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第十五話 え…どーゆーこと?

「事態は最悪だ。」

フィナンシェが困ったように言った。

「現状は二つの場合に分かれる。怪盗ノクターンの正体が、男女4人である場合と、そうでない場合だ。」

ポムのだからあたしは違うって…!と言う言葉を彼は手で制した。近くの机に少し体を預けて腕を組む。少し考えるような目線で全員を見た。

「まず、怪盗ノクターンが4人である場合だ。新聞に載っている4人が本当にそうなら、一体誰がどの時にどう変装していたのか、が複雑になる。というのも…君たちが火事から助け出されて、事務所に集合していた時(※第八話参照)の写真では、タタン、ポム、ガレット刑事がいて、怪盗ノクターンがカヌレの横に寝そべっている。となると残る1人がクレールしかいないので、あの時の怪盗ノクターンはクレール…となるはずだが、ここが厄介だ。というのも、ポムにクレールが変装して、ポムがガレット刑事変装、そして肝心のガレット刑事が怪盗ノクターン…なんてパターンも存在するわけだ。それに、恐ろしいことにこの現象は、さらに複雑化が可能だ。4人以外の人に変装することもできるわけだから…例えば今だって、タタンはそのままだとしても、クレールがポムに、ポムがカヌレに変装している…なんてこともありえるわけだ。」

まぁ…僕の目を欺くとは思えないから、流石にその可能性はないとは思うけどね、と彼は付け足した。絶句する一同の中で、唯一カヌレが手を上げた。首を傾げながら、呟く。

「でも…誰に変装しているかは分からないのは、この4人が怪盗ノクターン出ない場合も同じだよね?…そもそも奴は性別も人数も不明だから。となると、この新聞に載ってることが真実か嘘かわからない。サバランはこれを狙って…?」

彼女の言葉に、彼はその通りだと頷いた。

「怪盗ノクターンが、本物の正体であれ、嘘であれ…こちらを惑わすのには十分な理由になる。なにせ僕らは奴の正体を知らない。つまり、この記事が真実か嘘かもわからないから、身動きがとりにくくなる。」

そして肝心の怪盗ノクターンは二つに分かれるわけだと彼は言った。

「怪盗ノクターンは自らの正体がバレている場合は、身動きが取りにくくなるだろう。バレてなくても近しい人物が挙げられているのであれば、彼は自分の正体がバレているのか否か、不安の種を撒かれることになる。奴は大胆不敵だから、そこを逆手にとってサバランの懐に潜り込める…かもしれないが、サバランにとってもそれは予測済みだろう。」

つまり…と彼は重苦しいため息を吐いた。

「怪盗ノクターンが何をしようと、今の僕らが何をしようと、サバランに把握されてしまう…奴の手のひらであるという状況になったわけだ。」

整理された現状はあまりに重苦しかった。全員が静かに口をつぐむ。女怪盗ソルベが静かにキッチンの方に向かい、気遣うように言った。

「とりあえず、疲れた。これからのことを話し合うのに、時間がいる。緑茶入れるから、ポム、手伝って。」

「え?!あ、あたし…?」

ポムは自分を指差しつつ、彼女の方を見る。女怪盗ソルベは静かに頷いた。

「怪盗ノクターンか否か…関係ない。緑茶淹れる。全員、適当にくつろいで。」

ポカンとしつつも、わ、わかったわよ…とポムが言いながらキッチンのほうに行く。マドレーヌが近くのソファにどかりと座りながら、んでもよぉ?とフィナンシェに行った。

「…まーよくわかんねぇけど、だったら怪盗ノクターンに協力してもらえれば良いんじゃねーの?」

その言葉にフィナンシェがそうしたいのは山々だが…と少し困った目をする。タタンとカヌレの2人に顔を向けた。

「怪盗ノクターンの目的は知ってるかい?」

2人が顔を横にふると、彼は静かにため息を吐いた。

「あの怪盗ノクターンが、僕らに協力する理由があるか?奴の目的がわからない以上、迂闊に手を出すのは危険だ。考えたくもないが…奴がサバランの手先じゃない可能性が無いわけじゃない。」

「確かに火事の時、お助けいただきましたが…あのお助けもサバランの指示でないとも言い切れませんな…?」

タタンが深く考えるように言う。カヌレがうーん?と首を傾げた。眉を顰め難しい顔をする。

「でもあの怪盗、私に奴の名前はサバランだと教えてくれたんだよな…。そして火事の時も助けてくれたわけだし…そのあと頬にキスされたけど…。いやでも?私が女性だから、結婚詐欺師みたいな感じで、私を恋愛に振り回して無力化し、サバランの元に落とすなんてこともありえるか…?」

