第七話 サバランルンルン待機中
カヌレ探偵事務所は今日も穏やかな雰囲気だった。本日の飲み物はピーチティー。桃の芳香な香りが事務所内に漂っている。ポムとカヌレの二人がリラックスしていると、タタンがそっとスイーツを目の前に置いた。美味しそうなガトーショコラである。カヌレがきらきらと目を輝かせ、ポムが美味しそうなスイーツに思わず目を見張る。
「なにこれ、めちゃくちゃ美味しそうなガトーショコラ?!」
ポムが言うと、カヌレもうんうんと頷いた。
「すっごい美味しそう!なんで美味しそうかは分からないというか、語彙が無いからうまく例えられないけど、この色の濃さ。ふんだんに使ったチョコ。そしてそれを一口ずつ食べる金のフォークッ!見事な統制が取れているこの感じ…流石タタン!」
カヌレの熱弁に、彼がほっほっと笑う。二人がフォークを持ち、ガトーショコラにいざ突き刺そうとした時だった。
コンコン。
「はあい、どうぞ。」
突然事務所にノック音が響き、カヌレが声を上げる。すると一人の女性が入って来た。年齢は三十代前半くらいだろうか。ふんわりとカールしている髪が、優雅さを物語っている。服装は流行のものより少し前のものを着ていた。今にもガトーショコラを食べようとしていた幸せ絶頂で一時停止した二人を見て、女性は戸惑いながらも言った。
「あの…えと…食事中すみません。ここは、カヌレ探偵事務所であっていますでしょうか?」
「はい!全然大丈夫ですよ。私がカヌレ探偵です。初めまして~。」
カヌレが笑顔を浮かべながら、ガトーショコラをすっと避けて、慌てて机に肘をつく。そう、まるで彼女のその様子は、ガトーショコラなんて今食べようとしてませんでしたよ実はくそほど食べたかったわけじゃないんですよ、ええ、と、子供がこっそり食べようとして親に見つかって慌てて取り繕う様子と同じような感じだった。女性が猶更戸惑う中、タタンがどうぞお席へ、もしよろしければ…ガトーショコラが嫌いで無ければ、おひとついかがですか?なんてうまく客席へ誘導する。ポムは一人だけ、一時停止から再生してもぐっとガトーショコラを食べて、幸せな顔をしていた。
女性はタタンが淹れてくれたピーチティーとガトーショコラを前に、少しだけ緊張が溶けた様子だった。カヌレもついに耐えられなくなった。ガトーショコラを食べて顔をほころばせながら、女性にすみませんがお名前は?と割と真面目に言う。女性は慌てて自己紹介をし始めた。
「私は、花びら餅と言います。四季百貨店で働いています。ここに来たのは…恋人の羽二重餅さんと一週間前から連絡が取れていないのが、どうにも気になって。彼の家や職場にも伺ったのですが、一週間前から誰も姿を見ていないとのことだったんです。」
「一週間…それは変ですね。」
カヌレが頷くと、花びら餅はそうなんです…と少しだけ泣きそうな顔を浮かべた。唇をわなわなと震わせ、目線を下に向ける。
「私…一週間前に、彼に勇気を出して告白したんです。結婚をしてほしいって。彼はちょっと考えさせてくれと言って、返事はすぐにはもらえなかったんです。返事を待っていたのですが…一週間も連絡がこなくて。不安になりつつも、彼に気負わせたくないと思って、時間をかけて考えて大丈夫と連絡したのですが…既読がつかないのが不安で…。本当は彼の職場や家に押しかけるのも…と思ったのですが、どうしても気になって。…でも、そんなに彼に圧をかけて…もしたかしたら、彼に嫌われたのかもしれないと思うと私…。」
