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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第二章「襲撃」

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第6話「囮捜査と筋肉と死闘」

囮捜査のために夜間の張り込みを行いたいが、睡眠サイクルの乱れは筋肉に悪い。


リネア一人に任せるわけにもいかず、人員を探すユージ。


リネアの案内で奴隷商グラートの元を訪れると、不治の病に侵された猫獣人のルノアと出会う。


彼女と奴隷契約を結ぶと、謎のレジェンダリースキルが発動しなんと彼女は回復したようだ。

「ルノアげんきになった。ご主人様のおかげ」


改めて、私が契約をしたのはこの猫獣人の少女ルノア。


灰色の耳と尻尾が大変キュートである。前世の世界ではロシアンブルーという種が近いだろうか。


今は近くの食堂で食事をとっている。久々のまともな食事だったらしく大変喜んでくれた。


「それで・・・この子に工房の夜間の警備を任せるのよね?」


そうだった。衝撃的な出来事の連続で本来の目的をすっかり忘れるところであった。


「そ、そうですね。ルノアさん。貴方と契約したのは頼みたいことがあったからなんです。」そう話しかけるも、ルノアは食べるのに夢中なようだ。


「と、とりあえず食べながら聞いていただければ大丈夫です。」


私は、ことの顛末をなるべく子供にもわかりやすいよう意識して伝えた。


「ん。わかった。」とルノアは言った。


「わるい人、つかまえる。」


ずいぶんと安請け合いな気もするが、これが奴隷契約の効果なのだろうか。


主人に絶対服従・・・。たとえ嫌なことでも、ルノアは私のいうことには従わなくてはならないのだ。


その事実にかなりの嫌悪感を覚えた。


「ルノアさん・・・私の立場でこんなことを言うのもすごく変だと思うのですが・・・もし嫌だったら言ってくださいね?」


そう言うと、ルノアは怪訝そうな顔でこちらを見る。


「ご主人様、へんな人。ルノアはご主人様のいうこときく。いやでもやる」


「そ、それはそうなんですが・・・じゃあ、嫌だったら必ず私に言うようにしてください。これも命令です」


「ん。わかった。」


なんだか気の抜けるやりとりだ。だが、様子を見るに、別に夜間の警備自体は嫌、と言うわけではないらしい。


「夜の間起きていることはつらくはありませんか?」念のため聞いておこう。


「ルノア、くらいところいやじゃない。」


大丈夫・・・なんだよな?一抹の不安はあるが、作戦に必要な人員は揃ったはずだ。


_______________


「なるほど・・・こりゃあ珍しい。猫獣人か」


ギルデスの工房に戻ると、ルノアを見てギルデスは言った。


「・・・グラートんとこ行って来たのか、嬢ちゃん。」ギルデスはリネアを見る。


「はい。そうです。」


どうやらリネアが奴隷商と付き合いのある理由をギルデスは知っているらしい。


詮索するつもりはなかったが、話の流れ的に興味のないふりをする空気でもなくなってしまった。


「私もあそこの出身なのよ」気まずさを破るようにリネアが言う。


「私の両親は冒険者でね。二人とも優秀だったみたい。でもある日、お父さんがダンジョンから帰ってこなくて」


その後、リネアから語られた彼女の過去は壮絶なものだった。


残された母子はなんとか食い繋ぐ日を送っていたものの、数年前に起こった大戦争に巻き込まれ家を失い、奴隷身分になったと言う。


その後、母親と別の奴隷商にに引き取られたリネアは、各地を転々としてグラートの奴隷商店に流れ着いたのだ。


「だから厳密には今も奴隷身分なの。私。」リネアはそう言うと、首元に刻まれた証を見せた。


「私を買った人のことは何も知らないんだけどね。ただ一つ、この町の中にいる限りは自由だって。それだけが伝えられたの。おかげでこの町から出られないんだけどね」


なんとも奇妙な話だと思ったが、今はこれ以上の詮索をする必要はないだろう。


「ま、アンタは随分と奴隷に優しいみたいだし、ひとまず安心しておくわ」そういうとリネアは笑った。


私のルノアへの接し方をみてそう感じたのだのだろうか。


「ともかく、だ。これ以上ワシの工房を荒らされてもたまらん。しっかり頼むぞ」


ギルデスはそう言うと、静かに器具の製作に向かった。


売り物や、今回の一件で損傷した工房の修復もしなくてはならないため完成まではしばらくかかるそうだ。


直接的な原因を作った自分が手伝うことで少しでも償いになれば良いのだが・・・。


__________


1日目の夜。


工房での仕事はかなり充実していた。


重いものを取り扱うので、筋肉への刺激もかなり入れられたはずだ。


途中でルノアが獲ってきたと言う魚を焼いて食べることでタンパク質の確保も完璧だ。


「筋がいい」とギルデスにも褒めてもらえた。


最初はその貫禄から怖い印象があったが、実際は非常に優しい人物のようだ。


「それで・・・ルノアさん?もう少し離れても大丈夫なのでは・・・」


就寝時間。不審者が現れたらすぐに対応できるよう、私たち三人は工房の一室を間借りしている。


「だめ。あやしいやつ、見つけたらすぐほうこく。ちかくにいるべき。」


