↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『記憶を喰らう暗殺者の冷徹な復讐劇』  作者: beck2026
第2章:【歓楽港町と、深海の鉄棺 編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/104

【第43話:「冷たい共犯者と、一時間の猶予」】

第2層の騒乱を背に受けながら、ノアは大階段の踊り場を音もなくすり抜け、第3層の重厚な防音扉の脇に身を滑り込ませた。

壁面に埋め込まれた保守用空洞――ダクトの配管が密集する狭小な空間。

外からは完全に影となり、防犯魔導具の走査線すら届かない死角。

ノアは足元に微小な遮音結界を展開し、懐から手のひらサイズの薄型通信魔導器を取り出した。

魔力を微量に注入すると、極小の青白い光が揺らめき、二つの独立した暗号回線が接続される。

一方は、楼閣の外周に潜伏しているアッシュたち【夜鴉】の実働部隊。

そしてもう一方は、数百キロ離れた王都――ローゼンバーグ公爵邸の私室。

空間に投影された極小の通信ウィンドウに、銀髪を肩に流し、優雅にカップを傾ける公爵令嬢――ルナの端麗な顔が浮かび上がった。

『――あら、ノア。第2層の様子が随分と賑やかだったようですけれど、怪我はありませんこと?』

扇子の端で口元を隠しながら、ルナの紫水晶の瞳が妖しく細められる。

その声音には、共犯者としての絶対的な信頼と、骨の髄まで焼き尽くすような底知れぬ独占欲が滲み出ていた。

『通信越しでも伝わってきますわ。……ずいぶんと汚らわしい豚どもの脂と、安っぽい媚薬の匂いを嗅がされたようですわね? 私の冷徹な声が恋しくなって、通信を繋ぎましたの?』

「戯言を言うな」

ノアは眉一つ動かさず、氷のように乾いた声で切り捨てた。

「第2層の2号VIP室を処理した。港湾警備隊の副隊長と悪徳貿易商の豚共だ。奴らの意識を散らし、上層への防衛網に意図的な空白を作った」

『ふふ、相変わらず手際が鮮やかで惚れ惚れいたしますわ』

ルナが細い指先を滑らせると、通信ウィンドウの横に膨大な機密書類と暗号化された送金記録が次々と展開された。

『そちらの騒ぎに合わせて、私も王都側から手を打っておきましたわ。あのアスター家の名前を利用して私腹を肥やしていた貿易商の裏帳簿、および港湾警備隊が帝国の【黒鉄】へ孤児たちを横流ししていた人身売買の密約書――すべてローゼンバーグ公爵家の情報網で完全差押えを完了いたしました』

「……外の動きは」

『完璧に封殺いたしましたわ。カルディスの市庁、領主代行、そして港湾警察の全回線へ、我が公爵家の筆頭印をもって「内偵中の国家最高機密につき、楼閣への一切の立ち入りおよび外部通信を禁ず。違反者は反逆罪として処刑する」と通達を叩きつけました。外からの増援やハエどもの介入は、金輪際あり得ませんわよ』

王都の頂点に君臨する権力者の力を、ためらいなく己の私利私欲とノアのために使い倒す悪逆の令嬢。

この楼閣で醜く本能を貪り合っていた俗物たちとは、魂の純度も格もまるで違う。

ノアは微かに口元を緩め、無感情に呟いた。

「……お前のその冷酷な手際だけは、相覚評価してやる」

『まあ……! ノアに褒めていただけるなんて、今夜は素晴らしい夢が見られそうですわ。ふふっ、貴方が無事に戻られたら、存分に私を甘やかしていただきますからね?』

蕩けるような笑みを浮かべるルナ。

しかし次の瞬間、彼女の瞳から甘美な光が消え失せ、冷徹無比な参謀の光へと一変した。

『――ですが、ノア。浮かれている時間は、どうやら無さそうですわ』

「……何があった」

『先ほど、カルディス沖合の海上要塞【鉄の棺】から発信された、最高優先度の暗号通信を傍受いたしましたの』

ルナの指先が、赤く点滅する通信ログを拡大表示した。

『あの要塞の司令官――魔導工学師ゼノンですわ。奴は極めて几帳面で病的なまでに完璧主義な男。通常の定時報告とは別に、午前四時ちょうど、全拠点の生体魔力波長を一斉照合する「上位監査プロトコル」を発動する手筈を整えていますわ』

「生体魔力波長の上位監査か」

ノアの深海の瞳が、鋭利な刃のように細まった。

現在、王都から送信し続けているガルフの偽装通信は、あくまで「暗号コードの整合性」を偽装しただけのものだ。

本人の生体魔力の周波数を直接リアルタイムで照合されるとなれば、すでに死んで肉体を焼かれたガルフの偽装は、一瞬で瓦解する。

「現在時刻は」

『午前二時四十五分ですわ。……つまり、タイムリミットはあと【一時間十五分】。その刻限を過ぎれば、ガルフの死亡が露見し、同時にこの楼閣の異変もゼノンの知るところとなります。そうなれば、海上要塞の全魔導砲門がカルディスへ向けられ、重装機甲部隊が市街へ雪崩れ込んでくるでしょうね』

