23話
話が進まないし、グズグズに……それでも楽しんで頂けたら幸いです。
久し振りに王都の門を潜る俺は、アルゴから聞いた結婚話の状況が斜め上の方向に突き抜けた事に驚きつつも悩んでいた。だが、悩んでいる俺を出迎える整列した騎士団や、王都の住民が大通りを埋め尽くし歓声をあげているのを無視は出来ない。
本当にいい加減にして欲しいよね。こっちはしたくもない結婚話に悩んでいると言うのに……
「俺は、王都に来るのは初めてなんですけど、なんか凄い歓迎されてますよね?」
「気のせいだ。」
「そりゃあ、レオン様の訪問を喜ばない訳が有りませんよ!」
リュウが、行き過ぎた出迎えにキョロキョロと周りを見ながら、聞いてきた質問に答えた俺の言葉を、アルゴが台無しにした。
何げに酷いよな。
「俺は特に何もしてないから、この出迎えのほとんどの連中は、その場の雰囲気だよな。」
「流石は勘違い王!」
「殺されたいのか? 王妃様前で処刑確定だな。」
「……鬼。」
そんな会話をしながら、暖かい日差しを浴びて目的地の宿を目指そうとした。嘘です。逃げようとしました! 本当ならお城に行かないといけないんだけど、こんな事になっているなんて誰が思う?
準備が出来ていない状態で、敵に立ち向かうなど馬鹿か勇者のする事だよね。俺は、その辺をわきまえているから準備不足で失敗などしたくない。
宿に着くと、主要なメンバーを集めての作戦会議を行った。馬小屋の前で行われたこの会議の議題は、勿論この結婚の破談についてだよ。
「正直に言おう。いきなり二人となんて結婚できないし、したくない! だから家族の事とか、仕事の事を理由に断ろうと考えているんだが……誰か意見は無いか?」
3姉妹の末っ子であるエイミが手を上げる。やけに元気が良いようで、飛び跳ねながら自分をアピールしてくる。元気が良くて何よりだ!
「違う人と結婚して断る!」
「却下! その程度では断り切れない。最悪は、その人が妾扱いになり結婚は行われてしまう。」
落ち込むエイミが、可愛くて仕方ない。可哀想だがその意見は採用できないから、後で慰めておこう。
「国外に逃げる。」
手を控えめに上げたラミアが、よく通る声で意見を言ってくるが! その意見なら確実に結婚は破談だ。ついでに俺はお尋ね者となり、一生を怯えながら過ごす事になる。
「却下! 家族を養うのに国外逃亡など論外だ。」
俺の答えに、落ち込むラミアも可愛いな……いかん! そんな事を考えている暇など無かった。今の状況を好転させる事だけを考えなくては、
「諦めたらいいのに」
そんな発言をしたリュウに制裁を行ったが、結局良い案が浮かばなかった。駄馬に関してはゲッソリとやつれてしまって喋りかけても返事が無い状態だ。この状態で敵と戦わねばならないのか?
お城には綺麗な庭が有るんだが、今回の顔合せはその綺麗に整備された庭で行われた。春の陽気の中で、庭に有る茶会に使うだろう屋根付きの壁の無い建物……名前がわからない。
そんな場所で、周りの草木に癒やされながら顔合せをするんだと、一時間前の俺は本気で信じていた。俺の周りには、草木を楽しめるような視界は広がらず、屈強な騎士達が周りを囲んでいた。
お花の代わりに騎士が生えています! 本当に驚いたよ。自国の騎士だけじゃなくて、アステアの青竜騎士団に、オセーンの近衛騎士団……騎士の服装も国によって違うんだなー、とか考えて現実逃避もしたくなる状況ですよ!