そう言うと花びら餅はポロポロと涙をこぼした。慌ててポムがテーブルにある箱ティッシュをそっと差し出す。カヌレはうんうんと頷きながら、それは大変お辛かったことでしょう…と優しく言った。
「いつもと言いますか…告白する前は、羽二重餅さんとは頻繁にやり取りをしていたのですか?」
「はい。スマホで、一日必ず一回以上はやり取りしていました。」
「何かその中で、気がかりに思ったことや、不思議な点はありませんでしたか?」
カヌレの言葉に、花びら餅はティッシュで目元を抑えながらそういえば…と思い出したように言った。
「彼に告白する前、不思議な噂を聞いたんです。私の職場の方で、大通りで他の女性と歩いている彼を見かけたみたいな話を…。でも私、彼が浮気するような人ではないと思うんです。きっと彼の職場の人とか、仕事関係の人だろうと思っていたんです。勿論、彼にも連絡を取ったら、彼も仕事関係の人だと言っていたのですが…。なぜか、私の職場ではずっと彼が浮気してるとか、彼の傍にいた女性が本命で、私が遊びだとか言われる噂が絶えなくて…。」
彼は浮気なんかしないと思うのですが…それとも私は遊びだったのでしょうか…と自信なさげに俯く。その様子を見て、ポムがうーん…と言いながらピーチティーをすする。カヌレはなるほど…と言いながら、少し考えるように視線を上に向けた。
「その噂の出所とかは分かりましたか?」
「いえ…出所は分かりません。職場で私以外の不特定多数の方が噂をしていましたので…。仕事中に聞き耳じゃないですけど、聞こえてくることは多々ありました。」
カヌレが、では、その噂が絶えなかったことを彼に相談はしましたか?と尋ねると、彼女は顔を横に振った。
「流れている噂が本当かどうか聞いた後は、彼には噂の話はしませんでした。彼もきっと嫌だろうと思って…。そんな噂が絶えない中でも、私は噂のことなんてどうでも良かったんです。所詮は噂、彼と一緒にいられるだけで幸せだったんです。だから、告白したんですが…無意識に彼を追い詰めてしまっていたのでしょうか…。」
彼女がティッシュで涙を拭う。カヌレはふむ…と考え込みながら、彼はどんなご職業を?と聞いた。
「IT系の会社に勤めています。彼の家は厳しい家柄で、私のことはあまりよく思われていないのかもしれません。以前彼の家に挨拶にいった際、彼の両親から少し厳しい目を向けられたので…。彼には許嫁がいたらしいですから、猶更私のことは…。」
彼女の言葉にカヌレがうーん…と言いながら、ガトーショコラを食べ終えた。かちゃりとフォークを置き、席から立ち上がる。
「とりあえず、彼の家に行ってみましょうか。おそらく…とは思いますが、花びら餅さんに私達が同伴した方が、いろいろ聞き出せるかもしれません。ポム、準備は出来てる?」
「もちろんよ。」
ポムがぐっと拳を構える。カヌレは満足げに微笑むと、では事務所のことは頼むよタタンと言った。
「お任せを。お気をつけていってらっしゃいませ。」
羽二重餅の家は、和風の家だった。松などが手入れされており、それなりに庭もある。ポムがカヌレにそっと言う。
「これは…お屋敷ね。」
「敷居が高いな…。そこいらの探偵が、入りにくい家だぞコレ…。」
カヌレも圧倒された顔で屋敷を見る。花びら餅がインターホンを押し、すぐさま屋敷の女中が応答した。用件を言うと、屋敷の中に三人は通された。
「いやはや、最近新聞やテレビに出ているカヌレ探偵さんが、我が屋敷に来ていただけるとは…なんとも光栄で。」