寝室ではないので簡易的にマットを敷くなどして寝床を確保しているが、ルノアは私の懐に潜り込むようにして待機している。


その後しばらく離れるようにお願いしてみたものの、結局この形で眠ることとなった。


「主人の命令には絶対服従じゃなかったのか・・・?」


そんなことを考えているうちに眠ってしまった。案外、よく眠れた。


2日目。


工房での仕事も把握したので、簡単な作業は私一人でもできるようになった。


特に、重いものを持つ作業を率先して行い、時々重たい金属や石の塊を借りてトレーニングもさせてもらえた。


ルノアとリネアは日中、町に出て色々みてきたようだ。ルノアは途中で寝てしまったらしく、リネアが抱えて帰ってきた。


この日も特に異常はなく、安眠であった。


3日目。


朝起きると、ルノアがリネアの方に移動して彼女の懐に潜り込んでいた。


リネアはそれが嬉しかったらしく、今日も二人で出掛けていった。


二人で簡単なクエストに出るらしい。


まさかルノアのギルドカードを発行するときにもギルド長が出てくるのか・・・?と思ったが、そんなことはなかったようだ。


(それなら私の時はなんで・・・?)と勘繰ったが、考えるだけ無駄だ。


おそらく、ホブゴブリン討伐のことで飛び級の話が出たりしたのだろう。


夜、ルノアの怪しい物音がするとの報告で一度起きたが、結局犯人による襲撃はなかった。


4日目。


ついにルノアの目が不審者を捉えた。報告を受け、リネアを起こし外に出ると___


「リネアさん!あれは一体?」


何者かが工房の外で杖を構えている。


足元には___魔法陣?のようなものが怪しく光り輝いている。


「あれで工房の防護結界を破るつもりよ!止めるわ!」そう言うとリネアは杖の男に突進していく。


不意を突かれたように見えたが、男は杖でリネアの突進をいなす。足元の魔法陣はまだ消えていない。


「ユージ!」リネアが叫ぶ。


平場でいくつかリネアと簡単なクエストをこなしてきたが、ここまで危機迫った彼女は初めてだ。


さてここで私は不審な男に攻撃したいのだが、ホブゴブリンの一件もあり迂闊な攻撃では殺ってしまう可能性があるので加減が難しいところだ。


「フンッ・・・!」


私はあらかじめ拾っておいた石をかなり加減して”投擲”した。


奴隷商店で見た自分のスキルラインナップにあった”投擲”。その威力や如何に。


「___!?」


男は驚いた様子で杖を構えると、足元の魔法陣が消え、男の前方に展開された。


私の投擲はその魔法陣に阻まれる形となり、石は跡形もなく消滅した。


「・・・いやはや、賊にしては見事な攻撃。しかし私の防御魔術の前にはいかなる物理攻撃も無力・・・!」男はそう言うとこちらに向け杖を振りかざした。


「ユージ!危ない!」リネアの叫び声とほぼ同タイミングで杖から光が放たれる。


「うおっ!?」


ガルデンと戦った時と同じ感覚。危険を感じた瞬間すでに回避行動を終え大きくのけぞる体勢になっている。


「ユージ!大丈夫?」リネアはいつの間にか私の横に戻っている。

「あいつの格好、なんで王国騎士団がこんなところにいるのよ!?」


「王国騎士団・・・?」


ここにきて初めて聞く団体だ。


私がいるトレヴィルの町を含めここ一帯を広く治めるグラシオン王国直属の軍隊か何かだろうか。


「フン。賊とはいえ騎士団の名は知っているか。いかにも、私は王国騎士団第三隊隊長イシュルド・フェルンハイトである!」


男はそう言った。


「ユージ、アンタ一体何者なわけ?王国騎士団、しかも隊長クラスが出てくるなんて普通じゃないわ!」


そう言われても、全く身に覚えがないので答えようがない。


「とにかく、私たちの手に負える相手じゃないわよ!」リネアは言う。


「トレヴィルに謀ありと聞き来てみれば、やはり奇妙なものを作っているではないか!一度は警告のみで許したが二度までとは!王国騎士団第三対隊長の名を持ってこの場で断罪する!」


そう言うと、イシュルドが天高く杖を掲げる。


おそらく攻撃魔術の類だろう。だが、先ほどの要領で止めることができれば・・・。私は再び投擲スキルのために足元の石を拾う。


「無駄だ!この魔術は詠唱によって私の周囲に強力な防護結界を___」


「フンっ!」


先ほどよりやや出力を上げた投擲を行う。


「なっ・・・!?」


イシュルドは後ろに飛び退いて杖を前方に構えた。ガラスの割れるような音が響き渡ると、イシュルドは後方に大きく弾き飛ばされた。


「あ・・・」


やってしまったか!?私は急いでイシュルドが飛ばされた方へ向かう。


「・・・ふざけた威力だな。全く虫唾が走るほど野蛮だ。」


よかった。彼には傷ひとつついていない。これも彼の魔術のおかげなのだろうか。


「ユージ!いったい何が・・・」後から追いついてきたリネアを手の合図で静止する。


「物理攻撃で私の魔術を邪魔されるほど不快なことはない・・・全く・・・どうしてこうも野蛮な者どもは・・・」


イシュルドの様子がおかしい。


「リネア!逃げるぞ!!」直感した私はリネアを抱き抱え全力で走り出した。


「えっ!?何___」


リネアは驚いた様子だが気にかける余裕はない。


イシュルドはいよいよ本気といった様子で魔術の連続攻撃を仕掛けてくる。少々の追尾性能があるらしく、ギリギリのところで避けるしかない。


(ルノアさんは工房に待機させておいてよかった。)


