【第九話 初めまして、探偵フィナンシェです】
「…それって…つまり……ほっぺに、チュー?!」
カフェロイヤルでは、店員クレールが顔を赤らめて叫んでいた。先日のことをポムから説明されたばかりである。カヌレが不服そうに頷き、ポムがそうなのよ!と動揺を隠せない様子で言った。
「あの怪盗ノクターンが、あたし達の目の前で、カヌレに…よ?!」
「きゃあああーーーーっ♡なんて不敵で大胆なの?!怪盗ノクターン様はやっぱり素敵…!そんなことされたら私もう、お嫁にいけなくなっちゃうっ。もっと好きになっちゃうっ。顔なんて洗えないわ。一体どこまでかっこいいの?!世界中のかっこよさを盗んでるの?!」
クレールが赤面しながらああ~♡怪盗ノクターン様♡と、惚気まくる。その横で店主バウムも両手をあわせ、夢見る乙女の目をした。
「あたしも探偵フィナンシェ様にほっぺにチューなんてされたら…いやっ♡フィナンシェ様そんなことしないで~!あたし蒸発しちゃうわ!ハァ…考えただけでクラクラしちゃう…。あんな色気のある顔に近づかれただけで発狂するわ。ちょっと遺言書の用意が…。」
ポムと共にキャーキャー言う店員二人の前で、カヌレは少しだけ不満そうな顔をしていた。その様子に気付いたホワイトショコラが、注文の品を出しながらそっと声をかける。
「緑茶です、どうぞ。…カヌレさんは、怪盗ノクターンにそんなことされたのが少し不満ですか?」
彼女はう~ん…と考え込むように言った。
「不満というか…なんつーか…。私、別に恋愛に興味無いし…。まァ、ただのキスごときだと思うんだけどね。ほら、俳優とか女優とかでも、演技で普通にキスするでしょ?だから別にそこまで大事に思ってないんだけど…。どっちかと言うとさ、なんでわざわざ去り際にしてきたのかなーってところなんだよなァ。」
むむ…と唸りながら、答えが見つからない様子の彼女。彼が寄り添うように、うんうんと頷く。彼女は真剣な顔で言い始めた。
「昔から、いろんな人の前で推理を披露してたんだ。そのせいか、モテることも多かったんだよね。謎を解いて苦しんでる人を助けたいだけなのに…助けた相手や、推理を見てた人とかに好意を持たれるのが怖くなっちゃって。私はそんなつもりはないし、ただ前を向いて欲しかっただけなのに…どうしたらいいのか、分からなくなっちゃってさ。一時期、推理も出来なくなったし、人との接触の仕方も分からなくなって、人間不信や男性恐怖症になったことがあるんだ。だから、自分に向けられる視線がどういうものなのか、とか結構敏感なんだよ。好意系の視線は特に、すぐ分かるんだ。」
だけど…とカヌレは困ったように言った。
「あのほっぺにキスしてきた後、怪盗ノクターンは私から離れる前にこっちを見たけど…とても好意的なあの視線じゃ無かったんだよね。どちらかと言うと…うまく言葉にしづらいけど、害の無いような、穏やかな…優しくて、少しどこか寂しそうな視線をしてたんだよな…。まあ、すぐにいつもの不敵な笑みと不敵な視線に戻っちゃったし…私もいきなりほっぺにチューされて、そのまま去っちゃったからさ…誘惑してきたのか?と思ってキスごときで落ちると思うなよとブチギレたんだが…。後々冷静になってみれば、誘惑でも無い違う視線だったなァとね…。」
なんか咄嗟にブチギレて、ちょっと申し訳ないことしちゃったな…と彼女は言った。眉尻を下げて、緑茶を見る。その話を聞いていたホワイトショコラは、カヌレさんは優しいですね、でも気にしなくて大丈夫じゃないですか?と平然と答えた。彼はにっこにこの笑顔だったが、どす黒いオーラが漏れ出していた。
「あのキザな怪盗なんて、警察と僕を毎回ブチギレさせてるようなものです。多分ピンピンしてますよ、ムカつく程に。正直、カヌレさん大ファンの僕としては…どんな理由があろうと、あなたのほっぺを汚した怪盗のことなんて、今すぐ埋めてやりたいところですがね。地中深くのマントル辺りまで、二度と地表に出てこないように。…僕だったら、ブチギレたカヌレさんは絶対可愛いので、カメラに納めて家宝にします。」
その言葉に彼女は呆然としつつも、少しだけ嬉しそうにふふっ、ありがとうと笑った。店内のドアベルが鳴り響く。
