第六話 ノクターンは私の憧れ
カヌレ探偵事務所では、カヌレが椅子に座りながらテレビを見ていた。速報として、ニュースのアナウンサーが語り始める。
【十七年前の未解決事件の犯人が、昨夜逮捕されました。】
霧の元ポルボロン伯爵邸での事件から、翌日。ポムも新聞を読みながら、ため息を吐いた。
「あのポルボロン伯爵邸は、もううんざりよ。パトカーに乗るまで霧で周囲が見えなくて、本当に大変だったんだから。…しかし、長かったでしょうね、あの二人にとっては。十七年もの間…。捕まって、本当に良かったわ。」
ポムの言葉に、タタンが左様でございますねと言いつつ紅茶を淹れる。カヌレも欠伸をかましながら、そうだねえとのんびりと言った。霧はもう晴れて、外は綺麗な快晴である。すると、事務所のドアがコンコンとノックされた。
「はーい。どうぞー。」
カヌレがのんびりと言うと、ガレット刑事が事務所に入って来た。手には白い箱を持っている。
「営業中悪いな。昨日の礼だ。大したもんじゃ無いが、許せ。」
そう言って、白い箱をタタンに預ける。彼がそっと箱を開けると、そこにはシュークリームが六つ入っていた。彼がカヌレに箱の中身を伝えつつ、こんなにあってはなんですから、ガレット刑事もここでお召し上がりになられては?とカヌレに提案すると、カヌレがそうだねと頷いた。ガレット刑事は俺は別に…と言いかけたが、ポムにあの後のこと、いろいろ聞かせなさいよと言われて、渋々客用のソファに座った。タタンがすぐに三人目の紅茶を用意する。その様子を傍目に、ポムが思い出したように言った。
「てか、タタンは一体何者なの?昨日疲れきってて、パトカーの後事情聴取もあって、何気に正体聞けなかったんだけど。」
その言葉にカヌレが、ああ…そういえば言ってなかったね、と微笑んだ。
「タタンは元軍人だよ。」
「六十年前の戦争か。なるほど、通りで強いわけだ。」
ガレット刑事が頷く。ポムが軍人…と驚いていると、タタンがほっほと笑った。
「わずか数年で戦争は終結しましたが…やはり、戦争は嫌でしたね。私も多くの物を失いました。得たものなど取るに足らないものばかりです。全員がそうでした。平和になった今があることが、本当に幸せですよ。」
そう言って、かちゃりと小さく音をたて、ガレット刑事の前に淹れたての紅茶を差し出した。ポムやカヌレの前にも紅茶を置く。その様子を見ながら、カヌレが話題を切り替えるように言った。
「そういえば、あの後フロランタンはどうしたの?」
「警察の中に、十七年前の事件を未解決事件にした警察がいたことが、随分ショックだったみたいだが…その代わり、弟も弟なりに学んだことがあったらしい。人間不信が悪化するかと思ったが…大丈夫そうだ。俺はもう事務所の方に来ちまったが、あいつはまだあのカフェにいるぞ。多分も、う少ししたらこっちにも来るだろう。」
その言葉に、ポムがうちの事務所に来る前に、あのカフェに寄ったの?と驚きの声を上げる。タタンがそっと全員の前にシュークリームを置いた。彼は当り前だ、あっちにもシュークリームを届けてきた、迷惑をかけたからなと言って紅茶をすすった。そうして、少しだけ安心したように微笑んだ。
「あのカフェの店員たちは、温かい人間達だな。フロランタンも今回の件で、人間を視る目を培おうと決めたらしい。そのためにも、鑑識は続けるそうだ。」
「兄さん、恥ずかしいこと言わないでよ。」
ドアが突然開かれると共に、フロランタンが事務所に入ってきた。少し不満げな顔をしている。お前ノックぐらいしろとガレット刑事が驚きつつ言うが、カヌレは別に良いよと笑った。ガレット刑事が気を取り直すように紅茶を飲む。それを見ながらフロランタンが不満げに言う。
