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第十八話 彼女はカヌレ探偵

「…さて、まずここからどうするかだね。現状は私1人だけここにいる状況だからな…。」

カヌレが地下通路で立ち止まり、1人うーんと唸る。周囲には誰もいない。が…彼女の瞳には絶望は消え、夜明けの光が満ちていた。

「まぁ、これまで沢山の嫌なことをされてきたわけだし、それなりの地獄を見てきたわけで…なんなくとはいかないが、乗り越えてはきた。それなりになんとかなるだろうとは思うけど…。」

ぶつぶつと言いながら腕を組む。脳内の計算がカタカタと回り始めていた。

「サバランの狙いは私だろうね…一度話に来たくらいだし…(※第八話参照)。そして私を今みたいに追い詰めてるけど…へっへー!絶対一線越えてやんねーの☆そりゃ人を憎んだり恨んだりもしたが…それもそれで悔しいからアイツらより幸せな人生送ってやる、人の不幸を願うより自分にもっと幸福よこせ!、と思うようにしてる。…んで、となるとあのサバランが私に逆転されるのも想定済みなはず…。」

そこで一つの考えが浮かんだ。

「…なんか奥の手とかありそうだよね。大体こういうのって追い詰めたぞ!とかしても、逃げられたりするのがオチなわけで…。逃げられるくらいなら良いんだけど…1番面倒なのが、何か大変なことを去り際に起こしていかれるとやばいよな。例えばあの時の去り際の火事みたいに…(※第八話参照)。となると…うーむ、それさえわかればあとは逆転の始まりをどうするかなんだが…。」

うんうんと彼女が唸っていると、ふと前方から足音が響いてきた。思わず構える。いつでも逃げれる体制は取ってはいるが…カッサータやシュトーレンには、自分がここにいるのはバレている可能性があるため、逃げられる保証はない。最悪の場合、戦闘しつつ逃げれる道を探すほかないが…。彼女が静かに息を呑む。足音は静かに近づいてきて、ついに近くの曲がり角まで来た。彼女が拳を握り締め、角から出てきた服の一部で即座に判断して、逃げるか否かを判断する心構えで待つ。…地下通路が急に静かになる。足音の正体は曲がり角の手前で止まったらしい。一瞬の沈黙ののち、正体はスッと曲がり角から出てきた。予想外の服の一部が出てきて、彼女が静かに構える。が…全体像が出てきてみれば、男だった。彼女は少しだけ衝撃を受けたが、警戒を解かなかった。

「…怪盗…だけど、本物じゃない説もあるか。」

カヌレが冷静にいうと、怪盗ノクターンはフッと笑った。あいがらずの銀髪を揺らし、マントを揺らしながらカヌレのポケットを指差す。彼女は怪盗から目を逸らさずに言った。

「待った。その手には乗らない。視線を逸らした途端、何されるか分からないからね。」

その言葉に、怪盗ノクターンは軽く顔を横に振ると、文句ありげに彼女を見た。思わぬ反応に彼女が視線を逸らさずにポケットに手を突っ込む。恐る恐る硬い紙を取り出すと、回答から視線を晒さないようにして、視界に入るように紙を掲げた。

「…なんかの住所?」

彼女のきょとんとした声に、彼は呆れたように頷いた。

「サバランにバレないように、お前を眠らせ、お前のポケットにその紙を忍び込ませたものの…。起きてみればスマホが無いとか言ってポケットに手を突っ込んでるのに…寝ぼけてるのか、入ってる紙に気づかない。…1人でぶつぶつと考え事してるから、これはもう気づかないだろうと思って出てきたわけだ。」

客観的に言われる自らの様。カヌレは、あ…ごめん…と流石に申し訳なくなって謝った。とはいえ、コイツが味方とも限らんと脳裏によぎり、相変わらず警戒を解かずに聞く。

「でも、この住所はなに?…それに、隣で寝転がられてたせいで、共犯とか風評被害を私受けてるんだが…?」

「その住所には、行ってみれば分かる。サバランを追いつめたいのなら、その住所に行くことだな。」

答えになってるようでなってない。怪盗ノクターンは不服そうなカヌレに近づいた。彼女は相変わらず文句を口走る。

「いや、住所はありがたいけども…。つか良いのかよ、巷で正体騒がれてんぞ色々と。…それにまぁ手助けしてくれるのはありがたいが、イマイチ信用出来ないんだが?目的わからんし、サバラン追い詰めようと思えば、怪盗だし追いつめられそうだし…わざわざ私にこの住所よこす必要ないだろ?!ほっぺにチューしたのだって、あれなんのつもりだよ?!」