うーん難しい…どの可能性も考えられて、あまりに不透明…と彼女がつぶやいた。こうなれば闇鍋も良いところである。一体誰が誰なのか。人狼となら相手の目的がわかってるから良いものの、目的がわからない現在はより深刻である。マドレーヌがちぇーッとつぶやいた。

「んだよ、そんな感じじゃ、どいつもこいつも当てにならねぇじゃねぇか。一体この状況でどうするってんだ?腹の探り合いしかなくねぇか?」

その時ちょうど緑茶ができたらしい。ポムがお盆にのせて全員に配り始めた。女怪盗ソルベが鈴カステラを乗せたお盆を運んできて中央に置く。フィナンシェが緑茶を飲みながらフッと微笑んだ。

「確かに腹の探り合いだ。信じられるのは自分だけみたいなところはあるだろう。そこで、僕から一つ提案だが、この状況を逆手に取ったらどうだろう?」

「逆手…?」

タタンが首を傾げる。フィナンシェは静かに頷いた。

「どうせ誰が誰だかわからないんだ。だが、逆を言えば、全員身動きが取れない。そして怪盗ノクターンが誰かもわからない。もちろん奴の目的もだが。そこで…一か八かやってみないか?サバランの懐に潜るってことを。」

思わぬ一言にお茶を飲んでいたマドレーヌが誤って変なところに飲み込んだのか、激しく咳き込み始める。カヌレもは変なところに入ったのかゲホゲホ言った。女怪盗ソルベが鈴カステラを頬張りながら首を傾げる。

「悪手に思えるけど?」

ポムがお茶を飲みながら首を縦に振る。

「そうよ?第一どうするのよ?怪盗ノクターンがサバランの手先だった場合、敵の懐に潜るなんて…。敵に囲まれてるも同然なのよ?」

その言葉にフィナンシェは確かにそうだが…と小さく微笑んだ。カヌレも小さく頷く。

「確かに一見悪手だけど、怪盗ノクターンがサバランの手先なのか否かはわかるかも。もし、サバランの手先でなければ、奴は私達に味方する、もしくは第三勢力として動き出す。…そう考えると悪くないかもしれない。」

流石…カヌレ探偵だねとフィナンシェは言うと、鈴カステラを一つ手に取った。ざらざらとした砂糖が手にまとわりつく。

「それにサバランが怪盗ノクターンの正体を知っているか否かに関わる。もし知らなければ、やつにとってこれ以上ない恐怖に変わる。なにせ…僕らが一体誰が怪盗ノクターンだか分からないように、奴にも分からないわけだからね。こちらが動けなくなるのと同じで、サバラン自身も迂闊に手を出せないだろう。」

しかしリスクがデカすぎないか?とマドレーヌが突っ込む。

「怪盗ノクターンが味方かもしくは第三勢力でない場合、俺たちは袋の鼠じゃねぇのか?」

その横でタタンが緑茶を啜りながら鈴カステラを頬張った。女怪盗ソルベも静かに頷く。

「私も彼の目的は知らない…。だから協力してくれるかは、分からない。」

フィナンシェが、一か八かと言ったのはその点だよと頷く。鈴カステラを頬張りながら、すぐに不敵な笑みを浮かべた。その視線は確信に満ちていた。

「だが、奴がサバランの手先とはどうにも考えにくい。」

全員が首を傾げると、彼は簡単なことだと言った。

「これまでのやつの行動原理を振り返ってみてくれ。僕とマドレーヌは一度しか出会ってないが…カヌレ探偵たちはやつに何度も出会っている。例え結婚詐欺師のようにカヌレ探偵を誘惑するにしたって…少し違和感がないか?」

その言葉にカヌレがきょとんとした顔をするが、隣にいるポムが確かに…?と眉を顰めた。

「だって、火事の中あたしたちを助け出したのはわかっても、カヌレの隣に寝そべってても…。確かに良いところを見せたいのかもしれないけど、そしたら別に他の方法でも良いわけじゃない?それにもし、カヌレを誘惑しようとしてるのなら、もっと愛の言葉を囁いて良いはず…?でもあいつ、カヌレの頬にキスをしたくらいで、愛の言葉なんてほぼ言ってないし、それに探偵を誘惑する怪盗なんて聞いたことないわよ?」

