恋人同士
きょうは、彼氏とデートに行く。洋服もメイクも髪型もばっちりだ。なんだか自分がとても可愛いと思える。あの人はどんな格好で来るかな。待ち合わせの駅に向かおう。街中はいつもよりもきれいで輝いている。これから恋人に会う。それが世界をとても愛おしくする。街道に建つ家々はとても美しい。歴史があり、色とりどりに感じる。ただの建売住宅なんだけど。鳥のさえずりが耳に心地よい。ゴミ置き場の上で鳴いているのはカラスだけど。いつもの道をとても楽しく歩いている。駅だ。あの人はどこかしら。
「おまたせ。」、私が声をかけると彼氏はこちらを向き優しくにっこりと笑う。
「会えてよかった。」、そう言ってわたしを見ている。その顔はとても嬉しそう。
手を握ってみた。彼の手は大きくて厚みがある。ゴツゴツしていて硬い。そしてすごく温かい。なんだか湿っている。
「なんだか濡れているみたい。」
どうやら、緊張していたようだ。暑いだけかも知れないけど。こちらの方を恥ずかしそうに見ている。駅前でお互いに見つめ合っている。まだ何もしていない。今日会ったばかりなのに、満たされた気分になる。時間が止まってしまったようだ。
「よし、行こうか。」、彼は恥ずかしくて仕方がないらしい。
「もう少しこのままでいさせて。」、少し遊んでみるが自分でも何を言っているんだろう。
「ねえ、行こうよ。一日中こんなことをしているつもり。」、彼氏が言う。
彼氏はわたしの両肩に一つずつ手を置いた。私の肩をぶるぶると揺らす。私は動じないで立っている。少し速くしたり、強弱をつけている。
「もう仕方がないな。」、彼氏は呆れている。でもなんだか楽しそうでよかった。
今度は私の背中の真ん中に手のひらを置いた。彼氏はそのまま押してきた。これにはわたしもたまらず進み出す。結構速い。彼氏が力強く押すので、景色がどんどん変わっていく。冷たい風が心地よい。このままどこまでも行けそうだ。そのくらい体が軽い。押してもらっているから、当然ではある。
「このまま行くの。」、いったいどこまで行くのだろうか。
「いやいや、電車で行くから駅に戻らないといけない。どんどん目的地からは遠ざかっている。君は楽しそうだけど。このままだととんでもないことになってしまう。」
戻らないといけないらしい。でも、このまま進んでいきたい。なんだかそれも正解な気がする。でも、目的地からは離れてしまう。どうしたらいいのだろう。
「ここは素晴らしい場所で、今は素晴らしい時間じゃない。」、恋人に聞いてみた。
「そして我々は素晴らしいことをしている。」、恋人が言う。




