第十二話 デンジャーダイエット
「許しません。本気で許しません、あの怪盗ノクターン。宇宙の藻屑になれと思います。」
カフェロイヤルでどす黒いオーラを、いつもより沢山出しながら、ホワイトショコラがコーヒーを入れていた。
「…結局自分に扮された挙句、いそいで遊園地に向かいカヌレと合流したものの…ジェットコースターの座席に機械が仕組まれてたりとか、お店の中にレバーがあったりとかしたもんだから…警察沙汰になって、遊園地で遊べずに事情聴取されて帰って来たとか、可哀想すぎるでしょ。」
ポムの同情した声が響き渡る。隣でマドレーヌが、ちょっと待てよ!と騒ぎ始めた。羨ましい視線が飛ぶ。
「俺達が来るまで、こんな美女どもに囲まれてたのかよ?!探偵に助手に、従業員。ずりィぞ店員、一人ハーレムじゃねえかっ。」
「うちの店主は生物学上オスですが。」
さらっと言われた一言にマドレーヌが硬直すると、店主バウムが手でハートを作った。ぱっちりウインクする。
「あたしはバウム。よろしくねっ♡」
「男に見えないから、実質女だろ?!」
切り返すマドレーヌ達をほっておいて、探偵フィナンシェがカヌレに箱入りの焼き菓子詰め合わせを差し出した。
「君には命を救われましたからね。事務所も共同捜査と言って、お邪魔しているのでこれはちょっとしたものですが。」
「ありがとう!」
カヌレが笑顔で受け取ると、彼は、すっと真剣な目になった。焼き菓子の詰め合わせをがしっと掴む。少しだけ忠告するような口調で言った。
「実力も運のうちと言いますので認めるが…君は危うすぎる。あんな危険な怪盗と、僕らをハメようとした奴に立ち向かうべきではない。あの時は僕も迂闊だったが…次は負けないよ。」
その言葉にカヌレは首を傾げつつも、うん!負けないよ!と頷いて焼き菓子を受け取った。その途端、ポムが焼き菓子を見て美味しそうな焼き菓子ねとにっこりと微笑んだ。その様子にフィナンシェが何か言いたそうな顔をした。ポムが即座に気付いて言う。
「何よ?」
彼は顔を横に振り、静かに黙っていた。
「うっそ…5キロ増えてる…。」
自宅で体重計に乗ったポムは一人静かに青ざめた。なんだかカフェロイヤルで何も言わなかったフィナンシェの顔が気になって、何気なしに体重計に乗ってみたら…。恐ろしい数値を目の当たりにして、現実を認めたくないという気持ちと葛藤する。
「いや…嫌よ!気のせいよっ。体重計が壊れてるだけよ。あたしそんなに最近食べて…。」
青ざめる彼女の脳内にフラッシュバックする、最近の出来事の数々。事務所で出されるタタンのケーキが美味しくてつい頬張ったり、カフェロイヤルで甘い飲み物を注文したり…。そして何より、フィナンシェのあの静かに顔を横に振ったあの顔。
「バレてたというの…あの男に…?そんなのも探偵って見抜けるの…?!え、でもカヌレは何も言わな…いや、カヌレは気づいてないフリをしている可能性も…?」
一人静かに悶々と考え始めた彼女。こうなったら何一つ信用できなくなってくる。みんなに実はこっそりデブ認定されてたんじゃないかとか。怖くなって鏡の前に立つが…なんか気付いてみれば、確かに腹回りの贅肉が増えたような…?