彼女の言葉にフィナンシェが頷いた。

「だからこそ、サバランの手先である可能性も否めないが…となると、もう仕掛けてきても良いはずだ。特に僕らがこんな状況になってるのに、この隠れ家にわざわざ新聞を置いておくか?…あの怪盗は行動原理から考えるに、割と頭がキレると見ていい。となると、僕らが怪盗ノクターンを怪しむのは百も承知なはずだ。それなのにわざわざこの新聞を置いてくると言うことは…第三勢力、もしくは僕らの味方である可能性が高い。」

だからこそ賭けてみようじゃないかと彼は微笑んだ。

「サバランの懐に潜り込む。どのみちこの隠れ家にいては、いつか発見されるのがオチだ。なら、いっそ本拠地に行って内部破壊を試みる。…どうだい?試してみる価値はあると思うよ。」

フィナンシェの言葉に一同がごくりと唾を飲み込む。おかわりの緑茶を女怪盗ソルベが静かに注ぎながら、静かに微笑んだ。

「わかったわ、懐に飛び込む。」

その言葉にポムが驚きつつも、渋い顔をしながらわかったわよと頷いた。

「あたしもやれるだけのことはやるわ。全く…怪盗ノクターンなんかじゃないのに…!この新聞を広めたサバラン本当に許さないわ。」

その言葉に他の全員も頷く。フィナンシェがよしと頷いた。そこで女怪盗ソルベが今の状況が少し変化してるか、確認と言い、テレビをつけた。

『怪盗ノクターンの正体である、カフェロイヤルの店員クレールを警察が逮捕しました。』

「クレール?!」

カヌレが驚きの声をあげる。テレビには多くの警察に補導されているクレールが映っていた。手錠をかけられ、パトカーに乗り込んでいる。フィナンシェが悔しそうな顔をした。

「捕まったか…!だが、僕らが奴らの懐に潜り込めば…!」

その瞬間だった。

パァン!

バリィィンッ!!

突如フィナンシェの右斜め後ろの窓が銃声音と共に割れた。ガラスの破片が飛び散る。窓の前にあった暗幕にも穴が空いた。あまりの突然さに一同が悲鳴をあげる暇もなかった。銃弾はタタンの顔の横をすり抜け、近くの壁にめり込んだ。彼は少し驚いた様子で窓の方に視線を向ける。すると暗幕が一つの手によってペラリと捲られ、1人の男が侵入してきた。手には銃を持っている。服装は黒いスーツだった。少しイカれた目をしている。ははっと笑いながら男は言った。

「…懐に潜り込む?こちらがそちらの懐に潜り込むとは、考えもしなかったのか?」

マドレーヌが静かに戦闘体制に入ろうとすると、彼の足元に即座に銃弾が打ち込まれた。体との差は数ミリ。ちょうど彼の座っていたソファに銃弾がめり込む。マドレーヌがチッと舌打ちする横で、ポムが叫ぶ。

「あなた誰よ!」

「…サバラン様の幹部とでも言ったらわかるか?シュトーレンだ。まぁ今後聞くこともないだろうな。」

そう言ってポムに銃口を向けた。タタンが即座に彼女を庇う。銃声音が鳴り響き、血が舞う。しかし…。

「僕だと…ッ?!」

フィナンシェが驚いた顔で自分の右腕を押さえた。ダラダラと血が出ている。ポムを庇ったタタンも目を見張った。マドレーヌが即座にシュトーレンの銃を蹴飛ばしたが、その直後に銃声が鳴り響き、マドレーヌの足が撃ち抜かれた。

「…!」

「銃口が弾道になるなんて、甘い考えだよな?」

シュトーレンの言葉に驚きつつも、彼はすぐに獣の目をすると、撃たれた足をそのまま動かしてシュトーレンに蹴りを入れた。流石に腕で防がれたが…。負傷してるとはいえ、威力は申し分ない。シュトーレンは少しだけ嬉々としていた。

「体力…うん、とても申し分ない。かなりの筋力だな。これは駒として、あるいは商品としても高値がつく。…ちなみに、俺が銃に頼るタイプだと思ってたか?」

「そんなん考えてる暇なんか、あるわけねぇだろ。」

マドレーヌの言葉にシュトーレンが不敵に微笑んだ。その途端、フィナンシェが近くの椅子に蹴りを入れた。小さくぎゃっと声が上がる。女怪盗ソルベが驚くと共に、フィナンシェが言う。

