わないから忘れていたんだ。」


「わ、悪い話は?」


「……俺、剣とか苦手なんだよね。」


 口を開けて驚いている二人が、いきなり現実に直面した。希望と思われたその剣を使いこなせない俺に、激しく罵声を浴びせてくる。


「冗談でしょう! 苦手って言ってもレオンさんの基準ですよね? 」


「ははは、才能が無いから子供の頃から使っていない。短剣くらいで今まで十分だったし……こんなにデカイ剣は、振った事も無いな。」


『勝てるんだよな?』


「強力と言っても剣一本で、目の前のワイヴァーンに勝てると思うのか? 寧ろ得意の槍でも不可能だと思うよ。」


「何期待させてんだよ!」


『本当に屑だなお前は!』


「煩い! 俺だって疲れてるのに、ここまでやってやったんだ! 感謝しろよ。」


 まぁ、背を向けて逃げたらそこを攻撃されると思ったからでも有るんだけどな……そんな事を考えていたら、急にワイヴァーンが前のめりに倒れて地面が揺れた。土煙やら水滴やらが、こちらに飛んで来て異変に気が付いた。


「一体何が……うっわ! 背中が物凄く傷だらけですよ! なんか突き刺さるってよりも抉ったような……」


 リュウが言った通り、ワイヴァーンの背中には深い切り傷が複数あり、そこから大量に出血している状態だった。あの状態でここまでやったのか!! 寧ろ尊敬してしまうような光景だが、俺達も限界だった。


 倒れて息を引き取ったのを確認したら、3人ともホッとした上に上空にオセーンの親衛隊が来ているのが見えて……安心して意識を手放せた。もう、本当に色々と限界だよ。空から降りてくる近衛騎士達のペガサスの羽が、少し不気味に感じたのは内緒だ。






「ミレー隊長……これを勇者レオンがやったのですか?」


 部下の声は、信じられない物を見たと言った感じの声だ。私も信じたくは無いが、目の前でワイヴァーンが倒れる所を見れば信じるしかない! 剣一本で魔王を倒すとは、流石最強と言われるだけはある。


「レオン殿の大剣は何処だ?」


 周辺の護衛に着いた部下に、先程まで輝いていた剣が無い事を不審に思い聞いてみた。しかし誰もわからないと言った返事しかしてこない。……責任問題になったら、エリアーヌ様のお立場が悪くなる為に探したがあの剣は見つからなかった。


「幻でも見ていたんでしょうか? あんなに深い傷を付けるなんて、剣ではとても無理ですし……」


 確かに、御伽噺を見ている様な感じでは有ったな。1人の騎士として憧れた姿でもある。エリアーヌ様に相応しいお方なのかもしれないな。


「アルトリアの増援が来るまで動けそうにも無いしな。応急処置だけでもしておくぞ。」


 そう言って、レオン殿の兜を取り、鎧を脱がしていく……だが、部下が何か言いたそうにしている。


「ミレー隊長……なんか、その……エロいです。」


「何を言っているんだ? 少女でもあるまいしこれぐらいで顔を赤くしてないで手伝え!」


 しかしだ! 改めて言われると何だかドキドキする物で、手つきがどうにも……鍛え上げられた肉体を指でなぞるとなんかこう……


「隊長不味いですよ! エリアーヌ様が先です。」


「そ、そうか!」


 この場にいる近衛騎士は、エリアーヌ様を護る為に全員が女で編成されている。そして誰も私を指摘して来た部下の発言に突っ込まなかった。本来なら有ってはならない事なんだが


「ぜ、全裸よりもこっちの方が……」


「隊長! そのまま下の方も確認しましょう。」


「い、いやしかしこれ以上は……少しだけだぞ。」






 俺が目を覚ました時には、全てが終わっていた。王都での処理なども終わり、怪我人などの治療も順調に進んでいるらしい。まぁ、そのけが人の中で重症なのが俺達な訳だがな。


「何でレオンさんだけ軽症で済んで、俺だけがこんなに包帯でぐるぐる巻きなんですか。」


 俺の隣で寝ているリュウが、恨めしそうにこちらを見てくる。確かに良く軽症で済んだ物だ。怪我自体は治っているが、魔法では体力までは戻らないから安静のままなんだけどさ。


 エクスカリバーの腕輪のお陰なのだろうか? 鎧を着ていたのも良かったのかもしれない。でも、発見時には鎧を脱いでいたとか聞いたんだけど……脱がしてくれたんだろうか? アルゴは、来た時には鎧なんか着てなかったって言ってたし……


「リュウ様、アーンして下さい。」


「メッサ! その緑色の苦いのは、もう飲みたくないよ。本当にお願いだッガ!!」


 考えていたら、新人メイドに拷問を受けているリュウの姿が目に入り、どうでも良くなった。深く考える事でもないだろう。無理矢理口をこじ開けられて、緑色の液体を口に流し込まれるリュウは涙目だ。


「うぅ、ウップ! は、吐きそう……」


「大丈夫です。まだまだ有りますから、治るまで飲んで頂きます。」


「レオンさん、助けて下さいよ!」


 俺に振らないでくれる。それ以上に俺も助けて欲しいんだからさ。


「レオン様、果物をどうぞ。」


 俺の右側から、皮を剥いた果物を差し出すピンク。


「飲み物です。」


 俺の左側から、飲み物の入ったコップを差し出すブルー。


「もう大丈夫だから、見舞いにも来なくていいから。……それよりさ。」


「そうです! 父の看病は私達の仕事です。」


「お姉ちゃん、父の横で添い寝してても説得力が無いよ。」


 俺のベッドの左右を固めるセイレーンとラミア……更に正面には


「レオン様、私は邪魔ですか?」


 正面と言うか、俺の真上と言うか……膝枕をしているエイミ。なんだろうね……俺は殆ど大丈夫なんだけど、この状態のまま体力を回復するなんて想像も出来ないよ。


「もう本当に看病とか要らないから! もう大丈夫なんだって……それよりも駄馬は?」


 少し気になって聞いてみて後悔した。あいつは目覚めた当初こそ大人しかったが、その後はペガサスのハーレムと共に空を駆けているらしい。なんで一番元気なんだよ! 一番消耗したのあいつだよな?


「あ! レオン様、神官長のハースレイ様からお手紙をお預かりしていたんです。お読みいたしましょうか?」


「ハースレイ? また悩み相談か……両手も動かせない状態だから読んでくれる。」


 左右を確りと固められた俺に、手紙を受け取る事など出来なかった。出来れば読みたくも無いんだが……


「では……無駄な部分が多いので纏めると『エルガーネが壊れたので、歴代勇者の武具を治す為に東方へ旅に出て頂きたい。』ですね。もう本当に空気を読めないですよね、特に神殿の関係者は……」





 え? 東方に行くの……俺が! 笑顔でそう言っているピンクは無視をする事にして……怖いし。東方に行く事がこの時に決まりました。


 俺はこれでも勇者だよね? それを旅に出すとか……ゲームなら王道なんだけどな。

 もしも空を飛ぶ駄馬に乗れる機会が有るのなら、全力で拒否しようと思いました(笑)


 次回からは東方へ……行けるのかな?

 

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