移動中……
感想とかご指摘とかありがとうございます。
魔騎士さんを、気にされている方もいらしたので、その辺を書いてみました。
セイレーンやラミアがメインの話となります。
魔王の挙兵に始まった戦いは、セコイ魔王のあまりの弱さに失敗に終わった。砦から、村へ帰る途中に色々と問題も有ったが……この問題に、触れるのは止めておこう。
『……もう俺、駄目かもしれない。』
落ち込んだポチを無視して、魔王の討伐をしてしまった俺は、今後の事を考えていた。
逃げ出したい。これが正直な今の俺の感想だ。だが、下手に逃げて神殿に捕まるのも避けたい。あいつ等は、特に砦に来て居た神官達は、俺の事を恨んで要るかもしれないからだ。
少しやり過ぎたかな? こういうデリケートな問題は、お互いに立場的な距離感が大事だと思うんだ。
それを考えると、やり過ぎたのかも知れないな。神官達が、魔王の討伐に協力的でなかったのも、俺の評判を落とす事が目的かもしれないし、他にも思惑とかが有ったら嫌だな。
高貴な魔人族である私は、移動中の勇者一向に紛れ込んでいる。時々、姿を確認できる勇者を見ると未だに緊張してしまうが、これも我が種族の魔王様方の為に耐えねばならない! ただ、『ヒース』の近くを何度か歩いたのに、ヒースは私に気付いてもくれない。いや、気付いていないと言うか……
『近寄るな!』
「ブルルル!」
勇者の乗る白馬? に夢中な様だ。……あれは本当に馬なんだろうか? 喋る馬など聞いた事が無いが、セイレーン様や、ラミア様や、周りの人間達が少しも驚いていない! 可笑しいのか! 私が可笑しいのか! はっ、そうじゃない。ヒース、あなたは『オス』なのよ!
先の戦いでも、雄雄しかったあのヒースがまさか、
『あぶねっ! この野郎、角がアブねーから擦り寄ってくんじゃねーって言ってんだろうが!』
オスの白馬にまるで、恋人の様に擦り寄っている。……もう、遠くに行ってしまったのねヒース、
「『レテーネ』お姉さん、大丈夫?」
私が、悲しい顔をしていたらセイレーン様がお声を掛けて下さった! なんたる光栄!
「だ、大丈夫であります。」
「……変な言葉使いでばれたら、帰って貰うからね。」
少し呆れたように呟いたセイレーン様が、そのまま私から離れて勇者の傍に行ってしまった。……おのれ勇者! お二方を誑かし、利用している分際で……羨ましい。
大体、何故勇者が我が種族の希望たる『魔王』を、育てているのか理解に苦しむ。勇者と魔王は、昔から種族の代表として戦ってきた敵ではないか。……この世界は、我々が共に生きる為には狭過ぎるのですよ魔王様。
「すいませーん、レテーネさんですよね?」
なんだ、このローブを着たヘラヘラした男は? 茶髪で中性的な容姿で魔法使いの様だが、そんな軟弱な奴が何の用だ? 今、私がどれだけ真剣に、
「僕は、『エンテ』って言います。それにしてもお綺麗ですね。」
……え? な、なんだ……頭に血が上って……いや、怒ってるとかではなく! こんなにもストレートなお言葉を……
い、今、なんて言ったんだこの知的な男性は! わ、わ、わ、私が『綺麗』! 私にも遂に春が来た!!!