「この椅子に1人いる。ここは僕とマドレーヌに任せてくれないか。君たちは安全な場所に逃げてくれ。全滅は避けたい。」

「でも…!」

カヌレが叫ぶと、彼はもう一度椅子を蹴り飛ばした。その間に後ろでマドレーヌがシュトーレンと格闘している。

「探偵が2人もいるんだ、そして助手も。それならまずどちらかが足止めするほうがいいだろう?!…どちらが優秀な探偵か、見極める良い機会だ。君には負けないよ。」

そう言って撃たれた片腕の止血をしながら、椅子を蹴り飛ばし続けるフィナンシェ。不安げな目をするカヌレに女怪盗ソルベが肩を掴んだ。

「行くわよ、ここにいては危ない。後で彼らには連絡を取ればいい。」

「う、うん…。わかった。」

女怪盗ソルベに従い、カヌレとポム、タタンの三人が再び床下へ戻り、入り組んだ通路を抜けて、地下水路へと向かった。その背中を見送ったフィナンシェが静かに微笑む。

「貴方なら大丈夫でしょう、カヌレ探偵。」

言い終えた途端だった。後ろから何か大きなものが勢いよくぶつかり、2人は椅子に強く打ち付けられた。即座に銃声音が響く。彼がうめきながら体を起こそうとして、後ろを見る。そして思わず息を呑んだ。

「マドレーヌ?!」

あまりにボロボロだった。所々アザができているし、そして…フィナンシェの背中に生温かい液体が伝う。いやでも察した。今の銃声音は…。マドレーヌがフィナンシェの方を見た。震える口を動かす。

「安心しろ…急所は当たっちゃいねぇ。痛いけどな。」

マドレーヌが小さく呼吸を乱しながら、フィナンシェの腹に腕を回し、次弾が到達する直前に、自らと共に椅子から転げ落ちる。小さくうめきながら、次弾が飛ぶ前に、シュトーレンに殴りかかった。フィナンシェも即座に応戦する。

「2人がかりかよ。」

シュトーレンが鼻で笑った途端、2人の足から血が飛び散った。殴りかかろうとしていた体がぐらっと傾く。2人がシュトーレンの前で床に倒れ込んだ。あまりの痛みにフィナンシェが小さく呻き声を上げる。彼の足にはボーガンの矢が一本。マドレーヌには、両足にボーガンの矢が一本ずつ刺さっていた。諦めずに立ちあがろうとするマドレーヌの頭をシュトーレンが踏みつける。

「やめとけやめとけ。肉離れしちまうんだよ。それじゃ商品にならなくなっちまうだろ?暴れる獣が。大人しくしろや。」

そう言っていきなり2人の横に小さな小瓶を置いた。見たところ透明なガラスでできた小瓶であり、中にはピンク色の液体が入っている。そして彼がそっと蓋を取った瞬間、2人は即座に息を止めたが…流石に人間だ。ずっと開けられていては、呼吸をずっと止めることができない。息苦しくなってきたフィナンシェがチラリとシュトーレンの方を見ると、彼はすでにガスマスクをつけていた。

(計算済み…か。)

彼がそう思ってマドレーヌの方をみると、彼はもう息苦しさが限界に来たのか、ちょうど口を開けた瞬間だった。一気に瞼が落ちて眠りこけてしまった。フィナンシェも呼吸が辛くなって、ついに口を開けた。

(ここまで…。あとは頼んだよ…。)

意識が暗転した。


一方その頃、刑務所ではガレット刑事が不満げな顔をしていた。牢屋の中で1人呟く。

「まさか刑事の俺が、こんなところにお世話になるとはな。」

腕を組みながら周囲の状況を静かに見守る。看守が静かにしろと言って近くにいるが…。

(事情聴取なしにいきなり牢屋行き。これはサバランの仕業だろうな。警察署にもまだ奴の手先がいるのか。)

下手なことを言えないなと思いつつ、腕を組む。なにせ牢屋の中だ、全く身動きが取れない。新聞を見た途端即座に逮捕されたわけだが…。新聞の記事の内容を思い出す。

(俺とポム、タタン、店員のクレールか。俺たち4人だと仕組まれたわけだが…しかしなぜこの4人なんだ?サバランの目的は一体なんだ?)

