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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第四章「騎士団」

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第12話「筋肉と猫獣人」

### あらすじ


王都行きの乗合馬車で王都を目指すことになったユージたち。


しかし、乗合馬車の馬は病気のようだ。


筋肉の賢者という妙な噂が立っていることを知り悪目立ちを避けたいユージは一芝居打つことで馬の病気を治してみせたが……

「なあ、兄ちゃん!”筋肉の賢者”ってどんなやつだったんだ?」


馬車での移動は快適だったが、この男からの質問攻めはしばらく続いた。


「顔はよく見えませんでした。フードを深くかぶっていたので」


「そうか……それじゃあよ、アンタはどうしてさっきの貴重な秘薬をもらったんだ?アンタも随分ムキムキみたいだし筋肉繋がりか?」


……確かに、そこのカバーストーリーは全く考えてなかったな。


返答に困っていると、リネアが助け舟を出してくれた。


「それは私たちにもわからないわ。でもきっと、賢者様は私たちが可愛そうなあの馬と心優しい少女に出会うことを見抜いていたんでしょ」


ナイスだリネア!たしかにそれなら自然な流れだが……


「なんてこった――”筋肉の賢者”は予知のスキルも持っているのか!?こいつはもう女神様にも迫る力を持っているってことだな!」


興奮する男を見ながら、いよいよそれが私であることを明かすわけにはいかなくなったと感じる。


「前の町ではよ、教会の連中が穏やかじゃなかったんだぜ?笑えるよな!自分たちの専売特許の”奇跡”の類が一般の冒険者にも使えるとなっちゃ形無しだからな!」


なるほど――予想の通り私が使えるこの能力は教会側からしたら看過できないものであるようだ。


__________


しばらく男の質問責めをかわしていると、すっかり日も暮れて野営をすることになった。


ノエラは周囲を守る結界魔術を展開し、安全を確保しているようだ。


「すごいですね。私、魔術はからっきしなので」


なんとかノエラと話す流れに持っていって、秘密裏に馬の権利を戻してあげるのが理想だ。


このやりとりに関してはあの男たちに見られるわけにはいかない。


「あ……はい。ありがとうございます」


彼女はすっかりこちらを警戒している様子だ。


なんとか心を開いてもらえれば良いのだが。


「先ほどは、この子を治療しくれてありがとうございました」ノエラが言う。


その様子はまだ伏せ目がちなままだ。


「いやいや、礼を言うならその“賢者様“にすると良いと思います。まあ、会うことができればなんですが――」


そう言うと、ノエラは初めてこちらと目を合わせた



「どうして隠しているのかはわかりません。でも……あなたが“筋肉の賢者“様ですよね?」



一瞬時が止まったような嫌な感覚が襲う。


「え……」


いや、先ほどの様子を見ていれば予想はできた。


彼女は私が秘薬(普通のポーション)を与える前に馬が回復しているのに気づいているようだった。


「ど、どうしてそう思うのですか?」


動揺が隠しきれない。


しどろもどろになりながらもノエラに聞く。まだ、どうにか誤魔化せるかもしれない。


「私には、動物と心を通わせることのできるスキルがあるみたいなんです」


「……みたいというのは?」


「私の家は貧しくて、教会に納めるお布施も全然でスキル鑑定を受けたことがないんです」


なるほど、グラートの店で見た自身のスキルがわかる鑑定のような行為はそう簡単にできるものではないようだ。


いよいよ、グラートの存在が謎になっていく。


「それであの子が秘薬を飲む前に回復したのに気づいて――」


彼女は気まずそうにしている。


「あっ……でも、このことは誰にも言いませんから……」


そう言うと、ノエラはまた顔を伏せてしまった。


なぜ彼女は私にこのことを直接告げてきたのか。


それは恐らくその“賢者様“が身分を隠して自分の馬の権利を奪った事に対する疑問からだろう。


どうやら、もう言い逃れは不可能なようだ。


「……確かに私がその“筋肉の賢者“――と呼ばれる存在のようです」


我ながら引っかかる言い方だとは思うが、自分自身全く自覚がないのでしょうがない。


「それならどうして――」ノエラの言葉を遮るように私は続ける。


「ワケあって教会とやらに目をつけられているかも知れないんです。ですから、あまり目立って力を行使するのを避けていて。」


前後関係はともかく、嘘は言っていない。


「ですから、あなたの馬の権利を一度もらうことであの場は乗り切ったんです。あの男たちに私がそうだと知られるのは避けたくて」


「それなら……」ノエラが再びこちらを見る。


「はい。早いところ馬の権利を元に戻しましょう」


彼女の表情が変わる。


そんな彼女の姿にさらなる自責の念に駆られ深々と頭を下げる。


「そ、そんな!そんなご身分の方が……頭を上げてください!こちらこそ、事情も知らずに申し訳ありませんでした。でも、あの子は私の数少ない家族で――」


それなら尚更悪いことをした。後でリネアにも怒られてしまうだろうな。


___________


無事に馬の権利をノエラに戻すと、彼女もすっかり落ち着きを取り戻したようで安心した。


「うちの筋肉バカがごめんね。よく言っておくから」


やはりリネアにはしっかり怒られてしまった。


