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第十一話(後半)遊園地万歳!

「ジェットコースターの緊急停止だけど…まぁ、そりゃあんなてっぺんで止まったら、誰だって悲鳴上がるか。」

カヌレが少し離れたアトラクションの上空を見る。周囲の人も悲鳴に連れられて、今にも落ちそうな山の頂上で寸止めしているジェットコースターに視線を送っていた。係員の少々お待ちくださいというアナウンスが流れる中、カヌレの隣に立つホワイトショコラ…に扮した怪盗ノクターンが驚いたように言った。

「おい、あのジェットコースターにフィナンシェとマドレーヌが乗ってるぞ。」

「まじ?!」

目を細めてジェットコースターを見る。確かによく見ると見慣れた二人がいた。

「…ん?なんかこっち見てる?」

「なにかしら伝えたいことがあるみたいだな。近寄ってみるか。」

二人は顔を見合わせて頷くと、ジェットコースターに向かって走り出した。


数分前のことである。

フィナンシェとマドレーヌは急停止したジェットコースターに乗っていた。

「なんだぁ?おい止まったぞ。」

訝しげに周囲を見回したマドレーヌは、地面がかなり離れてるのに気づいて嬉しそうな声を上げた。

「見ろよフィナンシェ!地面がすごく遠いぜ。」

「…まずい。」

急に真剣な声が横から飛ぶ。ただならぬ雰囲気を感じたマドレーヌはどうした?と呟いた。前方をこっそり指さしながら、あれが見えますかとフィナンシェは言った。

「…あ?!」

「マドレーヌ。僕が名言しない理由がわかったみたいだね。あの突起が出た状態で、ジェットコースターが発射すれば、あの突起のせいでジェットコースターが押し出され、僕らコースターごと、空中に放り出されるだろう。」

数十メートル先のレールに細工のようなものが見えた。しかもわかりにくいように、レバーか何か引かないと突起が出ないようになっているタイプだった。

「係員は多分あれに気づかない…もしくは、仕組んだやつの息のかかったものか、あたりだろう。このまま緊急停止が解かれれば、僕らはあれにお世話になるだろうね。」

「…チッ。ジェットコースターに乗ってるから、あれをどーにかこーにかは出来ねぇな。」

悔しそうにいうマドレーヌだったが、すぐに何かに気づいた様子だった。地上の一箇所を見つめてしばらく固まる。

「お?!あれ、カヌレたちじゃね?おーい!」

フィナンシェも視線の先を追うと、確かに見覚えのある二人がいた。相手もこちらに気づいた様子だった。

「好都合だね。彼らと連携を取ろうか。」

こっちに向かってくる二人からすぐに視線を逸らし、フィナンシェは一つの店舗を見た。複数人が出入りしているカップル向けの店だが…人の動きに僅かな違和感を感じる。

「あそこ怪しいね。ジェットコースターに細工をした人達と同じかな。」

そう呟くと、ちょうど真下にきたカヌレたちの方へ視線を移した。


「なにかジェスチャーしてる?」

カヌレが目を細めて上空の二人を仰ぎ見る。マドレーヌが必死に手を動かしていた。ジェットコースター…走る…首に一線…。怪盗ノクターンが隣で流石に呟く。

「どうやらあのまま発車すれば、あいつらはお亡くなりになるらしいな。」

「どうすれば…!」

すると今度はマドレーヌがフィナンシェから何か聞くと、すぐにまた手で何かを描き始めた。四角…ツイン…虫眼鏡…スイッチを押す…。

「…あれかな、ノクター…んんっ、ホワイトショコラが言ってた、怪しんでたお店を捜索しろってこと?なにかしらそこにスイッチらしきものがあるってことかな…?」

「その説が濃厚だな。元々調べる予定だった場所だ。とりあえず向かってみるか。」

二人が即座に踵を返すと、目的地となるカップル向けの店へと向かった。


高い場所からフィナンシェが二人の後ろ姿を見送る。その上で静かに推理を始めた。

(彼女達がいたからいいものの…犯人は、僕とマドレーヌがジェットコースターに乗るのはあらかじめわかっていた?犯人は僕たちをよく知る人物なのか…?)

