第五話 執事にお任せ下さい
「クソッ…。俺が傍にいるべきだった。十七年前の事件をこれ以上調べるな、だけじゃ甘かったか…。あいつの傍にいてやれば…。」
ガレット刑事が悔しそうに呟く。カフェロイヤルは重い空気に包まれていた。行方不明のフロランタンからの、十七年前の事件は終わってないというメッセージ。その上、今夜から明日の朝までの霧の予報…。全員が嫌な予感を感じずにはいられなかった。カヌレが即座に言った。
「弟は独身?恋人は?」
「独身だ。恋人はいない。女と深い関係を持ったこともない。無論、俺も同様だ。」
ガレット刑事が即答する。それを聞くと、彼女はすぐに席から立った。
「とりあえず、場所を移動しよう。このカフェにいてもいいけど、他のお客さんが来たら大変だ。事務所に行こう。ポム、執事のタタンに電話してくれる?これは迎えに来てもらった方が良さそうだ。」
店主のバウムが、カヌレちゃんありがとう、あたし達も捜査に協力したいけどお店のこともあるし…そうね、ここで話していては案件が案件だから、お店の客を巻き込むわけにもいかないわ、とお礼を言う。カヌレが、大丈夫、特にカフェの三人を危ない目にあわせる訳にはいかないから、と返す。ポムは即座にスマホを取り出し、事務所に電話をした。その様子を傍目に、ガレット刑事が焦った様子で言う。
「事務所なんて行かずとも、俺は大丈夫だ。それより、弟のフロランタンを急いで見つけないとまずい!三十分前とはいえ、いつ殺されるか分からないんだ。どこにいるかも分からん。事務所に行ってる暇など…。」
「死体が二つになったら困る。」
カヌレがきっぱりと言い切った。思わぬ言葉にガレット刑事が面食らっていると、彼女は淡々と言った。
「相手は十七年前、夫婦を殺していた。つまり死体は必ず二つ。そしてフロランタンは独身、深い関りのある女性もいない…となると、狙われるのはあなたの可能性もあるんですよ、ガレット刑事。だからこそ、一人でどこかへ行かせるわけにはいかない。」
「警察も信用できないし、猶更ね。」
ポムが不敵に微笑みながら補足する。だが、彼はそれでも納得できない様子だった。
「確かに俺が狙われる可能性もあるが、弟に万が一のことがあったら…。それに、確かに先日怪盗ノクターンに、警察の中に信用できない奴がいるみたいなことを言われたが…警察だぞ?そんなことがあるわけないだろう。悪人を取り締まるのが警察の仕事なのに、自らが悪人になる警察などいるはずが…。」
その時だった、カフェの外で一台の銀色の車が止まった。運転席にはタタンがいるのが見えた。カヌレがお会計をレジ前で払いながら、ポムに言う。
「タタンの車に乗って。ガレット刑事も一緒に。お会計はえーっと…二千五百円…。」
ホワイトショコラにお金を払い、レシートを貰う。その間、ポムが指示通りガレット刑事に行くわよと声をかけた。彼は、それでも未だに納得しない様子でポムに言う。
「おい、俺は探偵なんぞにお世話になんて…。」
「良いから、さっさと乗りなさいよ。」
彼女に問答無用で腕を掴まれ、ガレット刑事が不満げに車に乗る。お支払いを済ませたカヌレが助手席に乗り込むと、すぐにホワイトショコラが店から出て来た。
「気を付けてくださいね、カヌレさん。」
「うん、ありがとう!」
ごちそうさまでしたと彼女が優しく微笑むと、彼は静かに微笑んだ。お店の中でも、ガラス越しにクレールと店主バウムが気をつけてねーと言いながら、手を振る。全員がシートベルトを閉め終えると、タタンがそれでは行きますよと行って、車を発進した。
発進してまもなく、ガレット刑事のスマホがピロンと音を立てた。
「電話?メッセージ?」
カヌレが即座に聞く。ガレット刑事が静かにスマホを開くと、メッセージだと言った。真剣な顔でスマホを覗き込んでいるので、横にいるポムもすっとスマホを覗き込む。
「元ポルボロン伯爵邸。」
「元ポルボロン伯爵邸って…随分遠いな?!あのオンボロ屋敷?」
