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第十四話 快楽と思えば幸せ(前半)

いつも通りのカヌレ探偵事務所。フィナンシェがフゥ…と書類を見ながら嬉しそうにため息を吐いた。

「やっとだね。ついに僕らの事務所が、後少しで再建できそうだ。」

その言葉にカヌレとポムが本当?!と口を揃えて言う。マドレーヌも、っしゃあ!とガッツポーズをした。執事のタタンが静かに微笑み、紅茶を淹れる。フィナンシェが静かに書類をしまおうとした、その時だった。

コンコン。

事務所の扉がノックされ、タタンが応答した。1人の新聞記者がそこに立っていた。

「配達でーす。」

「ありがとうございます。」

タタンが新聞を受け取り、そのまま新聞記者にお金を払う。新聞記者がそのまま出ていくのを見送ると、フィナンシェが訝しげな目を向けた。

「……なんだか、嫌な予感がするね。タタン、新聞に何か書いてあるかい?」

彼が新聞を開くと、静かに驚いた顔をした。あわてた様子で机に広げて全員に見せる。

「これは……?!」


その頃、薄暗い部屋でサバランはピアノを奏でていた。もの寂しい音色が静かに響き渡る。ドアが音を立てて開き、カッサータが姿を現した。白金のクルクルとした髪が、優雅にたなびいている。

「失礼、お邪魔するわ。サバラン、とっても素敵な音色ね〜。カッサータ、虜になっちゃいそう。」

サバランはピアノを弾きながら、静かに微笑んだ。

「おやおや、私がモテちゃうとは…。ただの即興曲ですよ?名もなき音楽だ。ふむ…私が名前をつけるより、目の見えない君がつけたほうが、音楽も喜びそうだ。素敵な名前を一丁!」

サバランの弾いてるピアノにもたれかかりながら、彼女はそうね〜?とご機嫌に言い始めた。近くにある赤い液体入りのグラスを手を持ち、クルクルと回す。

「真紅の闇…なんてどう?」

「きゃー!大変ロマンチック〜♡」

彼が嬉しそうにピアノに指を立て、ジャンと鳴らす。グラスを回している彼女に小さく呟く。

「目が見えない分、嗅覚が鋭いあなた。真紅はそれから思いついたのですか?血生臭いグラスから。」

「大正解よ〜!ああそうそう…今回の件で結構ギリギリな人らが多かったの。突き落とすか否かはサバランに任せるわ。突き落とした後は、シュトーレンに選別してもらいましょ?…使える駒か否か。」

彼女の最後の言葉に、彼は、勿論ですとも…とにっこり微笑んだ。優雅なピアノの音色が部屋を満たしていく。部屋には所々血が付いていた。

「…みんな、楽しもう!苦しみも悲しみも、痛み、嫌なこと全て…快楽と思えば幸せです!私たちは、幸福のキューピッドと言っても過言じゃないです。清き一票を!」

彼は叫び終えると、ピアノの演奏を終えた。


『冤罪!誤った推理が招いた悲劇!』

『有名探偵、犯罪者をでっち上げか』

飛び込んできたタイトルに、全員が目を見張る。

「これは…昔、僕が推理した事件…?!」

フィナンシェが信じられないという目で新聞を見つめる。マドレーヌが驚いた声を上げた。

「おい、待てよ!他のとこにも何か載ってるぞ?!」

マドレーヌがページを捲ると、さらに何個か記事が飛び込んできた。

『事務所で共犯か?!』

「ちょっとこれ…?!サバランに対峙した後、火事から助けてもらって事務所で休んでいた時じゃない?!」

ポムが悲鳴をあげる。そこには、怪盗達に火事から助けられ、事務所で話している時の写真が写っていた。あの時にいた、タタン、ガレット刑事、女怪盗ソルベ、ポム、怪盗ノクターン、カヌレの姿が漏れなく全員が写っている。特に怪盗ノクターンに限ってはまだ目が覚めず横になっているカヌレの隣に寝そべっている時なのである(※第八話参照)。

「いやいや、これはまずいっしょ?!つかこんな時あったの?!怪盗羨ましくね?!」

「マドレーヌ、君はこんな時も脳内が花畑なのか?」

フィナンシェが突っ込みつつも、とにかくまずい…と言った。新聞をよく見る。日付は今日。そして…どこにも粗がない。

「僕は自分の推理が間違ってるとは思えない。けど…この事件は僕がまだ探偵になったばかりの時に扱った事件だ。何かしら見落としていた可能性はある。君たちはどうだ?」

ポムが混乱しつつも静かに言う。

「サバランにハメられたとしか…。」

「…サバラン?」

フィナンシェが眉を顰める。カヌレが事情を説明すると、彼はそんな存在が…と驚きつつも、新聞に目を落とした。そして静かに頷く。

「……あり得るね。僕のこともハメられていたのかもしれない。当時の僕が何かを見落とすように仕組まれた、もしくは重要な証拠の一つを隠された…可能性もある。それに、僕よりも問題なのは君たちだ。この場合は怪盗に助けられたが…実際にあったことで、世間がこの事態に陥る前を知る由もない。きっと、民衆は僕らを目の敵にするだろう。メディアはそれだけ影響力が強い。」