ホワイトショコラが客に対応しようと視線をあげた、その時だった。
「意外ですね。怪盗ノクターンに接触されて、そこまで落ち着いている女性がいるとは。流石、噂の一風変わった女探偵。」
店内に響いた声に、全員が驚いて入口へと視線を向ける。探偵服を着た背の高い男が立っていた。ホワイトショコラと同じくらいの身長だが…茶髪の優雅な髪、整った顔。すぐに店主バウムがはああっ♡?!と叫び声をあげた。次の瞬間、いつもの可愛らしい声とは打って変わり、男性特有のドスのきいた声が響いた。
「フィ、フィナンシェ様ーーーーーー?!」
思わぬ奇声に全員が驚く。流石の探偵フィナンシェも、少し目を見開いた。あまりに見た目とミスマッチな声に、ホワイトショコラが即座に説明する。
「すみません、うちの店主、生物学上オスなんです。」
「ああ…そうなんですね。いえ、あまりに綺麗な人でしたから…。ですが、僕は良いと思いますよ。そんなギャップは、とても価値があると思います。」
フィナンシェの言葉に、店主バウムがいつもの可愛らしい声に戻り、静かに涙を流した。もう本当…ありがたいお言葉すぎ、あたし一生分の幸せが今日に籠ってる…と呟くと、ハンカチで目元を拭き始めた。カヌレがぽかんとした様子で、探偵フィナンシェの方を見る。
「どうして、接触したって分かるんです?」
接触したなんて、ここのカフェの店員と、あの時事務所にいた人間しか知らないはず…とカヌレは呟く。簡単ですよと彼は微笑んだ。
「君のその「戸惑い」が、何よりの証拠ですよ。怪盗ノクターンがただの盗賊であれば、君の目は今、もっと「怒り」や「恐怖」で濁っているはずだ。だが君の視線は、まるで解けないパズルのピースを眺めるように、純粋で、少しだけ……熱を帯びている。」
フィナンシェは優雅に歩みを進め、カヌレの隣に立つと、彼女の視線の先にある緑茶を見つめた。
「それに、警察から「ノクターンが予告状以外の獲物を持ち去った」という情報が入っていてね。物理的な宝ではない何か……例えば、探偵の「冷静さ」という名の至宝を奪ったのではないかと推測してここに来たのですが、どうやら正解だったようだ。」
その言葉を聞いていたポムがガレット刑事め…とぼやくが、すぐにいや…警察内部にまだサバランの手下がいてもおかしくないか…とすぐに考えを改めた。彼はふっと目を細め、カヌレの横顔を「愛でる」のとはまた違う、「観察(分析)」 という名の鋭い視線で射抜く。
「カヌレさん。好意の視線は相手を「縛る」ものですが、ノクターンの視線が君を「解放」したのだとしたら……それはもしかすると、彼なりの「敬意」の表れだったのかもしれませんね。」
その言葉に、カヌレだけでなく、カウンターの奥で「マントル」を煮えたぎらせていたホワイトショコラの眉間にも、ピキッと鋭い亀裂が走った。カヌレがよくわからない様子でキョトンとしていると、探偵フィナンシェはホワイトショコラに向かって爽やかに言った。
「僕にも緑茶を一つ頂けるかな。」
「かしこまりました。」
ホワイトショコラが明らかにどす黒いオーラを出しながら了承する。それを見ていたクレールがよくあいつに注文できるわねと小さく呟く。彼が少しだけ手を震わせながら緑茶を作っていると、探偵フィナンシェはふふ…と小さく微笑んだ。
「困ったな。僕は事実を述べただけなんだ。許してくれないかな、店員君。別に君に嫌われたいわけじゃないんだ。少なくとも初対面の君とは仲良くしたいと思っているよ。ああ、そうそう。僕も怪盗ノクターンを捕まえたいと思っているよ。」
その言葉にホワイトショコラが声を上げると共に、クレールの方向からも声があがった。
「カヌレさんの手柄を横取りするつもりですか?!マリアナ海溝に沈めてやる!」
「ノクターン様を捕まえるですって?!夜道に気を付けろよ、自信過剰探偵!」
突然の罵声に、ポムとカヌレがあーー…と苦笑する。探偵フィナンシェは楽しそうに少しだけ微笑んでいた。店主バウムは店員二人に向かって叫ぶ。
「ちょっとあんた達失礼でしょ!フィナンシェ様はあんた達とも仲良くしたいと思ってるのよ?!」