カヌレが驚きの声を上げると、タタンがそこに向かわれますか?と聞いた。ガレット刑事が食い気味に頼むと言う。
「罠かもしれないわよ?」
ポムの忠告に、ガレット刑事が腕を組んで言う。覚悟の決まった目をしていた。
「罠だろうが、行ってやる。俺の弟のためならな。」
タタンがかしこまりましたと言って、ルートを変更する。かなり遠いので、着くのは…七時間後くらいでしょうかとつぶやいた。ガレット刑事が腕時計を確認しながら、悔し気に言った。
「夕方だな。日没頃か。」
「………まずいね。」
カヌレが静かに言う。
「今夜は霧の予報だ。ポム、霧は何時から出る予報になってるか確認してくれる?日が暮れる頃…霧も出て、オンボロ屋敷…。時間がかかって夜になれば大変だ。これはタイムアタックになりそうだね。霧が出るのが先か、私達がオンボロ屋敷から抜け出して、タタンの車に乗るのが先か…。」
ポムが即座にスマホで天気予報を調べる。一時間ごとの天気を見ると…丁度屋敷に着くころに霧のマークが出ていた。ただあくまで予報、外れることもある。彼女はカヌレたちに伝えると、スマホの電源を切った。
「それでは、少し速度をあげてまいりましょうか。」
「ありがとうタタン。」
だんだんと速度をあげながら、車はポルボロン伯爵邸へと向かった。
バタンと車のドアを閉め、四人が車から降り立つ。
「ここが…ポルボロン伯爵邸…。」
夕暮れが差し込む中、目の前には大きな門があった。手入れがされていないせいか、ツタが伸び放題である。扉に鍵はかかっていないが、黒い装飾はサビてところどころ剥がれ落ちていた。周囲に人の気配はない。奥に建物が見えるが…見る限り昔の作りだった。屋根もところどころ剥がれ落ちているし、窓から見えるカーテンはぼろぼろに擦り切れている。あまりのオンボロさに、ポムが青ざめながら言う。口がわなわなと震えていた。
「…異世界じゃないわよね、ここ。明らかに雰囲気が変なんだけど。」
「スマホが…圏外だ。」
カヌレも少し青ざめながら言う。二人をよそに、ガレット刑事が真剣な顔で一歩を踏み出した。扉に手をかけると、ギイイイ…と嫌な音を立てて扉が開いた。ポムが震えあがる中、タタンもガレット刑事の後ろへついていきながら、お二人とも行きましょうと言う。ポムはカヌレにしがみつきながら、あたしホラーは苦手なのよと囁いた。がっちりと腕を掴んで少し体を震わせる。
「離れないでねカヌレ。あたし、お化けが出て来たらあんたを囮にするから。」
「ちょ…いやまぁ…別に良いけどさ…。私少しなら、ホラーゲームの実況動画とか見て、ある程度耐性出来てるし…。」
カヌレが困ったように笑いながら、ガレット刑事とタタンの方へついていく。荒れ果てた庭を抜け、建物の入口へとたどり着く。石の柱は少し欠けていて、近くの噴水は水が出ないまま植物に覆われていた。古い両開きの扉を前に、ガレット刑事がコンコンとノックをする。
「警察だ!」
沈黙が少しあったが、誰かが出てくる様子は無かった。彼は扉のドアノブへと手をかけるが…。
「…クソ。開かないな。」
悔しそうに言う刑事に、カヌレがどれどれ?と言って扉に向かう。そしてドアノブ付近を見ると、おかしなところは何も無さそうだねと呟いた。そのまま彼女も扉に手をかけ、ドアノブを思いっきり引っ張る。
「ん!硬っ!ふんぎぎぎぎぎぎ…。」
カヌレが思いっきり引っ張ると、急に彼女の体が後ろに倒れ込んだ。慌ててタタンが支える。が…彼女の手にあったのはドアノブで、扉は開かれないどころか…。
「あ…。」
ドアノブがあった場所に穴が開いている。ガレット刑事が何をしてるんだお前は!と少しキレた。ポムは何してんのよカヌレ!と少し笑っている。彼女はいや…えとっこんなつもりじゃなくてぇ~…と困ったように言う。手元にある金色の細長いドアノブを困り果てた目で見る。タタンがそのドアノブをそっと掴んだ。
「いえいえ、お任せ下さいカヌレ様。」