「兄さんだって、今回の一件で探偵も探偵によるもんなんだなとか、警察が信用できなくなったけど、裏切る奴がいるなら俺が何度でも刑務所に送るだけだとか、言ってたじゃないか。」
ぶっと紅茶を吹き出しかけて、慌ててお手拭きで口元抑えるガレット刑事。それを傍から見ていたポムがへえ~?とからかうように微笑む。
「随分かっこいいこと言ってたのね。」
「黙れ。」
ガレット刑事が悔し気に睨む。ポムは全く怖気ない様子で、ニマニマしていた。フロランタンが兄の隣に座ると、タタンが即座に紅茶を淹れたカップを目の前に置いた。フロランタンがありがとうございますと軽く会釈をする。
「そういえば、私がポルボロン伯爵邸で見つけた…まあ落下と共に落としたに近いんだけど…あの被害者夫婦達の絵画はどうするんだい?」
カヌレがシュークリームを頬張りながら言うと、ガレット刑事があれはしばらく重要証拠品として押収するが…ある程度調べ終えたら、被害者の元に返すことになるだろうなと言った。
「俺達も親の絵を見たが…皮肉なことに、とても綺麗な絵だった。生前の二人が蘇る程に、な。弟と悩んだ挙句、残しておくことにした。憎くないわけではないが、処分するには惜しい絵でもある。捨てることなど、いつでも出来るからな。」
彼の言葉に、全員が静かに微笑む。フロランタンが話を切り替えるように言った。
「いや~…カヌレさんとポムさんにも迷惑をかけてすみません。ちなみにさっき、カフェロイヤルに行ったんですが、店主バウムさんとホワイトショコラさんは、無事を喜んでくれたのですが…クレールさんには、喜ばれつつもめちゃくちゃ怒られましたよ。怪盗ノクターンを布教されました…。」
そう言って苦笑いしながら、懐からカードを十枚取り出した。全部、新聞に載ってる怪盗ノクターンのシルエットなどである。勿論被ってるものは一枚も無い。ガレット刑事とポム、カヌレが何かを察してああ…となる中、タタンはクレール様も相変わらずでございますね、とにこにこしていた。
「そういえば、最近他にも怪盗が出て来たと話題になっているな。」
ガレット刑事がぽつりと呟く。ポムがシュークリームを頬張りながら、そうなの?と言う。フロランタンが横で紅茶を飲む中、彼は静かに頷いた。
「それも女怪盗らしい。女怪盗ソルベとか言う奴だ。怪盗ノクターンとの関りは分からんが、最近巷で少しずつ名をあげて来ていてな。怪盗が増えるなんて厄介なことだ。」
彼がシュークリームに手をつけると、隣でフロランタンが僕も聞いたことあると言った。
「女怪盗だから、やっぱり男性ファンも多いとか…。しかも割と無口で、ストレートの長髪ヘア、そして雪の結晶の髪飾りをつけているらしいよ。予告上には必ず雪の結晶のマークが描かれているんだとか。」
「へえ…。いろんな怪盗がいるものね…。」
ポムがシュークリームを食べながら、頷く。そういえば、十七年前の事件って、どうしてあの画家は捕まらなかったのよ?と彼女が聞く。
「容疑者として浮上してたのに、捕まえられなかったんでしょ?うまく隠してたって、一体どうやって?あと、霧の中でどうやって殺したのかも、気になるわ。」
彼女の問いに、タタンも私も気になりますと頷く。ガレット刑事が紅茶を飲みながら対応する。
「ああ、それに関してはな…。奴の事情聴取から…。」
その瞬間、カヌレの方からバキッと嫌な音が響いた。カヌレ以外の全員が沈黙して、彼女へ視線を向ける。彼女は、ん…?と口を抑えながらシュークリームを見た。なんか黒い板のようなものが生クリームから出ている。彼女が恐る恐るそれを取り出すと、黒い板に何か書いてあるようだが…。生クリームに埋もれて全く見えない。彼女が机の上のティッシュを使って生クリームをふき取ると、すぐに文字とマークが見えた。
