疲れたよ。
もう色々と感想を頂いて、正直厳しい物も多くて、でも応援してくれる人も居るので完結目指して頑張ります。
色々と不幸な出来事から立ち直った俺に待っていたのは、現実と言う残酷な事実だけだった。なんと、あのピンク頭との結婚式が急いで執り行われる事になってしまったのだ。最悪だよね。
「ツックンは、ペガサスとは成功したの?」
『ふっ、羽も意外といい感じだったから問題無かったな。やはり試してみないとわからないもんだ。』
高級な宿屋の裏にある馬小屋の前で、体育座りで居る俺を誰も慰めてくれない。助けろ、とは言わないからせめてこの心の傷を癒やして欲しい。
リュウの傍には、相変わらずメイドが控えている。とても気の利くいい子だよ。家の3姉妹も、あの勝負の日からなにやらピンク頭と相談しているから、俺の所には来てくれない。
これが親離れか? 寂しいな……
『それよりも、そこのゴミは何時までいじけてんだ? 結婚如きでいちいち……』
「そっとして置こうよツックン。きっと結婚前で、色々想像してるんだよ。」
お前らと一緒にするな! 俺の結婚は、人生の墓場を通り越してしまったんだよ。俺以上に不幸な人も居る、とは理解できても納得できねーよ。
『……まあ、初めては誰にでも有るから、失敗を恐れるな。弛まぬ努力の果てにこそ真の、』
「何、勘違いしてんだよ! その事で悩んでる訳じゃあ無いからな。あのピンク頭の事で、これからの事が不安なんだよ。」
「美人なのに、文句ばかり言っていると罰が当たりますよ。俺の事も考えてくれている素晴らしい人でしたよ。」
こいつら気付いていない。大事な事がわかっていない! 結婚する為にアレだけの準備をして来る様な女だぞ……俺は怖くて仕方が無いよ。それにあの性格は無いだろう! 後、お前の事って『メイド服』だろうが!
「それにしても……意外とあっさりとレオンさんを売りましたねあの3人。レオンさんも言いたい事が有るんじゃあないですか? まぁ、姫様が何を言ってのかは想像できますけど、それだと仕方ないかも。」
お前がそれを言うのか? 速攻で裏切ったお前が? それにあの囁きは何だ! まるで悪魔の囁きじゃないか……卑怯だろう。
「お前達には言いたい事が山の様に有るが、3姉妹に対しては無いな。そもそも俺が言える立場じゃあ無いから……」
利用する為に拾っておいて、自分が裏切られたら文句を言う? 無いね。あの3姉妹は確りと、俺の目的を実現させる為の力を手に入れつつある。利用する事を考えたら、利用される事も考えるべきだよ。
ついでに言えば、駄馬やリュウには俺は相当苦労させられている。その上で裏切ったお前等なんか、もう信じないからな! ……それに、サインしたの俺だし……
その部屋には、綺麗な白いドレスが並べらられていた。何人もの使用人が、忙しそうに準備している中でこの女……リィーネは着せ替え人形のようにされるがままにされながら私達と話している。
「約束は守って貰います。その為に父を売る様な形になったんですから……」
「うーん……売ったのは事実よねセイレーンちゃん?」
あの勝負時に囁いた、この女の言葉はとても魅力的でした。私達が、本当に欲しい者を正確に理解しているこの女の口車に乗った理由は
「このままだと一生、娘扱いのままよ。でも、私が嫁いだらなんとしてでもその先に進めてあげる。ただし、今目の前にある物は必ず受け取ってね。」
この言葉に、私達は賭けたんです。何時までも娘扱いでは先に進めません。その上で出された物にも手を出しました。あそこで拒否も……出来たのに
「約束は守るわよ。ただ最後は、自分の力で何とかしてね? 私はその手前までは用意できるけど、最後まで私に任せると……続かないか、始まりもしないわよ。」
「い、言われなくてもそのつもりです! 大体なんでこんな面倒な事をするんですか?」
私の発言に、髪を櫛で使用人に梳かされながら答えるこの女は、少し笑っていました。
「簡単な事よ。泥を被るつもりも無い女を近付けても、良い事が無いもの。レオン様には輝いていて貰わないといけないの……今後の為にもね。そして、今回は私が泥を被る事で全てが丸く収まった。あなた達も、物でレオン様を裏切ったと言う泥を被れるか試しただけよ。」
輝く? その言葉は忌まわしいあの神殿で受けた祝福と何か関係が有るの?
