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第三話 タイトルは頂いた

夜。ミルフィーユ美術館は、厳重な警戒態勢に入っていた。沢山の警官がいて、一般客はいない。美術館内にはカヌレ名探偵とポムの二人…と、多くの警官、そしてガレット刑事がいた。

「また、お前たちと関わることになるとはな。」

「あたし達にじゃなくて、怪盗ノクターンに言ってよ。あいつが予告状出したんだから仕方ないでしょ。」

ポムが不満げに言う。昨日カフェロイヤルで、ポムが取ったレシートの裏に、怪盗ノクターンからの予告状があったのだ。それは、カヌレ探偵を名指しで呼んだ不敵な予告状だった。二人は即座に警察に電話し、現在重要人物としてこの場にいる。

「それに今回は、私もちゃんと探偵として準備してきたんだよ。ポムとの待ち合わせには少し遅れたけど、これで怪盗ノクターンも怖くないッ!」

そう言って、カヌレがえへんと満足げな顔で、両手を腰に当てる。ガレット刑事が彼女をじっと見る。明らかに身長が高い。十数センチは高くなっている。足が何やら…変だ。太ももの付け根から、ぶっとい円柱みたいなものを履いている。

「…ふざけてるのか?」

「…あたしも思ったわよ。」

ポムも呆れているように、ため息をつく。二人の反応にカヌレは、ええ?!でもでも…と言いながら、両手をぶんぶんとふった。

「この太くて長い靴は、硬い!そして長い!つまりリーチが長いというわけだから、怪盗ノクターンを見つけて回し蹴りしても、届くんだよっ。普通の蹴りでもリーチが長いからいける。しかも硬いから怪盗も流石に悶絶して苦しむはず。私女だからね、力は弱いから武装してなんぼよ!」

えっへんどうだと言わんばかりにカヌレが両手を組む。ガレット刑事がはぁ…と、ため息を吐いた。

「怪盗ノクターンも、なぜこの探偵に予告状を出したのか。理解しがたいな。」

その言葉にカヌレが能天気に、それって私達が超優秀だからじゃない?とポムに向かって目をキラキラさせて言う。ポムが…その恰好で?と言い切る。そんな二人の様子に、ガレット刑事は首を横に振ると、近くの警官を呼び止めた。

「おい、警備はどうなっている。」

「ハッ。美術館内の警備は全て整っております。一般人や不審な人物は、今のところ見かけておりません。また、館内にある王妃の涙は厳重なセキュリティと、多くの警官によって守られております。」

「よし。引き続き厳戒態勢のままでいろ。奴はいつ来るか分からん。」

警官が声と共にビシッと敬礼すると、ガレット刑事もビシッと敬礼をした。

「全く、良いか。お前たちはあくまで重要参考人であってな…。」

彼が不服そうに言いつつ、目の前の二人に視線を向けた時だった。いつの間にか二人の姿はl目の前から消えていた。思わぬ事態に彼は驚く。慌てて周囲を見回すが、見当たらない。小さくつぶやく。

「あいつら…どこに行った?」

めんどくさそうに頭をかくと、しばらくしてまあ、別に良いかと言った。

「どうせ好奇心旺盛な探偵たちだ。またどうせ幼稚な謎解きでもしているんだろう。あいつらに時間を取られている暇は無い。どうせ警官達が沢山いるんだ…どこかの警官に捕まってるだろう。後で確認すればいい。とにかく警備だ。」

そうつぶやくと、くるりと背を向け、王妃の涙のある警備室へと移動した。


その頃、二人はガレット刑事の予測通り、警官に話を聞いていた。

「王妃の涙は、古来キルシュトルテ時代の宝石です。ショートケーキ王妃に献上された、世界で一つのアクセサリーとされています。名前の由来は、一度チョコレートケーキ王が行方不明になった際、ショートケーキ王妃が涙を流したことに関係しています。その時の涙をこぼす様子は、いつもの凛々しい王妃の仮面は剥がれ、一人の王子を想う姫の涙そのものであったそうです。チョコレートケーキ王はその後王妃の元に戻ってきて、二人は再会することが出来ましたが…王が、もう王妃が自分のために二度と泣かないですむように、と王妃の涙というアクセサリーを作ったそうですよ。」