「うるせえババア!こんな探偵のどこが良いのよ?!怪盗ノクターン様の方が百億倍素敵だわ!」
「そうだ!嫌いだこんな探偵!カヌレさんの周りにブンブン飛び回る蠅が二匹に増えただけじゃないか!」
二人の罵声に店主のバウムの眉間にも亀裂が入る。
「ハア?!探偵フィナンシェ様の方が何兆倍もイケメンじゃない!節穴どもが!」
自然といつもの罵声飛び交うカフェロイヤルへと戻っていった。はずだった。
突然カフェロイヤルのドアベルが鳴り響いた。ホワイトショコラが慌てて対応しようとした途端、入っていた男性客が困り果てた様子でカヌレ探偵の方に近づいた。
「探偵さん!助けてください。息子が…!」
そこまで言った時、近くにいる探偵フィナンシェにも気が付いた。そしてあなたは隣町で有名な探偵さんじゃないですか…?!どうしてここに…と混乱する男に、探偵フィナンシェはふむ…と興味深そうに男を見た。
「最近怪盗ノクターンが話題になっていますからね。僕も奴を追おうとこちらに引っ越してきたのですよ。それに、カヌレ探偵とも少し共同捜査をしたいなと思っていましてね。」
そう言ってカヌレの方をちらっと見る。彼女が、へ?そうなの?と言った顔でポムを見る。ポムは知らないわよ?と言う顔をする。こいつサラっとホラ吹きやがったな?という視線を送った。男性客はそうなんですかと理解を示したが、すぐにがっくり膝をついた。
「お願いします…うちのペットが…見つからないんです…。近くの柱にリードをつけて、ちょっとコンビニで飲み物を買う間、絶対どこにも行かないようにしてたんですが…。帰ってきたら見つからなくて。ちゃんと柱に縛り付けたはずなんですが…もし、迷子になって道路にでも飛び出してたら…!」
そう言うと男性はその場で泣きそうな顔で震え始めた。ホワイトショコラがそっと背中をさすりながら、サービスですと言って…探偵フィナンシェに頼まれた緑茶をそっと差し出す。コップを受け取りながら、男性はスマホの写真を見せた。一匹の黒柴が映っている。尻尾はくるるんと巻かれており、意外ときりっとした目が特徴的である。カヌレが写真を見ながら、イケメンですねと言うと、男性は頷いた。その横でホワイトショコラがソワソワしていた。そんな言葉を自分も言われたいというような雰囲気である。
「愛犬なんです。名前は黒糖と言います。年齢は七歳で…。元々保護犬で、うちで引き取ったんです。今は見知らぬ人や犬への噛み癖とかはなく、人懐っこい大人しい子なんです。もしあの子に何かあったら…と思うと、怖くて…。あの子のおかげで自分は、毎日辛い仕事でも生きていけてるんです。だから、どうか見つけてくれませんか。」
見失ったのはどのあたりなんです?と探偵フィナンシェが聞くと、彼はノエル公園付近ですと言った。
「ふむ…。丁度良いですね。カヌレさん、ここは共同捜査をしませんか?探偵が二人で解決に導いた方が、迅速に事件を解決できます。それに、僕は引っ越してきたばかりですから、周辺知識はカヌレさんの方がお詳しいでしょう。…ご安心を。貴方にとってはなにも不利益なことはありません。男が一人近くにいた方が、怪盗ノクターンに動揺させられずに済むでしょう?」
その言葉に彼女がうーん…と考え込む顔をする。店主バウムはえ?!カヌレちゃんと共同捜査?!なんて素敵でイケメンなの~♡お店が無かったらあたしも傍にいて、捜査を見届けたい~♡と頬を染めた。
「分かった。まあ、私としても同じ探偵なら、互いのことを知っておくのはありだし…共同捜査しましょう。よろしくお願いしますね、探偵フィナンシェさん。年はおいくつで?」
「25です。」
「同い年じゃん?!そんで探偵かっ。もうこれ敬語なしで良くね?!」
驚いてポムの方に顔を向けるカヌレ。彼女はため息をつきながらさっさと現場に行くわよと言った。
ノエル公園付近に着いた一行は、周囲を見回った。
「パッと見る感じは、見つからないわね。ていうか、いいの?あの飼い主をあのカフェで待たせておいて。犬のリードを縛り付けていた場所がどのあたりだか、分からないんじゃないの?」
ポムの鋭い指摘に、フィナンシェは問題ないよと言った。
