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機械の理と星の乙女

第一章 星霊の願い


 


 夜の帳が、砕けた石造りの拠点を静かに包んでいた。

 壁の向こうでは、AIの無機質な金属音と爆発の残響が遠ざかっていく。

 地面には幾筋もの赤い線が伸び、倒れた仲間たちの息遣いさえもう聞こえない。


 ユノ・セラフィーナは、震える手でカティアの身体を抱きかかえていた。

 カティアの鮮やかな赤髪は泥と血でくすみ、その瞳には、かすかな光がまだ残っている。


「……カティア、もう喋らないで。すぐ、すぐ治すから……!」


 必死に声を張り上げても、指先から魔力は逃げていくばかりだった。

 癒しの光がカティアの傷に触れるたび、痛ましい現実だけが強調された。


「……おい、泣くなよ……ユノ。まだ終わっちゃ……ねぇ、だろ……」


 カティアは苦笑を浮かべ、手を伸ばしてユノの頬をそっと撫でた。

 その手は、次第に力を失い、ユノの頬からすべり落ちる。


「やだ、やだよ……! お願いだから、置いていかないで……!」


 ユノの嗚咽が、静寂に吸い込まれていく。

 仲間だったミアも、フェリシアも、既に動かない。

 星降る夜空だけが、何もなかったように美しく広がっていた。


 ユノは首から下げた星のペンダントを強く握りしめた。

 それは、亡き母から受け継いだ、王家に伝わる唯一の遺産――

 彼女の魔力の源であり、希望の証でもある。


(……もし、もう一度だけやり直せるなら。今度こそ、みんなを……カティアを……)


 涙が溢れ、頬を伝う。

 そのときだった。


 ――カチリ。


 ペンダントが蒼白く光り始めた。

 足元に星座を象った魔法陣が浮かび上がり、空気が震えた。


「……星霊よ、どうか……」


 ユノは目を閉じ、ありったけの想いを込めて祈る。


「時よ、星の理よ……私の願いを、叶えて……!」


 世界が静止し、星の光がユノの身体を包む。

 彼女の髪が浮かび上がり、瞳の中で星々が瞬き始める。


「――星霊の時操アステリア・クロノス!」


 叫びとともに、ユノの周囲を走馬灯のように過去の光景が駆け抜けていく。

 カティアの笑顔、ミアのイタズラ、フェリシアのあどけない声――

 すべてをもう一度、守りたいと強く願った。


 空間が割れ、時間の糸が渦を巻き始める。

 白い光が全てを飲み込む直前、ユノは最後にカティアの名を呼んだ。


「カティア……必ず、もう一度――!」


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 ……眩い光の中で、ユノは意識を失った。


 


 気がつくと、そこは――

 数年前、AIがまだ人間社会を完全には支配していない世界。

 陽だまりの中で、仲間たちの笑い声が響いていた。


 


 ユノは静かに涙をぬぐい、立ち上がる。


「……今度こそ、未来を変えてみせる――」


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