「レオン様は、どう思われますか?」
そして右手にはアステアのリィーネ姫が、王様や大臣と共に丸いテーブルに座っています。左側にはオセーンのエリアーヌ皇女様が、近衛の女性騎士を伴い座っています。この女性騎士の人が、正直好みの女性なのですが声すら掛けられません。
「聞いていませんでした。」
失礼な返答を返したのには、悪意しかないんですよ。このアステアのお姫様は、白い肌に綺麗な顔立ち……そして、ピンクの髪を持っている美人さんです。ただ、胸が少し残念です。あと少し! と言う感じですね。
ピンクの髪に警戒しつつ、紅茶の入ったカップを口に運んで呑みます。精神を落ち着かせるためだよ! この姫様は、
「そうですよね。私も子供は二人は欲しいと思っていました! 考えが同じで安心しました。」
「聞いてないよね? 俺の発言なんかこれっぽちも聞いてないよね! 誰が、子供は二人が良いとか言ったよ!」
……勘違いが、会う前から重症の患者さんだったんだ。誰か助けてよ。俺の隣には、王妃様と王様? に二人の王子が並んで座っている。因みにバーンズのお爺さんもこの席に居る。なんで?
「リィーネ王女、レオン殿もお困りのようです。」
流石は王妃様! 空気を読んで助けてくれるんですね。今日も赤いドレスが似合っていますよ! 胸元の開いたデザインも最高です。……せめて、胸がこれくらいアステアのお姫様にも有れば……
「夜にでも話されるといいでしょう。」
「失礼だとわかっているんですけど、王妃様も俺の話とか殆ど聞いてませんよね?」
「まあまあ、レオン殿も落ち着いて下さい。しかし、わしもこれで安心できます。リィーネの婿に勇者でも在られるレオン殿に来て頂けるとは……アステアは安泰ですな。」
ちらちらと王妃様を見て、牽制しているアステアの王様が凄くいい笑顔だ。勘違いもここまで来ると幸せなのかもしれない。俺のメッキが剥げた時にどんな顔をするか楽しみだ!
それにしても、横に居る王妃様も笑顔なのに王様の様子がおかしい。なんだか酷く怯えているような……顔や態度は何時ものようだが、雰囲気がおかしいんだよな。
「リィーネ王女は、レオン殿に嫁ぐ事に決まっていますよアステア王。勘違いをしているのでは?」
「これは失礼。……まあ、何時までの話かわかりませんが。」
「「ハハハ!!!」」
なんか怖いよ! 帰りたい……実家に帰ってのんびり過ごしたい。地位とか名誉とか要らないから、本とか読んで、のんびりと仕事をしながら生活したい。
「エリアーヌ様も、レオン様に聞きたい事が有るのでは?」
流れを変えようとしたバーンズのお爺さんの発言にホッとして、エリアーヌ皇女の方を見る。
顔立ちからして幼いが、将来に期待大! だろう。青い髪も光を浴びてキラキラと光っている。ドレスと言うよりは、軍服に無理矢理装飾したような仕官服みたいな感じだね。
……この話に乗り気でない、と態度でわかっていたけど……せめて愛想ぐらい振りまいたら良いのに。
「有りません。私は国の命に従うだけです。」
ピンク頭に聞かせてやりたいお言葉だな。当の本人は、アステアの王様となにやら相談中で聞いていない。
「嫌なら結婚しなくても……」
「エリアーヌ様は、大変人見知りが激しい方でして! この結婚にも賛成しております。」
俺の発言を邪魔した近衛の女性騎士さん。ストレートの黒髪を揺らして、騎士服からでもわかる良い体をしている! 陽に焼けた健康的な美人……この世界のレベルの高さを、改めて実感したね。
「照れておいでとは、流石に勇者と言えどまだ幼い少女、と言う所ですかな。」
バーンズのお爺さんの助けに女性騎士さんが、姿勢を正して肯定する。何か有るのか? バーンズの爺さんと王妃様は、犬猿の仲で有名だったのにこの場に居るという事は……なんか怖いな。
「……聞いて頂きたい!」
このまま流されたら、何時もの様に悪い方に物事が進んでしまう! だから、覚悟を決めて発言する。
「俺は結婚しません! 仕事が忙しいのと、養っている家族に納得もされていません。……結婚は時期的にも、」
「お待ち下さい。」
俺の決意を横からへし折るピンク頭。
「その理由から、結婚出来ないと言うのは無理がありますよレオン様。」
「会話が初めて成立した事を喜んだ方が良いのか、今まで成立しなかった事をせめたら良いのかわからないな。」
俺の本音を無視する形で会話が続く。言葉のキャッチボールと言う言葉を教えてやりたいな。この世界には、野球なんか無いけどね。
「仕事が忙しいなら、それを支える覚悟は有ります。家族を養う、と言うのも逆に結婚した方が良いのでは?」
「何こいつ! まともな会話が出来るのに、今まで無視してたのかよ。……家族が認めないって言いたいんだけどな。」
俺の発言を聞いたピンク頭は、笑顔で納得したように頷いた。
「ご家族が、全員納得されたら問題は無いのですね。」
全員が納得しても、俺は反対だけどな!