その話を聞いてポムがへえ…と頷く。カヌレが、すごいロマンチックな話だね~と呑気に言う。警官も少しだけ微笑んだ。

「ええ、とてもロマンチックな話ですよね。その後二人は死ぬまで幸せに暮らしたそうですよ。」

「でも、あいつそんなロマンチックな宝石のアクセサリーを盗もうとしてるわけ?」

ポムがキザ野郎ねと言うと、カヌレもうんうんと頷いた。

「怪盗が盗み出すといえば美術館…みたいなところあるからねぇ。もうちっと変わったところ盗めよとは思うもん。それに宝石も、そんなロマンチック系じゃなくて、男ならこの美術館にあるもっと呪詛系の宝石盗めっての。いやあれは怖すぎるか、流石にやばいからやっぱ盗まないでおくべきものだわ…。」

勢いよく言ってたが、だんだんと勢いが落ち始め、少し自分の主張の不備を感じ始め…遂に顔が曇ってしまった。だがその様子とは反対に、ポムと警官は驚いていた。

「え?!呪詛系の美術品とかあるの?!」

「自分も王妃の涙しか調べて来てなかったんで、初耳です!」

ポムが警官に警備としてそれはどうなのよ、と突っ込むが、警官は困ったように自分新人なんで見逃してくださいよ〜と言った。呪詛系の美術品はあるよ?とカヌレがへらっと言う。

「女に全人生を狂わされた美術家の男が、女を恨みつつも書いた神話の絵とか…家族全員殺された音楽一家に飾られていた、血の翡翠とか。」

思わぬ言葉に2人がうわ…と声をあげる。2人ともゾッとした表情で顔を見合わせる。カヌレも怖いよね〜と曇った顔をする。その時だった。

「おい、何してる。」

聞き覚えのある声が聞こえてきて、2人がビクッと体を震わせる。恐る恐る振り返ると不機嫌なガレット刑事がそこにいた。呆れた顔で2人を見つめている。

「全く…お前たち2人を探す気などさらさら無かったが…警備の巡回に来てみれば、警察に迷惑をかけてるとはな。迷子の子猫ちゃんか。」

「犬のおまわりさんの方が、どっかの刑事より話しやすいわよ。」

ポムが不服そうに言う。ハア…とため息を吐きながら、ガレット刑事が二人に言う。

「王妃の涙の部屋に行くぞ。怪盗ノクターンが侵入してきても、お前達重要参考人がどんな宝石か分かって無ければ、もしそこら辺に落ちていても分からないだろう。」

ガレット刑事の言葉にカヌレとポムが確かに…と顔を見合わせる。二人は先ほどまで話していた警官にお礼を言うと、ガレット刑事についていき、王妃の涙が飾られている部屋へと移動した。

王妃の涙が飾られている部屋は、正方形の部屋だった。見る限り暗い部屋で、部屋の隅やショーケースの前には警備員がずらりと並んでいる。真ん中のショーケースには豪華なアクセサリーが飾られていた。

「すごいわね。流石に厳戒態勢なだけあるわ。」

「あれが王妃の涙?」

カヌレがガレット刑事に確認すると、彼はこくりと頷いた。

「あれこそが王妃の涙だ。今のうちに外見だけでも記憶しておけ。そこらへんに怪盗が落としても分かるようにな。」

二人がショーケースの方をじっと見つめる。中央に涙型の宝石が大きく飾られており、周囲には色とりどりの宝石が散りばめられたネックレスだった。ポムがしげしげと眺めながら言う。

