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IDの向こう側の君 ――ネカマだと思っていた親友(美少女)に、リアルで「出荷」されるまで――  作者: 折若 ちい


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1話 ログイン・リアルワールド

新宿駅、西口。

 地上へ出る階段をのぼりきると、むせ返るような排気ガスの匂いと、行き場のない熱気が肌をなでた。


「……相変わらず、無駄に人が多いな」


俺、**ともし なぎ**がこの街に放り出されてから、まだ一週間。

 地方の静かな環境で育った僕にとって、東京という場所は、情報の処理が追いつかないほど解像度の高すぎるディスプレイを見せられているような気分になる。


ポケットの中でスマホが短く震えた。

 画面を確認すると、見慣れたアイコンから通知が届いている。


【イル】:着いた。西口の『LOVE』のオブジェ横。人混みがうざいから、早くしろ。


相変わらず、可愛げのないメッセージだ。

 イル。SNSで知り合って三年の付き合いになる、僕の「腐れ縁」とも言える相手。


共通の自作PCのコミュニティで知り合い、お互いのパーツ構成にケチをつけ合ったのが始まりだった。

 一人称は「俺」だし、趣味はガジェットの分解とFPS。たまに送られてくる写真は、無骨な黒いデバイスばかり。

 だから、彼が自分と同じくらいの年恰好の「男」だと信じて疑わなかった。


【ナギ】:今、改札。二分で行く。お前、目立つ格好してんのか?

【イル】:黒いパーカにキャップ。見りゃわかるだろ。


スマホをポケットに放り込み、赤い巨大なオブジェを目指して歩き出す。

 正直、緊張はない。三年も毎日チャットをしていれば、今更顔を合わせるくらいで何かが変わるわけでもない。


――そう、思っていた。


待ち合わせ場所のオブジェ。

 その縁に腰を下ろし、退屈そうにスマホをいじっている人物がいた。


黒いオーバーサイズのパーカ。深く被ったキャップ。

 背は高めだが、驚くほど細いシルエット。


「…………は?」


思わず、声が漏れた。

 その人物が顔を上げた瞬間、視界にある「現実」が少しだけ歪んだ気がした。


キャップのひさしの下からのぞく、切れ長の瞳。

 陶器のように滑らかな肌と、シュッとした顎のライン。

 そこにいたのは、どう見ても――想像していた「男友達」とはかけ離れた、一人の美少女だった。


彼女が俺に気づき、ゆっくりと立ち上がる。

 手元のスマホが震えた。


【イル】:……ナギ。そこに突っ立ってると邪魔。こっち来い。


画面の文字と、目の前の少女がリンクする。

 彼女は俺の元へ歩み寄ると、少しだけ眉を寄せて俺を見上げた。


「……何。その、鳩が豆鉄砲食らったような顔。失礼なんだけど」


声は、低めで落ち着いている。けれど、確実に女性の響きだ。

 ネットでの乱暴な「俺」という一人称の面影はどこにもない。


「……イル、か?」

「それ以外に誰がいるんだよ。……本名は、りつ 依瑠いる。黙ってたのは悪かったけど。……何、がっかりした?」


依瑠は少しだけ挑発するように笑った。

 けれど、その視線がわずかに泳いでいるのを、僕は見逃さなかった。

 こいつも、こいつなりに緊張している。


「がっかりっていうか。……詐欺だろ、これ。あんなにサバゲーの話とかPCの廃熱の話とかしてたのに」

「うるさい。中身は変わってないでしょ。……ほら、行くよ。こんなとこで突っ立っててもしょうがない」


依瑠は再びキャップを深く被り直すと、俺を追い越して歩き出した。

 微かに残る、清潔感のある石鹸の香り。


俺の知っている「イル」と、目の前の「依瑠」。

 そのギャップに、俺の脳内は未だにエラーを吐き出し続けていたが、不思議と「帰りたい」とは思わなかった。


「おい、置いてくなよ。方向音痴なんだから」

「わかってる。……ナギ、やっぱりお前、写真より頼りなさそうだな」


振り向いた彼女の笑い方は、間違いなく、僕が三年間付き合ってきた「アイツ」だった。

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