「あなたが一番損をしていますよね。それで良いんですか?」
この女は、父に対して大分不敬な事をしている。罪にはならないが、今後の社会的地位を考えると十分に損をしていると思う。神の遣いとまで言われた勇者に対して……イカレタ女を演じたのだから!
「目的の為に、手段など選ばないわよ。私が汚れた結果がどうなったか、知っているでしょう? 父上やアステアに恩を売れて、アルトリアの王子達にも好感を持たれた。……お釣が来るわね。それにしても、性格くらいで情け無い王子様達だと思わない?」
あの性格を見た父も、相当嫌がっていたんだけどここは黙っておきましょう。
「お姉ちゃん、これからの事は?」
妹のラミアが、私の袖を掴み小声で言ってくる。そう、今後の事を話さないといけないわね。目的の為とは言え父を裏切ってしまったのだから、
「……今後の事、レオン様への対応なら、お家に帰ってからにしましょうか? そんなに根を積めるとエイミちゃんが付いて来れないから、ね。」
少し離れた所で、エイミが立ったまま寝ていた……これだから勇者は嫌いだ!
「他の人が、レオン様と結婚しても問題無かったとか考えないでね。私も自分の気持ちを優先したけど、結果的にはそれでお互いが納得できるんだし……たまには、王妃様の手の平の上で踊らされるのも良いものね。」
全ての元凶たる王妃……あの女が今回の件を全て仕切ったのも腹が立つ! そう考えていたら、この女は使用人を部屋から出るように指示を出し、残ったのは私達と使用人が1人……
「何の真似ですか?」
護衛も勤めていた使用人まで追い出すなんて……私達を信用し過ぎている?
「人に聞かれたくない話をしましょう。……エイミちゃんも聞いてね。王妃様から、昨日の夕方話が有ったのだけど、このまま神殿を放って置く事なんて出来ないの。神殿に対抗するには力がいるでしょう? それも神殿も無視出来ないほどの強力な力が……その為に今回の話を不利益を無視しても進めていたみたいなのよ。」
「それはおかしいわ。アルトリアはかなりの資金や物資を要求したって聞いたから、不利益にはならない……父はアルトリアから出る気もないし、」
ラミアの問いに、くすくすと笑うこの女が嫌い。
「高く売り付けただけでしょう? それから3人とも、余りこんな話に頭は回らないみたいね。このまま結婚を先延ばしにしたら、神殿側がレオン様を取り込むように動き出すだろうし、それだけで多くの国が不利益を被ることになる。」
父が、神殿と距離を置いている事はとても有名だ。それにギルドも有るんだから早々無理なんかできない。そう思っていたら表情に出たのか、
「……歴代勇者の殆どがその後の人生の記録が無いの。それはとてもおかしいわよね? 最終的に神殿と距離を置いた為に消されたと思えない? 王族にはその歴史から沢山の隠された資料が有るのだけど……前回やその前も神殿の対応に異を唱えていたの。でも神殿の記録からは『領地を貰った後に消された』としか書いていないし、その責任は私達王族の事のように記されている。」
「父も王族に消される事を危惧していますが?」
「国の為に働いた者を理由も無しには処分できないわよ。邪魔であればその時は処分するでしょうけどね。」
何が言いたいのか理解できない。でも、あの忌まわしい神殿を潰せるのなら手を組んでも良い。
「神殿に異を唱えた勇者は、王族や貴族そして平民の希望だった。それを殺すなんておかしいのよ……最終的には、血縁者すら残っていないから担ぐ事も出来ないまま何百年と過ごして来た。」
「神殿なんか、レオン様に掛かれば直ぐに滅びます。」
起きたエイミが、神殿と言う言葉に反応したのか苛立っている。その意見には同意します。
「無理よ。歴代勇者の歴史を今回も調べたけど、相当強いのに消されているわ。だからこそレオン様には、期待しているの。その強さにその名声、更には組織力は歴代勇者の比ではないのだから。」