そう言い切った途端、怪盗ノクターンがグッと顔を近づけた。彼女の口にキスをかますと、不敵に微笑んでマントを翻し、その場から去ってしまった。彼女はしばらく呆然としていたが、ポツリと呟く。

「…マジでなんなんだよ?」


仕方なくとぼとぼと地下通路を歩きながら、書かれている住所へと向かう。ご丁寧にどうやって行けば良いか書いてあるのは助かるが…。カヌレは自らの手の甲でゴシゴシと、自分の口をこすった。思いっきり不満である。

「…クッソ…。んだよ、アイツ…。キスしやがって、うへェ…。正体分からん男にキスされるとか、女にとってこんな怖いことは無いだろ…。かァーーっ。うげぇっ!なんか感触残ってるし、うーーっ!やだやだ!なんかムカつく。…あとで洗剤で洗お。」

手の甲で何度も拭い、ようやく感覚が消えて、彼女は満足そうに安堵のため息を吐いた。いや…まあ、相手からしたらあまりの仕打ちにひどい!と言われることは分かっているが。いいやよく考えれば、そもそも突然キスしてきた時点でセクハラである。なので、これくらいしても良いだろうとは思うカヌレであった。

「にしてもこれ…ソルベがいた時と違う道っぽいな…。あいつ、秘密の通路知りすぎだろ。え?排気口の中に入って、右左…?!…マジかよ…あんまりダクトの中とか入りたくないけど、やるしかないね。」

仕方なく指示通り、いろんな扉に入り、ダクトの中を匍匐前進ほふくぜんしんで進む。なにせ狭いし…一歩間違えれば戻るのも大変だ。不安に苛まれながら少しずつ進んでいく。いろんな部屋の上を通ったが、どの部屋も人はいなさそうだった。

「…腰痛い。とりあえず、もうすぐ通気口から出られるはず…。あ、あった!」

すぐに近くに通気口が見えた。彼女がそっと格子を外して、外に出る。どこかの通路っぽいが、特に人はいない。そして、すぐ近くに緊急避難時の脱出口があった。

「あそこか!えーっと…ドアノブを右に二回、左に三回…そして右に一回左に一回…。」

指示通りに回すと、すぐにがちゃっと音を立てて開いた。カヌレが開けると、風がびゅうっと吹き込んできた。

「うわっ!」

思わず片腕で顔を覆い、外の景色を盗み見る。外の様だが…目の前には林が広がっている。特に人は見当たらない。

「この先だよな…。林に隠れて進めって書いてある…。まあ、昼間だし、そりゃ林の中に人いたら見えるもんな…。気をつけて進もう。」

メモを確認し、彼女は静かに外へと踏み出した。周囲をキョロキョロと確認しながら、林の中を歩いていく。時折、人の声が響いて、彼女は木の裏に隠れたり、地面に這いつくばって見えないようにした。

(意外と人が通る時は通るな…。この林…多分、事務所から少し離れたところにあるデニッシュの林かな?キャンプ場として一部は使われていたはず…。事務所のあるオーブン街からは少し離れてるけど、シーズンだったらもっと人がいるところだ。でも一体なんでこんなところを…?)

カヌレが不思議に思いつつ、進んでいくと一つの山小屋が見えて来た。外見を見る限り人の出入りはない。周囲に気を付けながら、小さくつぶやく。

「確かに山小屋がポツンとあるね…。あれかな。」

周囲は林に囲まれていて、確かに他のところからは見えない。

(とはいえ…中に誰かいるかもしれない。私の協力者とは限らないから…一応警戒してみるか。)

彼女がすっと山小屋に音を立てないで近づく。壁に背中を預けながら、入口の方に回り込む。そのついでに、窓から中の様子を伺おうとしたが…丁度カーテンが引かれていて見えない。

(中の様子は分からない…か。悔しいけど、入口から行くしかないね。)

静かに玄関の前に立つ。そして、コンコンと数回ノックした。こんにちはも、あのーとも言わないでおく。どのみち、中の者がちゃんとしたやつなら、ちょっと隙間からこちらの様子を伺ったりするだろう。そのため、相手が自分を見るまでは誰だか分からないようにしておくのが良いはずだ。そう思った彼女だったが…。

がちゃ。

次の瞬間、扉が開いた。すぐに彼女は構えた。

(こちらが認識される前に扉をこじ開け、最悪の場合意地でも中に入る強硬手段に出る!)