「き、気のせいよ。そんな体つきで分かるわけ…。」
その瞬間に脳内にカヌレの姿が浮かぶ。そういやあの探偵、痩せている。
「カヌレだってあたしと同じくらい食べてたはず…。いや、そんなことないわ。よく考えたら、時折緑茶を飲んだり、タタンに紅茶だけもらったりしてケーキを食べなかったりしてた…。でも…ほらだって、あたしカヌレより、胸あるし?!そりゃ腹回りの肉だってあるわよね?!カヌレ多分Aでしょ?!あたしBだし、クレールはないし…大丈夫大丈夫、錦玉羹だってAだし…ほら、そら腹回りだって…。」
意気揚々と言っていたが、即座に脳内に一人の人物が浮かび上がる。すぐに真剣な顔になった。
「ちょっと待って、バウムって生物学上オスだけど…たぶんあの胸偽物だけど…Cあるよねあれ?あたしよりでかい…?その上、男なのにあの腹回り?…いやいや、あれは例外でしょ、男なんだし…。なんだし…。」
例外として認めたいが、それにしたって、綺麗な体のライン。それに傍から見れば女。…ポムは苦悶の表情をしながら、静かに呟いた。
「ダイエットするしかないの…!?でも、バウムに負けたくないわよ。あたしだってぽっちゃりじゃなくて、美女に…なりたい!」
ばっと近くにあった水のペットボトルを掴むと、腕を掲げた。もう瞳は決意に満ちていた。
「痩せてやるわよ!あたしだって、瘦せれば美女なんだから!」
こうして彼女のダイエットは始まった。
とある薄暗い一室で、サバランはソファでくつろいでいた。
「ふむ…先日のジェットコースターは悪くなかったですよ。しかし…座席に機械や、刺繍…少し手際が悪かったみたいですね。そこにあってもおかしくないもので犯行に及ぶのが私の美学ですが…そこだけは残念でしたね。」
一人の男が申し訳ございませんと頭を下げた。その様子を見ていたサバランの右側にいる男がまあまあと微笑んだ。
「ジェットコースターまではうまくやったというわけだ。よくやってるよ。そんなに落ち込むなって。ああ、そうだ。お前に渡したいものがあるんだった。サバラン様、失礼するよ。ちょっとこっち来てくれるか?」
男が慌ててついていく。すぐに隣の部屋で銃声音が響いた。そして先ほどまでサバランの右横にいた男が戻って来た。
「いやあ、うちのものがすんませんね。商品が悪かったみたいで。いわゆる劣化品だったみたいで。こっちも良い商品だけ選別するのも大変なんすよ。」
「良いよ、シュトーレン君。向上だって不良品が出るんだ、これは世の中の常識である。そんな理不尽な世の中が…僕はとーっても大好き♡」
サバランはご機嫌な様子で左隣を見た。
「ところでカッサータ。あなたはどうかね?あの件はうまくいってる?」
優雅な白金に近い、くるくるとした髪をした女性がお酒のグラスを振り回しながら微笑んだ。
「もう仕掛けちゃった♡ふふ…どこまで地獄に引きずり降ろされるかしら。まさかまた手を出すとは、彼らも思ってないでしょ。人の進む道にこれでもかって罠を仕掛けるのは楽しいわ。カッサータ、危険な女と思われちゃうかも?それも悪くないわね。」
「おい、完全に落とすのか?」
シュトーレンの言葉に彼女は知らないわと笑った。
「完全に落ちたら、それまでだったってことじゃない?少なくともそれなりに罠は仕掛けたわ。優雅なパーティーで、爆薬の仕込んだケーキに火をつけるみたいに、ゾクゾクしちゃうくらいに、ね。」
「本当イかれてやがるな。」
「誉め言葉ありがとう。あなたもイかれてるわ。落としちゃいたいくらいに…ね。」
カッサータがワイングラスから赤ワインをこぼしながら、にっこにこで言う。シュトーレンもははっと笑った。彼女の足元に銃を打ち込みながら、言う。
「こちらこそ、誉め言葉ありがとうな。」
足元に打ち込まれても、彼女は表情一つ変えず、何も無かったかのように赤ワインをぐびーっと飲んだ。サバランがにこにこと微笑みながら二人に拍手を送った。
「お二人とも、流石でございます。」
ポムは痩せるとなったら本気を出し始めた。図書館でいろんなダイエット方法の本を漁る。
「…参ったわね、人によっていろんな方法を試してるじゃない。これじゃあどれを参考にしたら良いのか…なら!片っ端からやってやるわ!」
一つの本を手に取る。いろんな野菜が描かれた表紙で、大きな字がデカデカと書いてある。
ー食べて痩せる!無理なくダイエットー
ポムがじっと本を見据える。
「まずはこれね。」
本を借りると図書館を出て、すぐにカヌレに電話をかけた。