とにかく情報が欲しい、推理をするにはそれからだと思い、周囲に目を走らせる。同じジェットコースターに乗っている客はなにも不自然な点は見当たらない。動揺もそれなり。ただの一般人に思えた。

(となると、係員あたりが怪しいが…。乗る前にちらっと見たけど知ってる顔でもなかった。…係員に指示を出した上の存在がいると考えるのが妥当だな。さて…となると、犯人の目的が肝になる。やつの目的は僕らとカヌレ達を分断し、僕らを人質にすること。…なぜ?)

フィナンシェが黙々と考えていると、助手のマドレーヌが隣でくぁーっと気だるげに欠伸した。

「ジェットコースターが良いところで止まるしヨォ、身動き取れないしヨォ、クソ暇だぜ。あの細工さえどーにかなりゃな。レールの上でも走って、あの細工ぶっこわしちまいたいけど、人の目があるしヨォ…体だるいしさぁ…。流石に遊園地で暴れたらフィナンシェに怒られそうだし、またあのガレット刑事にお世話になっちまうし。」

ぶつくさ言いながら、不満そうに腕をくむ。その様子を見ていたフィナンシェがふと気付いた。

「マドレーヌ、それはなんだい?」

マドレーヌの座席によく見ると小さな刺繍が見えた。彼があ?と言いながら、体を少しどける。刺繍の全貌が露になり、フィナンシェが静かに息を飲んだ。

ーーー陰と陽の前にある、パンドラの棒ひくべからずーーー

すぐに脳内で一致したフィナンシェが即座にカヌレ達二人を探す。二人は丁度フィナンシェが怪しいと睨んでいたカップル向けスイーツ店に入った直後だった。

「まずい!あの店のスイッチはだめだ!」

フィナンシェが叫ぶが、声は届かない。店内に入った二人はすぐに建物の死角へと入ってしまった。血相を変えたままでいるフィナンシェに、マドレーヌがどうしたんだよ急に?と呑気な声で言う。

「あの店にあるスイッチ…おそらくレバーをひいたら、あの細工が起動し、僕らの乗ったジェットコースターは大変なことになるっ。」

「なんだと?!」

マドレーヌも血相を変えるが、あいつらなら探偵だし気付くんじゃないか?とすぐに切り返す。その言葉にフィナンシェは首を横に振った。

「…その刺繍は、たった今縫われたものだよ。おそらくシートの内側の機械が作動してね。きっと彼女たちがあの店に入った瞬間に、君の座席のシートに縫われたんだ。僕が彼らが入店した後に気付くようにね。」

「つまり?」

難しそうな顔をするマドレーヌに、フィナンシェが悔しそうに答えた。

「僕らはあえて仕組まれていた。彼女たちが入店した直後に、レバーをひいていけないということを知るように。そう、探偵だからこそだ。気付かない訳が無い。気付いたところで、手遅れだと絶望させるために、仕組まれていたんだよ。」

「なんだよそれ、タチ悪すぎんだろ!?」

任せろフィナンシェ、俺がいっちょ暴れて…と言いかけたマドレーヌだったが、あれ?と首を傾げた。

「なんだ…?体に力が入らねえぞ…?」

思わぬ言葉にフィナンシェが隣で驚いた。が、すぐに自身の左腕にぷすっと痛みが走り、何かが投与されるのと感じた。すぐに体に力が入らなくなる。フィナンシェが悔しそうに呟いた。

「くそ!座席裏の機械かっ。マドレーヌと僕に薬剤を投与したな…。犯人は頭がキレる人物だ、遠隔操作しているようなタマじゃない。おそらく…僕らがここまで推理して、君があの細工をどうにかしようとすることまで想定して…!完璧に掌の上だ…。ここまでやられるとは…。僕らが他の乗客を巻き込んで助けを求めても、係員は犯人の指示通り動くはずだ。つまりもう、この乗り物は確実に発車…!」