そう考えていた刹那、少ししか開いていない扉から腕が一本飛び出て来て、彼女の腕を掴んだ。白いシャツの腕だった。

「へ?」

思わぬことに彼女が呆けた途端、勢いよく中に引きずり込まれた。彼女が悲鳴を上げる間もなく、山小屋の玄関にぺたんと座り込む。

がちゃ。

後ろで山小屋の鍵を閉める嫌な音が響く。彼女が静かに青ざめ、自らの横に立つ、自らを引きずり込んだ正体の二本の足を見つめる。よく見る黒ズボン。だが…足が大きい。男っぽい。顔をあげるのが怖くなり、彼女が震えていると、上から声が飛んだ。

「…カヌレさん!会いたかったです…!」

涙交じりの震える声。あまりに聞き覚えがありすぎて、彼女が恐る恐る顔を上げると、ホワイトショコラが涙ぐんだ目で彼女を見下ろしていた。白いシャツに黒ズボンで、いつものカフェでのエプロンは身に着けていない。

「ホワイトショコラ君?!」

「カヌレさん!良かったです、ご無事で…。ああ、もう本当に可愛すぎる。あなたの無事が知れただけで、僕はもう感無量です…。」

すると山小屋の奥から声を聞きつけた一人の人間が、どたどた足音を響かせながら玄関の方へ来た。そして感動しているホワイトショコラと、玄関にぺたんと座っているカヌレを見ると、その人物の目からも涙がこぼれた。

「カヌレちゃん…!無事だったのねッ。良かったわ…。本当に良かった…。」

「バウムさん!」

店主バウムが金髪を揺らしながら、驚くカヌレを抱きしめた。ホワイトショコラと同様、いつものエプロンを身に着けていない、白いシャツに黒ズボンの姿だった。あったかい体温が彼女を包み込む。ホワイトショコラも二人を両腕に収めるように抱きしめた。

「あたし達はカヌレちゃんの味方だからね…。大丈夫よ…♡」

「僕もです、カヌレさん!あなたの大ファンとして、僕にとって貴方はいつだって光です。」

二人に抱きしめられ、温かい言葉まで貰ったカヌレはありがとうとお礼を言ったが、つい声が震えてしまった。堪えようとしたが…ちょっとだけ涙をこぼしてしまった。すぐに恥ずかしくなり、店主バウムの肩にうずもれて隠れたが…。バウムに頭を優しくなでられてしまった。カヌレが落ち着くまで、二人はしばらくそのままでいてくれた。


ある程度落ち着いた頃、二人がそっと離れた。店主バウムが、さてと…と言って立ち上がった。

「カヌレちゃん、まずは落ち着きましょ?ここはカフェロイヤルじゃないし、クレールもいないけど…もう最早いつものカフェみたいなものよ♡さ、あがってあがって。」

「ありがとうございます!」

カヌレが微笑みながら、ゆっくりと立ち上がる。ホワイトショコラが横で一緒に立ち上がりながら、ニコニコと微笑んだ。

「飲み物は僕が入れますよ!いつものカフェではないので、飲み物の種類は限定的ですが…飲みたいものを遠慮なく言って下さいっ。僕が愛を込めてお作り致します!カヌレさん、愛してます!探偵はあなたが一番です。」

相変わらずの調子に、店主バウムが突っ込む。

「カヌレちゃん、ごめんね…♡一番は探偵フィナンシェ様よ!ああ、もう本当に無事でいらっしゃると良いんだけど…。ああ、でも本当に素敵。ちょっと無事じゃない場合でも、命さえあればあたしが看病してあげたいわ~♡いや、フィナンシェ様に見つめられたら、一体どこでそんなイケメン度を…。」

惚気に惚気始まり、いつも通りの二人にカヌレがははと笑う。その様子を見て、二人とも一瞬顔を見合わせた後、嬉しそうに微笑んだ。店主バウムが山小屋の中へとカヌレを案内し、ホワイトショコラがキッチンで飲み物を作る。