レテーネの様子を、見に行ったお姉ちゃんが戻って来た。……まだ、お姉ちゃんも納得出来ていないのか『レテーネ』をしきりに気にして、父とレテーネをさえぎる様な立ち位置を確保している。時々、ナイトメアを見て悲しそうにしているレテーネは、大丈夫そうに見えるが、あれでも『魔騎士』だ。油断は出来ない。
「ラミア、父はなんて言ってた?」
「……構わないって、折角理由を沢山考えていたのに……連れて行きたい人が居るって、行き場が無い人だって、言ったら其れだけで家で雇おうって……」
「……父は、もう少しだけ注意した方がいいと思う。」
お姉ちゃんが、父を見ながらそう言った。私も賛成だ。後ろを振り向くと、銀髪を腰の辺りで揺らして歩いているレテーネ。その肌は、私と同じで黒いが向こうはもっと日焼けした様な感じだ。瞳も青い……何度か親戚と疑われたけど、間違いでもない。
「まさか父は、あの身体が目的とか!」
お姉ちゃんが、得意の妄想をしながらわなわなと震えだし、目が恐くなる。目付きが鋭く、そのままレテーネを睨みつけている。……確かに、男の人が好きそうな身体つきだ。胸は確実に私たちよりも大きい。父の女性を見る時の目線は、一瞬だが確実に胸に集中している。
「……あと5年、いえ、3年有れば!」
「大丈夫だよ。お姉ちゃん、レテーネは父が嫌いみたいだから。」
普段は落ち着いているのに、こんな時は何を言っても効果が薄い。レテーネはお姉ちゃんに見られて、手を振っている。……この魔騎士は本当に『凄腕』なのだろうか? いや、お姉ちゃんの殺気を全然大した事が無い、と感じているんだとしたら凄腕なのかもしれない。……そうは見えないけど。
レテーネが、付いてくる事が決まった時の事を思い出す。あの時は、堂々と怪我をした女性として、砦に運ばれて来ていた。私達が、無理やり後方に置いて行かれて、手伝いをしていた時に偶然見つけた時は、父の部屋にナイフを片手に、侵入し様としていた時だった。
お姉ちゃんと二人で、父の部屋の扉の前に出て睨み合った時に、向こうがとても驚いていた。
「何故、こんな所に……」
あの時のレテーネの顔はとても複雑そうだった。確かに、同族でその中でも『魔王』として生を受けた私達を、見つけたので喜んでいた所で、勇者を庇ったと理解した時の『裏切り者』として理解したんだから、どうして良いかわからなかったんだと思う。
「魔王様方! あの勇者は危険過ぎます。本来は対等の力を授かっている『対の存在』があそこまで異常だと我等に勝利は有りません。……殺させて下さい。」
わかっているんだよ。父が異常なほどに強いと、私達とは『次元』が違うと……力でもなく、魔法でもなく、技術でもない。ただ強いんだと、理解はしているだから。
「あれ程の存在に対抗できる『魔王様』はおりません。ですから……」
その言葉に私達は納得しないまま立ち塞がり続けました。それで、条件をレテーネが出してきた。
「ならば、一度だけこの近くに居る『魔人族の王』とお会い下さい。」
「魔人族の王?」
私達はその時まで私達の種族に王がいるなんて知らなかった。了承して、その場は何事も無く終わり、レテーネについて行き、その『王』に会う事が出来ました。……正直に言うと、期待外れでしたね。
「レテーネ、任務失敗は確かに罪だが、良くぞ『魔王』をお連れした。……魔王方、わしが、魔人族の長たる王の『バレルレン』だ。」
黒い鎧を着た、一団の中でその中では豪華な鎧を着たバレルレンを見た時に、お姉ちゃんと私は……
((こいつ、弱ぇー))
もっと、偉大で格好良いと期待していただけに、落胆ですよ。見ただけで勝てると判断しても油断するな、と父に教わっていますが、父の言う『第二形態』とかになる事も種族的に無理だと理解できますし、なにより……父の様に格好良くない。
「早速、魔族の為に勇者の首を取って来て貰おう。」
「え? 嫌です。」
「無理。」
「「「…………え?」」」
お姉ちゃんと私の反応に、その場に居た魔騎士達は口を開けたままポカーンとしていました。
「だって、ここに来たのも手出しをしない様に『命令』しに来たからで……父を、あの勇者だけは殺すなって、」
お姉ちゃんが、父から(こっそり)借りて来た『エクスカリバー』を腕輪から剣の状態にして、
「な!」
バレルレンの首筋にその剣先を突きつけました。私は無属性魔法の『念力』で持って来ていた『四本の槍』を使い、お姉ちゃんに近付く魔騎士を牽制します。空中に浮かぶ四本の槍の穂先を向けられた魔騎士達が驚いてる?