「…なにこれ、予告状?」
彼女が、せっかくシュークリームを美味しく食べてたのに…と不満げに黒い紙を見る。ポムが立ち上がり、カヌレの傍にいって横から覗き込むと、思わず声を上げた。
「ちょっと怪盗ノクターンからじゃない?!」
なにっ?!とガレット刑事も叫ぶ。カヌレが残りのシュークリームを頬張る横で、ポムが読み上げる。
ーーーーーーーーーごきげんよう、カヌレ名探偵。
未解決事件の解決に携わったみたいだな。
アプリコット音楽館にある、聖女の花束を頂戴する。
事件解決後の余韻に浸って、ゆっくりしていると良い。
怪盗ノクターンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「休ませろよぉ!事件解決後って分かってんなら、猶更よぉ~!」
カヌレが疲れ切った体を椅子にもたれかけさせながら、悔しそうに叫ぶ。ポムも本当ねと憤慨する。
「あたし、これから十七年前のこととか、どうやって犯人が…とかいろいろ聞きたかったのよ?!しかも、いつ盗みにくるとか書いてないじゃないこれ!夜だと思ってたら日中だったとかある可能性あるから、行くしかないじゃない!さっさと行くわよカヌレ!」
「シュークリーム返せよォ!!」
ポムに椅子から無理やり立たされ、ずりずりと引きずられながら文句を垂れる。その様子を見ながら、ガレット刑事も即座に警察に電話をし、予告状の件を伝えた。フロランタンがシュークリームを慌てて放り込む。タタンにお礼をつげると、ガレット刑事に向き合った。
「兄さん、僕は鑑識の仕事があるからそっちに行けないけど、怪盗のこと頼むよ。」
「ああ、任せてくれ。」
そう言うとガレット刑事がポムとカヌレの後を追った。カヌレはいつの間にか立ち上がっていた。ポムに腕をひっぱられながら、しずしずと事務所の出口へ向かう。事務所から出る前に振り返ると、執事のタタンに言った。
「言ってくる。事務所のこと、頼んだよタタン。」
「お気をつけていってらっしゃいませ。」
彼は食器を片付けながら、全員を見送った。
アプリコット音楽館は即座に営業中止となった。
何台ものパトカーに囲まれ、一般客は追い出され、警備員が館内のいたるところに配置される。カヌレとポムの二人は、またもや重要参考人として館内に入っていた。怪盗ノクターンがいつ来るか分からないので警戒してはいるが…昼、夕暮れ、と時間はすぎ、いつの間にか夜になっていた。カヌレが拗ねたようにポムに向かって言う。
「いつ来るんだよ、怪盗ノクターン…。言わなくても分かってるだろうけど…今度ばかりは、私は本物だよ、ポム。」
「なんかフラグっぽいわね。」
「やめてよぉ!もうあんな靴を二度と履かないからァ!」
ポムのからかいにカヌレの泣きそうな悲鳴があがる。その二人の頭を、書類でべしっと後ろから叩く男がいた。
「ふざけてる場合か。お前達はボディチェック受けてるんだから、前回と同じことは起きんだろ。いよいよ奴が盗みに来るかもしれないんだぞ。お前達二人には見せる予定は無かったが…警備も以前より強固に出来たし、前回のような事態がまた起きるとも思えん。さっさと来い、宝石の部屋に案内してやる。」
彼がくるりと二人に背中を向け、資料を持ったまま宝石の部屋へ向かう。彼の背中に向かって、カヌレが頭をさすりながらえへへ…と困ったように笑い、ポムはちょっとふざけただけじゃないと不服そうに、んべと舌を突き出した。彼についていくと、階段付近の大きなスペースに出た。その中央にぽつんとショーケースがある。