「カヌレ、あたしちょっと太っちゃったから、少しダイエットするわ!」
「え?あ、うん、分かったよ〜。」
戸惑いつつも和やかに返事してそのまま切られそうになった時、ポムが叫んだ。
「カヌレ!事務所にはフィナンシェとマドレーヌがいるでしょ?」
「え、うん?」
「ダイエット怠けたりするかもだから、ちょっと迷惑かけても良い?!」
「う、うん?良いよ?」
ポムがありがとう!と返事をしつつ、宣言する。
「あたし、痩せるまで探偵事務所に行かないわ!よろしくっ。」
流石のカヌレもその言葉に本気度が分かったみたいで、一瞬の沈黙の後分かった!と声が返ってきた。ぽむもニコッと微笑み、頼んだわよ!と言って電話を切った。
ぐつぐつぐつ…。
白い土鍋に野菜とお肉。ポムがじーっと火加減を見ながら、静かに料理を見る。
「鍋とか低カロリーとか書いてあるけど…本当?美味しく食べて痩せるとかまるで夢のようだけど…図書館にあるのなら間違いなさそうね。調べてみても有名なインフルエンサーが書いたやつっぽいし…信憑性はまあそれなりに?」
菜箸で豆腐や白菜をたたきながら、出汁を入れる。そして煮立った後、火を止め、お椀にご飯をよそった。食べる準備をすると、すぐにご飯にありついた。
「いただきまーす。…え?!なにこれめっちゃ美味しいっ。これで痩せるとかほんとう?!」
顔を綻ばせ、鍋を突く。もぐもぐ食べながらボムがにっこり微笑んだ。
「これならいくらでも食べられるわ。持続性もある!食べていいダイエットとか本当に最高。これならすぐ事務所に戻れそうね。」
るんるんしながら、ご飯をさらに一口食べた。
翌日。
「まぁそんなすぐに効果は出ないわよね。」
体重計に乗りつつ、ポムはハァとため息を吐いた。
「でも諦めないわ!持続すれば…!」
三日後。
「え…?」
体重計に乗って、数値を呆然としてみる。減ってないどころか増えている。
「ちょ…いや、待って。よくよく考えたらそうよね、ダイエットって食べて痩せるとか…そんなうまい話あるわけないわよね。次よ、次!」
そう言って、今度はしいたけ生活とか言う本を読んで試したり。はたまた、一日五キロ走る本を見て試したり。しかしどれも上手くいかなかった。ポムが自宅の床にへばりつきながら、悔しそうに呻く。
「一体どれがあたしにあったダイエットなのよ…。ん?」
その時、とある本の中に一枚のチラシが挟まれてることに気付いた。
「なにこれ?…セミナー?…これなら、あたし痩せるかも?!」
そう言って今度は、チラシで手に入れたダイエットセミナーをじっと見た。
セミナー会場で、スーツを着た男性がニコニコと微笑んでいた。マイク片手に壇上でセミナー参加者に説明する。
「良いですか!皆さんはデブです。でもそんなことを言われても食べたいものは食べたい。そう思うでしょう!そこで、本セミナーでは、美女とイケメンを採用しましたっ。彼らに罵倒して頂ければ、皆さんだって流石に痩せたくなるでしょうっ!ちなみに痩せた暁には、彼らとダイエット頑張った回みたいなお祝いとして、ちょっとしたパーティもできますよ!」
その言葉にセミナーの参加者がやる気の声を上げる。しかも、イケメンや美女が複数人壇上にいた。どれも違うタイプのイケメンだが…確かに楽しいパーティとなればやる気になる。ポムもやってやるわー!と拳を突き上げた。
まずは順番に、美女やイケメンという複数人からの罵倒。
「これだけ太ってて、それでも自分が可愛いとでも思ってるの?それとも、周囲に甘えてるのかしら?」
「綺麗な人と自分はそもそも人種が違うもんだから…とか判別してんでしょ?あなたの隣には、立てないわ。」
「悪いけど、君とは僕、付き合いたくないなぁ。もうちょっとお姉さんになってから、かな?」
「俺的には無いな。抱くときに腹回りがもっと引き締まってないと、腕なんて回せない。」
ぐざぐさと心ない言葉が突き刺さり、ポムはうっ…と声をあげた。傷つく言葉だが…同時に絶対見返してやるという気持ちが沸き起こる。しばらくして、全員が罵倒された後、本セミナーのメインであるヨガが始まった。
「ふんぎぎぎぎぎ…。」
ポムは使用人として働いていたとはいえ…筋力や体力はあるものの、柔軟に限ってはそこまで。悔しいが、体がしならない。それでも汗は大量に出始めている。スーツを来た男性がスピーカーで叫ぶ。