「どうぞごゆっくりして行って下さい。」
羽二重餅の両親である、わらび餅と菱餅が和室でにこにことしていた。どちらも由緒正しい家柄であることが前面に出ているような感じだった。服装は二人とも和服。きっちりとした髪や化粧。化粧はあまり好きじゃないので、おしろいをつけただけのほぼすっぴんのカヌレは、肩身が狭かった。気まずさのあまり、出されたお茶をハイスピードで飲んでいる。ポムもまた、カヌレより化粧はしているものの、手抜きメイクなので肩身が狭い気持ちであった。視線を少しだけ斜め下に向けている。そんな二人をよそに、わらび餅と菱餅の二人は、花びら餅の方へと視線を移した。
「この前も屋敷にきて、羽二重を探していないとわかったのに…。今度は探偵さんの力を借りてまでうちの屋敷にあがって…君は何がしたいのかね。羽二重には許嫁がいるんだ。いい加減にしろ。」
「カヌレ探偵さんと一緒だなんて…全く、本当にしつこい女だこと。羽二重が一週間前から姿を見せなければ、いくら探偵さんの頼みでも貴方までは屋敷にあがらせなかったのよ。」
夫婦が不満げに、冷たい視線を花びら餅の方へ向ける。彼女がその言葉に泣きそうになりながら俯くと、カヌレが慌ててまあまあ…と割って入った。
「ちなみに羽二重餅さんを最後に見た時は、どんな時だったんですか?」
「屋敷から出て、職場に向かうところよ。彼はいつも通り屋敷から出て、うちの女中がそれを見送っているの。その後、職場から私のスマホに連絡が来て、出張になったからしばらく家には帰れない、心配しないでくれとメッセージが届いたの。だから私達もしばらく出張でいないと思っていたのだけれど…。」
母の菱餅がはあ…と、困ったようにため息を吐いた。父のわらび餅も頷く。
「出張先で、何か困ったことは無いかと二日前に連絡を入れたのだが、全く返事がないどころか既読もつかない。仕事が忙しいのかと思ったが、今までどんなに多忙でも翌日には連絡が来ていたんだ。そしてその後、この女も屋敷に来てうちの息子を探しているなんて言うもんだから…私らも屋敷にはいないと言ったんだ。」
彼の言葉にカヌレはなるほど…と呟いた。その時、和室に失礼しますと声が響いた。襖が静かに開かれる。一人の女中が膝をつきながら、夫婦に向かって言った。
「お取込み中、失礼します。旦那様と奥様、羽二重餅様の許嫁である錦玉羹様のご家族様が、全員もうすぐご到着なされるそうです。」
「おお、もうすぐか。ありがとう。」
女中は静かに頭を下げると、襖を閉じて言った。わらび餅がため息を吐きながら言う。
「いえ、実は今屋敷に、息子の許嫁である錦玉羹嬢が到着されておりまして……あちらのご家族の到着を待っているところなのです。息子が姿を消したことで、先方も相当なご心痛の様子で。錦玉羹嬢は、居ても立ってもいられず先にこちらへ……。ご家族様は仕事の都合で、少々遅れて来られるとのことなのですが……。」
許嫁が…とポムが驚いて呟く。花びら餅がポムの隣で少し寂しそうな顔をする。が、カヌレが即座に立ち上がった。
「すみません…あの、お手洗いお借りしても…?」
ポムが空になった湯呑をちらっと見て、カヌレの方へ視線を向ける。カヌレは、気まずさのあまりハイスピードで緑茶を飲んでたのが祟ったと、目で必死に訴えてきた。菱餅がまあ、大丈夫ですよ、お手洗いはそこの廊下を曲がって右に…と説明をする。カヌレは、ありがとうございますと言って、そそくさと和室から出た。
「トイレトイレトイレ…ッ!」
