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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第三章「王都へ」

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第一話「筋肉と契約と」

### あらすじ


囮捜査で張り込みをしながら数日間、穏やかな日常を過ごしたユージ。


ついに現れた工房の襲撃者は王国騎士団のイシュルドという魔術師だった。


リネアと協力し何とか攻撃を凌いでいると、騎士団長リディアの介入で事件は幕を閉じる。これにて一件落着と思ったら・・・


イシュルド襲撃の後、筋トレ器具制作の日々は数日何のトラブルもなく進んだ。


やっと落ち着いた日々が送れる・・・と思い始めたある日、工房に一通の手紙が届いた。


「これ・・・私たち宛の王国騎士団からの召喚状よ」


「しょうかんじょう・・・ってなに」


「こりゃまた厄介ごとだな!」


面々は思い思いのリアクションを見せる。


召喚状・・・ということは私は何らかの容疑で王都に来いといわれている。ということか?


「ここから王都は馬車で数日ってところだ。」ギルデスは言う。


「ちょうど帰ってくる頃には器具も完成してるだろ。とっとと行って来な!」


「そ、そんな軽いノリで・・・」


さて、王都に行くとしても、解決しなくてはならない大きな問題がある。それは___


「リネアさんは・・・確か奴隷契約のせいでこの町を出られないんでしたよね。」


「ええ。そうよ。仕方ないから私はここに残るわ。どうせ騎士団が話したいのはアンタでしょ」


リネアはそう言うが、明らかに気落ちした様子だ。


彼女を置いて王都に向かうことはしたくない。なんとかできると良いのだが・・・。


もし、奴隷契約の誓約について詳しい人間がいるとすれば。


_________


「奴隷契約の解除・・・ですか。」


私はその夜、グラートの商店を訪れた。


正直苦手な雰囲気ではあるが、背に腹は変えられない。


「リネア嬢のことですね。これは何とも涙ぐましい話・・・」


この男の大袈裟な話し方は何とかならないものだろうか。


「しかし、そのような方法の存在は奴隷制度を根本から否定しかねません・・・私としてもリネア嬢は何とかして救って差し上げたいのですが」


彼女を商品として取り扱っていた男が何を言っているのだ。


「彼女は母を探す旅に出る事を目指しているのです。」


そのグラートの言葉を聞いてあることに気付いた。


私は彼女のことを表面的にしか知らない。


「彼女がここにたどり着いた時には既に母とは生き別れの身。辺境の奴隷商に買われていった母を探すにはこの町を出る必要がある・・・」


「じゃあリネアさんが冒険者パーティーを組もうとしているのは・・・」


「私めの入れ知恵にございます。彼女が自らの価値を証明すれば、彼女を買った主人が見過ごすはずがないでしょう?価値のあるものには相応の待遇が認められるというものです」


なるほど筋の通った話ではある。


リネアは母を探しに町の外へ出るために、力を手に入れて主人の方から彼女に接触させようというのだ。


しかし、残念ながら今はそれを待っている時間はない。


王国騎士団からの召喚状を無視することは大逆となり死罪だとかなんとか___この国で生活する以上、なるべく早くこの町を出発する必要がある。


「私めはしがない奴隷商人であります故、魔術やスキルには詳しくありません。こちらの部屋に先代が遺した奴隷契約に関する書物がございますからご自由にお持ちになってください」


この男・・・リネアを救いたいという発言は本当なのだろうか?


