エピローグ〜まだ終わらない〜
(逃げなきゃ……逃げなきゃ…)
さっきから尾崎の考えている事はそれだけだった。
そのために階段を落ちるかのように降りて、下駄箱に向かっていた。
(逃げなきゃ……逃げなきゃ…)
彼の動揺はものすごいものだった。
そのため、自分が二年の下駄箱に向かっていることなど気付かなかった。
それほど彼が見た光景は衝撃的だった。
今でも金子の涙を流しながら見開いていた目が自分を見ているような気がする。
「あった…下駄箱。」
彼は下駄箱の扉を一つづつガムシャラに開け手を入れて自分のくつがあるかどうか確かめた。
しかしここは二年の下駄箱。三年である尾崎のくつがあるわけない。
(くつ…俺の……くつ)
開けていくうち、とても古そうな下駄箱を開けた。
その下駄箱は、誰も使ってないようで、キィッと板がきしむ音した。
尾崎は自分のくつがないのを確かめた後、手を抜こうとした。が、なかなか抜けない。
『そこには魔物が住んでいて…』
尾崎の脳裏に自分が言った怪談話がよぎった。
『うっかり手なんて入れたら…』
尾崎は狂ったように手を引っ張った。それでもなかなかとれない。
『喰われちゃう』
その言葉が何度も何度も頭の中で鳴り響いた。
「あぁぁぁぁーー!!!!」
ズルッ ゴンッ
尾崎は手が抜けた反動で後ろの下駄箱に当たってしまった。
「ははっ…はっはっはっ……」
彼は手が抜けた事で安心しきっていた。
だから、自分の手首から先が無いという残酷な事実に気付かなかった。
ポタポタとしたたり落ちる血にも気付かない。
「やったんだ。俺はやった――」
尾崎の言葉を遮ったのは、骨だけの手だった。
その手は尾崎の頭をつかみ下駄箱におしこんだ。
ガリッ クチュ
ジュル ゴキッ
さまざまな音を立てて下駄箱は尾崎を喰った。
尾崎の体は二、三度ビクンとはねた後おとなしくなった。
その後、頭を失った体はななめ横に倒れた。
血はすのこをつたってしたたっていた。
ペッ…コロンコロン……
少し沈黙があった後、下駄箱はなにか丸いものを吐き出した。
それは少し転がって止まった。
奇妙な声と音を頼りに、松本と高村はそこに行った。
二人が来た時には、すでに尾崎は死体だった。
キィッ キイッ
ポタ ポタ
無情にも響き続ける音を聞きながらも、高村は少しづつ死体となった親友のもとへ進んで行った。
グチャ
高村はなにかやわらかいものを踏んでしまった。
恐る恐る足を上げると透明な液体と、白と黒の何かがあった。
松本は近くに玉のようなものを見つけ、ほぼ反射的にそれを拾ってみた。
それは少しやわらかく、強く握ると液体が出てきた。
キイッ キイッ
そんな気味の悪い音を聞きながら、持っていたライトをそれに当てた。
「ヒッ……」
目だった。尾崎の目玉だった。高村もおびえている松本の手に握られているものを見た。そして自分の踏んでしまったのが、目玉だと理解した。
「う、うわぁぁぁぁぁーーーー!!」
二人はライトを投げどこかへ走った。
キイッ キイッ
下駄箱はまだ鳴っている。
アレのキライなものは目玉だった。
下駄箱は、まだ獲物を欲しがっているかのように鳴り続いていた。
キイッ キイッ キイッ