「安心をしました。それでしたら、ご家族全員を納得させたら結婚して頂けますね。」
か、勝てる! この条件なら俺は勝てる。先日も3姉妹と話したが、かなり否定的だった。駄馬やリュウにも参加して貰い反対させよう。
「り、リィーネ様! アステアだけで勝手に決められては困ります。」
オセーンの近衛騎士さんが、慌てて会話に参加してくるが……遅かったな!
「良いでしょう。その条件で結構です!」
初めて、大事な場面で会話が出来た! やはり覚悟を決めたのが良かったんだろう。
「……レオン殿も遊びが過ぎますね。ですが、私もその提案に賛成しましょう。」
「わしもそれで良い。」
この場の最高権力者達にも賛成をされた。俺の未来に光が見えてきたよ!!!
「レオン様は、お優しいのですね。」
「は?」
呟かれたピンク頭の一言に、疑問を持ちつつも無難にその場を終わらせる事が出来た。
帰ったら作戦会議だな!
レオン様が帰られた後に、それ以外の面子は相変わらずお茶を楽しんでいました。
「……宜しいのですか? アステアと言えど、今回の件で我が国が不利益を被れば、」
オセーンの女性騎士が、父上に少し睨んで質問をしてくる。参加した大臣は、それが不敬であるとわかりつつも黙って居るわね。
「オセーンの方々には、レオン殿の優しさが理解できないようですね。レオン殿は、勇者で有りますが貴族の末端に名を連ねる身。婚姻の重要性には気付いておりますよ。」
父上よりも先に、アルトリアの王妃様が質問に答えます。帝国はこれだから……
「その上で、あれ程の間抜けを演じて頂いたのです。少しは自国の立場を理解された方が宜しいかと。」
王妃様から引き継ぐ形で私が補足すると、女性騎士は訳がわからないと言った顔をしています。オセーンの人選には、悪意を感じますね。
「そこまでにしませんかな? どの道、こちらが有利な形を維持できるのですから……文句は有りませんな。」
老将バーンズ卿が、オセーンの女性騎士を威嚇して抑えましたか……流石はアステアを苦しめた騎士ですね。
「あの……あの態度の何処が優しいのですか? 正直に言えば不快に感じました。国益を無視するなど、貴族のするべき態度では有りませんよね?」
まだ幼いオセーンのエリアーヌ皇女が、理解できないのか質問してきます。確かにまだ幼いこの子には、わかりにくいでしょうね。
「オセーンもアステアも、レオン殿には借りが有りますね。それを踏まえて、対等な条件での婚姻など有り得ません。……この話を実現する為に、お互いに相当の無理をした筈です。そうですよね王妃様?」
「何の事やら。」
私は説明に少し嫌味を混ぜましたが、王妃様は全く動じません。何時かは、この様な大物になりたい物です。ですが……
「ですが、これはレオン様の事とは別の問題です。アルトリアは席を設けただけで、この後の事には口出ししないと約束しただけに過ぎません。この後の交渉で、レオン様がまた資金や物資を要求すれば……また祖国はそれを掻き集めたでしょうね。」
「正直、ありがたくて泣きそうになりましたな。」
大臣が、私の説明に口を挟み場を和ませます。幼いエリアーヌ皇女を気遣ったのでしょうね。
「無礼を働き、その上で条件を満たせばそれ以上は望まない、と言ったも同然なのですよ。ここからはアルトリアは、口出ししませんが……この優しさを無駄にしない事ですな。」
バーンズ卿が、オセーンの方々に釘を指します。数名の騎士達が、その言葉を聞いて動じていますね。周りの騎士達は、先程の顔合せから緊張のし過ぎの様です。
「欲が無い……貴族としては失格ですな。」
父上の呟きに、私が頷きます。勇者としては正解でしょうが、1人の貴族としては失格ですね。これからは足りない所を私が支えねばなりません。
「それにしては、大分婚姻に自信がお有りのようでしたが?」
「あら、オセーンの女性は随分と受身なのですね……狙った獲物は、逃がさないのがアステアの流儀ですから当然ですよ。それにどのような要求が来ても、実現させる自信が有りましたしね。」
オセーンの女性騎士の言葉を軽く返しながら、私はこの時の為に準備して来た物を思い出します。殆どを使用しない形になりましたが、これもレオン様の好意なら自然と嬉しくなります。
「やれやれ、アステアの雌狐の称号は、リィーネ王女を指す言葉になりそうですな王妃様。」
「バーンズと意見が合うとはな……まあ、レオン殿なら大丈夫でしょう。そうですねア・ナ・タ?」
「う、うむ。」
バーンズ卿の嫌味と王妃様の返答も驚きましたが、私は初めてアルトリア王の発言を聞いた事に驚きました!