私達がわからないと言った顔をしているのを見て、この女は少しだけホッとしている様に見えた。この前の勝負の時から無理をしていたのか、疲れている様にも見える。
「これからは協力しましょう。」
その言葉に頷く事しか出来ない。私達が目的を達成する為には、この女の力が必要なのだから……
昼も過ぎて日も傾いた頃に家庭教師から漸く解放された私と兄上は、相談する為に兄上の部屋でお茶を飲んでいた。話す内容は、無論リィーネの事だ。
「昨日の勝負でハッキリしたな。……あれがあの女の本性だ。結婚前に気付けて本当に良かった。」
そんな事を言ってお茶を飲み干す兄上が、カップをテーブルに置くとまた話を再開した。
「一昨日の晩の事を聞けたのは運が良かった。騎士達に見張らせて何か掴めれば、と思っていただけがこんな事になるなんてな……初恋は叶わんと言う事か。」
「兄上、しかしリィーネとの結婚はアステアとの友好の為には必要でした。もしもの時は結婚して頂けたんですよね?」
「何で他人事なんだレノール? お前の方が可能性が有ったんだからな! 考えてもみろ、レオン殿にあれだけの無礼……と言うか、そんな行動をした女と次期王の私が結婚できる訳が無いだろう。」
む、確かに今回の件でリィーネの今までの名声は地に落ちましたしね。ですがそれならリィーネとは誰とも結婚しないのでは? あの爆弾女は、それだけの事をしたと理解しているのだろうか。
「今までよく、あの性格を隠して置けた物だ。あれでは他の国も断るな。他国との婚姻は、居るだけで良いんだ……口を出すような奴は嫌われる。」
「しかし、リィーネは良くレオン殿を見つけられた物ですね。そこだけは褒めた方が良いのか、我々の甘さを嘆いたら良いのか悩みます。」
情報機関などの強化を母上に進言しようか? いや、この様な事は父上が得意としているな。書類仕事は得意だから、予算や必要な物を揃えてくれるのは父の方が頼れる。
はっ! これを足がかりに兄上よりも王位に近づけるかも知れない。
「我々の甘さだな……その事は母上にも進言してある。」
「そうですか……」
ちっ、相変わらず点数稼ぎがお上手だ。
寝室で酒を用意した私は、部屋に入ってくるなり倒れる様にベッドに寝転ぶ妻に声をかける。才能の無い私の代わりに、政務をこなしてくれるセシリーには苦労をかける。書類仕事ぐらいしか私には出来ないからな。
「……バーンズめ、最後の最後で私を苦しめおって……」
こんな事を呟いている我が妻の好きな物を用意する。まあ、酒なんだがな。
「今回も苦労をかけたな。それにしてもやり過ぎではないか? アステアの王などは、本気で心配していたようだぞ。」
「あそこまでリィーネがするとは思わなかったのよ。私も細かな指示などしてないわ。息子達が動いたのを逆手に取って、利用したのがここまで上手くいくなんて……あの子は中々の役者ですね。」
息子達を救う為にアステアの姫には泥を被って貰ったが、少々やり過ぎだ! レオン殿までドン引きしていたではないか。
「しかし、そのお陰でアルトリアは救われました。」
セシリーもやり過ぎたと思っているようだな。丸いテーブルの上に置いたグラスに注いでやった酒を一気に飲み干している。何か悩んだり後悔している時の癖だ。
今回の件でもレオン殿には相当苦労をかけるな……性格に難のある姫を娶らされて、神殿への切り札として担がれる事になったのだから。まあ、あの性格は演技だ……と信じたいものだ。
「ですが、レオン殿にはリィーネくらいの子が丁度良いのも事実。自分の役割を理解している娘だから、レオン殿もこれまで以上に動く事が出来ます。」
あれだけ御淑やかで問題など無い姫が、今まで築いてきた理想像を捨てたのだ。こちらも結婚は認めんといかんしな。やる時は徹底的にやる……セシリーと似ているな。
「レオン殿には、苦労ばかりかけるな。もう5年も前の祝福の時から彼は走り続けているのだろうな……」