「本当に真ん中にあるのが、涙の形をしているのね。…綺麗だわ。」

「あの涙型の宝石はベニトアイトだ。三大希少石の一つでもある。世界で限られた場所でしか取れない宝石だ。光を分散するから、ダイヤモンドと同等、もしくはそれを凌ぐレベルの輝きを持つ。」

「石言葉は高貴、希望、成功だね。たった一人の王妃に対して、王からのとても粋なプレゼントだ。」

ガレット刑事の説明にカヌレが付け足す。ポムが二人の話を聞きながら、じっとショーケースの方を見る。

「素敵な宝石なのね…。」

その時だった。部屋にいた一人の警官が、いきなりどさりと倒れた。全員がびくりと体を震わす。近くの警官が大丈夫か?と声をかけそうになった時、ガレット刑事が慌てて呼び止めた。

「待て!怪盗ノクターンの仕業かもしれない。全員動くな!」

その言葉に全員がぴたりと動きを止める。しかし倒れた警官は、少し呼吸が浅くなっている。苦しそうに床に転がる姿を見て、カヌレが言った。

「ちょっと待って。彼を助けてあげて。」

「馬鹿言うな。これが怪盗ノクターンの罠で、助けた瞬間に宝石を取られでもしたらどうするんだ。」

ガレット刑事が真剣な声で切り返すが、カヌレはぶんぶんと顔を横に振った。

「いいや、怪盗であるはずが無い。というか、ここまでする理由がない。相手はあの怪盗ノクターン…新聞でみる限り、奴は月を背に立っているところをわざわざ記者に取らせているくらいだよ。それなりに余裕があり、かつプライドも高い。自分の動きに絶対に捕まらないという自信を持っているはず…。自分の盗み方には一定のプライドがあるはずだよ。それに、倒れた警官をよく見て。発汗に、苦しそうな表情。あれを罠にするのなら、怪盗という風上にもおけないんじゃない?そうでもしないと盗めないのってなるし。」

カヌレの言葉にポムが何かを察したようにあー…と言う。

「カヌレ、あなたそれ…もし罠だったら、遠回しに怪盗ノクターンのプライドを試してるわね…。そこまで言われたら、怪盗ノクターンも、怪盗と名乗ってるくらいだし…自分の名前に誇りがあるなら動けないでしょうね…。」

二人の言葉に、ガレット刑事はしばらく迷うような表情を見せていたが、分かった、他の奴はそれでも動くなよと言い、静かに倒れている警官の傍に歩み寄った。

「おい、大丈夫か。」

ガレット刑事の言葉に、警官は苦しそうな表情で彼を見た。

「な、なんだか…頭が割れるように痛くて…。」

ハアハア……と呼吸を整えている。ガレット刑事は近くの警官の一人に声をかけた。

「悪い、外へ運ぶのを手伝ってくれ。」

「は、はいっ。」

二人で具合の悪い警官を運び上げると、外の廊下へと連れ出した。ガレット刑事がポムとカヌレの二人にも外へ出るように指示し、残りの警官には厳重に怪盗ノクターンへの警戒を怠らぬように言った。


外の廊下に出て、美術館内の椅子に横たわらせると、具合の悪い警官は少し呻いた。

「…症状に心当たりはある?」

カヌレの言葉に、警官は具合悪そうになりながらも首を横に振った。ガレット刑事が一緒に運んだ警官に声をかける。

「こいつはさっきまで普段通りだったのか?」

「はい。自分が警備に当たっている時は、何も様子はおかしくありませんでした。」

ガレット刑事がふむ…と不思議に思っていると、具合の悪い警官は気持ち悪い…と言い始めた。

「とりあえず、救急車を呼んでくれ。怪盗ノクターンの侵入経路が出来てしまうのは癪だが、致し方ない。」

「すみません、ガレット刑事…。」

警官が申し訳なさそうに言う。すぐに運んで来た警官が救急車を呼ぶ。ポムは持っているハンカチで、具合の悪そうな警官の汗を拭いてあげていた。カヌレはしばらく考え込んでいたが、ガレット刑事に言った。