「皆さん!良いですよ、その調子です。皆さんラッキーですよ。梅雨も終わり、今は初夏!つまり一番痩せやすい時期ですよ。その肥満!贅肉!全て汗と共に絞り落としましょう!あのイケメンや美女と一緒に、お祝いパーティーするためにっ。想像してください、彼らは痩せた貴方にひれ伏します。自分が悪かった、目がなかった。見違えるほどに、綺麗…。そんなこと言われたいでしょう!大丈夫です。もう一歩出前まで来ています!」
その言葉に一層会場にいる参加者が贅肉を絞り落とそうと、必死にヨガをする。ポムも体を伸ばし、奇声をあげつつ必死の形相でヨガをした。
一週間後。
高級ホテルの一角で、ワインレッド色のベルベットのドレスに身を包んだ女性は、パーティーで嬉しそうにしていた。グラスに入った炭酸水を飲みながら、優雅に椅子に座っている。
「フフッ…。元の体重に戻るどころか、元の体重より1キロも痩せられたわ!あたしだって、やれば出来るのよ!」
そう、ポムである。一週間みっちりヨガをやり、食事制限もして、ついに痩せたのである。やっぱりセミナーだわ…インフルエンサーの本なんてあてにならなかったのよと思いつつ、嬉しそうに炭酸水を飲む。ちなみにこれも食事制限の継続で、お酒はプリン体が入ってるので、太るから止めている。ジュースも糖分が邪魔なので、とはいえ…ただの水ではお祝い感が無いので、無糖の炭酸水。あの時いた数人のイケメンが近くに寄ってきて、ポムをほめたたえる。
「すごい、見違えるようだ。とっても綺麗だ。あのころのお前に見せてやりたいくらい、体のラインが引き締まっている。」
「あの時はあんなことを言ってごめんね。でも君がそんなに痩せてくれたのなら…言っても良かったかもと思えるくらい、素敵だよ。」
イケメンたちに賞賛され、ポムは嬉しそうに笑った。
「そんなこと無いわよー!もう、お世辞がうまいんだからーっ。」
が、すぐに、遠くでイケメンに抱かれている女性が目に入った。その女性はポムより痩せていた。イケメンも流石に惚れたのか、抱きしめて女性をとろけた様子でじーっと見ている。ポムの視線に気づいたイケメンたちが、即座に言う。
「ああ、あの女性はクレピスをやったのか。彼女もとても痩せていて、素敵な女性だね。」
「クレピス?」
ポムが不思議そうに言うと、イケメンの一人がそうだと答えた。
「クレピスは、より綺麗になりたい人向けの美容方法だ。あれをやられちゃ俺らも降参だ。あまりの美しさに奪われちまうよ。」
「クレピス…。」
ポムがじーっと先ほどの女性を見る。イケメンに抱かれて、挙句の果てには顔まで寄せられている。しなやかなウエスト、華奢な体…。一瞬の迷いが脳裏に過る。
(流石にこれ以上は…。でもあれだけ痩せたら、事務所で助手として働いてても…それなりにモテ…。)
その瞬間に脳裏に、事務所に群がるイケメンのイメージがよぎる。なんなら、フィナンシェとかもひれ伏すイメージが浮かび上がる。ポムは即座に決めた。
「あたしもやるわ!クレピス!」
その言葉にイケメンたちが驚きの声を上げる。が、すぐに近くにいたスーツの男がそれなら、こちらへどうぞと言って、奥の部屋に案内した。
ホテル内のちょっと薄暗い部屋に案内されると、スーツを着た男性はポムにメニュー表みたいなのを見せた。
「これがクレピスです。上から順に、胸、腰、足…など、体の部位が決まっています。どこを痩せさせたいか、カスタムするのもあれですが…。正直カスタムはオススメしません。というのもですね、一部だけ痩せては体がアンバランスになるんですよ。そのため、本セミナーでは全てをやるのをお勧めしています。ちなみに、このクレピスは、ダイエットに成功した方にしかオススメしていないんですよ。太った方ではあまり効果が無いんです。しかしダイエットに成功した方であれば、効果はすぐに出ますよ。」
ポムがじーっとメニュー表を見るが…全てアルファベットで、よく分からない代物ばかりだった。一応日本語のローマ字読みみたいなのもあり、KOSIと書かれてたりするので、これは腰だろうと思いつつも、体の部位は分かっても他が分からなかった。とにかく考えるのもめんどくさくなって、痩せたいという気持ちが先走った彼女は男性に言った。
「とりあえず全部で!」
「かしこまりました。それではまず注射から行きますね。これは全身をリラックスさせる効果と、コラーゲン入りで美容効果などがございます。一度体の細胞自体をリラックスすることでですね、その後の活動がより刺激的になり、体が痩せるのですよ。」
そう言って、スーツの男は近くの棚から注射器を取り出した。ドレスを着たポムに腕を差し出すように言う。彼女が右腕を出し、注射の針が…。
バタン!