「コーヒーと、緑茶と、紅茶。アップルティーと、生姜湯、カフェオレとかもあるけど…。どれがいいですかカヌレさん?」

「じゃあ、生姜湯で。」

分かりましたーと言って、ホワイトショコラが準備を始める。その間に、リビングのテーブルにカヌレを座らせた店主バウムが向かいに座る。

「一体どうしてここに…?」

カヌレが不思議そうに聞くと、店主バウムがため息を吐きながら説明を始めた。

「それがね…今朝の新聞が大騒ぎになって。あたしたちの店にもあの新聞が来てね…。カヌレちゃんたちが無事か不安で、クレールが事務所の方に様子を見に行ったみたいなんだけど…その後に、怪盗ノクターンの新聞が来ちゃって。彼女が警察に捕まっちゃってね。あたし達も、ほらフィナンシェ様とカヌレちゃん推しでしょ?丁度ホワイトショコラが買い出しに行ってて、あたしが壊れたミキサーを買い直しに出かけてたら…先に店に帰ったホワイトショコラが、お店にマスコミやら一般人やらが群がってるのを発見したのよ。丁度店も一時的に閉めてたから、急いで彼があたしに電話してくれてね。そのまま、店に帰るのを諦めて、あたしの別荘というか…ここら辺の土地はあたしの親の土地でね。この山小屋はあたしが自由に使える奴だから、ここに二人で避難してきたって訳。勿論マスコミとか一般人にバレないように、窓にはカーテンを引いてるけどね。」

その時丁度、ホワイトショコラが生姜湯を出してきた。コップに入った黄色い液体から、生姜の良い香りが充満する。彼女が一口飲むと、生姜のびりっとした辛みと甘い砂糖の味が丁度良いバランスだった。あったかい生姜湯が体と心の緊張をほぐしていくようだった。ほっと一息つく彼女の横にホワイトショコラが座る。自身のコップに入った同じ生姜湯を飲みながら、彼女にさりげなく聞く。

「…ところで、カヌレさんは一体どうしてここに?」

その言葉に彼女は一から説明をした。


話を聞くうちに二人とも顔をしかめ、フィナンシェとマドレーヌが身代わりになった時には、店主バウムが静かに涙を落とし、ホワイトショコラが気に食わないが!だがカヌレさんを逃がしたのはナイスだと言い切った。そしてタタンが身代わりになった時には、二人ともあの執事なら…と頷き、次の瞬間に女怪盗ソルベが身代わりになる羽目になったのを聞いて、タタンを想って悲しみの目になり、女怪盗ソルベを応援し始めた。そして最後のポムとはぐれたところでは、二人とも静かに目を伏せ…。そして、カヌレが立ち上がり、怪盗ノクターンが出て来て、ここの住所を教えてもらったと聞いたら、二人は静かに眉を顰めつつも、まあ…と頷く。ついでにキスもされたと説明した時には、ホワイトショコラがブチギれ、あのクソ怪盗!カヌレさんの口を汚してっ、除菌して抹消してやる!と叫び、店主バウムがきゃあー!ロマンチック…あたしも探偵フィナンシェ様にそんなことされたら…と惚気始めた。そしてある程度時間が立つと、二人の焦点は最終的にサバランへと集束する。二人とも怒りの拳を突き上げ始めた。

「サバランがなんですか!カヌレさんの一ファンとして、めちゃくちゃ許せませんよっ。カヌレさんをこんな目に合わせて…昇天させてやるっ。二度と現生に来るな!悪霊が。またいつもの日常を意地でも取り戻してやりますよ。…最後に勝つのは愛です!」

ホワイトショコラの叫びに、店主バウムがその通りよ!と叫び返した。飲んでいた紅茶をだんとテーブルに叩きつける。

「たまには良いこと言うじゃない!そうよ、最後に勝つのは愛よ!こちとら、何年フィナンシェ様を推してると思ってるの?!ファンを舐めたらどうなるか…粗大ごみとして処理場行きは確定よ。あたしたちがただの一般人で、黙ってると思ったら大間違いだわ。推しのためなら…なんだってやってやるわよ!」

二人からいつも以上のドス黒いオーラが湧き始め、カヌレが流石にタジタジしていると、二人がばっと彼女の方を見た。

「…ひ…あえと…。」

少し怯える彼女に、店主バウムが彼女の肩を掴む。

「カヌレちゃん!あたし達も協力するわよ。そのサバランってやつ、ぶっ飛ばしましょっ!ふざけてるじゃない。あたしのフィナンシェ様に何してるのよ?!推しを追い詰める奴なんて碌な奴じゃないんだから。追っ払ってやるわ、宇宙の片隅までねッ!」