カヌレの壊したドアノブを手にすると、タタンは皆さん少し離れていてくださいと言った。その言葉に全員がそっと入口から離れる。彼は入口のドアの横にある窓に目を付けると、そこに向かって勢いよく手を振り上げた。
「フッンッ。」
物凄い勢いと共に、片手から解き放たれた金属製のドアノブがすっ飛んで行く。
バッリイィィンッ。
派手な音を立てて、窓ガラスが割れた。彼がふう…と息を吐く。呆然と見てたポムがカヌレに思わず言う。
「あれ…あれ良いの?!破壊だけど?!」
「ま、まあ…あはは……。」
カヌレが苦笑いをする。ポムが即座にガレット刑事の方へ向く。
「こ、これは正当な理由があって…!」
ガレット刑事はいつの間にか目をつむっており、静かに言った。
「俺は何も見ていない。ちなみに、賠償はお前らの負担だからな。」
「ハア?!」
ポムが怒りの声をあげると共に、タタンが庭の方から白い椅子を持って来た。それを窓ガラスの前に配置する。そして何事も無かったかのように、三人の方に穏やかな笑顔を向けた。
「少々ガラスが尖っていて危険ですが、お気をつけてお入りください。」
ガレット刑事とカヌレがありがとうと同時に言う。ポムは開いた口がふさがらなかった。
「よっと。」
カヌレを先頭に建物内に侵入する。着地すると、床がギシッと不気味な音を立てた。四人とも入り終えると、薄暗い建物内を見回した。基本的に木造で、入口のドアから伸びるレッドカーペットや、大きなシャンデリアは埃被っている。見る限り人はいないが…どこか靄がかかっていた。タタンが小さくつぶやく。
「少し霧が出て来たのでしょうか。」
「時間が無い。急いで弟を見つけるぞ。」
ガレット刑事の言葉に全員が頷く。入口の正面には大きな扉、そして階段が二つあり、階段はそれぞれ右方向と左方向に分かれていた。カヌレがさっと状況を見て言う。
「一か所一か所調べてる暇はなさそうだね。分担する?」
「俺は正面に行く。」
ガレット刑事が正面の扉を指差す。その言葉を聞いてカヌレが、即座に割り振る。
「私は階段右、タタンは階段左。ポムはガレット刑事についてあげて。」
「なんであたしが?!」
ポムが驚きの声をあげると、カヌレが理由を説明した。
「本当なら四人で手分けしたいけど、ガレット刑事が狙われていたらマズイ。だから一人は傍にいた方が良い。タタンは襲われても物理で返せる分、真犯人に警戒されやすいはず。私もまた、探偵服を着ているからガレット刑事の傍にいては警戒されやすいはず。だから私達二人は二階に行って、どうにか裏から犯人を捕まえられないか探すよ。その代わりポムは、ガレット刑事に何かあったら即座に助けるか、私達にスマホで伝えて。」
「一応今は日没ですから、多分これから暗くなると思います。懐中電灯をみなさまに。スマホの照明でも構いませんが、電池が切れたりした際用に。」
執事のタタンが、全員に小型の懐中電灯を渡す。ポムが返事をする間もなく、ガレット刑事が正面の扉に向かって歩き始めた。
「さっさと行くぞ。」
焦った声で言いながらポムの方を見る。彼女はもうなんなのよと毒づきながらついていった。カヌレとタタンがそれを見送ると即座に各々、階段を駆け上がり始める。二人は片っ端から部屋を調べていった。
ポムとガレット刑事が正面の扉を開けると、廊下が奥へと続いていた。歩くたびにギシギシとなる廊下を突き進んでいく。道中で右手にドアを一つ見つけた。ガレット刑事が即座に開ける。中はただの倉庫の様だった。ざっと散策をするが、人の姿は見当たらない。ただただ埃だらけだった。
「チッ…ハズレか。」
悔しそうに言って、そのままバタンと扉を閉める。そうやって何個も何個も繰り返すうちに、だんだんと霧が濃くなってきた。
「くそ…霧が濃くなってきたな。オンボロ屋敷め、隙間から霧が入って来たか。」
「ちょっと暗いし、懐中電灯つけるわよ。」
ポムがカチっと音を立てて、小型の懐中電灯をつける。
「霧が出ててあれだけど、無いよりはマシね…。」
「とにかく、霧が濃くなる前に弟を見つけるぞ。」