もしそうであるのなら、リネアが奴隷として売られていた時にその手で解放すれば良かったではないか。


この男に対する不信感は募るばかりだが、今は直ぐにでも情報がほしい。


いくつか参考になりそうな書物を持って商店を後にした。


___________


「アンタ・・・その顔、大丈夫なの?」


書物を読み漁っていたらいつの間にか朝になってしまっていた。


しかし、おかげで使えそうな案を考えることができた。


「ご主人様、おつかれ」


「それできるんだったら工房の件もアンタが起きてれば良かったじゃない」


「それはダメ。よるはルノアのしごと」


リネアを助けたい一心で筋肉に悪い徹夜をしてしまっていたことに驚く。


筋肉のことを忘れたのは長い人生の中で久しぶりのことだった。


「これを見てください」私はある書物のページを開いてみせた。


グラートの店から借りてきた書物の中で、“悟り“のスキルに言及されているものがあったのだ。


「これって・・・ルノアを回復させたスキルよね?」


「はい。どうやら自分が主人でない奴隷契約も無効化できるようです。問題は___」


「私とアンタが何の契約を結ぶかって事ね」


「それについてはこちらを見てください」


次に広げたページには『契約魔術の序列』について書かれている。


私とルノアの間に交わされたような通常の奴隷契約の上には、いくつかの上位契約が存在しているようだった。


より上位の契約魔術は競合しない限り重ねがけができるようなので、今回の目的に合致している。


「たとえば、主に婚姻の際などに一部の地域で用いられている魔術は奴隷契約よりも上位になるようです」


そう言うと、リネアの表情が一瞬変わった気がした。


「しかし、儀式に必要なものが足りませんのでこれは使えませんね」


「な、何よ!できないならいちいち言わなくていいわよ!」


怒らせてしまったようだ。


彼女の念願を叶える方法を説明しているのだ。早く話を進めることにしよう。


「この中で、唯一我々が実践できるのは・・・この“一蓮托生の契約“だけです」


「・・・この契約を交わし合った2人は生涯一蓮托生となり、二つの魂は一つの命になる・・・って要は___」


これはつまるところ、リネアか私のどちらかが死んでしまった場合、もう一方も死ぬという契約だ。


「ちょっと待ちなさいよ!アンタは相当強いみたいだからいいけど、私に関してはただのCランク冒険者よ?」


「・・・リネアさんの制約を解くにはこの方法しかありません」


そう言う私にリネアは釈然としないと言った表情だ。


「なんで、アンタがそこまでするのよ・・・」


なんで、と聞かれると難しい。


前世では、特にこれと言って守るべきものというか___人生に目標みたいものは特になかった。


強いていうのならば、体を鍛えてデカくなる。


これが唯一の生きがい。


気がつけば大学を出て就職し、独身のまま歳を重ねるだけの日々を送っていた。


そんな前世での記憶を思い出すと、明確な目標や自分の手で救える存在が、自分の行動原理を変えているのかもしれない。


「とにかく、私たちが今いち早く町を出て王都に向かうにはこの方法が1番です」


私は自身の心情を整理できないまま続ける。


「リネアさん。あなたが置かれている状況は不当なものだと、私は思います。人がどこに行って、何をするのかは本人の自由意志によって決められるべきです。」


「それを奪われたあなたを救うことができるなら___それをするべきだと私は思います」


リネアの表情が読めない・・・。人の人生にここまで踏み込んだことを話すのは失礼だろうか。


「・・・条件があるわ」リネアが口を開く


「その、妙な敬語。やめなさいよ」


「・・・え?」


「アンタね・・・その契約がどういうものかちゃんとわかってるわけ?アンタと私はこの先一生___」


そこまで言って、リネアは口をつぐんだ。


なるほど。確かにそんな関係性を提案しておいて他人行儀な敬語を続けるのは不自然ではあるか・・・。などと考えたが、意外なところを気にしていたリネアに驚く。


「わ、わかりました・・・」そう言ってハッとする。


「い、いや、わかった。他人行儀な話し方は辞めよう」


リネアは少々悩んだような仕草を見せ、ため息をついた後、諦めたように「わかったわ」と言った。


「それじゃ、その契約魔術はどうやるの?さっさとやっちゃいましょ」


私は魔術書を持ち上げ、リネアとルノアと共にある場所へと向かった。

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