「警察だ!」
いきなり部屋の扉が開かれ、警察がどかどかと入ってくると、スーツの男に覆いかぶさった。ポムがポカンとした顔でいると、見知った顔の男が近づいてきた。
「お前、こんなとこで何してる。探偵事務所関係か?潜入捜査でもしてたのか?首を突っ込むなと言っただろう。」
明らかに不機嫌な顔をしたガレット刑事だった。ポムが呆けつつも、ちょ、ちょっと!と突っ込む。
「あたし、今痩せるために…痩せるやつやってもらうはずだったんだけど?!その注射さしてもらって、もっと美しく…。」
「は?…お前、もしやこれか?」
ガレット刑事が近くに落ちているメニュー表を手に取る。ポムがそうよ!と言った。半分泣きだしそうになりながら、彼に向かって怒る。
「せっかく…これからもっと痩せるはずだったのに!何してくれてんのよっ。そのメニュー表に描かれてるの、全部やってもらうはずだったんだから…。そして、痩せて、あのムカつく探偵をぎゃふんと…。」
「ちょっと待て、お前これフルコースでやるつもりだったのか?」
ガレット刑事の言葉に、ポムがそうよ!と叫ぶ。
「だってそれ体全体を痩せさせてくれるメニューだもの。カスタムしたら全体バランスが悪くなるから、全部がオススメだって聞いたのよ。その注射だってコラーゲンたっぷりでリラックス効果があって…。」
「…お前これ、隠語だぞ?これ全部やったら、痩せるどころか大変な目に遭ってたぞ?」
ガレット刑事の真剣な声に、ポムがは?と困惑する。彼はゴホンと咳払いしつつ、良いか?と言いながらメニュー表を見せ、一つ一つ指差した。
「これは、麻薬の一種。これも麻薬。これは、レディキラーと言われる高濃度の酒。そしてこれは、暴行。麻酔付。これは、性的暴行。こっちはさっきと同じ麻薬の一種。これは煙草。これは危険な化学薬品…。お前、小さい頃から使用人として働いてたから、こういう隠語知らないんだろ。」
ポムが一瞬で青ざめ、ええ?!と言ってメニュー表に飛びつく。じっと見て、そしてすぐにぎゃっと叫んでメニュー表を放り投げる。口をわなわなと震わせ、恐れおののく。
「あたし…。あたし…。」
「全く。無理に痩せようとするな。良いか、ダイエットなんて女が気にするほど、男は女の太ったとか痩せたとか気にしてない。余程の限りじゃなきゃ、目視で分からんからな。今回のことで懲りたら、ダイエットなんてやめて、健康的な食事を取れ。」
「でもあたし…太ってるから…。痩せないと…。もっと綺麗に…。」
ポムが悲しそうな目で俯く。これまでの努力が脳裏に過る。ガレット刑事はその様子を見つつ、小さく溜め息を吐いた。
「太ってたら、綺麗じゃないというわけか?」
「いや、別にそうは言ってないわ。でも、あたしがそのデブだから…。」
ポムを上から下までガレット刑事が一瞥すると、静かに言った。
「これのどこがデブだ?…綺麗だと思うぞ、十分な。」
思わぬ言葉にポムがえ?と驚くと、彼は少し視線を逸らしながら、メニュー表を拾った。そしていいか、と彼女に向かって言った。
「カヌレが心配していたぞ。あいつのために、健康的に太れ。健康的な食生活をしろ。」
「…わ、分かったわよ…。」
ポムが少し視線を逸らしながら頷く。ガレット刑事がため息と共に、捜査に戻ろうとした時だった。ポムが待ってと声をかけた。彼が振り向くと、彼女は二枚のチケットを差し出していた。
「助けてくれてありがと。ちょっとしたお礼よ。あんた弟いるでしょ、二人で行ってきなさいよ。」
ドーナツ遊園地のチケットである。日付は明後日だが…。ガレット刑事はそれを一瞥すると、一枚だけ手に取った。ポムが二枚持ってきなさいよと言うと、彼は顔を横に振った。
「いや、一枚で良い。弟は今は誘ってはいけない。お前が健康的に太ってるか、確認してやる。インバウンドに気を付けろ。あと俺の仕事を増やすな。そんで、このあとお前には事情聴取が待ってるからな。」
あまりの物言いに、はあ?!とポムが怒りの声を上げると、彼はそのまま捜査に戻ってしまった。