ガレット刑事が焦った声で再び奥へと突き進んでいく。ポムも後ろについていった。
その頃執事のタタンは、二階のとある部屋を探索していた。
「ここもホコリまみれですね。おや霧が少し濃くなってきました。」
ふう…と息を吐きながら、懐中電灯をつける。まだ見ていない近くの棚を漁ろうとした時だった。
ミシッ。
「お?」
体ががくんと下に下がった。
バキバキバキッバキッ。
「おおおっ?!」
派手な音を立てて、下の部屋に落下した。ドスンとしりもちをつきながら呻く。
「…派手に落ちてしまいました…。老人にはしりもちはキツイものですね…。」
腰をさすりながら起き上がると、大きなホールのような部屋に落下したことに気付いた。丁度レッドカーペットの上に落下したみたいだが…まだ霧が完全に濃くなっていないのか、ホールの舞台にいる男が見えた。椅子に座ってこちらに背を向けている。男の目の前にはキャンバスがあるように見えた。何かが描かれているようだが…霧でよく見えない。彼が目を凝らすと、男が座る椅子の横には、一人の男性が倒れているのに気付いた。タタンがもしや…と思うと共に、男性が声をあげた。
「誰が落ちて来たのかと思ったら、女性じゃなくて男の老人だったか。はぁ…。どうしてこうも上手くいかないものなのかな。」
男性の寂しそうな声が響く。横に転がっている人物に向かって声をかけた。
「残念。君の隣に描く女性は、まだ現れないみたいだね。」
返事はなかった。執事のタタンは目を細めると、執事服の襟をそっと正した。
タタンが落ちた派手な音は、ポムとガレット刑事にも聞こえていた。
「なんだ今の音は?!」
「…あっちの奥の方から聞こえたわ。何かが落ちたような音だったけど…。」
ポムが怖がりながら、奥の方を指差す。ガレット刑事が舌打ちをかましながら、奥の方に向かって走り出した。ポムも慌てて後を追いかけた。
肝心のカヌレにも派手な音は聞こえていた。が…。
「ん?なんだ?……まぁ、とりあえずここの部屋探索してから、そっち方面に行くか。」
相変わらずのお転婆娘。特になんとも思ってなかった。
「………十七年前の事件は、あなたも容疑者として浮上していたうちの一人でしたね。画家のブリュレさん。」
タタンが静かに言う。彼はそうだねと穏やかに言った。
「けどアリバイがあったし、当時の証拠は不十分。…そうして捕まらなかった。そして僕も最後の事件で、もう人間に諦めが入ったからやめるつもりだった。」
画家というものは、非常に難儀な仕事でね、と彼は渇いた笑い声をあげた。
「絵が美術館に飾られたとしても、それを見に来る人はほんの一部だけ。それに他の画家の作品と一緒。生涯かけて、どれほどの作品を生み出して、お金が溜まるか否か、やっと個展が開けるか否かくらい…。でもそれでも、熱はあったんだよ。作品に対する熱はね。」
ほどほどに売れてる画家だったんだ、と彼は自慢げに言った。
「最初はただの殺風景とか、命の無いものを書いてた。でもある日、結婚記念に…と、とある夫婦に描いて欲しいと頼まれたんだよ。その時描いた絵には、自分でも感動した。これから幸せになる二人に送る絵。命のあるものを書いた時の、あの幸福感。僕はそれが忘れられなかった。だからあの絵を大切にして欲しかった。とっても綺麗な二人だったんだよ、まるで絵になるような…そんな二人。」
「とても素敵なことでございますね。」
タタンが相槌を打つ。彼は嬉しそうに言ったが、急に低くくぐもった声を出した。
「だからこそ、許せなかったよ。僕の作品が捨てられているのはね。それどころか…その二人は子供が出来てすぐに離婚したんだ。それぞれが別の相手と再婚…。その時になって初めて気づいたんだよ、再婚相手との絵じゃ…全く絵にならないことにね。どちらかが欠けてもだめ、その二人でないと駄目…。僕は失望したよ。それどころか、女はまたすぐに離婚して再再婚…と繰り返し、男は酒と薬物に染まって見た目も大きく変わり果てた。昔のことがよぎったんだ、僕の父や母も同じような末路だったとね。小さい頃は、僕もよく両親を描いていたんだ。最初は褒めてくれたさ。でも…そんな末路に向かうにつれてね…。」