彼の真剣な声にカヌレとポムの2人が顔を曇らせる。新聞を鼻歌歌いながら見ていたマドレーヌがあ!と声をあげる。新聞の記事を一つ指さしながら慌てたように言う。

「やべ!フィナンシェ。俺のことも書いてあるっ。有名探偵の助手がキャバクラ狂いだとか書いてある。こんな助手を雇う探偵が信じられないだと…?!コイツ、殴り込みに行っていいか?」

「キャバクラ狂いは本当だろう。安心してくれ、君の記事はそこまで大変なことじゃない。」

フィナンシェが冷静に言ったところで、事務所の扉がバンバン!と強く叩かれた。怒号が聞こえる。

「クソ探偵!謝罪しろ!」

「共犯してるんだ!警察に摘み出せ!」

扉が今まで聞いたことないレベルで叩かれている。一同がゾッとする。ポムがどうする?!とフィナンシェに言う。今にも扉は破壊され、多くの民衆が事務所になだれ込んできててもおかしく無さそうだった。彼は悔しそうに呟いた。

「あの感じでは、新聞が相当早く出回っているはず。きっと僕らが今民衆の前に出たところで悪化するだけだろう。かといって、逃げる場所も…!」

「カフェロイヤルは?」

マドレーヌの言葉にぶんぶんと顔を横に振った。

「おそらく僕らの足は、奴に把握されている。多分あのカフェロイヤルも、きっと取り囲まれているに違いない。となると…残す手は一つだろうね。きっと僕らの元に来る人物がいるはずだ。正直事態を悪化させる一手になりそうだが、民衆に言ったところでどうにもならないなら、頼るほかは無い。」

彼がそう言い切った直後、事務所の天井の一部が外れ、女性が一人軽やかに落ちて来た。雪の結晶の髪飾りをした、女怪盗ソルベである。一同の前に姿を現すと、彼女は静かに言った。

「時間が無い。ついてきて。」


事務所の扉がバカン!と開かれた。

民衆が雪崩のように事務所に入るが…どこにもカヌレたちの姿は無い。

「探偵どもが見当たらない!」

「くまなく探せ!そして警察に突き出せっ。」

「誤った推理をした探偵達を許すな!」

「共犯どもめ!」

人々は事務所の棚や、物置などくまなく探し回った。手には各々ほうきなど、武器を持っていた。


一方その頃、カヌレ達は地下水路を歩いていた。先頭を歩くのは女怪盗ソルベである。

「今頃、ようやく再建の終わりが見えた、僕らの新しい事務所は大変なことになってるだろうね…。」

フィナンシェが冷静に呟く声が水路に響き渡る。マドレーヌがあーあ…と悲しそうに言った。

「俺達のせっかくの拠点がな…また事務所無しに後戻りだ。」

「全て終われば、元通りになるよ。」

カヌレの言葉に、女怪盗ソルベが静かに顔を横に振った。懐から新聞記事を取り出す。それはカヌレたちの事務所に届いたのとは違う、別の新聞会社の記事だった。そこには…。思わずポムが声をあげる。

「うそ…?!懸賞金…?!」

全員が目を見張る。そこには確かに、全員にもれなく懸賞金がついていた。女怪盗ソルベが静かに告げる。

「怪盗と探偵が共犯となれば、確かに懸賞金がついてもおかしくない。それだけ、私達が捕まえるのは難しいと、警察も理解してる。」

「ちょっと待ってよ…なにこの記事…?あの黒柴の飼い主じゃない?!」

ポムが記事に食いつく。そこには確かに、あの黒柴の飼い主のインタビュー記事があった。カヌレ達とフィナンシェ達で犬の売買組織を暴いた事件の時の、依頼人だ(※第十話参照)が…。フィナンシェが冷静な目で記事を見つめる。

「…見事にハメられましたね。つまりあの犬の売買組織のトップは、僕らだと言いたいわけかい。もとより、僕らを嵌める気で依頼しに来ていたというわけか。」

「そんな…?!うそでしょ…。だって本当にあの時、あの柴犬を大事そうに…。」

ポムの悲痛な叫びの横で、カヌレが悲しそうな目をする。タタンが何かを察した顔で言った。

「言いたくないことではありますが、メディアに出ればそれなりに注目を浴びます。それに見る限り綺麗な柴犬ですし…彼は私達を守ることより、自らの利益を取ったのでしょう。」