「…んで、その後遊園地に行ったけど…。あいつなんなのよ、少しインバウンドしたんじゃないかとかいろいろ言ってきてさあ…マジムカつく…。」
カフェロイヤルでポムが腹立たし気にガトーショコラを食べながら言う。その隣でカヌレがはははと笑いながらコーヒーを飲んだ。
「でも良かったよ。無事にポムが返ってきてくれて。」
「もう、痩せようだなんて、あんな無理なダイエットしないわよ。」
ポムがフンと鼻息荒くガトーショコラを頬張っていると、近くで紅茶を飲むフィナンシェがにこりと微笑んだ。
「そのガトーショコラのカロリーを教えてあげようか?」
「要らないわよ、キザ探偵。大体元はといえばあんたがあんな顔をするから…!」
キーキー怒るポムの前でクレールがコップを拭きながら言う。
「ダイエットかあ。ダイエットを怪盗ノクターン様に止められたら私…。もう絶対ダイエット止めちゃうわ~♡もういくら太っても、怪盗ノクターン様が肯定してくれるのなら私どこまでも食べれちゃう…!ふとれちゃう…!探偵なんかより、素敵。」
彼女の惚気にすぐに店主バウムの声が飛んでくる。
「ちょっと!一番のMVPは探偵フィナンシェ様よ?!女性のためを思って、ダイエットを顔で示すなんて…本当にイケメン過ぎる。敢えて口に出さず、それでいて相手の健康を機にかけてくれるなんて…あたしの食生活も管理してほしいっ♡やだ、ずっと健康になっちゃうわ~。その男が気にかけてくれるのって、本当に良いわよね~。ギャップ萌えみたいなところあって。」
その言葉に即座に隣からホワイトショコラの声が飛ぶ。
「何言ってるんですか!女性が気にかけてくれるのが一番ですよっ。ああ、僕もカヌレさんに、食生活気を付けてね…あなたが倒れたら私、心配で…♡なんて気にしてもらえたら、もう僕は感無量ですっ。意地でも食生活ちゃんとしますよ。もうその言葉だけでカレンダーが全部健康的な食材で埋まるくらいの勢いです。ああ…カヌレさん!本当に愛してます!」
三人がそれぞれ愛の叫びを終えたところで、ポムがふと気づいたように言った。
「でも、あいつ…弟は誘ってはいけないとか…一体なに意味わかんないことを…?」
その時カフェロイヤルの入り口のベルが鳴った。入って来た客にホワイトショコラが対応する。
「いらっしゃいまー…。」
流石の挨拶も最後の方が途切れた。そこには鑑識のフロランタンがいたが…。
「お、皆さんこんにちは!美味しそうなもの食べてますね。」
全員が唖然として彼の腹に視線を向ける。ビール腹だった。その視線に気づいたフロランタンがあはは…と困ったように笑う。
「いや~夏ですから。熱中症に気を付けていたら、外で筋トレ出来なくなって。いつもの公園で筋トレできないので、自宅でゴロゴロしてたらいつの間にか…。」
そう言って腹をさする。ガレット刑事の言葉かポムの脳裏に過る。
「いや、一枚で良い。弟は今は誘ってはいけない。お前が健康的に太ってるか、確認してやる。インバウンドに気を付けろ。あと俺の仕事を増やすな。そんで、このあとお前には事情聴取が待ってるからな。」
「全く。無理に痩せようとするな。良いか、ダイエットなんて女が気にするほど、男は女の太ったとか痩せたとか気にしてない。余程の限りじゃなきゃ、目視で分からんからな。今回のことで懲りたら、ダイエットなんてやめて、健康的な食事を取れ。」
「太ってたら、綺麗じゃないというわけか?」
「カヌレが心配していたぞ。あいつのために、健康的に太れ。健康的な食生活をしろ。」
「これのどこがデブだ?…綺麗だと思うぞ、十分な。」
ポムがなんとなく察して静かに呟いた。
「…そういうことね…。」
投稿時間遅れてすみませんんん!!!
読んでいただきありがとうございます!!!
ダイエット過酷ですよね。みなさん危ないダイエットには気をつけましょう。健康的な食事が一番です。そういう作者は時々…。ンン”っ!