残された猶予は、わずか七十五分。

その間に、この五層構造の巨楼を登り詰め、第二の幹部ヴァネッサを暗殺し、設計図の二枚目を奪取して脱出しなければならない。

「十分だ。……これより、第3層の殲滅へ移行する」

『ええ、吉報を待っておりますわ、私の死神様。……武運を』

ルナの通信ウィンドウが静かに閉じた。

ノアは間髪容れず、もう一方の回線へと意識を切り替えた。

「アッシュ、聞こえるか」

『はっ、ノア様! 外周の配置についております。夜鴉全員、待機完了しております』

アッシュの引き締まった声が耳元に届く。

「予定を変更する。タイムリミットが早まった。これより三分後、楼閣の北東角にある外部魔力供給バイパスを切断しろ。館内の予備電源が切り替わるまでの十秒間、全館の照明と感知結界を強制遮断させる」

『御意に! 北東のバイパスですね、三分で確実に切断してみせます!』

「シオンに伝えろ。第2層の2号VIP室に、スラムから攫われてきた子供が三人囚われている。館が混乱した隙に回収し、セーフハウスへ送れ」

『了解いたしました。……ノア様、ご武運を!』

通信を切り、小型魔導器を懐へ収める。

ノアは羽織っていた白衣の裾を掴むと、音もなく脱ぎ捨てた。

白衣の下から現れたのは、光を一切反射しない漆黒の暗殺装束。

腰のベルトには、アルベルトから奪った毒の調合薬と、極限まで研ぎ澄まされた氷結晶の短剣が冷たく光っている。

ノアは目を閉じ、呼吸を整えた。

頭の中で、アルベルトから喰らった知識を展開する。

(第3層――ヴァネッサ直属の防衛区画。常駐しているのは、目に見えない毒鋼糸を操る精鋭暗殺部隊【八脚】の主力)

正面から撃ち合えば時間を浪費する。

だが、三分後には館全体の光が消え、完全なる漆黒の十秒間が訪れる。

光魔力による精神看破、風魔法による気流感知、そして氷魔法の絶対零度。

持ちうるすべてのロジックを噛み合わせ、一撃でその防衛網を解体する。

「残り七十五分か。……退屈しなくていい」

冷たい嘲笑を唇に刻み、十歳の死神は防音扉の隙間から、第3層の薄暗い通路へと音もなく滑り出していった。


第43話をお読みいただき、本当にありがとうございます!

今回は、王都の共犯者ルナ様との盤外連携、そして一気に迫るタイムリミットが描かれた緊迫の回となりました。

第2層の悪徳商人たちの裏帳簿を王都から一瞬で差し押さえ、公爵家の権力で警察や市庁を丸ごと黙らせるルナの規格外の手腕。

「ずいぶん汚らわしい豚の匂いがしますわね」と危険な独占欲を覗かせつつも、完璧なサポートをこなす彼女に、ノアが「お前の冷酷な手際だけは評価してやる」と返す二人の空気感は、まさに唯一無二の共犯関係ですね。

しかし、息をつく暇もなく判明した海上要塞ゼノンによる「午前4時の生体魔力監査」!

残された猶予は、わずか【75分間】。

刻限を過ぎればガルフの死亡がバレて要塞の全砲門がカルディスへ向けられるという極限状況の中、ノアは少しも動じることなく「残り75分か。退屈しなくていい」と冷徹に笑ってみせます。

さらに、外周のアッシュへ「3分後の電源バイパス切断」を指示し、予備電源が立ち上がるまでの【わずか10秒間の完全停電】という、自分に最も有利な狩り場を自らセットアップ。

白衣を脱ぎ捨て、漆黒の戦闘装束へ戻った十歳の死神が、毒鋼糸を操る精鋭暗殺部隊【八脚】の待つ第3層へ滑り込みます。

次回、第44話では、全館が完全な暗闇に包まれる「運命の10秒間」が訪れます。

目に見えない毒鋼糸のトラップに対し、風魔法の気流感知と氷魔法の絶対零度をどう叩き込んで無音殲滅するのか。

ノアの暗殺術の真骨頂をぜひお楽しみに!

「ルナ様の盤外無双が頼もしすぎる!」「10秒間の暗殺劇が待ち遠しい!」など、少しでもワクワクしていただけましたら、ブックマークや作品のフォロー、下の評価(★★★★★)をポチッと押して応援していただけると、執筆の凄まじい原動力になります。

次回もどうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。