その瞬間、アナウンスが響き渡った。

「乗車中のお客様、誠に申し訳ありません。緊急停止いたしましたが、異常は見当たりませんでした。機械の誤作動だったみたいです。念のため、乗車中のお客様がいらっしゃらない場合でのメンテナンスを行うので、乗車中のお客様には誠に申し訳ございませんが、一度ホームに戻っていただきます。」

そう言って、ゆっくりとジェットコースターが動き始めた。マドレーヌが青ざめる。

「おい、細工のところやべえぞ!突起みたいなの出てるぞ…!」

先ほどまで出ていなかった突起が出ている。流石に他の乗客も気付いたのか悲鳴を上げている。だが、その悲鳴さえも傍から見れば、ジェットコースターが発進したことによる悲鳴と認識される他無かった。即座に店の方へ視線を移すが、カヌレたちの姿は相変わらず建物の死角に入って確認できなかった。

「万事休すか…!」

力の抜けた二人が何も出来ないまま、ジェットコースターはそのままレールの上を走り、突起の出たレールに向かって行く。そして…。マドレーヌがぎゅっと目を閉じ、フィナンシェが静かに最後まで目を開けていた。

グンっ。

ジェットコースターが通る寸前、突起が急に下がった。フィナンシェが驚きに目を見開く。すぐにジェットコースターは乗客の悲鳴を抱えながら、そのまま優雅に走り、ホームへと帰還した。すぐに無事に通過したことに気付いたマドレーヌが呆けた顔でフィナンシェの方を見る。彼も少し呆然としていた。ジェットコースターがホームに戻って来た時、そこにはカヌレとホワイトショコラの二人が出迎えてくれていた。

「レバーは…引かなかったのか…?」

フィナンシェが呆然としながら、カヌレの方を見る。彼女は、あはは…それが…と言って、すっと懐から折れたレバーを取り出した。マドレーヌとフィナンシェがえ…?と困惑して見つめる中、彼女が実は…と説明し始めた。


数分前のこと。

二人はカップル向けのデザート販売店に来ていた。すぐに店員が二人に入口で応対する。

「こちらはカップル向けの店となっております。失礼ながらお二人は…。」

ばっと二人とも体を寄せ、ホワイトショコラがカヌレの肩に手を回し、カヌレもホワイトショコラの背中に手を回し、二人ともにっこにこの笑顔で叫ぶ。

「カップルです!」

「承知いたしました。それでは、奥の席へどうぞ。」

そう言って、店員の案内に従って、店の奥の席へと案内される。席に着くと即座にホワイトショコラがカヌレの手を掴んだ。

「すまない、ちょっと待っててくれるか。俺としたことが…ちょっとトイレに行きたくなったみたいなんだ。食べたいデザートでも決めててくれないか。」

「ええ、分かったわ。はやく帰ってきてね。」

すぐにホワイトショコラがトイレに行くふりをしてそのまま、裏へもぐりこむ。何食わぬ顔でメニュー表を開くカヌレ。そしてすぐに決着が付いたらしい。彼がすぐに戻ってくると、裏へ来いとジェスチャーをした。彼女がすぐについていくと、コックの服装をした人達が床に数人伸びていた。二人が急いで厨房をくまなく探す。

「あ!これだ!」

カヌレが部屋の隅の壁にあるレバーを見つけた。ホワイトショコラも即座に傍に寄る。

「時間が無い。サバランはジェットコースターを止めたが…きっと何か裏があるはずだ。」

「とりあえず倒してみるか!」

そう言って、カヌレがレバーを引いた。ガチャンと音が鳴るが…特に何も起きる気配はない。シーンとなる店内で、カヌレがいや待てよ…と困った顔をする。

「…倒して良いもんなのか?なんかこれ…倒すべきなのかよくわかんなくね?ジェットコースターとかいうと…なんかレールでトロッコ問題とかを想起させるし…。どっちにレバーを倒してもどっちかが犠牲になるとか。」