「あれが聖女の花束だ。この前とは違い、個室じゃないところに飾られている。そのため、なかなかに厄介な場所だ。」
「花束とは言っても髪飾りなんだね。いろんな宝石が詰まってるから花束か。上には天窓があるわけか…うーん、立地が良くないね。これは盗まれるかも。」
ショーケースの上の天井の天窓からは、綺麗な夜空が見える。それがまた建物の構造としては美しいが…侵入経路としては申し分ない。彼女の言葉に、ポムが頷く。
「確かにあの天窓はやばいわね…それに、このショーケースの近くも階段付近だし…警備員がいるとは言え、立地が悪いとしか言いようがないわね。」
「フン。立地が悪くとも、警備員を集中的に置けば良いだけだ。天窓にはお前達から見えないだろうが、上からさらに強化ガラスを取り付けた。そう易々と、あそこから出入りは出来まい。さらに天窓の外側にも警備員がいる。また、階段に関しては、警備員にもいるし…これを見ろ。」
ガレット刑事が近くの柱を押す。その途端、ゴゴンという音と共に、階段の凹凸が内側に入っていき、一瞬でスロープへと変化した。おお~と二人が驚く中、彼は満足げに言う。
「アプリコット音楽館は、からくり屋敷でもある。元々からくり職人が手掛けた建物でな、からくりがいたるところにあるんだ。無論、奴にそういう面も利用される可能性はあるが…全てのからくりを知っているとは思えん。なにせ今回、からくりに関しては俺でさえ、一部しか知らないからな。」
「なるほどねえ…一部だけか。」
カヌレがつぶやく。ガレット刑事がそうだと頷いた。
「それなら安心だな。」
突然響いた声に、一同がばっとショーケースの方を見る。ショーケースの上に、一人の男が立っていた。後ろで束ねた銀髪…仮面…前髪で片目を隠しているその顔に、ガレット刑事が叫ぶ。
「怪盗ノクターン!」
男は不敵に笑うと、マントをばっと翻した。即座に煙幕がどこからか拡がり、全員が煙の中になる。警官達が、げほごほっとむせる声が響き渡る。ガレット刑事がおのれ怪盗ノクターン!とむせながらつぶやき、ショーケースの元へと走るが驚きの声を上げる。
「聖女の花束が…ない?!」
天窓が割れる音もしない…その時、ガレット刑事が煙幕の中で廊下へと走り出す一人の警官を見つけた。
「追え!あいつだ!左手の廊下だ!」
その呼びかけで警官達が声をあげて全員走りだす。ポムが警官にぶつかられ、むせながら、ちょっと周りみなさいよと愚痴ってると、腕を掴まれた。ぐいっと引っ張られると煙幕の中から抜け出て、カヌレがポムを引っ張っていた。
「カヌレ、ありがとっ。でも怪盗ノクターンがあっちって…。」
ポムが、ガレット刑事や警官達が走っていった方向を振り返りながら言う。カヌレは未だにすこしむせつつも、ポムの腕を引っ張ったまま逆方向へと走り出していた。近くの階段を駆け上がりながら説明する。
「あれは多分ダミーだと思うんだ。多分奴がいるのはこっちだと思う!…煙幕の中でむせてて、警官やガレット刑事たちにそっちじゃないと叫べなかったけど…仕方ない。私達だけでも追うよ!」
「分かった!」
二人が階段を駆け上がると、一人の警官が奥の部屋へと入るところだった。
「いた!」
ポムが叫ぶと同時に警官は二人に気付いたのか、すぐに部屋の扉を閉めた。二人が慌てて扉に近づくが…内側から鍵がかかっている。が、事前に館長から予備の鍵を借りていたので、カヌレが懐から鍵を取り出し、扉を開錠する。
ガチャっ。
音を立てて、扉が開くと共に、夜風が二人の頬をかすめていく。開け放たれた窓が視界に入った途端、カヌレが即座に窓へと走り、窓の下を見る。そして、近くの森の中に入っていく人影を見つけた。
「よし、まだ追える!」
