星空
それから数日が経った。
深夜のアジトは静まり返り、全てが眠っている。
屋根の上、ユノとカティアは毛布にくるまり、満天の星空を見上げていた。
空は息を呑むほど澄みわたり、星々はゆっくりと夜空を流れていた。
「やっぱり、星っていいよな」
カティアがぽつりとつぶやく。
ドローンを撃退した後も、どこか不安そうな瞳だった。
「……わたし、こうしてる時間が一番好き。
何も心配しなくてよくて、みんながここにいて、ただ星を見てるだけでいい。
……ずっと、こんなふうに過ごせたらいいのにね」
ユノは、カティアの言葉に胸がきゅっと締めつけられた。
未来でカティアが命を落とす、あの瞬間――
耳に焼き付いた絶望の声と、触れた手の冷たさが、鮮やかに脳裏をよぎる。
ユノは、思わず声を震わせて答えそうになる。
だが、カティアがすっと横を向いて、あきれたように笑った。
「なによ、いきなり黙り込んで。ユノ、顔こわいよ?」
「……え、あ、ううん。なんでもない……」
「ほんとに?星見ながら泣かれても困るんだけど」
「ち、泣いてないもん……!」
ほんのり笑いが戻り、屋根の上に静かな夜風が吹き抜ける。
そのとき、下の方で慌ただしい足音が響いた。
フェリシアが息を切らしながら屋根の縁まで駆け寄る。
「ユノお姉ちゃん!カティアお姉ちゃん!……たいへん、ミアちゃんが!」
ユノとカティアは一斉に顔を見合わせた。
「ミアがどうしたの?」
ユノが思わず身を乗り出す。
フェリシアは不安げに、震える声で叫んだ。
「わからないけど……アジトの裏の森で、ひとりで何かやってるみたい!
さっきからずっと戻ってこないし、声かけても返事しなくて……」
カティアがすぐに立ち上がり、屋根から飛び降りるように駆けだした。
「ユノ、急ごう!また変な実験でもしてるのかもしれないし、危ない!」
ユノも慌てて星空をあとにし、二人を追いかけて屋根から降りる。
森の闇へと消えていく彼女たちの影を、静かな星明かりが照らしていた――。