彼は、重いため息を吐いた。
「僕の両親は、僕の絵の才能を馬鹿にしたんだよ。お前に描かれた夫婦は、自分達のように離婚しちまうんだってさ。それで僕は無機物ばかり書いていた。なんの楽しみも無い。あの初めに描いた夫婦は…それでも僕に手を差し伸べてくれて、描いて欲しいと言ってくれた。だから僕も勇気を出して描いたのに…。彼らは離婚し、絵にならない相手ばかりを…。」
「それで、夫婦を殺したのですか?」
タタンの言葉に、彼はそうだと頷いた。
「絵にならないのなら…どうせそんな末路を辿るのが目に見えてるなら、殺して、二人並べて絵に描く。その方がきっと二人は、いつまでも幸せでいられるだろう?僕なりの彼らへの贖罪だよ。絵を描いてしまったことのお詫びだ。僕の絵で離婚してしまうのなら、幸せが消えてしまうのなら、永遠に幸せなままを描く。これって素敵だろう?」
「永遠ですか。誰もが夢見るものでございますね。」
タタンがのんびりと返事をする。その時、丁度ホールの扉が音を立てて開いた。ガレット刑事とポムの二人が姿を現す。ガレット刑事は状況を察すると、すぐに壇上に横たわっている弟を見つけた。思わず叫ぶ。
「フロランタン!」
画家ブリュレはわあ…!と嬉しそうな声を上げた。だんだんと濃くなる霧の中、ポムとガレット刑事の二人に向けて、両手で死角を作る。子供のように、キラキラと目を輝かせていた。
「予想外だけど悪くないね。あの店の近くでこの子を見かけたとき、カウンターにいた赤髪の君とこの子を並べようと思ってたけど…まさかそれ以上の組み合わせがあるとは、素晴らしい!あの時、思ってたんだよ、あの最後に殺した夫婦以降、素敵な夫婦が見つからなくてね。いつかあの夫婦の子供たちが大きくなれば…きっとまた素敵な絵がかけるんじゃないかって!期待以上だよ。そしたらこの子は、カウンターで隣に座っていたあの女探偵の子でもいいねぇ…その組み合わせは考えていなかったけど、それはそれでありだよ。君達は兄弟なんだろう?兄夫婦と弟夫婦…そりゃ弟の方が強気と言うより穏やか…で、二番目…ああ!悪くない!きっとあの女探偵もここに来ているんだろう?二組の夫婦…きっと幸せになれるよ。」
画家の惚気に、ガレット刑事がふざけるな!と怒号を飛ばす。
「身勝手なお前のせいで、どれだけの悲しみが生まれたと思ってる!十七年、お前が停滞していた間、俺達はずっと…!親が、注文済みの俺達の誕生日ケーキを受け取りに行って、翌朝になっても帰らなかったあの日のことを…死体になって路上で発見されたと、家の玄関で言われたあの日のことを…一度足りとも忘れたことは無い!お前を逮捕する!」
ポムがちらりとガレット刑事の方を見る。初めて聞いた彼の過去の一部は…あまりに重かった。彼の言葉に、ブリュレが乾いた笑い声をあげた。
「なんて素晴らしい、劇的な再会じゃないか。そんな人生のスパイスが、僕の絵を加速させるんだ。裏設定があればあるほど、絵の付加価値はどんどん高くなる。ああ、惜しいことをしたね。最後のあの夫婦の絵こそ、君にプレゼントするべきだったのか。まあ、でもいい。画家がこれから絵を描くんだ。モデルは大人しくしてもらわないとね。」
そう言って画家がパチンと指を鳴らすと、舞台袖から、四人の男女が出て来た。四人とも銃を取り出し、二人に銃口を向ける。その顔を見て、ガレット刑事が驚きの声をあげた。
「なぜ…ここに…?!ファッジ警部補…サントノレ捜査官…科捜研のベニエ…鑑識の琥珀糖…。」
信じられない顔で彼は呆然とした。その様子を見て、ポムは四人を睨みつけながら静かに言った。
「ショックよね。あたし的には、ホラー苦手だから相手が人なのは良かったけど…五人相手じゃ、こっちが不利だわ。とりあえず二人仲良く絵画にされる前に、どっちかでも生き残りましょ。」