「そうですよカヌレさん!僕らで大逆転してやりましょうっ。後ついでに怪盗ノクターンがいたら僕にぶん殴らせてください。本当に許しません、全身フルボッコです。サバランも怪盗も、二度とカヌレさんの目の前に現れないようにしてやりますよ!」

あまりの勢いの二人の言葉に、カヌレは静かに顔を縦に振った。多少愛が強すぎて驚くが、とても心強いものだ。

「ありがとう二人とも!」

カヌレがにっこり笑ってそう言うと、二人とも満足げに微笑んで返事をした。


「…サバラン。僕らを捉えたとして、確かに社会的に彼女は追い込まれました。きっとかつてないほど追い込まれているでしょう。でもそれで…彼女が諦めるような人間だとは、貴方は心のどこかで思っているんじゃないですか?」

フィナンシェが冷静に述べた言葉に、ポムがへ…?と首を傾げる。彼はポムに向かって言った。

「確かに、彼は今まで彼女を追い詰めて来た。一線を超えさせようと必死だった。ですが…その度に彼女に回避されていたのなら、彼女がそう簡単には落ちないと分かっているはずです。たとえ、今回どんなに追い詰めたとしても、果たして本当に突き落とされてくれるだろうか…という心の不安は、必ずどこかにあるはずです。」

その言葉にサバランはふふふと笑い声をあげた。フィナンシェの方に視線を向けると、ニコニコと微笑んだ。

「ええ、そうです。確かに不安はありますよ。でも、それが楽しいんです。彼女を突き落としたい…。でもそう簡単に突き落とされては面白くない…。あはは、私もちょっと彼女と勝負をし過ぎたのかもしれませんねえ?でも、突き落とされなくても、それはそれでとっても楽しいんですよ。もっと追い詰めてやりたい…。そう突き落とされる瞬間を舌なめずりして、いつも待っていられるのですから。これなら俺はいつまでもボケずに済むかもな。こりゃあ、良いボケ防止になるでしょう。対戦相手とゲームをしてるようなもんですからね。まさに詰将棋ッ!」

そう言って狂ったような笑い声をあげるサバラン。カッサータがしびれを切らしたように、近くのリモコンを手に取る。

「あ~あ、暇~。こんな捕虜三人だけじゃつまんなーい。もっと人をこき下ろして…罠にはめて…うふふ♡カッサータ、人の不幸に溺れるさまがみたいな~♡何かドロドロとしたドラマでもやってないかな~。」

そう言ってテレビをつけた。その瞬間テレビにはアナウンサーが映り込んだ。右上にでかでかとした速報という文字が浮かんでいる。

「速報です。怪盗ノクターンの正体の一人である、タタンが警察に捕まりました。」

思わぬニュースに、シュトーレンがハア?!と声を上げる。カッサータの方を見て、すぐに驚いた声で言う。

「お前、あの執事を地下通路に置いてきたんじゃなかったのか?!」

彼女も信じられない顔で言った。

「おいてきたわよ?…どっかの誰かが見つけたんじゃないの?」

全員がテレビを凝視する。確かにそこには、少し包帯が巻かれ、傷を負いながらも警察に補導されている執事の姿が写り込んでいる。カッサータはほら…と安心したように呟いた。

「あの執事汚してるじゃない。あの肩の傷はカッサータが打ち込んだ銃弾よ?当たり前じゃない。誰かが発見したに決まってるわ。うふふ、面白いの♡なにそんなに驚いてるのよシュトーレン。ただの出来ごとじゃない。」

その言葉に彼がまあそうかと言うと、サバランが首を傾げた。

「…なんか変ですね。いや、変には思えないのが変です…。ちょっと、コーヒーでも淹れ…。」

そう言ってキッチンに向かった途端、驚きの声を上げた。

「コーヒーの粉が無い…?」

呆然と袋を見る。明らかに空だった。彼はしばらくじっとそれを見ていたが、何かに気付いたように静かに呟いた。

「これは…もしや、盤面が狂い始めたかもしれませんね…。」


その頃、山小屋ではカヌレと店主バウムとホワイトショコラの三人による会議が行われていた。

「まず、どうやってサバランの元へ行くかよね。奴のことが分からない限り、こちらも身動きが取れないわ。それに、怪盗ノクターンのこともあるから、ガレット刑事とかクレールが捕まってるのも痛いわね。」