誰にも聞こえないくらいの小さい声をあげつつ、カヌレが廊下をものすごい早歩きで通り抜ける。そして女性用トイレに駆け込むと、しばらくして水の流れる音と共に出て来た。ふーっと息を吐きながら、緊張で硬くなっていた肩を少しぶん回す。由緒正しい家であるが故に、やはり流石の探偵でも気張る。そして再び和室に戻ろうとした時だった。
「ん?」
トイレに行くときにめちゃくちゃ早歩きしていたが、その通り道にある別の和室の襖が半分開いている。彼女はさっきまで開いてなかったはず…と思い、その和室へと近づいた。開いた襖から部屋を眺める。
「おお、めちゃくちゃ豪華な部屋…。」
思わずそう呟いてしまうほど、部屋の襖の内側には綺麗なクジャクが描かれていた。立派なテーブルと高級座布団がある。座布団の近くには着物の帯をリメイクしたバックがある。カヌレがじっと見ていると、なんだかテーブルの上に黒い紙があるのに気付いた。
「あの紙どこかで…?」
カヌレがちらっと自分の後ろの廊下を見渡す。見る限り人気は無い。彼女はちょっとだけ…と小さく呟くと、即座に部屋に入りテーブルの上にある紙を見た。怪盗ノクターンからの予告状である。思わず息を飲むが…やけに見たことある文章…。すぐに彼女はピンと来た。この前のシュークリームの中に入っていた予告状と、全く同じである。
「なんでここに…?」
彼女がそう呟き、さらに紙をよく見ようとした時だった。
ガッ。
「あ。」
ドサっ。
近くに置いてあった、帯をリメイクして作ったバックが畳の上に転がった。その瞬間、開いた口からしゅるっと畳に髪飾りが飛び出た。氷の結晶の髪飾りである。カヌレがシュークリームを頬張ってた時に、事務所で話題になってた話を思い出す。
「ん…?これって……。あのシュークリームの一件の怪盗ノクターンは、女怪盗ソルベだったのか…。あの時、なんかちょっと怪盗ノクターンに違和感あったんだよな、それならしっくりくる。このバックの持ち主は…女怪盗ソルベ…か。」
その瞬間、和室の入口方面から、妙な気配を感じた。カヌレが恐る恐る振り返る。そこには白いボタン柄の青い着物を着た、綺麗な女性が立っていた。栗髪の毛を編み込み、かつ下の方でゆるっとまとめた、柔らかな雰囲気のシニヨンヘア。そしてきりっとした口と目。かなりの美人である。だが、それどころでは無い。間違いなく自分に向かって、氷の先のような鋭い視線が向いているのを感じながら、カヌレは静かに両手を上げた。
「…ナニモ…ミテ…ナイ…ヨ…?」
必死に取り繕うカヌレの足元に転がる、隠しようの無い倒れたバック、飛び出てる髪飾り。最早ごまかしようが無かった。女性は即座にカヌレに近づいた。震えあがる探偵に女性は言った。
「秘密。守れなかったら殺す。」
即座にカヌレは青ざめて、ブンブンと顔を縦に振る。それを見た女性はふう…とため息を吐きながら、カヌレの腕を掴んだ。本当?と聞いて、カヌレが青ざめながら本当と答える。その全く同じ言葉の問答を数回繰り返したのち、カヌレが気がついたように言った。
「でもあの時の怪盗ノクターンがあなたなら、どうして怪盗ノクターンとして現れたの?女怪盗ソルベでも…。」
すぐに錦玉羹がばっとカヌレの口を手で塞いだ。そのまま訳が分からず抵抗する彼女の体をがっちり抑え、近くの押し入れに無理やりぶち込む。カヌレが真っ暗な押入れの中でぺたんと座り込んでると、複数の足音が錦玉羹のいる部屋に入ってくるのが分かった。
(さっき言ってたご家族かな…?)