「美術館には、何時から?」

「今日の五時からだ。今は十時だから五時間くらい経つな…。怪盗ノクターンがいつ現れるか分からないから、警備は交代制だ。その間に食事休憩を取らせるようにしている。」

その言葉を聞くと、カヌレは具合の悪い警官に歩み寄った。

「食事休憩には?」

「はい、一時間前に。」

「なにか食べた?」

「市販の総菜弁当を…。」

カヌレはしばらく考え込んでいたが、静かに言った。

「ニラ、タマネギ、ニンニク、ヤマイモ、サトイモのどれかが入ってた?」

カヌレの次々くる質問に、ガレット刑事がおいそこまでに…と言いかけた時、具合の悪い警官が言った。

「ニラは…ありました…。レバニラ炒め…。」

その言葉を聞くと、カヌレは静かに頷いた。

「食中毒だね。おそらくスイセンか、スノーフレークだろう。レバニラ炒めの中に混ぜてあったか、全てニラじゃなかったか…かな。」

思わぬ推理にポムとガレット刑事が驚きの声を上げる。ガレット刑事は市販の弁当だぞ?と指摘する。

「この警官以外にも被害者がいるはずだろう?市販弁当なら、買った人間は他にもいるはずだ。」

「確かに市販弁当だけど、被害に遭ったのはこの警官だけだと思うよ。おそらく割引かなんかになってたんじゃない?」

カヌレの言葉に、具合の悪い警官が静かにうなづく。二人の戸惑う顔に、カヌレは静かに言った。

「警官の履いてる靴や、服装を見ればわかるよ。彼はブランド品を身に着けている。だけどその割には靴下は少し古いものだし、顎髭のそりも少し残ってることから、顎髭処理の道具も高くないものを使ってる。体は多少筋肉質だが、その割に腹部が少し出ていて肥満気味。つまり彼はブランド品を買う代わりに他の部分を切り詰めている。だから、食費もそこまでかけていないだろうと思ったんだよ。」

カヌレの推理にポムがすごいわね、よく見てるわねと感心する。ガレット刑事も呆然としていたが、しかしそうだとしてもだ、割引弁当のレバニラ炒めのニラをスイセンと入れ替えたら、バレるだろうと言う。

「割引弁当とはいえ、一度蓋を開ければ開けたことがバレるはずだ。それに市販の弁当の中身を入れ替えるとなると、人の目もある。一体どこでどうやって入れた?」

その時サイレンの音が遠くから響いた。丁度救急車が到着したらしい。入口の方でどたどたと走って来る足音が響いた。すぐに救急隊員が四人の目の前にくると、具合の悪い警官へ目を止めた。症状を見て、いくつか質問をして確認をする。具合の悪い警官はすぐに担架で運ばれ、病院へ行くこととなった。

「それでは、失礼いたします。」

救急隊員がぺこりと頭をさげると、すぐに救急車へ乗り込んだ。再びサイレンが響き渡り、美術館から救急車が出ていく。それを見送ると、ガレット刑事は重い溜息を吐いた。くるっと踵を返すと、警官達に言った。

「すぐに不審な人物が美術館に出入りしなかったか、確認しろ!隅々までもだ!怪盗が侵入していたら非常にまずい。確認を取れっ。」

「ハイッ。」

警官達がそれぞれの持ち場で確認を行う中、ガレット刑事がカヌレの方をちらっと向く。

「それで、さっきの質問を聞いてなかったな。市販弁当の中に、しかもあの警官に、一体どうやって…誰がなんのためにスイセンを入れたと思うんだ。」

「………ポムをハメようとした人物だろうね。SRという人物だろう。」

カヌレの言葉にポムがびくっと反応する。その様子にガレット刑事が訝し気な視線を向けながら、こいつをはめようとした奴だと?と疑問をぶつけると、カヌレは静かに頷いた。

「話は長くなるから、省略するけど…ポム以外にも奴にハメられた人は沢山いる。奴は人を使って、凶器が残らない上に、そこにあっても誰も気づかないものを使わせて犯行に及ぶ。そういう人間がいるんだよ。」