「飼い主がいなくても、犬を縛り付けていた場所は分かる。そういう場所は限られているものだよ。例えば見晴らしの良い場所とかね。まぁそもそも、犬自体をそこいらにつなぎ止めておくより、一度家に連れ帰った方が安全だ。家以外にいると、近くを通る人や犬に吠えたり、今回のようにいなくなったりするリスクがあるからね。外は危ないものだ。そう…まるで、カヌレ探偵の助手である君が、かつて危うく殺人を犯しかねなかったように、ね。」
彼が見透かしている視線を送る。ポムは少し驚いた顔をしたが、フン…と言って腕を組んだ。少し気に食わない様子で彼に手を差し出す。
「そういえば、自己紹介まだだったわね。カヌレ探偵の助手のポムよ。よろしくね、探偵フィナンシェ。ま、そこまで分かってんのなら、不要だろうけど。」
「ああ、よろしく頼むよ。僕の助手は明日以降に引っ越してくるんだ。その時に、紹介しよう。」
二人が挨拶をすませた直後、カヌレが丁度何かに気付き、大きく手を振り始めた。
「あ、こんにちはーー!」
彼女が手を振っていると、すぐに公園のベンチから一人の男が駆け寄って来た。その見たことある姿にポムが驚きの声をあげる。
「フロランタン?!」
「お久しぶりですね、カヌレさん。ポムさん。」
彼はにこっと笑うと、すぐに二人の傍に立つフィナンシェに気付いた。即座にぺこっと頭を下げて挨拶する。
「探偵フィナンシェさんですね。別の警察課から、お噂は伺っております。鑑識のフロランタンです。よろしくお願いいたします。」
「よろしく。君はガレット刑事の弟さんだね。十七年前の事件が解決したのを、僕も新聞で知ったよ。犯人が捕まって本当に良かった。」
フロランタンがありがとうございます…と嬉しそうに顔をほころばせる。ポムにこんなところで何してたの?と聞かれると、彼はああ…と思い出したように言った。
「今日は鑑識の仕事が無い休日でして。休日はここの公園で、よく筋トレをしているんです。鑑識の仕事では、刑事ほど体力は不要なのですが…あの霧のポルボロン伯爵邸での事件以来、もう少し体を鍛えようと思ったんです。元々それなりに鍛えてはいたのですが…やはり、いざという時に兄を守れるように僕も体をしっかり作っておきたいと思いまして。あの時は、警察四人相手になすすべもなく拘束され、ポルボロン伯爵邸まで輸送されてしまいましたから…今度は四人相手でも対抗できるように、と。今はベンチで休憩してたところです。」
彼はところで皆さんは?と訝し気に聞いた。カヌレが黒柴がいなくなった依頼のことで…と説明すると、彼はああ、あの黒柴ですか…と頷いた。
「確かに先刻までここにいましたよ。ここに筋トレしにきたら、近くの柱にリードを縛り付けられてるのを見ました。黒柴は最初起きてたのですが、待ちくたびれたのか眠ってしまって。その直後に男が一人来て、抱きかかえて公園を去っていきましたよ。」
その男の服装は?と聞くと、彼は普通の白シャツに黒い上着、黒ズボンでしたねと言った。
「飼い主だと思ってたんですが…皆さんのお話的に、飼い主じゃなかったみたいですね。」
フロランタンは少し険しい顔をすると、何か考え込むような仕草をした。ここだけの話ですが…と三人に向かって言う。
「最近、犬の誘拐は割とあるんですよ。いろんな場所で起きていて、僕は鑑識なので詳しいことは分かりませんが…兄の同期がそれを追ってるみたいなんです。兄は別件で忙しいので担当外ですが…兄が聞いた話では、結構大きな組織の疑いがあるみたいで。いろんな犬を誘拐して、どうやら裏で商売してるっぽいんですよ。すでに飼い主にしつけがなされているので、扱いやすいことから犬を売ったりとか、繁殖できるような犬であれば子犬を産ませて、子犬を売ったりだとか…。もしかすると、今回の誘拐もそれに関わっているかもしれません。あくまで聞いた話なので、確証はありませんが。」
ポムが静かに青ざめる。カヌレとフィナンシェは二人とも真剣な顔で、ありがとうとお礼を言った。フロランタンは、それでは僕は一度家に帰って筋トレの汗を流してきますね、と言った。三人に手を振りながらその場を去っていく。見送りながら、カヌレが小さく呟いた。