そう言うと、彼女は窓から身を乗り出した。ポムが驚き、ちょ、下危ないわよ?!と声をあげるが、カヌレは、大丈夫、近くの室外機を足場にして…と呟いて、そのまま器用に地面へと降り立った。カヌレが森へと入っていくので、ポムも動揺しつつも、窓から身を乗り出し、カヌレのように室外機へ足をかけつつ、彼女の後を追った。
「待てーーーっ!」
警官は森の中を駆け抜け、走りながら突然警官の服を脱ぎ捨てた。トレンチコートを羽織ったどこにでもいるような一般男性になると、森から出て市街地へと走っていく。カヌレも後を追う。ポムもカヌレを追いかけた。男はそのまま駅の中へと入り、人ごみの間をぬっていく。
「ちょっ、すみません!」
カヌレが呟きながら、人ごみの間をすり抜け男を追いかける。ポムも後に続くが…。運悪く人とぶつかった。いそいで謝り、即座に彼女を追いかけようとした時だった。
「あれ…カヌレ?!カヌレ?!」
あんな探偵帽子と探偵服なんてすぐに見つかりそうなものだが…どんなに周囲を見回しても、どこにも見つからない。完璧に見失ったことに気付いた彼女は、即座に青ざめた。
「カヌレ…?!」
一方その頃カヌレは、いつの間にか駅の出口側を走っていた。男を執拗に追いかけながら、夜の駅の人混みの合間を駆け抜けていく。
「待てっ!人混みに紛れられると思ったら、大間違いだかんなぁっ。目は良いんだよこちとらっ。裸眼だけどなァ!」
そうぼやきながら、人ごみの合間を走る。その時、彼女は、たまたま人混みの中にいた一人の男の目の前を、通り過ぎていくことになる。
「カヌレさん…?!」
丁度駅で買いだしに来ていた、ホワイトショコラが思わずつぶやく。何かをわめきながら真剣な顔で自分の目の前を通り過ぎる彼女に、彼は即座に反応した。なにせ大ファンであり、店内であれだけ愛を叫んでいる男である。見逃すはずが無かった。フランスパンやバター、ココアの粉やら、マドラーやらが入ったレジ袋を手から引っ提げたまま、即座に彼女を追いかけ始める。というか追いかけない理由が無かったのである。夜の駅、店外、偶然のめぐりあわせ…男の脳内は完璧に運命の一文字しかなかった。ポケットからスマホを取り出し、カヌレを追いかけながら即座にバウムに電話する。
「駅でカヌレさんです!遅れます!」
「ハア?!ちょ…なに、どういうっ…。」
店主バウムの叫びを全く聞かず、彼はぷつんと電話を切った。カフェロイヤルでは店主バウムがスマホを握りしめ、怒りのドスの効いた声を上げていた。
「夜の駅で推しに会えるとか、羨ましすぎるから爆散しろッ!」
ついに駅では振り切れないと分かったのか、男は近くの廃ビルに入っていった。カヌレも廃ビルの中へ入り、男の後を追いかけていく。そして、遂に屋上まで追い詰めた。
「観念っ…しろっ…ハアっ…怪盗っ…ノクターンッ!」
息も絶え絶えに、膝に両手をつきながらカヌレが言う。男は服を脱ぎ捨てると、いつもの後ろで束ねた銀髪と片目を前髪で隠し、仮面をつけた姿になった。夜風にマントをたなびかせながら、不敵に微笑む。
「息も絶え絶えじゃないか。その様子で追い詰めたとでも?」
カヌレがぜえはあと息を吐きながら、くっそ…日頃から鍛えておくんだったっ…運動部じゃなくてもそれなりに運動できたから、運動を侮ってた…と悔し気に言う。その時、屋上の扉が音を立てて開き、一人の男がひょこっと顔を出した。
「カヌレさん!」
「…えッ?」
思わぬ声に彼女が振り向くと、そこにはめちゃくちゃ嬉しそうに目を輝かせたホワイトショコラがいた。店外のため、いつもの緑のエプロンはしていない。エプロンの下に着ていた白シャツと黒ズボンの姿だが…エプロンが無いとちょっといつもと違う雰囲気に見えた。うねうねとした黒髪を夜風に少し揺らしつつ、いつもの黒メガネの奥の目がいつになく愛を叫んでいる。予想外の男の登場に、流石のカヌレも一旦硬直する。