うそ…信じられない…とポムが呆然とする。マドレーヌはけっと近くに唾を吐き捨てると、拳をあわせた。獣の目をしていた。

「気に入らねえ。後でそいつ絶対ぶん殴る。」

女怪盗ソルベが沈んた雰囲気の一同に向かって言う。

「とにかく、隠れ家に案内する。そこで、今後の対策を練る。大丈夫、私と怪盗ノクターンしか、あの隠れ家は知らない。見つかるリスクは無い。…そして、一抹の不安があるとすれば…。」

「あの全員でいた時の、音声が拾われていたかもしれないってことだね。」

慎重な声で言うカヌレに、女怪盗ソルベが静かに頷く。フィナンシェがあの記事に乗っていた、画像の時のかい?と聞くと、彼女は静かに頷いた。

「あの時の写真が取られてるくらいなら、あの時の音声が取られていてもおかしくない。となると…女怪盗ソルベの正体がバレてる可能性がある。あの時、彼女は自分の正体を言ったんだ。」

驚くフィナンシェとマドレーヌに女怪盗ソルベが静かに頷く。

「バレていたら、私は身動きが取れない。そう思って、即座に女怪盗ソルベになって、貴方達の事務所に行った。変装は出来るから、隠れ家の外を行き来するなら出来ないことも無い。けど…家にはしばらく帰れない。」

「となると…ここにいないのは、ガレット刑事と怪盗ノクターンか。」

ポムが不安げに、あの二人大丈夫かしら…と呟く。フィナンシェがガレット刑事の方は無事ですまないだろうねと静かに言った。彼女がえ?と少し動揺した。

「彼は刑事だ。警察の中に、怪盗達と共犯の存在がいる、その上刑事となれば…朝刊が出る前から、多分拘束されている可能性は高い。勿論、彼の弟もね。逆を言えば、怪盗ノクターンだけは安全圏かもしれないね。画像ではカヌレの横に寝そべっているから、そこは民衆の反感を買うが…彼の正体はバレてないんだろう?」

その言葉に全員が頷く。すると、フィナンシェはむしろ彼こそがキーマンかもしれないと頷いた。その目にはわずかな希望が見えていた。

「彼が正体がバレてないのであれば、変装したところでバレるリスクはかなり低い。それに、今から女怪盗ソルベに案内される隠れ家は、怪盗ノクターンも知っている隠れ家だ。彼に外の状況を見て貰ったり、外で動いてもらうことは可能になる。僕らは隠れ家という安全圏にいながら、彼を使って民衆を動かしている根本を探ることが出来る。僕らが民衆をうまくやり込む、もしくは誤解を解くことが出来れば…隠れ家にいる必要はない。つまり、怪盗ノクターンが僕らが自由に動き回れるようになる、キーマンってことだ。」

「彼は、今隠れ家に?」

カヌレの言葉に、女怪盗ソルベは顔を横に振った。カヌレたちの事務所に行く前に、一度隠れ家に寄ったが、誰もいなかったと言った。

「彼と連絡する手段はない。同じ怪盗同士、連絡を取り合うのは誰かにそれこそバレる危険がある。」

「それなら、隠れ家で待つしかないってことか。したら、とにかく隠れ家に急ごうぜ。俺達がここにいる間にも、怪盗ノクターンは隠れ家にいるかもしんねえぜ。」

マドレーヌが勢いのある声で言う。一同が真剣な面持ちで頷いた。水路の中を女怪盗ソルベに従いながら、再び歩き出す。すると、途中でポムが訝し気な声をあげた。

「なんだか…上が騒がしいわね。」

「まさか、ここにいるとは分からないはず。」

ソルベが冷静に応じる。するとマドレーヌも上に耳を向け、ゆっくりと頷いた。

「ほんとだ。ちと騒がしいな。俺達が見つかったっていう可能性は考えたくねえが…。」

「近くに梯子がございます。私が聞いてきましょう。」

タタンが静かに梯子を登り、地上に向けて耳を済ます。そして驚いた顔で全員に向かって言った。

「怪盗ノクターンの正体が…判明したそうです…!」



読んでいただきありがとうございます。

さて、相変わらず投稿が遅れましたが…今回は怒涛の展開ですので許して!

今回も前半に分けたのかよ?!一万字投稿しろよという読者の皆さま、すみません。

後でどこかで遅れた分だけ、一日一話ではなく二話投稿しようかな~と作者が検討しています

そんなふざけてる作者はこちら→https://x.com/Ameme_H_Novel

悪って難しいですよね。以前作者は悪行を描こうとして、悪ってなんだ…?!という概念的な疑問に陥ったことあります。一視点からみて悪でも、他の視点からみたら善とかあるわけで…いや~本当厄介ですよね。一概に言えないから、白黒はっきりしないみたいなところありますよね。本当に誰から見ても悪!となるのはなかなか…。まあ、誰から見ても善という逆もしかりではありますがね。

……さあ、怪盗ノクターンの正体……貴方たちの予想は当たっていますか? 次回、地獄の扉が開かれます!

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