我が身可愛さにいたいけな少女を悲しませてしまったのだ。この意見は尤もである。


「筋肉、ですか?」


「ご主人様、だいすき、きんにく」


一行とはすっかり打ち解けたようで、今は野営の焚き火を囲んでいる。


乗り合った男二人は酒盛りをしたせいかすっかり寝てしまっている。馬の一件を詮索されずに済むのは好都合だ。


「それで、しっかりバレたわけね」リネアは言う。


「そうみたいだ……」


当然、話の流れでリネアは私が”筋肉の賢者”であることは知っている。


ルノアは……どう認識しているのかわからないが、とにかく厄介なことになっていることだけはわかる。


「賢者様はどうして王都に向かわれているのですか?」ノエラが尋ねてきた。


「ああ、そんな敬ったような言い方しなくても大丈夫よ?」その様子を見てリネアが言う


「そんな……でも――」


「だって、ねぇ?そんな呼び方で怪しまれるのも問題でしょ?」


リネアがこちらに目配せをする。


「あ、ああ。気軽にユージとよんでくれ。賢者様ってのは無しで……」


これはリネアなりの気配りだろう。


未だに私にだけやや警戒気味なノエラとのコミュニケーションを修正できる良い助け舟だ。


「それで――」


私はことの発端から王都に向かっている理由をノエラに語った。


我ながら異世界転生後、巨大ゴブリンを倒し、腕利のギルド長と戦い、騎士団の隊長クラスとも戦い、超巨大宗教団体から目をつけられていると言う現状に眩暈がしそうだ。


おまけに巷では”筋肉の賢者”ときたもんだ。全く困ったものである。


「な、なんだかすごい苦労されているんですね」


ノエラはすっかり同情ムードだ。まあ、警戒されているよりはよっぽど良いか。


しばらくお互いについて他愛もない話をしているうちに、ノエラは眠ってしまった。


「私もそろそろ寝るわね」リネアはそう言うと、野営用の道具を馬車に取りに行った。


「あれ……?」


そういえば、移動中は野営もあると言うことを全く考えていなかった。



私は――どこで寝れば良いのだろうか。



「ご主人様、まだねない?」


しばらくウロウロしていると、ルノアが話しかけてきた。


「い、いや……まぁそうだな」


「じゃあ、ルノアとおはなし」


――それも悪くないな。そう考え、一旦落ち着いてルノアとゆっくり話をすることにした。


__________


ルノアはある猫獣人の里の生まれらしい。


未踏の領域が大多数を占める、ここグラシオン王国の南に位置する巨大な森にその里はあるという。


その里はある日、謎の男率いる集団に襲われ、ルノアの両親を含めた多くの獣人たちが攫われ奴隷となった。



そして、大陸は戦争の混乱に包まれた。



父親は戦闘奴隷として戦争に行ったそうだ。


ルノアに残った記憶は、檻の中で母が話してくれたたくさんの思い出話。


力強くて勇敢な父親の話。


里の掟や、里に住むいろいろな人の話。


そして、母が誰かに買われ、無理やり引き剥がされた時の母親の顔。


それ以外はほとんど覚えていないそうだ。


その後、不治の病となりグラートの商店に引き取られ今に至る。


__________


「ルノア、お父さん、お母さんみつける」


過去を話すルノアの目には、初めて見るような決意がみなぎっている。


「みつけて、さと、かえる」


いつの間にか、ルノアのことを優しく抱きしめていた。その小さな体は震えている。


「俺の器具製作なんかに付き合わせてる場合じゃなかったんだな」


「だいじょうぶ。さとのおきて、おんはかえすべし」


ずいぶん硬派な掟のある里だったんだなと感心する。


「それじゃあ、十分恩を返したと思ったら、いつでも言ってくれ」


今は一人で旅をするには厳しい年齢かもしれないが……いつか、ルノアは立派になって両親を探す旅に出るのだろうか。


「その時まで――俺が面倒見てやるからな」


小さな声でそう呟いた。彼女を救った私が、その責任を取るのが筋というものだろう。


しかし――その時のことを考えると、なんだかものすごく寂しいような、嬉しいような、複雑な感情になるのだった。


「家を出る娘を見る親ってこんな気持ちなのか……」


「ご主人様、なに?」


「いいや、なんでも」


独身だった前世では考えもしなかった。親心に触れた瞬間だった。


__________


「……ずいぶんと仲良しなようね」


「……へ?」


朝、か。


リネアの声で目が覚める。


どうやら、ルノアを抱き抱えたまま眠ってしまったようだ。


「ん……おはよう、ご主人様」


ルノアはどうやら快適だったらしい。夜行性の彼女も、夜寝ることがあるんだな。


「すまんルノア……大丈夫だったか?」


「だいじょうぶ。」そう言うルノアはどこかすっきりとした様子だ。


昨晩、自分の心中を話すことで彼女にとっても気持ちの整理がついたのだろう。


「ほら、起きたんだったらあっちでグースカ寝てる奴ら、起こしてきなさいよ。もうこっちは準備できてるわよ」


リネアはなぜか怒っている様子で言う。


「お、おうわかった」


まあ、そう言う日もあるだろうというものだ。

素直に従っておくとしよう。


いつまにかノエラもすっかり準備完了といった様子で、馬に食事を与えている。


男たちは酔い潰れてそのまま地面で寝ていたようだ。軽くゆすると不満そうに目を覚ます。


「あぁ……?なんだもう朝かよ……」


どっこいしょと起き上がる男に出発だと伝え、我々は再度王都に向けて出発するのだった。

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