カヌレの真剣な声に、彼はしばらく考え込んでいたが、なんとか飲み込んだ様子だった。

「仮にそいつがいたとして、どうなる?」

「そいつの目的は、おそらく怪盗の品位を落とさせようとしたんだろう。つまり本来ならばあの状況は怪盗の罠だと思われて、警官は誰にも助けてもらえなかったはずだった。そうなれば、例え怪盗が盗みにきても、具合の悪い警官を囮に盗み出すような怪盗だと思われてしまう。それではせっかくの品位が下がる。SRはそれを狙ったんだ。あの場に具合の悪い警官を配置することで、怪盗が盗みたくても盗めない状況を作る。それが奴の狙いだったんだろう。ただし、これは防がれることが前提だった。」

「………というと?」

ガレット刑事が聞くと、カヌレは淡々と言い始めた。

「私とポムだよ。私達二人は既に怪盗からの予告状を貰って、ここに来ていた。SRはおそらく、私がその警官を助けようすると分かっていた。そこで、具合の悪い警官を救急車にのせるイベントを、カモフラージュにしたんだ。そっちが本物のように見せかけて、SRの狙いは一つ。怪盗が盗みに失敗してしまうこと。そうすれば今まで盗みに成功していた彼の品位は落ち、警官の名声はあがり、支持率があがる。警察の支持率があがるのは良いことなんだよ。なにせ、警官の中には、奴の手先になった警官が紛れてるからね。そしておそらく…自分の手駒である警官の一人を使って、全てを成し遂げたんだ。食事休憩中に、監視カメラの無い食事休憩の部屋でご飯を食べながら、先程救急車に乗せられた具合の悪い警官が食べる予定の市販の弁当に、スイセンを混入。その後、今、私達が具合の悪い警官の対応をしている隙に…ショーケースに施した細工を使って、王妃の涙が絶対に上に持ち上げられないように、内側から固定したんだよ。」

思わぬ推理にガレット刑事が愕然とする。口元が少し震えていた。

「警官の中に…だと?そんなはずはない…。」

その言葉にカヌレは小さく微笑んだ。

「信じたくないのなら信じなければ良い。でも、それが真実だよ。」

その真っすぐな言葉に、彼はなにも言い返せる言葉が見つからない様子だった。ぎゅっと拳を握りしめ、うつむいてしまった。

ポムも驚いた顔でカヌレを見ていたが、恐る恐る言う。

「でもじゃあ、もう王妃の涙は無事なのね…?でも怪盗側を支持するわけじゃないけど、警官をあんな目に遭わせた奴だもの…。SRとかいう奴の思惑通りになるのは嫌ね…。」

ポムの言葉にカヌレはうんうんと頷いた。

「王妃の涙は無事だよ。」

その時だった。


「あ、ポムいた!…え~ん、ポム~~。私、太くて長い靴を履いたんだけどさあ…。」

突如、悲嘆にくれた声が横から飛んで来た。全員が、声のする方向へと目を向ける。そこには、いつもの身長のカヌレ探偵がいた。手にはあの太くて長くて硬い靴を一足抱えている。いかにもしょんもりとした表情で、俯きながらとぼとぼ…と、ガレット刑事とポムの方に近づいてきていた。

「私さァ…あの靴があれば、ちょっと十センチくらい身長高くなるけど…怪盗が来ても回し蹴りできると思ったんだよぉ…。それで通販でわざわざ買ったのに…太ももの付け根まであるから、座る度に下腹部に食い込んで…お腹刺激されて…。美術館についてからお腹痛くなって、ずっとトイレ籠ってたの…遅れてごめぇん…。もう二度と履かないよぉ…。」