(((しゃ、喋れるんだ!!!)))
多分、何名かの方と心で同じ事を叫んだと確信しました。
「そ、そこまで考えて頂けていたとは、流石は勇者様ですねエリアーヌ様!」
喜んでいる女性騎士とは反対にエリアーヌ皇女が、
「考え過ぎではないですか? 本当に嫌がっている様に感じましたよ。私には、周りが異常に勘違いしているようにしか……」
まだ理解できる年齢では無いようですね。
顔合わせも終わり、解散した私達は周りを騎士達に囲まれながら移動していた。後ろを歩く二人の息子は、納得できないのか不満な顔をしていた。
「母上、今回の件は本当に宜しいのですか? レオンを何時までも自由にさせては危険ですよ。」
今年で14歳になる『アルフレア』と、一つ下の『レノール』……才能は有るのだけれど我慢が出来ない息子達だ。
「リィーネを取られて悔しいのなら、王になる事など諦めなさい。見苦しいだけです。」
「ち、違います。レオンの力が大きくなり過ぎている、と言いたいだけです。」
レノールは、特にリィーネに夢中だったからか、顔に出る程に慌てていますね。
「……レオン殿は、毒なのだ。国内で適当に使えれば良薬となる。逆に、使用法を間違えれば猛毒となる。国外などに追い出したとしても、この国に根を張りつつあるギルドが我が国を蝕む筈だ。これはアルトリア国内最大の問題なのだよ。」
「……ち、父上がそんなに話すとは……驚きました。」
私も驚いた! こんなに話す夫は、初めてかもしれない。照れ臭いのか、顔を赤くして目を逸らしてなければ満点なのに、
「レオンが友好的でも、周りは違います。レノールの言う通り、危険過ぎます……最悪の事を考えておくべきです。この婚姻も、我が国には何の利益も無いでは有りませんか!」
嫉妬か恐怖か? アルフレアは、レオン殿の排除を提案してくる。わかっていない……全く、わかっていない! 我々の敵が何処に居るのか全く見えていない。
「レオン殿を殺せば、他の勇者達が騒ぎます。ギルドも黙ってはいません。もしもそうなれば……私達は、王都の大通りで首を晒す事になる。アルフレア、わかりますね?」
手を出すな! と遠回しに言ってみるが、反応は良くない。意中の女性を取られた所為か、本当に国の事を考えての発言か、
「兄上の言う事にも一理有ります。レオンから実権を取り上げるべきです。ギルドを、国で管理する事も考えなくては、」
普段は聞き分けの良いレノールが、ここまで敵意を持つとは……レノールの今後の対応も考えておかなければいけませんね。息子が死ぬような事が無いように、上手く立ち回らねばいけなくなろうとは、
「これ以上の手出しは無用です。わかりましたね?」
「「「……」」」
声を低くして睨むと、家の男共は黙ってしまいました。もう少し強気に出ても良いと思うのですけど、中々上手く行きませんね。
単純に考えれば、レオン殿の他国との婚姻は不利益だけ。しかし、今後の事を考えるならば利益にもなる。多くの国が抱える問題の一つは『神殿』であるのだから。
それを考えると、レオン殿との婚姻の意味が変わってくる。何の魅力も無いオセーンの魔物の占領する土地に、兵を出すのも全ては今後の為……活躍した勇者達に与える褒美にし、その土地を使える様にする為だけに何十年と縛れる。
危険な土地に神官は近寄らない。それでも近付くのは、見込みの有る神官だ。