そして、自分を護る為にナイフを片手に、魔法を何時でも放てる様に用意をすると、
「お、お待ち下さい! 何故、勇者を庇うのですか! それだけの力が有れば、あの勇者の隙を付く事さえ出来れば勝てるでは無いですか!」
剣先とお姉ちゃんを交互に見るバレルレンが、酷く情けなく見えて、
「……だから、命令だって言ってんだろう? お前等はあれか? 言葉がわからないのか? いいか、答える時は『はい』だ。それ以外はその首がそこら辺に転がって、次の首に命令を繰り返すからな。」
少しだけ脅してみました。
その後、何とか魔人族の説得に成功したんだけど、向こうも条件を出してきて渋々了承したら、
「私は『レテーネ』と申します。魔王様方との連絡役として付いて行く事になりました。」
父を、殺そうとした者を連れて行くのは納得できなかったけど、やっぱり向こうは長い事生きている様で、この手の交渉も慣れていて、この条件を呑むしか……。
数日前、の出来事を思い出しながら私はお姉ちゃんを見る。
「『ドラゴン』、早く来ないかな。来たら直ぐにでも追い出してやるのに!」
「お姉ちゃん、私の『ワイヴァーン』も忘れないで!」
お姉ちゃんのあの目は本気だ! なんでもっと落ち着いて冷静に考えないんだろう? レテーネが父に手を出すなんて……。あの女! 今、父を見てやがった! ……あれは、エンテさん? 私はレテーネに近付くエンテさんに目を向けると、彼のこの後の行動に笑みがこぼれた。
移動中の一団で歩きながら、レオン様とその後ろに居る二人を見ながら考える。僕は時々、レオン様の所に居る姉妹が怖いと思う時が有る。よく、ギルドで受付の手伝いをしている『エイミ』にしてもそうだが、強過ぎると思うんだよ。……なんて言うのかな? もう、違う生き物だと思うんだよ。魔力の制御とか、戦闘技能とか、お前等なんなの? って言いたい。
家のギルドは、確かに国中に人が散らばっているから、比べる人物が少ないけど、僕だって魔法を勉強していてあんまり成果が出ない時に、レオン様が『魔法使い』に向いていると言われて、火よりも『水と風』を中心に学んだら驚くほど上達したし、自信も持っている。今年で17歳だけど……正直、王都の魔法使いよりも強いと思っていた。
ギルドを立ち上げた、レオン様の役に立とうと考えてギルドに入ったら、強い連中がゴロゴロしていたよ。でも、そいつ等も良いライバルだと思って、自分を磨いていく為の糧にしている。
でもね……あの3姉妹は無いと思うんだ。レオン様が笑いながら
「3人とも強くなったな! 俺を超える日も近いかな。」
……レオン様に勝てるの! 正直言って規格外のレオン様だよ! 魔法は効かない、攻撃は弓矢でも避ける、不意打ちにも即反応のレオン様だよ!
その発言を聞いた20代のギルドのメンバーが、受付の仕事をしていたエイミに『さん』付けをしているのを見ても誰も不思議に思わなかったしな……居るんだね上には上が。
未だに、盗賊や傭兵時代の癖が抜けない連中が、家のギルドに入って悪さをしている様だけど……あの3姉妹がそれを何時までも許すとは思えないんだ。『掃除屋』の連中が忙しいから手が回らないけど、その内に成人したあの3姉妹がギルドに加わると絶対に血の雨が降ると思う!
この前も、ギルドの酒場で傭兵時代を懐かしんで語り合っていた連中が、口を滑らせた時のあの殺気が忘れられない。
「レオンの奴が調子に乗りやがって! 何様のつもりだ!」
「いや、勇者様だろ?」
「違いない! まあ、勇者って言うガキだけどよ。」
「「「ギャハハハ!!!」」」
その時の僕等の気持ちは、
(ああ、かわいそうに)
これしか思う事が出来なかったね。掃除屋は狂信的な連中の集まりだし、何より……その光景を冷たい表情で見つめる六つの瞳に恐怖したよ!
黙っていれば、美少女なんだけどな……勿体無い。そうだ! さっき見かけた『レテーネ』さんに声でも掛けてこよう。ギルドにも女性は居るけど勝気な性格の子が多いから、レテーネさんみたいなお淑やかな女性は競争率が高いから先に声くらい掛けとかないと!
ラミアの目付きが鋭くなり、レテーネを睨んでいた。私もそろそろ限界と思っていたら、
「すいませーん、レテーネさんですよね?」
……あの人は、確かギルドメンバーでも優秀な魔法使いの『エンテ』さん? なんでレテーネに声なんか、
「僕は、『エンテ』って言います。それにしてもお綺麗ですね。」
……良くやった! 流石は優秀な魔法使い! どうかそのままその女を引き止めて! なんかレテーネもクネクネしているしもう一押しで、そうだ! こんな時はラミアの出番よ!
「レテーネお姉さんとエンテさんは、お似合いだね。」
声を掛ける前に行動した妹に、心の中で良くやった! と褒めてやりつつ私は父を見る。
『っち、盛りやがって……』
ポチの上に乗る父は、エンテさんを見ていた。腐った駄馬が、この手の事には敏感に気が付くから見ているとは思ったけど、たまには役に立つわね。
「なんだ、もう声を掛けたのか……エンテ! 困らせんなよ。」
「わかってまーす。」
やった!これで父の中では、もうレテーネは異性としては価値が無い筈! 人の物には手を出さない父だから間違いないわ。私がその考えに至ってホッとしているとラミアが近付いて来て、
「お姉ちゃん、今日のおやつは頂戴ね。」
ニコニコと自分の功績に対する報酬を確認しに来た妹のラミアを見ながら、
「……半分だけよ。」
妥協案を提示しました。
書いていた設定を投稿しようとしたら、ネタばれの山で断念しました。
それらしい物を、書こうと思います。