「かなり有益な情報だね。しかも、警察間の話とはいえ…かなり信憑性が高そうだ。ガレット刑事の同期にも話が聞けたら良かったんだけど。まあ…筋トレの汗はすぐ流したいだろうからね。」
その言葉にフィナンシェはいや、話を聞かなくても大丈夫でしょうと言った。二人がキョトンとする中、彼は近くの柱を指差した。
「おそらく犬が連れ去られたのはあの場所でしょう。フロランタンが話しながら、ちらっとあそこを見ていたので。そして、あそこから盗むとなれば…おそらく男は車を止めていたはず。人目の少ない公園の裏から、近くの裏路地へ犬を抱いたまま入り、そこに止まっていた車に乗り込み…でしょう。人目をなるべく避けるならば、この公園は見通しが良いので、その方法しかあり得ません。とはいえ、彼らがどこへ連れて行ったのかまでは分からないので、ここは誰か犬を飼っている人を囮に使うのが良いでしょう。」
淡々とした、けれど正確な推理に二人が呆然とする。カヌレが流石だね…と言い、ポムはでも犬なんて飼ってる人なんてどうするのよ?あなた飼ってるの?と切り込む。彼は、ははっと少し笑った。
「残念ながら、僕は犬を飼っていませんよ。見たところお二人も、ペットの毛がついている感じはしないので囮にはなれませんね。さて…出来れば、警察関連の方であれば、囮役になっていただいても安心で良いのですが…そのガレット刑事という方は?」
カヌレとポムが静かに顔を見合わせる。
「あいつ、ペット飼ってたっけ?」
「聞いたことないけど…。でも飼っててもおかしくないかな?」
カヌレがうーん…と言いながら、ちょっと電話してみるかと言ってスマホを取り出した。即座に電話番号を入れ、電話をかける。ポムがいつの間にあいつの電話番号把握してんのよ…と驚く中、すぐに電話がつながった。
「もしもし?すみませんあの、探偵のカヌレというものですが…ええ、はい。ガレット刑事はペットを飼ってるかお聞きしたくてですね…ああ、飼ってない?飼ってないですか…すみません、ありがとうございます。」
カヌレが二人の前で電話を切ろうとした時だった。スピーカーにしてないのに、それなりの音量の男性の怒りの声が響き渡った。二人の耳にも嫌でも聞こえてくる。
「おいっ!ふざけるな。警察署にそんなことで電話をするな!迷惑だっ。」
カヌレがあーーーー…と苦笑いしながら言う。
「いやでもほらさァ…ぺット飼ってたら、ほら最近誘拐あるっぽいから、ガレット刑事にも万が一大変なこと起きてたらァと…。」
「白々しい!そのぺット関連の事件にまた関わってるのか。大体お前は、ポムの一件の時も警察署にいきなり電話かけたかと思えば、証拠書類を送ってきてっ。警察の仕事を増やすのか減らすのか、いい加減にしろ。この間も羽二重餅と花びら餅の二人を巻き込んで、何事かと思いながら、お前達の仕業か?と思って事務所に来てみれば…!火事であのまま死にそうだったとか聞かされ、刑事としてのタスクを増やされる俺の身にもなれっ。まだ羽二重餅と花びら餅の二人のために、俺は周辺にいる噂の出所や、あの屋敷にあった謎の通信機器とかいろいろ調べてるんだぞ!」
「二人のためにそこまでやってるんだ、優しいね。」
カヌレのちょっと嬉しそうな優しい声に、罵声が飛ぶ。
「ふざけるなっ!警察が欲しかったら言え!いつでも逮捕してやるっ。」
カヌレが苦笑すると共に、即座に電話がぷつんと切れるはずだったが…ポムが慌ててスマホに向かって言った。
「あ、ちょっと待って待って。ついでに、そのペット関連の事件を追ってる、あんたの同期の人紹介しなさいよ!」
「は!?なんで俺がお前達に教えなきゃいけないんだ。俺だって忙しいんだ。そんな時間があるわけないだろ。俺が紹介する身にもなれっ。」
ガレット刑事が怒りの声をあげる。ポムが呆れたように言った。
「…素直じゃないわね。男らしく、紹介するのかと思ったけど。」
「それとこれとは別だ。刑事をなめるな。お前達二人のために、警察が動いてたまるか!大体お前もなァ…。」
そう言ってポムにグチグチ言いそうになったが、即座にポムがスマホの音声通話終了ボタンを押した。一連の流れを見聞きしていた二人に、ポムはふっと微笑んだ。