「おい、どっちかってそれは無いだろ。」
ガレット刑事が呆けつつも、冷静に切り返す。その会話を聞いていたタタンが、のんびりと画家ブリュレに向かって言う。
「…ある程度、会話は落ち着きましたかな?」
「ああ、君は老人の執事だったね。君は絵画に書く予定は無いから、ゆっくりしていると良いよ。」
そう言って、画家ブリュレが琥珀糖のみに指示を出す。彼女の持つ銃口がタタンへと向けられた。
「十七年前は銃は発砲音がするから避けてたんだけどね。まあ、このオンボロ屋敷で、銃声が少しくらい鳴っても大丈夫だろう。それに人数が多いと、銃のほうが圧倒的に楽なんでね。安心して良いよ、僕の足元に転がっている彼は、あの女探偵が来てから殺してあげる。描く直前に殺さないと鮮度が…。」
「左様ですか。」
タタンが話の途中でにっこりと微笑んだ。
ブンッ。
突如、彼が腕を振り上げると、琥珀糖に向かって何かが真っすぐ飛んでいった。避ける暇など無かった。見事に銃を持つ手にヒットし、あまりの痛みに彼女が手を抑え、銃を落とす。突然の事態に全員がフリーズする。その瞬間をついて、タタンが琥珀糖の隣にいるベニエに向かって走り出す。はっと我に返ったブリュレが慌てて叫ぶ。
「執事を殺せ!」
ベニエの銃が発砲されると共に、ポムとガレット刑事も我に返る。ガレット刑事がポムの腕をがっと掴むと、走り出し、近くの座席の背に身をひそめた。即座に銃声が響き、座席の横をすり抜けていく。
「タタンは大丈夫なの?!」
ポムの叫びに、ガレット刑事が座席の隙間から動向を伺う。執事は銃弾をうまく避けたり、近くにある物を縦にしながら、ベニエに近づき拳でぶん殴っていた。近くにいる琥珀糖もついでに足で蹴り飛ばす。その様子を見て、彼はポムに言う。
「見る限り大丈夫だ。今のうちに、画家に近づくぞ。お前はここに隠れてろ。流れ弾を食らう可能性がある。」
「何言ってんのよ、二人の方が画家を組み伏せるのに、成功率上がるでしょ!大体、画家の近くには、あんたの弟がいるのよ?弟に手を出されたら終わりじゃない。弟の命を優先しなさいよ。あたしが画家を抑えるわ。」
強気な目を見て、ガレット刑事がため息をつく。眉間に皺を寄せて、不服そうに言う。
「一般人を巻き込むわけには…。」
「そんなこと言ってる場合?!」
ポムの言葉に、銃声音が鳴り響き、再び座席の付近に銃弾が飛んでくる。二人は座席の影に身を預けつつ、長ったらしく言うのも面倒になったガレット刑事がムカつきながら叫ぶ。
「分かった、お前は弟だ。俺は画家をやる。」
「わかったわ。」
二人は顔を見合わせると、別々の方向から動き始めた。身をひそめつつ、ガレット刑事は右から、ポムは左から…座席から座席へと移動をし始めた。
「モデルの二人が隠れちゃった上に…。なんなんだお前は!僕の言葉を…最後まで聞かないなんて!気にならないのか?!十七年前、僕がどうやって霧の中で夫婦を連続で殺して、そして僕がどうして捕まらずにすんだか…。」
「気になりませんね。私、探偵じゃないので。」
サントノレ警部補の銃弾を避けながら、タタンが平然と言う。画家はあり得ない…と口を震わせながら、タタンに向かって思い至ったように言った。
「そうだ、君と君の奥さんの絵画でも描いてあげよう。」
「それは素晴らしいですね。ぜひとも描いていただきたい。私の妻は、若くして他界しておりますので。」
穏やかに、どこか嬉しそうに言うと、タタンはサントノレ捜査官に近づき、腹に膝蹴りをかました。相手は呻きながら膝から崩れ落ちる。その直後ファッジ警部補が銃を発砲するが、即座にタタンはサントノレ警部補の足を盾にして、銃弾を避けた。サントノレ警部補が足を撃たれ、悲鳴をあげる。それを見ていた画家が驚きの声を上げる。
「君は、人でも盾にするのかい?!」
「あなたと違って、命までは取りませんよ。足くらいなら、逃げられず丁度良いでしょう?それとも…人間を描くうちに、情でも芽生えましたかな?」