「ほう。トロッコ問題か。サバランなら、そこをかけていてもおかしくは無いな。」

ホワイトショコラの言葉に、カヌレがそうなの?と言って、それじゃあ…一択よぉ!と言った。

「トロッコ問題なら、レバーは真ん中で!」

レバーを勢いよく下げ、途中で横にぐいっとやった。そして真ん中の位置で止めようとしたのだが…横にやった際勢いあまってボキっと折れた。

「あ”っ?!」


「そして現在に至るというわけでぇ…いやあの折るつもり無かったんですよ…。ええ…これ弁償になったりする…?」

カヌレが青ざめて折れたレバーを見つめつつ、しょぼんとして言う。フィナンシェが驚いた顔で彼女をじっと見ると、しばらくしてふっと微笑んだ。

「いいえ、そのおかげで僕らは助かりました。ありがとうございます。」

あなたもですよ、とフィナンシェは満足げにホワイトショコラに向かって言った。

「怪盗に助けられるとは…なんとも悔しい気持ちですがね。」

「ほう?バレていたか。」

思わぬ言葉にマドレーヌがええ?!と声をあげる。ホワイトショコラは周囲を見ると、他に人がもういないジェットコースターのホームで、一瞬で姿を変え、いつもの銀髪に仮面の、怪盗服になった。

「…ならば、分かっただろう。この探偵がどういう逸材か。」

そう言って、怪盗ノクターンがカヌレ探偵の肩をポンと叩いた。彼女がへ?と首をかしげる中、彼はええ…身をもって分かりましたよと頷いた。

「ですが、僕も負けていられません。」

彼の真剣な目に、怪盗ノクターンはフっと不敵に微笑むとすぐに姿を消してしまった。マドレーヌが呆けた顔で、フィナンシェの方を見る。

「うそだろ…怪盗?…つか、え…なに?」

その時、聞きなれた声が聞こえてきた。

「カヌレさーん!」

すぐに眼鏡をかけた私服姿のホワイトショコラが一同の元へ来ると、ぜえはあと息を整えた。

「カヌレさん、申し訳ないですっ。こんな遅れて…!僕としたことが…ホテルから出ようとしたら急に後ろから誰かが…!」

「それは怪盗ノクターンだね。さっきまで、君に変装してここにいたよ。」

フィナンシェの冷静な言葉に、ホワイトショコラはええ?!と驚きつつも、悲しそうな目をした。

「そんな…カヌレさんとせっかく僕…遊園地を…!あんなキザな怪盗に横取りされるなんて…。…許しませんっ!内核まで埋めてやりますよっ!」

開き直ってどす黒いオーラを放ち始めるホワイトショコラに、カヌレがあはは…と困ったように笑いつつ、まだ遊園地は時間あるからいろいろ楽しもう!と声をかけた。二人が気を取り直して遊園地のアトラクションについて相談し始めたのを静かに見守るフィナンシェ。マドレーヌがこそっと彼に耳打ちした。

「なあ…さっきの怪盗の言葉。確かに俺ら助けられたけど、あの女そんなに逸材か?」

その言葉にフィナンシェが悔しいけど逸材ですよと微笑んだ。

「…彼女は、おそらく分かってないでしょう。レバーを折ったこと、それがまさか僕らが助かる唯一の方法だったとはね。」

「…は?」

呆けたマドレーヌにフィナンシェが静かに言った。

「レバーをどちらに倒そうが、真ん中で止めようが変わらなかったのですよ。なにせ、レバーの内部に制御装置があったのですから。彼女は意図せずして、それを破壊し、僕らを助けたんですよ。」

運も実力のうちと言いますからねと、フィナンシェは悔しそうに呟いた。



投稿遅れてすみませんッ!!!

読んでいただきありがとうございます。

作者です。いや、つい…前半と後半合わせて一万字にするつもりが…つい熱を帯びて超えちゃいました!そのせいで夢中になって書いてたので投稿するの遅れました!!ごめえん!!

そんな作者のXはこちら→https://x.com/Ameme_H_Novel

ところで、トロッコ問題ってなかなか難しいですよね。作者はもとより、どうせあれなレバーならば、真ん中で止めて一か八か、列車が脱線しないかやってみる派です。

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