ポムとガレット刑事が驚きで固まりながら、恐る恐る今さっきまで推理をしていたカヌレの方を見る。そしてとぼとぼ…と近くに来ているカヌレの方を見て、両者を見比べる。すると、しょんもりとしていたカヌレがふと顔を上げ、驚きの声を上げた。

「え?!うっそ私?!しかもその駄目な靴履いて…?!」

その瞬間、ガレット刑事が身長の高いカヌレに飛びかかろうとする。が、身長の高いカヌレの方が、動くのが速かった。ガレット刑事がばっと両腕で抱え込んだものは…探偵服だった。美術館内の廊下に現れる一人の男。身長は、先ほどの身長の高いカヌレに変装している時と、なんら変わりない。紺色のマントに、金色の装飾。首元には青いブローチ。銀髪を頭の下の方で束ねている。黒と金の装飾の仮面を付けながら、片目は銀髪で隠していた。カヌレにすっと近づくと、耳元でささやいた。

「ようやく会えたな。」

カヌレがぽかんとしていると、声が上がった。

「怪盗ノクターンが現れたぞ!囲め!」

警官がバッとカヌレとノクターンを取り囲む。ポムが少し離れたところからカヌレ!と声を上げる。怪盗ノクターンは警官など目に入らぬ様子で、カヌレに言った。

「俺がお前に変装するとは思ってもみなかったか?」

「え…いや…。てか……なんで私が、通販でこの靴買ったの知ってんの?」

すっごい恥ずかしいんだけど…と彼女が言うと、怪盗ノクターンは少しだけ驚いた様子だった。

「呑気だな。」

「…まぁ、トイレに籠ってたからね。もう勝ち目ないだろ、なんか知らぬ間に目の前に怪盗現れてるし…。私のフリしてたっぽいし…。怪盗VS探偵みたいな展開とはいえ、圧倒的に不利だろ。もう逃げられて終わりだからな…。」

カヌレは覚悟した様子で、仕方ない…と小さく溜め息を吐く。その様子を怪盗ノクターンはじっと見つめると、不敵に微笑んで静かに言った。

「ほう?俺はお前をずっと待っていたがな。一つ教えてやろう、SRというやつの名前はサバランだ。」

「………は?!」

思わぬ言葉に、カヌレがびっくりして目をかっぴらく。その様子に、彼は不敵に笑った。

「俺に先手を取られたくないのなら、答えを言われる前に推理をすることだな。」

次の瞬間、怪盗ノクターンはマントを大きく翻した。一瞬で、その場からいなくなる。警官達が驚いた様子で、ざわざわとする。カヌレはしばらく呆けていたが、急に怒り始めた。

「アイツ!むかつくっ。キザ野郎。なにサラっと答え言ってんだ!せっかくSRについて推理しようと思ってたのに!」

んきぃーーーー!と声をあげるカヌレ。すると少し離れたところで、ぽかんとしているポムとガレット刑事に気付いた。

「あいつむかつくよなぁ?!ポム!」

二人は顔を見合わせた。そして再びカヌレを見る。只ならぬ様子にカヌレがようやく気が付いて、ん?と首を傾げると、ポムが恐る恐るカヌレを指差した。

「カヌレ、それ…王妃の涙じゃない?」

「……へ?」

カヌレがぽかんとして、自分の首元を見つめる。そこには、確かに王妃の涙がぶら下がっていた。キラキラと輝く宝石は綺麗だが…。

「お、重っ!硬っ!…ちょ、これはやく取ってぇ!」

カヌレの悲鳴が響き渡った。


三話一挙公開、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました !!


皆様の貴重なお時間を少しだけ『頂いた』こと、心から感謝いたします。一年のブランクを経て、こうして再び物語を紡げるのは、待っていてくださった皆様のおかげです。


……さて、ここからは通常の連載ペースに戻ります。次回は明日の19時に更新予定です !!


この三つ巴の火花がどこへ向かうのか、これからも私と一緒に見届けていただければ幸いです。それでは、また次のお話でお会いしましょう !!

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