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エピローグ〜まだ終わらない〜

とうとう自分一人になった。

きっと先生も図書室で消えているだろう。

松本はフラフラした足取りで、ある場所を目指していた。

みんな自分が話した怪談話のとおりに死んだ。

残っているのは自分一人。そして残っている話もあと一つ。

『死んだ者の復讐』

たしか自分が話したのはそんな内容だった。だとしたら場所は一つ。

ガラガラ

松本はある教室の扉を開けた。

入ると、何かの気配を感じる。松本は優しく言った。

「俺だよ。」


そう言ってもそれは現れない。

「いるんだろ?だって今日はお前の命日だもんな。」


するとボウッと人のような形をしたのが見えた。

それはだんだん形を整えていった。

その姿は忘れもしない。

自分の親友だったやつ。最後には見捨ててしまったやつ。

有沢 武。

不思議と松本は恐怖を感じなかった。

ただ、やっぱりそうなんだな、としか思えなかった。

「怒ってるよな?命日に怪談話をするような俺らに。」


有沢はコクンとうなづいた。

「俺は…俺はどうすればいい?」


有沢は聞いている窓を示した。

風でカーテンがゆれている。それが松本を誘っているようにも思える。

(やっぱりそうか…)

松本はクスッと笑って、窓の方へと歩こうとした。

足が疲れているのか、上手く前に進めなかった。

それでも松本は自力で窓へと向かった。

それが、親友だった有沢へのせめてものつぐないだと思ったからだ。でもその時、

「松本!」


後ろから誰かの声がした。

なつかしい声。ここ一年以上聞けなかった声。松本は力なく振り返った。

「あ、有沢?」


後ろには有沢がいた。でも、前にも有沢はいる。

「ど、どういう事だ?」


自分の声が震えているのが分かった。後から来た有沢は松本に言った。

「そいつは僕じゃない。雑霊の集まりだよ。」


しかしそれにさっきからいた有沢が反論した。

「違う。そっちが雑霊だ。」


声も仕草も同じだった。松本は訳が分からなかった。

「僕がお前に死ねなんていうわけないだろ!」


「僕が裏切ったお前を許す訳ないだろ!」


確かにそっくりなのだが、言っている事は正反対だった。

しかし、松本はさっきからいる有沢が本物だと思った。

「そうだ。俺はお前を裏切ったんだ。だから俺は死ぬべきなんだ。お前と同じ死に方で。」


「松本!」


「そうだよ。さぁ、一緒に行こう。」


さっきからいた有沢は松本に手を伸ばした。でも、いざとなるとその手をつかむ事ができない。

「ダメだ!!行くなよ!そいつの言うことなんて信じるなよ!」


後から来た有沢は叫んだ。

「もし……」


松本は小声でしゃべりだした。これにはどちらの有沢も黙って聞いた。

「もしお前が本物だとして、俺に『生きろ!』と言っても俺は死ぬべき人間なんだよ。俺みたいな偽善者は死んだ方がいいんだよ。」


差し出された手をつかもうとした。

すると、後から来た有沢は優しい声で言った。

「そうだったのか……ごめん。」


「!」


松本はおどろきのあまり振り返った。

「なんでお前が謝るんだよ!謝るのは俺の方じゃないか!」


「ずっと苦しんでたんだね。僕が死んだのは自分のせいだと思って。もういいんだよ。……許すから。」


「!!!!」


有沢は微笑んで言った。

とたん、松本は糸の切れたあやつり人形のようにガクンと倒れた。そう、松本は有沢に

「許して」

欲しかったのだ。

それが叶った今、たとえ偽物だとしてもこの有沢が信じられた。いや、信じたかった。

「……」


震えている松本に、後から来た有沢は手を差しのべた。

「さぁ、帰るんだ。お前の住んでる世界に。……僕がいた世界に。」


松本は無言でその手をつかんだ。その時、もう一人の有沢はスーッと消えていった。

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