14話 【イル視点】聖夜、繋がったプロトコル ――完全な同期(シンクロ)
十二月二十四日。
世間が「クリスマス」という非合理な狂騒に浮かれる中、私たちはいつものように私の部屋で、モニターの光に包まれていた。
「……非効率極まりないな。どこに行っても混んでるし」
「同意。……ナギ、やっぱりうちでいい?」
そんな会話を交わしながら、私は内心、心臓が飛び出しそうだった。
「うちでいい?」なんて、まるで私たちが恋人同士であるかのような誘い文句。
ナギは「半額のチキン」をぶら下げてやってきた。
私たちは並んで座り、ゲームのランク上げに没頭する。
画面の中の連携は完璧だ。でも、今の私の関心は、ゲームのスコアよりも、隣に座る彼の肩の距離にあった。
日付が変わる直前。
私は、用意していた「重い」プレゼントを取り出した。
最新型のゲーミングマウス。
本当は、もっと女の子らしいものを贈るべきか悩んだ。
でも、私とナギを繋いでいるのは、この無機質なデバイスたちだ。
「見ててイライラするから」なんて可愛くない言葉で誤魔化したけれど、本当は、彼の指先にいつも私の存在を感じてほしかった。
「……じゃあ、俺からも」
ナギが差し出したのは、静電気防止袋に入った、一見するとただのパーツ。
けれど、その中には、特注のキーキャップが入っていた。
私の名前。そして、かつての私だった「イル」の文字。
「……これ、お前のキーボード、使い込みすぎて文字が消えてただろ」
その不器用な優しさに、私の限界は決壊した。
彼は、私の「過去」も「現在」も、すべてを愛おしんでくれている。
……もう、我慢できない。
私は、ナギの肩に頭を預けた。
厚手のニット越しに伝わってくる、彼の逞しい体温。
「……ありがと、凪」
声が震えていたかもしれない。
彼は驚いたように体を強張らせたけれど、拒絶はしなかった。
「……これからも、俺の隣で、キーボード叩いてろよ」
その言葉を聞いた瞬間、私の三年にわたる「ログイン待ち」は、最高の形で終了した。
それは、どんな契約書よりも重く、どんなプログラムよりも確実な、二人だけの「プロトコル」だった。
「…………ふん。……言われなくても、離れないから」
私は彼の肩に顔を埋め、密かに笑った。
ネットの向こう側にいた、得体の知れない「ナギ」。
その彼が、今、私の温度になり、私の居場所になった。
画面の中のキャラクターは止まったままだが、私たちの物語は、ここから本格的に「サービス開始」するのだ。
私は彼の袖をギュッと握り直し、モニターの虹色の光の中で、静かに目を閉じた。
私たちのオフラインは、今、世界で一番熱い接続を完了させた。