悶々と静かに考え込んでいると、しばらくしていきなり話し声が聞こえてきた。1人の女性の声が飛ぶ。何か喚いているが…。聞き慣れた声に思わず鉄格子の近くに行く。

「だから私は違うって言ってるじゃない!怪盗ノクターン様…私牢屋に入れられちゃうの…?嫌よ…助けて…。」

啜り泣きが聞こえてきたと思ったら、女性は警察に誘導され、ガレット刑事の向かいの牢屋に入れられた。服装と髪型に明らかに見覚えがある。警察が離れた後で、ガレット刑事が思わず声をかける。

「あのカフェの店員のクレールか。」

「え?!…ガレット刑事?!」

クレールが驚いた顔で鉄格子に手をかけ、彼の方を見た。

「ちょっとなんだか知らないけど、私怪盗ノクターン様じゃないわよ!?…ああ、ノクターン様…でも私ノクターン様の身代わりになれたのならそれはそれで嬉しいけど…♡」

牢屋の中でも惚気出したのでガレット刑事が静かに察する。流石に呆れた。額に手を当てながら言う。

「相変わらずだな…。ところで他2人、俺以外に新聞に載せられてたが…あの2人はどした?」

その言葉にクレールが首を傾げた。

「見てないわ。事務所がなんか騒ぎになったらしくて、ん?と思ってたら、カフェに来たお客さんに警察に通報されちゃって…。でもなんか、事務所にいなかったみたいだけど…?補導される時に、通行人が騒いでたわ。ていうか、アンタこそ怪盗ノクターン様じゃないわよね?いや怪盗ノクターン様だったら、こんな鉄格子越しに向かいの牢屋で…あ♡それもアリかも…ちょっとロマンチックかも…いつか私を助け出してくれるのよね、なんて素敵なの〜♡」

ぱっと頬を染めて、両手を顔に当てるクレールに看守が静かにしろと叫ぶ。彼女は即座に切り返した。

「あ゛?!推しに惚気たら静かになんかできるわけないだろ!布教してやんよ!」

「お前…警察にまでその口調なのか?やめとけ、それに俺はあいにく、怪盗ノクターンじゃないぞ。」

ガレット刑事の冷静なツッコミが飛ぶ。看守が不満げに少し離れたが、クレールは不服そうな顔をしていた。

「しかし、あの2人は捕まってないわけか…。それがいいのか悪いのか、なんとも言えんな。とにかくサバランの手のひらなのは間違いない。一般人を巻き込んで悪いな、刑事として謝っておく。後でお前の働いているカフェにも謝りに行くつもりだ。」

「なに言ってんのよ、別にいいわよ。推しのために…推しのことを応援できるのなら、私牢屋でも我慢しちゃう〜っ!あ、でも、ホワイトショコラやバウム店主はやっぱりショック受けてたなぁ。2人の推しは探偵だから、やっぱり新聞の情報とは言え…流石にショックみたいだったよ?まぁでも2人とも、それでも自分たちは推しを推す!と宣言してたけどね。」

その言葉にガレット刑事は一瞬驚いた後、ちょっとだけ微笑んだ。

「…相変わらずだな。だが、それだけ誰が何を言おうが、信じてくれる存在は貴重だ。奴らの光になれば良いな。」

「そうね。ところで、ここカツ丼とかって出ないの?」

クレールの呑気な質問に、彼はため息をついた。

「お前ここ…牢屋だが?あれは別室で事情聴取を受けたりする時にだな…尋問とかそう言う関係で…。しかも現在では禁止されてるぞ。」

ええーーッ!と不満げに声を上げる彼女。再び看守に静かにしろと言われ、さらに不満げな声を漏らす。牢屋の床にぺたんと膝をつくと、悲しそうに言った。

「ああ…ノクターン様……。牢屋ってこんなに狭くてあれなのね…入りたくないのわかります…!でも入らずにいてくれる貴方が…ハァ…イケメン…!」

再び惚気出して頬を染める彼女にガレット刑事が再びため息をつく。思わず皮肉った。

「いつまでも牢屋にいられそうだな。」

「そういう貴方は、あの怪盗ノクターン様のことが全くわからない弟がいるんでしょ…。いつでも言ってくれれば兄弟もろとも、怪盗ノクターン様の沼に落としてあげるわ。」

勢いの良い言葉に対して、彼は顔を横に振った。

「いや、フロランタンの行方はわからない。なにせアイツ出張中だったからな。俺は牢屋にすぐぶち込まれたおかげで、弟と連絡が取れないんだ。だがまぁ…おそらく俺と同じで、出張先で牢屋に入れられているだろう。」