思い出すのはあの時のレオン殿の言葉、そしてその後の行動……魔王討伐の為とは言えその功績は大きい。いや、大き過ぎた。このままでは、何処かの勢力に必ず担ぎ上げられる。
そして英雄として葬り去られるか……あまりにも不憫だな。
「神殿の派閥争いも表面化してきています。ゼタの村の件を理由に、改革派の神官長と神官が消されました。保守派もレオン殿に近付いていますから時間が有りません。」
神殿の派閥争いが激化すると碌な事が無い。平時でさえ酷いと言うのに……
「アステアの記録から、先々代の勇者の記録を調べる事が出来ました。寧ろ魔王の方が可愛いくらいですよ。暗殺、異端認定、賄賂……疲弊した時を狙って組織を大きくしてきた、と言っても間違いではない。そこら辺の姫を持ってくるよりは、リィーネの方がレオン殿を安心して任せられます。」
「アステアの歴史は、アルトリアよりも古いからな……生き残る事に関しては、我等よりも優れているかもしれん。」
その言葉を聞いて、セシリーの顔が歪む。
「リィーネの演技にも気付かなかったあの王が? それは無いでしょう。」
セシリーの悪い所だ。自分が優秀な為に他者を見下す所がある。あの場で脅すのではなく、同情を引くために下手に出る事が出来る事を評価しても良いと思うがな。
「お前から見てアステアの姫はどうなのだ? 優秀では無いと言い切れまい。それを育てたのはあの王だぞ。」
「……たまたまでしょう。」
自分を扱いやすく見せた、とも考えられるんだがな。息子達の教育にも力を入れるか……これくらいしかセシリーの為に働けんしな。
「バーンズ様、今回の件は上手く行きそうですかな?」
「うむ、問題ないだろう。当初の予定とは異なるが、オセーンとの橋渡しをしたのだからな。雌狐から搾り取る事が出来たわ!」
王都に有る屋敷に帰ると、部下がわしに質問してきた。わかっている癖に聞いてくる所を見るとわしの機嫌が良いと思っているのだろう。
機嫌は良いが、不満もある。こちらよりもレオン殿は、アステアを頼りかねないと言う事だ。あのリィーネが、ここまでの性格だと言う情報は今まで無かった。隠していたにしても、集められた情報とは食い違いが多い。
聞いた話でも、レオン殿の両親に挨拶を済ませている。両親も問題無い、と認めているとかその辺はどうでもいい! 問題は地位の低い者の所へわざわざ出向いたと言う事だ。
「しかし、オセーンは未だにこの手の事が苦手のようだな。急激に膨れ上がった国だから仕方ないかもしれんが……こちらも距離を置くとしよう。」
「見捨てるのですか?」
厄介な領地を自ら作り出し、その維持も出来ん国など滅ぶだけだ。もう少し軍事力以外の事にも力を入れるべきだったな。まぁ、勇者を1人手に入れたのだからそれで良しとするか。
「見捨てる。それに滅んでくれれば、その後はエリアーヌを妻に持つレオン殿が、その領地を手にしても誰も文句を言わん。……どちらにせよ準備だけは怠る事が無いようにな。」
「は!」
部屋を出て行く部下を見送り、酒を取り出す。あの雌狐から、神殿に対抗する為に協力を申し出て来るとは考えておらんかったが、最早雌狐憎しで集まった我等を簡単に動かせるとも向こうも考えて居るまい。
「適度に希望を持たせて飼いならしておくが……雌狐、覚悟しておけ。隙を見せれば我等は何時でも貴様に牙を突き立ててやろう。」
レオン殿を理由にしばらくは静観する。そして時が来れば! こう言っておけば大半の貴族も従う筈だ。わしが生きている内には、この神殿との争いは終わらんだろうな……
夜も更けて私は、最近の疲れからか身体のダルさを感じていた。演技とは言えあそこまでするのも色々と来る物がある。
「リィーネ様、お体の具合は大丈夫でしょうか?」
心配した使用人の『エリーサ』が、私の為に水を持ってきてくれた。
「ありがとうエリーサ、あなたもメッサの事が心配でしょう?」
「あの子が選んだ事ですから……それに今後は職場も同じです。」