店主バウムの呟きに、カヌレが困ったように言う。

「とりあえず、味方が二人だけでも私にとっては十分心強いよ。」

その言葉に店主バウムは優しく微笑んだが、ホワイトショコラは何か思いついたように言った。

「いえ、味方なら…いるかもしれません。」

彼の言葉に二人がえ?と声をあげると、彼は説明した。

「僕らのカフェには、カヌレさんの事務所に寄ってから、カフェに来る人達がいます。いわゆる大した事件では無いですが、カヌレさんの事務所に日常的にちょっとした相談やアドバイスを求めてきていた人たちです。」

その言葉に、店主バウムが確かにいたわね…と頷く。彼は言葉をつづけた。

「彼らなら、カヌレさんに日常的に助けられています。そしてカヌレさんの日常的な振る舞いも知っています。もしかしたら僕らに協力してくれるかもしれません。僕は受付でしたが…一部の客の住所は把握しています。」

「それならあたしも一部知ってるわ。なにせその人たちって結構おしゃべりだから、住所とか聞いても無いのにいろいろ教えてくれるのよね。その代わり老若男女ごった混ぜだけど、もしかしたら、協力してくれるかもしれないわ。」

店主バウムが頷いた。カヌレの方を見ながら言う。

「そしたらあたし達は、その人達に声をかけて回ってみるわ。勿論マスコミとかに気を付けるけども。もし協力してくれる人達がいたら、この山小屋に連れてくれば良いわね。」

「二人ともありがとう!とても助かるよ。」

カヌレの言葉に店主バウムがなんてことないわよと胸を張る。ホワイトショコラもにっこりと微笑んだ。そしてカヌレが人数がいれば…いけるかもしれないと呟くと、二人は怪訝な顔をした。彼女は自分の考えを整理するように言った。

「私を追い詰めたサバランは、きっと奥の手を用意してると思うんだ。以前対峙した時に、火事を起こしたように、自分が確実に逃げられる手を用意してると思う。少なくとも私が奴だったら、そうする。問題は何を用意してるかなんだ。こんなに社会的に追い詰めたってことは、本当に逃げる手段を使ってくると思うんだ。」

その言葉に二人が確かに…と頷く。彼女は言葉をつづけた。

「普通に逃げられるなら良いんだけど、例えば私達がすぐ対処しなきゃいけないようなことを用意されていると非常に困る。そうだね…例えば、街中に爆弾を仕掛けるとか。私だったらそれをやっておけば確実に自分は逃げられるし、相手は爆弾解除で大変だろうからやるのもありだと思うが…。そうなった場合、一点に全員が集中してると詰んでしまう。」

思わぬ言葉に二人が驚きつつも頷く。

「かといって、点在させすぎると、今度はサバランと戦う戦力が無くなり、奴を捕まえられなくなる可能性がある。例えば、サバランの部下が大量に出て来てその場で乱闘とかになったら、全員が駆け付けるまでに時間がかかってしまう。そこで、人数がそれなりにいるのであれば、点在する人間と、私の傍でサバランを追い詰める人間とに分けた方がいいんじゃないかと思うんだ。」

カヌレの提案に二人は即座に賛成した。

「それ名案だわ!奴を徹底的に追い詰めてやりましょ。絶対に逃がさないわ。」

「ええ!そして、警察に突き出してやりましょう!」

二人の声に、カヌレも静かに頷いた。その瞬間お腹がぐ~~~っとなった。思わぬ音に二人が固まる。彼女は照れくさそうに笑った。

「…お腹、すいちゃった…。」


読んでいただきありがとうございます。

ここ最近は投稿が遅い傾向にあり、誠に申し訳ございません。

ちなみに、今日後で寝る前に余力あれば一気にこれまでのえーっと…五話分?をポストしようと思ってる、作者のXはこちら→https://x.com/Ameme_H_Novel


Q. 作者って可愛い?かっこいい?

A. それはもちろん…オット、電話が。失礼しますね(゜∀゜)


Q. 作者って悪夢みます?

A. 見ます。ちなみに悪夢をコントロールする術も持ってます。例えば、鍵が開かない!?となれば、いや…この扉は開くはずだ、右に二回回せば絶対開くと強く願い、そうして扉がまるで開くのが当たり前に無理やり置き換えます。悪夢すら作者の手のひらの上です。残念だったな悪夢、真の強者は私だッ!これじゃ、バクも作者の近くで困り果てますね。

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