カヌレは息をひそめて静かに襖の方へ近づいた。話し声が聞こえる。
「羽二重餅さんは、一体どこへ行ってしまったんですの?うちの錦玉羹に求婚する男性は他にも沢山いるんです。そう長くは待っていられませんっ。」
「落ち着いてください奥様。」
どうやら、相手側もなかなか大変そうだとカヌレは思いながら、静かに押入れの中を移動する。そして、真っ暗な押入れの中を手探りで動いていると、何やら小さな取っ手みたいなものを見つけた。静かに押してみると、何かが動いた気配があった。彼女が手探りで探す。すぐに階段らしきものが出現したのが分かった。カヌレは音を立てないように、そろりと静かに這いずって階段を登る。そして、少し薄暗い空間に出た。どうやら屋根裏らしい。下から各部屋の照明が漏れている。そんな中、ど真ん中に通信機器のようなものがあった。カヌレが機器に近づき、すぐに音声を聞く。
「ロール市三丁目三番18。ロール市三丁目三番18。ロール市三丁目三番18…。」
機械音声が繰り返されていた。カヌレは即座にポケットから手帳とペンを取り出し、住所を記録する。通信機器はそのままに、ついでに他の部屋から聞こえてくる話し声に耳をすます。
「花びら餅さんは隠しているけど、彼女の家はおじいさまが薬物で捕まった家らしいわ。」
「まあ、そんな家では旦那様と奥様も…花びら餅さんを受け入れないはずだわ。家柄に関わってしまいますもの。」
女中の話し声が聞こえてくる。カヌレは静かに頷きながら、他の部屋の上へと静かに移動する。今度は別の話し声が聞こえて来た。聞きなれた声だった。ポムと花びら餅の二人の声である。
「どうしてあんなにあの親に嫌われてるのよ?」
「それが…全く見当がつかないんです。私の家はそこまで由緒正しき家柄でもなく、普通なのですが…。唯一おじいさまは、県議会議員だったことがあるので…彼の家柄にはそれだけでは釣り合わないかもしれませんが…それでも少しは、とは思うのですが…。」
花びら餅の不安げな声が響く。カヌレは再び別の部屋の上へと這いずった。今度は錦玉羹の家族の話し声であった。
「昔から両家として仲良くしていたから、錦玉羹を嫁にしても…とは思ったけども。お相手が行方不明じゃ話にならないわね。」
「でも逆に、これはこれで好都合じゃないか。錦玉羹だって、この結婚にはあまりノリ気では無かったんだ。むしろこれを口実に、他の男からの求婚があるのでと言って断れるだろう。」
「それもそうね。私達は、錦玉羹の幸せを第一に考えてるわ。元々結婚なんて断るつもりだったのよ。」
夫婦の声に、先ほどカヌレを押入れにぶち込んだ女性の声が響く。
「でも、お父様、お母様…この結婚を断れば…。」
「気にするな錦玉羹。確かに断れば、莫大な出資金は消え、研究は頓挫して会社は倒産するだろう。でもね、娘の幸せの為なら、そんなもの安いものだ。人生なんてどうにでもなるものだよ。」
「そうよ錦玉羹。あなたは優しい子だから、私達のことをいろいろ考えてしまうのでしょうけれど、気負わなくて良いのよ。私達だって大人よ。自分達のことは自分達でどうにかするわ。あなたの幸せを一番に優先なさい。」
温かい親の言葉が薄暗い空間に広がっていく。カヌレは優しい笑みを浮かべると、先ほどのポムと花びら餅がいた部屋の上に移動した。そして、天井の板を手で外した。
「カヌレ遅いわねぇ…。もう何してるのよ。」
ポムがしびれを切らしそうになった時だった。いきなり目の前に天井からカヌレが落ちてきた。ドスっと音を立てて、座布団の上に着地する。
「カヌレ?!」
「きゃあ!?」
ポムと花びら餅が突然のことに驚くが…すぐに少しむせた。なにせカヌレと一緒に天井裏の埃とかも少し落ちて来たからだ。周囲に砂埃が舞い散る中、彼女はへらっと笑いながら、二人に言った。
「ちょっといろいろあって天井裏まで行く羽目になったけど、天井裏に通信機器があったんだ。そこから機械音声で住所を言われたから、早速行ってみよう!」