エリーサの娘には、リュウ殿の専属として働いて貰う事にした。レオン様が、どうして傍においてるかわからない事が多くて見張りの為でもある。レオン様を調べていて気付いた事は、周りの……特に、リュウ殿とポチ殿? との関係だ。
数年前から調べていた資料と最近の資料から、この二人だけは謎が多かった。ポチ殿は存在自体が、リュウ殿はゼタの村での改革など、何処からその知識を得たのだろう?
その為にリュウ殿の趣向を利用してメッサを付けたのだけど、聞いた情報からはとても危険人物とは思えない物が多い。人糞の畑への肥料としての利用話は、寒気がした! 冗談よね?
「リィーネ様も、これ以上の無理は困りますよ。流石にあの性格は有り得ません。……レオン様も驚いていましたし。」
「レオン様だけに、間抜けを演じさせるなど論外です! エリーサ、私は決めたのです『あの人の汚名は全て自分が被る』と……レオン様には、輝いていて欲しいの。」
あの光り輝く勇者様を見た時に決めたんです。もしも曇る様なら、自分がそれを引き受けると……私は、戦場に立つ事は出来ません。だから、せめて出来る事はやりたいんです。
「リィーネ様……しかし、それで体調を崩されては、元も子もありません。今はお休みください。」
そう言って私を休ませるエリーサに従い、ベッドに横になります。夢の様な暮らしなど望みません。それを望んだら、私はレオン様に相応しくなくなります。
何時までも夢見る少女ではいられません。
無駄に過ごしていた訳では無い! ……と思いたい。
「しかし、略式の結婚式を直ぐにでも挙げるなんて異例ですね。それに是非とも鎧を着てくれなんて……お姫様の趣味ってわからない物ですねレオン様?」
「それを、準備していたお前が言っても説得力の欠片も無いなエンテ。何で持って来たんだよ! 使わないなら持って来る事無いだろうが。」
盛大な結婚式は後日執り行うとして、今回は事実を知らしめる為に簡易版の結婚式を執り行うらしい。抜け目の無い事だな。
俺が1人嫌がっていた所で、この流れは変わらない。なら無難に式を挙げて、これからの事を考えよう。何時か立ち読みした本のように、難問にぶつかった時こそ人の真価が問われる! だったかな?
「この兜を着けて絶対に脱がない!」
「その冗談面白くないですよ。それよりも早く式場に行きましょうよ。」
顔を保護するフルフェイス型の兜を着けて言った一言は、簡単に流された。そう言えば、この世界の結婚式と言う物には縁がなかったな……適当に合わせていれば問題ないだろう。
「「「……」」」
「レオンさん! レオンさん! この三人を何とかしてください! さっきから黙ったままで雰囲気が……ツックンも無視しているから俺にだけ被害、イッダ!!!」
そこには、足の甲を押さえて転げ回るリュウを見下ろす3姉妹の姿があった。なんて事だ可哀想にリュウ君は犠牲になってしまった。
「何時までも黙ってないで、何とか言いなさい。俺を売ったと思っているなら勘違いだからな……サインしたのは俺だ。」
そう、最後に決めたのは俺……駄馬の所為で、放心している所を突いて来るとは考えていなかった。
「ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
「……ごめんなさい。」
うん、いい感じか? それよりも今後をどうするかだ! ピンク頭と結婚する事は認めた形になったが、対抗策も考えない俺だと思うなよ。
『……お前も何時か刺されるからな。その時は先輩として助言してやる。』
「黙っててくれるかな駄馬! 今考え中だから。」
そうこうしている内に、時間も近づいて来たからアルトリアの中央神殿に出向く事にした。あそこには、良い思い出が無いんだよね。あの声だけの存在が、俺の事を勇者扱いしてからと言うもの苦労をして来たと言うのに……見返りが有るどころかマイナスだよ。
ここで最善の行動を考えると、逃げる……駄目だな最悪と言っていい。次は、避ける……何を? 次だ次! 防ぐ……結婚を? 無理だ。道具……何も無い。最後の戦う……誰と?