無能ならそれを理由に取り上げ、有能なら土地を維持させて税が得られる。独立も無理な程に荒れた土地を手に入れるのはこの為だけ……表向きの理由はこんな所で良いでしょう。
「レオン殿には、今後もアルトリアの盾として働いて貰わねばなりません。二人とも早まった行動は慎みなさい。」
無理矢理にでも結婚させれば、王族や皇族の血縁者ができて神殿も魔王討伐後に無理をしてこない。レオン殿を取り込めない連中の力を削ぐ事も出来る。
今後の魔王討伐で疲弊した国内で、数十年で戦争など自殺行為に等しい。その隙を突いてくる神殿と渡り合う為には、各国との協力が不可欠。
長い時の中で腐った、神殿と言う組織から漸く開放される時が来ているのです。レオン殿の婚姻だけは、なんとしても成功させなければ! その為に『秘策』を用意しておきましょうかね。
レオン殿には気の毒ですが、この秘策で息子二人の命が助かるのなら……
王都の高級感溢れる宿屋にて、調査団で共に旅をした騎士団の連中がお祝いに来てくれた。夜なので騒ぐと不味いからと繁華街に繰り出す俺達。お姉ちゃんの沢山居る場所で騒ぐ事になり、喜んで参加させて貰った。
「流石のレオン様も、結婚前に遊び回ると不味くないですか?」
気を利かせたつもりのアルゴの問いに、俺は自信満々に答える。アルゴもこんな所に顔を出すようになったのか……変な所で人の成長を感じてしまうな。
「大丈夫だ! 今回の結婚は、破談になる事が決まった様な物だからな。明日の昼くらいには、アステアのピンク頭の呪縛から開放されて自由の身だ。」
それを聞いた騎士団の連中は、酒も入っている為か好意的に捉えてくれた。今回の顔合せに参加した騎士の1人が、顔を赤くして少し呂律が回らない感じで俺を褒める。
「流石ですよねレオン様も、王妃様達もアステアとの勝負の話には感心していましたよ。『欲が無い』って、」
「レオン様凄いですね! それで、欲が無いってどう言う事ですか?」
そりゃあ、王族との結婚を断るような奴なんか居ないだろう。地位に権力、そして金を手に入れる機会を自ら捨てた訳だしな……しかしだ!
あのピンク頭と結婚するぐらいなら、地位とか権力など要らん! 会話もまともに成立しないとか悪意の塊ではないだろうか? ミーナさんと同じか、それ以上に厄介な女で有るのは確かだろう。
権力を持っているだけに、厄介さだけならピンク頭の圧勝かもしれないがな。
「王族との結婚なんか、俺にとっては地獄だ! 俺は、御淑やかで、包容力の有る年上の女性を求めているのに……アステアのピンク頭め。」
「それにしても、今日は客が少ないですね? 何時もなら、この時間に席なんか空いてないのに。」
アルゴが、辺りを見回すと確かに席が空いている。それよりも、普段から通っている事の方が、俺には信じられなかった。俺なんか田舎で遊ぶ所も少ない上に、家族により強制的に連れ戻されるんだぞ! なんだかアルゴが羨ましくなってきた。
「あ、明日の朝にはハースレイの所にも顔を出すんだった。」
開放感から一転して、嫌な事を思い出してしまった。自分の責任で破壊した、歴代勇者の武具の事を謝りに行かないといけない。急に気が重くなったよ。
そんな事を考えていたら、隣の席で接待をしてくれていた女性が席を立ち、挨拶をしてその場から去って行った。……?