カヌレが手帳を取り出し、メモした住所を見せつける。二人とも顔を見合わせると、イマイチピンと来ない顔でカヌレの方を見た。ポムが即座にスマホを取り出し、地図で調べる。
「海沿いね…。しかも周囲は民家も無いし…草もそんなに生えてないし…。あ、もしかしてこの古臭そうな建物かしら?」
ポムがそう言って二人に画像を見せる。いかにも人気が無い…廃墟のような建物だった。カヌレは、ありうるねと頷く。どれくらいかかる?と聞くと、ポムはすぐに調べてくれた。
「車で…五時間。着く頃には完全に夕方ね。下手したら夜だわ。どうしてこう、遠い場所なのかしら。」
不満げにため息をつく。だが、その横で花びら餅が、少し意を決したように口を開いた。
「そこに、彼がいるかもしれないんですね。」
二人が顔を見合わせ、そうかも?と言った。すると彼女は私も行きますと言った。ポムが一般人も連れていくのは流石に…と言ったが、花びら餅の瞳は真っすぐだった。
「彼がそこにいる可能性が少しでもあるのなら、もう私は待っていられません。行きます!行かせてください!」
あまりの勢いに、ポムはカヌレに向かって、無理ねこれは…という諦めの視線を送る。カヌレは、あはは…と困ったように笑うと、花びら餅の手を取った。戸惑う彼女に、にこっと笑って言う。
「行きましょうか、一緒に!」
「あ、ありがとうございますっ!」
花びら餅が瞳を潤ませながら、嬉しそうにカヌレの手をぎゅっと握った。即座にポムがタタンに連絡をする。すぐに屋敷の前に一台の車が来た。屋敷を出ようとするポムやカヌレ、花びら餅に、羽二重餅の両親が慌てて止めに入る。
「先ほどはすみません、錦玉羹様のご家族の対応で…。もう少しゆっくりなされては…。」
「いえ!大丈夫です。ありがとうございます。もう時間ですので、また何かあれば、後程失礼しますね。」
カヌレが頭をさげながらそう言って切り抜けた。三人は屋敷を出て、車に乗り込むと住所へと向かった。
ロール市三丁目三番18。
日が落ちた廃墟で、一人の男は部屋に大きな撮影用の照明を置いていた。一気に部屋の中を明るくすると、近くの椅子に座り、柏餅を頬張る。
「う~む。美味しいですねぇ。やはりあんこは素晴らしい。和菓子は作るのに、本当に手間暇がかかりますが…えへへっ、今回も手作りしちゃいました~☆こんなものも作れちゃうなんて、ほーんと天才すぎ。パティシエも夢では無いでしょう。師匠!ありがとうございますっ。」
白いもちもちとしたお餅に、あんこの絶妙ななハーモニー。男は一人で楽し気に笑うと、近くに置いてある湯吞を手に持った。机の上にある緑茶のパックを一つ、湯呑の中に落とす。その後、近くのタンブラーからお湯を注いだ。芳香な緑茶の香りが廃墟に充満する。
「日が落ちた廃墟で、柏餅というのも悪くないですねえ。さて、君もそう思いませんか、羽二重餅君。」
そう言って、後ろを振り返る。そこには俯いた羽二重餅がいた。体は少し痩せ、目は沈んた目をしていた。服は会社用のスーツで、手足は拘束されていない。だがよく見ると、拘束されていた跡はあった。ぼそぼそとした声で、男の言葉に応じる。
「悪くないと思います。…早く、家に返してくれませんか。」
「それは無理な相談だよォ。」
男が呑気に緑茶をすすりながら言う。
「家に帰ってどうするのさ?許嫁と結婚をするのかい?それとも花びら餅ちゃんと結婚するの?彼女のおじいさまは薬物。君が花びら餅ちゃんと結婚すれば、彼女は親や女中にさげすまれ、家柄に汚点がつく。でも君が許嫁ちゃんと結婚しても、許嫁ちゃんは君を愛していないから彼女を不幸にしてしまう。それに君が許嫁ちゃんと偶然大通りで出会い、話していたところを他の人に見られて、それで浮気の噂を花びら餅ちゃんに流されている。彼女の職場は君の浮気の噂でいっぱい!そして君の職場は彼女のおじいさまが薬物をやっていた噂でいっぱい!それで、もう一人の女の許嫁ちゃんと結婚しても結局女性を一人不幸にすることに変わりない。うーんまさに両手に花!モテモテで羨ましいことだねぇ。」
