第16話「筋肉と少女」
あらすじ
召喚状は騎士団からの招待状だった。
ノエラを巻き込み騎士団訓練施設へと案内されたユージは“龍の試練”と呼ばれるベンチプレスで騎士団の心を掴む。
騎士団長のリディアはユージを第三隊隊長へとスカウトするが、即決できなかったユージ。
彼の人生における筋トレの優先順に変化が・・・?
「ユージ・タカハラ様ですね」
騎士団から斡旋してもらった王都の宿泊施設は、これまた豪華だった。
私は本気で騎士団にスカウトされているのだろう。
「こちらでございます」
案内された部屋は予想通り広々とした贅沢な部屋で、ベッドも複数台ある。
恐らくここが女性三人用の部屋だろう。
「ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
「え?あ、ちょっと」
退散しようとするコンシェルジュを呼び止めると、「あの、私の部屋は・・・」と聞く。
「こちらがユージ様のお部屋でございます」
な、なるほど。一人用にここまで広い部屋を用意してくれるなんて、騎士団は太っ腹だなあ!
「“ご家族様用に大部屋を“と騎士団長より承っております」
・・・そんな気はしていたが、リディアへの印象は少々改める必要がありそうだ。
「リネアとルノアはまだしも、ノエラはこの前会ったばかりなんだが___」
そうぼやいたことで気がつく。
私たちは、“家族“として考えられるということか。
前世で私は家族とあまり関わらない人生を送ってきた。
大学で一人暮らしを始めてからというものの、親は私に関して全くの無関心。
私もそれに同調する様に疎遠になっていき、結局異世界転生前の数年は一度も連絡を取っていない。
筋トレによって充実した毎日を送れていたものの、やはりどこかで今のような他者との繋がりを求めていたのかもしれない。
「ご主人様、ベッド、とてもでかい」
ルノアは初めて見る豪華なベッドに喜んでいる。
「せっかくの団長さんのご厚意なんだし、ここに泊まれば良いんじゃない?」
リネアも先ほどまでの苛立ちを忘れ、機嫌を直してくれたようだ。
「わ、私やっぱりこんなところにいて良いんでしょうか・・・!」
ノエラはまだ状況を理解できていないようだ。
というより、まずは彼女に状況を説明するべきか。
___________
「わ、私のことが心配で連れてきたんですか・・・?」
私がノエラを連れてきたのは彼女のその後が心配だったからだ。
いやまあ、勢い半分でそうしてしまった部分も否定できないが。
「そもそも、普段ああやってモンスターに襲われた時はどうしてるんだ?毎回助けてくれる冒険者が乗り合わせるとも限らないだろ?」
「い、いえ。それが・・・私、乗合馬車を引くの今回が初めてなんです」
そう来たか___
「な、なるほど。では全くの無計画であの馬車を?」
「そ、そんなことないです!あの、防護結界とか・・・守る系の魔術は得意なので、その・・・いざとなったらモンスターがいなくなるまで結界に閉じこもるとかで___」
「それ、今回みたいに文句言われたりしないか?」
「うう・・・そうですね・・・」
「コラ、あんまりいじめないの」
リネアが割って入ってくる。やはりすっかり上機嫌だ。
「そこまでして乗合馬車をやらなきゃいけない理由があったのよね?」リネアが聞く。
そうだ。私が聞きたいのはそこ。場合によっては急ぎの用でノエラはすぐにでもここを去らないといけないのかもしれない。
「・・・実家に仕送りをするためなんです」
ノエラはぽつりぽつりと話し始める。
「故郷は、ここからずっと離れたところにあります。農業が、盛んで。両親はそこで農業を___」何かが溢れてしまった様子で、ノエラは涙ぐみながら続ける。
「___していて、お父さんは近くの街に採れたものを馬で持っていくんです」
なるほど。彼女が引いていた馬車の馬は・・・いや、でもそれだと・・・。
「この前、お父さんが___大怪我して、帰って___」
「___来たんです。それで、なんとか命は___助かったんですけど」
「心配しすぎたのかお母さんも___病気に」
「もう大丈夫よ。だいたいわかったわ」
ノエラの様子を見かねたリネアが彼女を抱きしめる。
結果として、彼女を引き止めたのは正解だった。
両親が働けなくなった家の子供がどうなるかなどという事はここまでの経験で容易に想像がつく。
この乗合馬車の仕事は彼女にとって家族を繋ぎ止める最後の希望だったのだ。
私が騎士団に入れば、ここにいる全員がある程度の職に就くことが決まる。
彼女の実家を支える程度の収入は恐らく担保できるだろう。
だがそれは・・・。
__________
私ができる最善の選択はきっとここで騎士団に入ることではない。
家族を探すリネアとルノア。
家族のために働くノエラ。
この三人の力になることこそが、今の私にできることならそれに全力で応えるべきなのではないだろうか。
この考えは私の杞憂かもしれない。
彼女たちは立派に一人で問題を解決できるかもしれない。
でもそれならそれで良いじゃないか。
「騎士団の話。断ろうと思う」
ノエラを落ち着かせているリネアは、少し待った後「そう」と呟く。
「もちろん俺にとって筋トレは大事だ。」
「それに騎士団の一隊長になるのはとても名誉なことなのかもしれない。でも、ここにいるみんなの使命を手伝えるなら、それはもっと大事なことだと思う。から、そうしようと思う。」
なんだか言っていて途中で恥ずかしくなってしまい、歯切れの悪い言い方になってしまった。
「なんだか締まらないわね」
リネアが笑う。
「これからリネアとルノアの家族を探そう。その間にしっかりお金になる仕事をして、ノエラの実家に仕送りをする!これでどうだ?」
我ながら都合のいい話をしている自覚はある。
だが、この異世界転生でいくつかの強力なスキルを手に入れているらしい私なら、あるいは可能なのではないだろうか。
「ひとつ、足りてないわよ」リネアが言う。
「足りてない、というと?」
「あんたの使命よ」リネアも恥ずかしそうに目を白黒させながら言う。
「あんたの使命。筋トレでしょ。私たちもできる限り手伝うから」
私は、なんと恵まれた出会いに巡り会ったのだろう。
こうして、各々の過去とこれからの使命をひとつに、新たなパーティーが誕生する___はずだったのだが。
___________
「ご主人様、おはよう」
「ま、またこの二人、こんなに密着して___」
「さっさと慣れたほうがいいわよ。お互いなんとも思ってないからこれ」
結局、一つの部屋で一晩泊まることになった我々。
なぜかベッドが三台しかなかったので、先日の野営の一件でこのポジションが気に入ったらしいルノアは私のベッドで寝ることになった。
不思議なことにこの方が私も睡眠の質が向上している気がするので、断る理由もない。
しかし、リディアはどのような理由でこの部屋を抑えたのだろうか。
断りを入れるついでに聞いてみてもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、いそいそと出発の準備に取り掛かる。
こんな豪華な部屋を用意してくれた手前申し訳ないが、騎士団への誘いは断りに行こう。
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