工房は町の中心地から離れたところにあり、周囲も広いため無関係者を巻き込むようなことはなさそうだ。


しかし、かえって逃げ場が無く厄介なイシュルドの猛攻。


魔術ならMP的なものがあるはず。粘っていればいつかは逃げ切れる・・・。


「フン・・・!無様に逃げ回っているな。だが無駄であるぞ!この程度の魔術なら一晩中でも貴様に打ち込むことができる!」


まじかよ!一晩中こんなに駆け回っていたら筋分解どころの騒 ぎじゃ・・・!そう考えるとどこかで打開しなくては___


「ユージ、さっきの投擲、もう一回できる?」必死に逃げ回っているとリネアが聞いてきた。


「ええ、できますよ・・・!」そう答えると、リネアは持っている剣を渡してきた。


「これを投げなさい!」


なるほど、石よりも攻撃性能に優れた剣を投げれば威力は上がるかも知れないが、私が危惧しているのはそこではない。


(正直石でも全力で投げればどうなるか分からないんだけどなあ)


そう考えつつも、イシュルドの猛攻は止まる気配がない。


(仕方ないか・・・)


多少相手に怪我をさせてしまうかも知れないが、消し炭になるよりはマシだ。


「リネアさん、お借りしますね!」


剣を受け取り、イシュルドに向かって“投擲“する。間違っても殺ってしまわないように加減したつもりだ。


遠距離魔法を打ち込んでいるイシュルドとは少々距離が開いていたこともあり、反応が遅れたのか私の投擲は見事命中した。


「・・・アンタのそれ、ホントえげつないわね」


リネアは若干引いている。


「これでなんとかなっていればいいんですけど」


そんなことを考えた矢先___


イシュルドがいた方向からものすごい音と共に空に向かって光の柱のようなものが放たれた。


「おいおい!まだなんかあるのかよ!」


「ユージ!これかなりやばいわよ!」


言われなくても見ればわかるというものだ。あれは間違いなくやばい。


「ハハハッ・・・!これは我が魔術の中でも最高峰の術・・・!止められるものなら止めてみるが良い!」


詠唱中のイシュルドは光の柱に守護されている。生半可な投擲は阻まれてしまうようだ。


これは手加減をしている余裕はない。全力の投擲で迎え撃つしか____



「そこまでだ!」



今まさに石を投擲しようとした瞬間、女性の勇ましい声が響き渡り、ものすごい衝撃波が辺りに走った。


「な、なんだ!?」


イシュルドがいた辺りを中心に砂埃が上がる。そこには、イシュルドと同じ、王国騎士団と思われる装いの女性が立っていた。


___________


「通報があって駆けつけてみれば・・・イシュルド、これは一体何事だ?」


なんとこの女性はイシュルドの魔術を一撃で破ったようだった。


上には上がいるものだと感心したが、事態はそれどころではないようだ。


「リディア・エルンフォード・・・!」イシュルドが言う。


「リディア・・・って王国騎士団の団長!?」リネアが驚く。


なるほど 、彼女はイシュルドの直属の上司のようなものか。


壮麗な印象のブロンド髪が異世界情緒を感じさせるまさにザ・女騎士といった印象だ。


「ここは貴様の管轄ではないだろう。イシュルド、これは王国の命に背く越権行為だぞ。」リディアが言う。


「君たち、大丈夫か?」彼女はこちらを気にかける様子を見せる。


「は、はい。大丈夫です」今まさに生死を彷徨う攻防をしていたわけだが、意外なことに私は冷静だった。


その後___我々はことの成り行きを見守るだけであった。


イシュルドのことは騎士団に持ち帰るようで、団長のリディアが手際よく処理していった。


気がつけば、どこからともなく騎士団員たちが続々と集まってきていた。


_________


「そりゃあ災難だったなぁ。まさか犯人が騎士団の隊長クラスとはなあ!」


翌日、事の顛末をギルデスに話すと、いつも通りギルデスは豪快に笑って見せた。


「笑い事じゃないですよ・・・!」


「兄ちゃんの器具製作が武装蜂起準備とでも勘違いされちまったんだろ!こりゃ傑作だな!」ギルデンは相変わらずの様子だ。


「いや、本気のイシュルドの攻撃を完全にいなしてたユージの方がおかしいわよ」


「ルノアもたたかいたかった」


「無茶言わないでください・・・」


とりあえずこの一件は片付いただろうか。このまま何事もなく筋トレ器具を製作して筋トレの毎日に戻れれば良いのだが・・・。


第二章「襲撃」 完

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