「なんだか、更に人が減りましたね?」
「あれ? 女の子は何処に行った?」
「酒も無くなってるぞ。」
騎士団の連中とアルゴが不審がっている時に、俺はこの店は初めてだから不思議に思わなかったんだ。もう閉店するのか? それぐらいの認識しか無かったね。
「こんばんわ、レオン様。」
「ぴ、ピンク頭! 何でお前がここに居るんだよ!」
俺が、急に隣に座った女性に目をやると、ピンク頭が昼間とは違う格好でその場に居た。黒のドレスを着たピンク頭を見た時に浮かんだ言葉は、
『危険!』
この言葉が即座に浮かんだね。姿勢よく座るピンク頭は、昼間とは違う笑顔を顔に貼り付けているような感じだ。正直怖い。
「酷いですわ、言ってくれればお酒のお相手ぐらいしましたのに……」
「お前わかってる? この場に居てその発言が、どれだけ俺の心を恐怖させてるかわかってる? 本当に怖いぞ!」
周りを見てみろ! アステアの騎士団が、何時の間にか俺達を囲んでいて酔っていた連中も急速に酔いが醒めてきてるぞ。お前を見て、何人かが俺を哀れむ様に見ているのも気付いて欲しいな。
「折角、夫婦になるのですから、遠慮なさらなくても宜しいのですよ。」
「可笑しい事を言うな! まだ決まっていない。俺は結婚の破談を諦めないからな。」
「まだ、決まっていないだけです。明日には決定していますよ。」
ふっ、馬鹿め……俺が何の備えもしていないと思っているのか? 既にリュウや駄馬はこちらの言う通りに動く事を約束させたし、3姉妹に至ってはこの結婚は論外らしいから問題など無いのだよ。
こちらの意思は統一されている。貴様の付け入る隙など無い!
「それは楽しみだ。だが、この場に来た理由にはならないな。何が目的だ?」
ピンク頭が、纏めていた長髪から髪留めをとると綺麗な髪が揺らめいた。頭を数回振ると、それにつられて髪も揺れる……結構色っぽいな。
「簡単な事です。貴族の男性には、複数のお相手が居ても驚きもしません。ですが、それ以外の女性と遊び感覚で一夜を共にされるのには我慢が出来ません。」
「何、独占欲をだしてんだよ! 俺の行動に、文句を言う権利はお前には無い!」
「レオン様は、もう少しご自身の価値を理解されねばなりませんね。結婚後には最優先でちょ……教育させて貰いますから。」
「今なんて言おうとした? 大体だ、勘違いをしているお前なんかに言われたくない。」
いい加減この状況から逃げ出したかった俺は、騎士団の連中と共に店から出ようとする。……テーブルの上にお金を置いておくのも忘れない。
「明日が楽しみですね。」
帰り際に俺の背中にかけられた言葉に対して、俺は顔だけを向けて答えた。
「本当に楽しみだよ。」
小娘め、せめて王妃様の様な胸になってから出直して来い! っと心の中で発言した。それと同時に閉まった店のドアの向こうから何かの破壊音が聞こえたが……無視しよう。
暗く湿った場所にそびえる古い城には、幾つかの部屋から光が見えていた。夜も更けて、不気味な魔物の鳴き声が響くその場所では、
「レオンが結婚? 浮かれている様だな……あいつの用意は出来ているか?」
薄暗い部屋で、蝋燭の光で照らされた女性が首を振る……横に、
「な! 用意しておけと言ったよな。何をしていたんだ。」
女性は、ジェスチャーで答えようと真剣に身振り手振りを繰り返す、が!
「わかんねーよ! なんで喋らないんだよ。昨日は、厨房で虫を見つけて叫んでただろうが!」
その後は、筆談と言う形をとり何とか状況を説明した女性。
「回りくどい上に理由が『まだ成長期で最後の脱皮が終わっていない』だと……あんなにデカイんだからもう十分だろう。ワイヴァーンを出せ!」
嫌な顔をして反対する女性を、何とか言い包めて部屋から追い出した男は、
「待って居ろよレオン、お前に飛び切りのお祝いを贈ってやるよ。……魔王って言う飛び切りの贈り物だ。勇者なら喜んで退治するだろうが、今回のワイヴァーンはバッシポとは格が違うぜ。」
その発言と共に、揺れる城から飛び立つワイヴァーンを見送る男は、整理整頓された部屋が先程の揺れで散らかってしまったのを1人無言で片付けだした。
なんだか怖いお姫様になりましたね。どうしてこうなった?
5/21 加筆しました。