「…常軌を逸しているよ、君。」
画家がそうつぶやいた時だった。タタンが残るファッジを蹴り飛ばすと共に、画家ブリュレの背後から、いつの間にか接近していたガレット刑事が覆いかぶさった。ブリュレを床に押し付け、すぐに、がちゃんと手錠をかける。
「ブリュレ!逮捕だ!」
画家のブリュレが悔しそうに呻き声を上げる。近くのパレットには、既にポムの赤髪の赤色や、ガレット刑事の服の色などが揃っていた。しかし、キャンバスは白いままだった。近くで手足を拘束され、目隠しとさるぐつわをされて横たわっているフロランタンを、ポムが即座に解放する。彼がはぁはぁ…と息を吐きながら、涙目で周囲を見回す。そして状況を察すると、ガレット刑事に向かって震える声を出した。
「兄さん…。来てくれたんだね。終わらせてくれたんだね。」
彼は画家を押さえつけながら、フロランタンの方へ顔を向けずに言った。その声はどこか穏やかだった。
「ああ。終わったよ…フロランタン。長い悪夢は。警察に電話してくれ、ポム。」
ポムが優しく微笑み、スマホを取り出す。タタンが穏やかに微笑みながら、パンパンと執事服を整えた。その時、バリイイイイと派手な音を立てて、ホールの上から一人の女探偵が沢山の絵画と共に落下してきた。ドスンとしりもちをつきながら、霧の中小さく呻き声をあげる。腰をさすりながら、霧の中で目を細めて、なんとなく周囲の状況を察する。
「いったあ…。え、あれ?もう事件解決しちゃった感じ?」
私の出番なしかよぉ…とか不満げに呟きながら、ぐーっとのびをした。そしてポケットから、銀色の耳飾りを取り出すと、呆けている全員に向かってえへ~と笑った。霧の中でも見えるように片手に持ち、手をあげる。
「じゃーん!この被害者の絵が飾られている隠し部屋にさあ!なんとねえ、超お宝発見したのっ。十年前から行方不明だった、トルマリンの幸福を呼ぶ耳飾り!まさか元ポルボロン伯爵邸の隠し部屋にあるとはね~、これで私も大手柄!」
彼女がニマニマとしていた時だった。
「確かに綺麗だな。」
何気ない声が響き、カヌレがそうでしょと返事をする直前だった。後ろから彼女の腰に手を回し、持っていた宝石をすっと手から取った者がいた。霧の中、彼女がきょとんとして後ろを振り向きかけた時、顔のすぐ横に、仮面と銀髪が見えた。
「うげっ?!」
彼女が声をあげると共に、怪盗ノクターンはすっとカヌレから離れると、宝石を持ったまますぐに霧の中に消えてしまった。
「これは頂いていくぞ。」
「ちょ、待てコラ!」
カヌレが慌てて追いかけるが、足音が消え、完璧に霧が濃くなりどこに行ったのかもわからなくなった。彼女がぐ…と悔し気に拳を握りしめると共に、霧の中からポムの呆れた声が響いた。
「もう、何やってんのよカヌレ。」
その時、パトカーのサイレンが響き渡った。こうして、十七年前の事件はついに終焉を迎えた。
読んでいただきありがとうございます!
今回の話も楽しんでいただけたでしょうか。
活動報告書の方にも書きますが…なんと作者、Xアカウントをついに作りました。
おめでとうございます!ありがとうございます!!
しかしXアカウント作りたて初心者ですので、あのアカウントのアイコン画像とヘッダーしかまだ作ってません。プロフィールとか諸々は後でぼちぼち作ります!
しかもアイコンとヘッダーは、AI君に生成してもらったカヌレ探偵と怪盗ノクターンになってます。ちなみにヘッダーに限ってはなんでこの二人が車に乗ってるのか、しかも警察に追われてんのか、全く分かりません。本編に今のところ存在しない画像となっております。理由はAI君に聞いてください。怪盗ノクターンがハンドルを握ってるのが個人的に面白くて気に入ってはいます。
良かったらXアカウントも見に来て、フォローしていただけると幸いです!
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