「え…え、どうしてここに…?」
彼はめちゃくちゃ嬉しそうにカヌレの近くへ来ながら、歓喜のあまりレジ袋をぶんぶん振り回しつつ、説明しはじめた。
「駅に買い出しに行ってたんですよ。そしたらカヌレさんが偶然目の前を走っていったので、追いかけて来たんです!…夜に仕事中のカヌレさん、素敵ですっ。昼間とは違って、月光の中に…可憐すぎるっ!やばいっ。可愛すぎて閉じ込めたいっ!誰にも見せたくない、独り占めしたいっ。でもカヌレさんの探偵としての名声は広まって、実力で世界を圧倒してほしい…けど、こんな素敵なカヌレさんが他の誰かに知られるのも…ああ、幸せな葛藤過ぎるっ!カヌレさんっ!愛してます!」
なにもかもを振り切った潔い愛の真っ直ぐさに、流石のカヌレもお、おおう…?あ、ありがとう?と半分よく分かってないが、ちょっぴり照れた。その様子に彼は可愛すぎると連呼しながら、大歓喜していたが…ふと、カヌレの少し離れたところにいる怪盗ノクターンに気が付いた。すぐにすっと目を細め、小さく微笑む。
「…怪盗ノクターンですか…。よく新聞で見ますよ。敢えて光栄です。」
カヌレがあ…えと…、と説明しようか悩んでいると、彼はにっこりと微笑んだ。
「カヌレさんが探偵である以上、怪盗の存在は必要不可欠であると重々承知しています。どんな物語でも、怪盗と探偵は良きライバルであり、互いに高め合う存在ですからね。」
けど…と彼は言った。口元は笑っているが、目は笑っていなかった。何かを察して怪盗ノクターンも身構える。カヌレは横から、どす黒いオーラが漂うのを感じた。
「気に食わないんですよねぇ…男としては…。カヌレさんの周囲にそんな不敵な男がいるなんて?しかもライバルで?…同じ男としては分かりますよ。カヌレさんは可憐で可愛いですからね、しかも探偵で自らを追っかけてくれる…。男が気を持たないわけが無い。というわけで、僕は男としては貴方が気に食わないですね、非常に。」
そう言うと即座に彼はポケットからボールペンを取り出し、怪盗ノクターンに向かってぶん投げた。ものすごい速さで真っすぐ飛んでいき、怪盗ノクターンも同時に屋上から飛び出すが…ボールペンの先が目の横の皮膚をかすめる。怪盗は少し焦った表情で、そのまま夜の闇に紛れて姿をくらました。ぽとん…と音を立てて、ボールペンが屋上の床に転がった。それをホワイトショコラが拾いに行くと、カヌレが驚いたように言った。
「それ、店で使ってるボールペン?…すごいね、あんなにまっすぐ投げられるなんて…。」
「僕、元スタントマンだったんですよ。」
ホワイトショコラがにこっと微笑んで言う。彼女が驚きの声を上げると、彼はボールペンをポケットに入れながら、威嚇射撃には丁度良かったですかねと笑った。
「持ってるものがボールペンしかなかったので、これじゃ流石に相手もおじけづかないだろうと思って、目の近くを狙ったんです。カヌレさん!変な男に付きまとわれたりしたら、いつでも僕に言ってくださいね?!僕は喜んであなたを守りますからっ。あのキザな怪盗がどこかへ行って…廃ビル屋上でカヌレさんと二人きりなんて、しかも夜の屋上でのカヌレさんの姿…目が幸せでちょっと…僕の眼鏡が危ういです。あーーもう本当にっ、好き過ぎる!」
彼が惚気まくっていると、屋上の扉が勢いよく開かれ、ポムが顔を出した。
「カヌレ!良かった!心配したのよっ。」
そう言って勢いよくカヌレに飛びついた。目を潤ませながら、カヌレにしがみつく。