無事だと良いんだが…と彼は呟いた。


カヌレたちは地下水路を歩いていた。静かな地下水路に4人の足音が響いていく。水音をかき消すように…。

「隠れ家は何個かある。一応片っ端から回ってみるけど…正直、奴らにバレてる可能性が高い。一応私が先に入って確認する。」

女怪盗ソルベの言葉に、ポムが不安げに言う。

「貴方こそ…大丈夫なの?」

「平気よ。いざとなったら変装して隠れれば良いから。」

彼女がそう呟いた瞬間だった。

「あら、自信あるのね。」

その言葉に一同が凍りつく。目の前の角から、1人の女性が出てきた。白金色の髪をしたクルクルした長髪の女性だった。豪華なワンピースに身を包んでいる。見た目は水路に似つかわしくないほど綺麗だったが…。流石に女怪盗ソルベが静かに構える。女性はニッコリと微笑んだ。

「嫌よ、私そんなんじゃないわ〜。貴方たちと偶然出会っただけよ。夫が行方不明で、水路を探してたら迷子になっちゃって。こんなところで探偵さんに会えるのならよかったわ。夫の捜索依頼受けてくれる?」

女性は困ったように言った。女怪盗ソルベが静かに構えたまま、言う。

「…新聞は?」

「…新聞?」

女性はそう言うと首を傾げ、眉を顰めた。

「私、新聞見ないタチなのよ。というか、新聞なんて家で買ってないの。基本テレワークだし、赤ちゃんの面倒見なきゃだし〜。新聞なんて家に届けてもらうにはお金かかるでしょ?そんなのにお金かけるより〜、やっぱ赤ちゃんにお金かけたほうがいいでしょう?新聞がどしたの?」

そう言って不思議そうに顔を傾げる彼女。カヌレがポムにどうする…?という顔を向ける。その前で女怪盗ソルベが静かに聞いた。

「名前は?」

「カッサータよ♡」

彼女は懐からビンを取り出した。綺麗な瓶だが…すぐに構えたタタンの前で、蓋を開けぐびぐびと飲み干す。彼女は頬を高揚させながら、目をとろんとさせた。

「うふふっ…とっても美味しい。やっぱりテレワーク後のお酒は沁みるわねぇ。貴方もどう?あ…あらいやね、カッサータったら全部飲み干しちゃった。あげられる分無いわ、ごめんね♡」

両手を合わせてペコリと頭を下げる彼女に、女怪盗ソルベが静かに警戒体制をキープする。

「夫は誰。」

その言葉に女性はん〜…答えた。

「いっぱいいすぎて、忘れちゃった♡…そうねぇ…怪盗ノクターンとか…ガレット刑事とか?」

その言葉にポムが一瞬ぴくりと反応する。カヌレも即座に険しい顔になる。タタンがすっと女怪盗ソルベの前に立ち、女性ににこやかに微笑んだ。

「カヌレ様、ポム様、ソルベ様。ここは私にお任せを。お逃げください。…大変素敵な女性ですね。それではこの老紳士はいかがです?」

そう言ってタタンが静かに胸に手を当てる。女怪盗ソルベが即座に2人を誘導してきた道を引き返す。タタンはその背中を見送らず、カッサータから目を離さなかった。彼女はん〜と品定めするようにタタンを見た。

「悪くは無いけど…ちょっとお年が過ぎるかも?んでもダンディーで素敵な執事様だと思うわよ?曽祖父として欲しいくらい♡」

「それはありがたいお言葉ですね。ついに私にもモテ期が到来してしまいましたか。」

去り行くカヌレたちの足音を聞きながら、彼がほっほっと笑った。カッサータもふふっ♡と笑い声を上げる。ひとしきり2人の笑い声が水路に響いたのち、カッサータがすっと目を細めた。先ほどとは打って変わって、冷たい視線を向ける。されど声は異常に甘い声だった。

「自惚れないでよ、クソジジイ♡」

「お返ししますよ、その言葉。」

次の瞬間、2人は同時に動き始めた。



遅れてすまねぇ! だが、二千字で終わらせるプライドが許さなかった。一万字の『地獄』を受け取れッ!!

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