「ほっときましょ。あんな刑事に構ってても、時間が溶けるだけだわ。大体こっちも忙しいんだから、少しは気を使えっての。」
即座にカヌレのスマホに警察署から折り返しの電話が来たが、ポムが無視して良いわよと嬉しそうに言って、スマホに向かってあっかんべーをした。フィナンシェは少し微笑みつつも、しかし困ったな…と悩ましい顔で言った。
「ガレット刑事の同期は、僕達で見つけるしかなさそうだ。囮も含めて。こうなってくると探すほかないが…二人とも知り合いに、ペットを飼っている人はいるかい?僕はいるんだが…遠方でね。それに飼ってるのが、メダカなんだ。流石にメダカじゃ誘拐しにこないだろうし…。今日中にはこっちには来れないだろうし、不向きだろう。」
カヌレがうーん…と思い出すように言う。
「知り合いにはいないなぁ。タタンは確か自宅で爬虫類を飼ってたけど、流石に犬とかの哺乳類じゃなくて、爬虫類だから誘拐されるかちょっと怪しいし…。しかも飼ってたのは蛇らしいし。蛇じゃ流石に誘拐できないだろうし…。どっちかと言うと、犯人に噛みつきそうなところあるから、誘拐犯を捕まえるのには役立ちそうだけど。」
「あたしも知り合いにはいないわ。」
二人がいよいよ困った顔になる。フィナンシェは仕方ないが…そこらへんで散歩している人に協力してもらえれば…と呟く。それを聞いてカヌレがうんうんと頷く。丁度公園に向かって歩いてきている、向かいの歩道をリードを着けて歩くポメラニアンが目に入った。
「そうそう…あーゆー感じの犬を飼ってる人がいれば…。出来れば飼い主もそれなりに強い人であれば…。」
そう言って、一同がそのペットと飼い主を見る。その瞬間、カヌレとポムが思わず声を上げた。
「あ”っ!」
思わぬ飼い主に、二人とも硬直する。そんな二人を訝し気に見つつ、フィナンシェが確かにあの犬なら手入れもされているし、丁度良さそうだねと言う。大変美しい女性だが…。ポムががばっとカヌレに腕を即座に回し、顔を寄せる。
「ちょっと…!流石にあの女性はまずいでしょ!どこ見てんのよっ。」
「いや、ごめんごめん…飼い主まで見てなかったんだよ!」
カヌレも青ざめながら必死に言う。フィナンシェが二人の様子に、何か事情があるのかい?と聞く。カヌレが必死に取り繕う。
「いや…あの方は以前依頼に来た人で…あの、お金持ちの方なんですよ、ええ…。だからちょっと敷居が高いと言うかぁ…。」
「あたし達が頼み込むのには、ちょっと…ねえ?」
ポムが慌てて援助し、カヌレがぶんぶんと顔を縦に振る。だが、二人の様子を見てフィナンシェはそれなら僕の出番ですね、と爽やかに微笑んだ。そして、例の女性に近づき声をかけた。
「すみません。僕は探偵フィナンシェと言う者です。とても綺麗なワンちゃんですね。実はここ最近、犬が行方不明になるのを追ってまして…あなたの愛犬が連れ去られては大変でしょう。もしよろしければ、その犯人を捕まえるのに、ご協力お願いしても?」
さりげなくすっと手を差し出す。女性は少しだけ驚いた様子だったが、即座に彼の後ろで青ざめた固まっているカヌレとポムに目が留まった。何かを察して、フィナンシェの方をじっと見る。そしてすぐに手を取った。
「良いですよ。私でよろしければ。…愛犬の、みぞれです。」
そう言ってポメラニアンを抱きかかえた。そして、カヌレとポムの方をちらっと見る。二人は背筋が凍った。探偵フィナンシェが爽やかに微笑みながら、女性にありがとうございますとお礼を言う。
「失礼ですが、お名前をお聞きしても。」
「錦玉羹と申します。」
確かに飼い主もそれなりに強い人とは言ったが…女怪盗ソルベだった。
すみません、用事で投稿時間遅れましたァ!!
読んでいただきありがとうございます!
星(評価)PVもモチベになります!!そしてすみません、今スマホから慌てて投稿してる上に、添削する間もない「鮮度100%」の回になってます!読みにくいところがあったらご容赦ください!!
あと、スマホの仕様でX(旧Twitter)のリンクが貼れません!過去のあとがきから飛んでいただけると幸いです!
こんなドタバタな作者ですが、作品を楽しんでいただけたら最高です!新キャラの探偵フィナンシェも、どうぞよろしく!!