「スマホはつながらないし…探し回って、やっと下の道路から、屋上にいるカヌレを見つけて…ホントに無事で良かった!一人でどこかに行っちゃうんだからっ。」
その様子にホワイトショコラも何かを察してか、二人を見て優しく微笑む。カヌレもポムを抱きしめかえしながら、少しだけ嬉しそうに言った。
「心配かけてごめん、ポム。先に一人で行ってごめんね。怪盗ノクターンには惜しいところで、逃げられちゃったよ。ポムの前で奴を捕まえたぞ!って突き出したかったんだけどね…。スマホは…つい夢中で追っかけてたから…忘れてた、ごめん…。一緒に事務所に帰ろう。」
もう本当に…探偵なんだからちゃんとしなさいよっ、心配かけてもうっ!とポムが不満げに言う。三人はそのまま廃ビルを後にした。
後日、カフェロイヤルにて、二人の目の前でホワイトショコラが店主バウムやクレールに対し、夜にカヌレと怪盗ノクターンに会ったことを自慢していた。
「怪盗ノクターンを退け、二人きりの廃ビル夜屋上っ!本当に幸せでした。前職スタントマンやってて正解でしたっ。夜風に髪がなびき、月光が照らすカヌレさんは…可憐の極致にいました!」
「最高な目に遭ってんじゃねーぞ黒メガネ!」
「末永く推しの健康を願って爆散しろっ!」
相変わらずの怒号が飛んできて、カヌレとポムはカウンターで顔を見合わせて笑っていた。
夜、女怪盗ソルべは廃ビルの屋上にいた。ストレートの長い髪を風にたなびかせ、氷の結晶の髪飾りを月明かりに反射させていた。夜景を眺めながら、静かに物思いにふける。そんな彼女に、近くのビルの屋上から男が声をかけた。
「俺のフリをしたらしいな、女怪盗ソルベ。」
彼女はハッとして、声が飛んで来た方向を見た。そこには、頭の後ろで銀髪を束ねた仮面の怪盗がいた。
「怪盗ノクターン…。」
彼女が驚きつつも、不満げに言う。
「カヌレ探偵の近く…やばい男がいた。」
彼はその言葉を聞くと、ははっと笑った。あの店員の男に会ったのかと納得し、災難だったなと笑う。
「あの男は元スタントマンで、カヌレ探偵の大ファンだからな。俺に対する目は厳しいだろう。いわば俺の天敵だ。調べが甘かったな、ソルベ。俺は、初めからあの男とは接触を避けているぞ。」
「なら…どうして…カヌレ探偵をライバルに?彼女には、あの男がいる。執着する必要は無い。他にも探偵はいる。」
ソルベの言葉に怪盗ノクターンは不敵に微笑んだ。夜景の方を見ながら静かに言う。
「怪盗ならば、危険なものほど手に入れたくなるものだろう?」
そう言って彼はそのまま屋上から飛び降り、姿をくらました。女怪盗ソルベが怪盗ノクターンのいた場所へ移動し、彼が消えた場所を見つめる。そして小さくつぶやいた。
「……好き。」
読んでいただきありがとうございます。
そういえば先日、作者がついにXを始めたってよということがありましたが…先日のXの状態はあの、あまりに生まれたてで、名前とアイコンとヘッダーしか出来てませんでした。
ですが!あの後ですね、私プロフィールも書きましたし、URLも貼り付けました!よく頑張ったね偉い!ありがとう!!
ちなみに投稿もやり方分からないけどやってみました。
AI君に生成していただいた、アイコンとヘッダーの画像を配布してます。ちなみに配布にはホワイトショコラとサバランがコメントしてくれてます。二人ともサンキューな!
けど、リプライにハッシュタグをつける羽目になったのは許してください。ニポストして、ぬか喜びしてたらタグつけ忘れたんですよ。よく分からないから慌てて、三投稿目でタグだけ投稿することになっちゃったんですよ。
そんな作者のXはこちらから→https://x.com/Ameme_H_Novel