こんな現実逃避をしていたのが悪かったのか、何時の間にか式場に到着していた。何にも考え付かないなんて、俺の頭がもっと良ければこんな事には……
盛大には挙げないと聞いていたが、式場はとても華やかだった。転生前に友人の結婚式に参加したが、それ以上と言って良いだろう。殆どが白く、所々に金が使われている調度品とか一体誰のなんだ?
そのまま付き添いの連中とは別れて、俺は1人で個室に通された。豪華だよ……神殿とか言う単語では想像出来ないくらい豪華だよ! なんなんだこの豪華さ! 前に来た時は、人も多くてマーセル達と一緒だったから気付かなかったけど、
「金の机とか目が痛いよ。機能性なんか度外視だよね。」
神殿ってもっと厳かって言うかなんかこう……もう良いや、
「レオン様、式が始まります。ご用意は出来ていますか?」
周りを見るのも飽きて、一人椅子に座って時間を潰していたらドアの向こうから声がかかった。神官が呼びに来たらしい。何の準備も出来ていない俺には、それがとても皮肉に聞こえた。
「はぁ……さらば独身時代、始めまして人生の墓場ってか。」
そうして付いて行くと、俺は異変に気が付いた。通された所が、準備をしていた場所でなかった事もそうだが、なんだか薄暗い部屋なのだ。あれ? 可笑しくない? 可笑しいよね!
窓も無い部屋には、アステアの使用人の皆さんが正装をして控えている事からこの部屋だと理解はした。だが、納得は出来ない! 四方を使用人の人達が囲み、その中央にはベッドが薄いカーテンで仕切られていた。この感じはなんだ……いや、大体は理解したけど!
「レオン様、こちらにお越しください。私の準備は出来ています。」
間違いなくピンク頭の声だ。俺が、ピンク頭の声を忘れるなんて事は有り得ない。人生で5本の指に入るほどの強敵だからな。
カーテン越しに見えるシルエットは、なんと言うかそれだけで想像を掻き立てる。しかし相手は、まだ子供だからそれを考えてここは大人の対応を……いかん! 自分で思っている以上に取り乱している。
「えっと……俺は何をしたら良いんでしょう?」
その言葉に控えていた使用人の人が、小声で俺に
「『ナニ』をすれば良いんです。早く済ませて下さい。時間が押しています。」
何だその反応! こんなノリで良いのかよ! そんな時だ、その部屋が急に揺れた。大した揺れでは無かったが、部屋の外が騒がしくなるのに時間はかからなかった。
「大変ですレオン様! ワイヴァーンが……魔王が!!!」
こいつはまさか……なんて事だ! 天は俺を見捨てていなかった。
「任せろ直ぐに行く!」
「ちょっ! レオン様!」
後ろから声を掛けてきた使用人を振り切り、扉を開けて部屋から脱出した。俺はまだ天に見放されていない。この場合の天は、声だけの存在で無いと言う事だけは確かだ。そう自分に言い聞かせ、俺は逃げるように走り出した。
こんな感じですかね。感想でも多かったんですけど、ピンクの行動で一番不利益を被るのはピンク自身です。そして得をしたのは主人公ですよ。