男が、にこにこと笑う。羽二重餅が沈んだ目で僕はもう誰も…と言うと、男は彼の顔を覗き込んだ。
「誰も…愛さない?」
彼が図星で目を見開くと、男は、子供のように無邪気に笑顔を浮かべた。
「分かりやすくて助かるよ。だからこそモテちゃうんだろうね♡でも、君が他の女を新しく見つけてこようが、もう誰も愛さないとしようが…何も変わらないんだ~。どちらの結末を選んでも、君は花びら餅ちゃんを悲しませること以外なにも出来ない。ふふ、理不尽だろう?何をやっても愛する人を悲しませることしか出来ないんだよ、君は。」
その言葉に震える彼に向かって、男はふふふ…と笑った。
「憎たらしいよなあ?なんでこんな目にって思うよなあ?さあ!ここで問題っ。一体なんでこんな目にあっちゃったんでしょう?!ピンポーン!その答えは一つ。噂が全ての元凶なんでーす。浮気の噂も、人殺しの噂も!真実か嘘かなんて関係ない。その噂さえなければ、愛し合う二人は一緒にいることが出来た。そう思ったら憎たらしくてたまらないよな?」
震える彼に、男は耳元でささやく。
「教えてあげよっか?噂を広めた犯人…。今回だけ特別サービスしちゃっても良いんだよぉ?今なら、なんとセール中!殺し方まで教えちゃいます!大丈夫、絶対バレません。なぜかって?私、復讐のエキスパートなんで。どうして、もっと真実をはやく教えてくれなかったのって?だってあなた信じないでしょ?真っ向から言って信じる人間がどこにいるんですか。それなら誘拐してでも…真実を教えて差し上げるその時まで待つ。私って、とっても優しくて、被害者の皆さんの味方なんです。噂で警察が動くと思いますか?動きませんよねぇ?あまりにこちらが不利。でも良いんですよ振り切って。」
男はそっと耳から離れるとばっと両手を広げた。
「どうせ自分は不幸になる。それならば、相手の幸福を奪って自分が幸せになっちゃいましょう!噂を広めたのなら、それ相応の報いを!そして誰にもバレずに噂を広めた相手を抹殺!そうして、貴方はあの噂は嘘だと言って、偽装でもなんでも証拠を出せばいいんですよ。自分たちの潔白と、相手の黒い過去を。どうです!悪くない話でしょう?!」
彼が頷きかけたその時だった。廃墟の扉がいきなりバンと開かれた。彼が振り返ると、そこにはカヌレ探偵とポム、花びら餅とタタンがいた。花びら餅がすぐに羽二重餅に気付き、思わず叫ぶ。
「羽二重さん!」
彼が花びら餅…と呟き、沈んだ目にわずかな光が灯る。その横で、カヌレが男に向かって叫んだ。
「覚悟しろ!サバラン!」
男は不敵に微笑んだ。
読んでいただきありがとうございます。
作者です。Xではフォロワー0人なのを良いことに、キャラ達が暴れまわっております。
あでも、フォローしたい方いらっしゃいましたら、気兼ねなくどうぞ。
フォロワーが増えようが減ってしまおうが、おそらく彼らは多分平常運転のままですので。
ちなみに作者としてもフォロワーが増えたら少し嬉しい程度で、特にフォロー外しやがったな?!待てコラァ!!とかフォローなんでしてくれないの?!(´;ω;`)とか深追いはしません。
なにせ、Xを開くのが投稿時くらいなので…いやなんならSNSそこまで興味なくてですね…。
良かったら見に来てね、フォローしたかったらしてねくらいの程度です。
ちなみにそんな作者が唯一フォローしてるのはなぜかNASAということになってますが、これは初期設定でどうしても誰かをフォローしなくてはならず、NASAが出て来たのでまあ、丁度ええか…宇宙って神秘的よな、天体って割と興味あるかも程度の軽い気持ちでフォローしてます。
まあ、カフェロイヤルの三人組が、綺麗な夜景!推しと一緒に!とか騒ぎそうですが。
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